小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.043

2005/05/12

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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 陳が罠にはめられたことに気づいたのは、翌日、日もすっかり高くなってからのことだった。
 いきなり蹴飛ばされ、
「母ちゃん、勘弁してくれ!」
 と叫びながら、陳はがばと起きあがった。
 きょときょとと見回すと、女たちの下半身が、ぐるりととりまいていた。
 女たちがいっせいに笑いを爆発させた。
 陳は、床にだらしなくのびて眠りこけていたところを、女たちに見おろされていたのだ。
「いつまでもごろごろしてないで、どいとくれ。部屋を片づけなきゃならないんだから」
「お、おまえら、皇帝さまのお役目を仰せつかった俺さまに、なんてえことしやがる」
 陳はせいぜい威張ってみせたが、女たちはまったくとりあわなかった。
「へん、なにが皇帝さまだい。偽役人がきいてあきれる」
「な」
 残っていた酔いが、一気にさめた。
「偽役人だと」
「そうさ、みんなわかってるよ、そんなこと。追いだされて路頭にまよいたくなかったら、手伝っとくれよ」
「そうそう、陶兄のお情けであんたをおいてやることになったんだ。ありがたく思いな。すっからかんのくせに、まったくよく飲みやがる」
 どうりで、いやに愛想よく歓待してくれると思った。酔っぱらわせて、宝物のことを聞きだそうとしたに違いない。
 俺はいったい、どこまでしゃべっちまったんだろうか。
 箒で中庭においだされた陳は、地面にぺたんと座りこんだ。
「ようやくお目覚めかい、おやじさん」
 燕が陳をみつけて、中庭にでてきた。
「英国娘のことは俺たちにまかせて、のんびりしな」
 やっぱり、全部しゃべってしまったらしい。陳は頭をかかえた。
「おや、宿酔いかね。顔を洗って、散歩にでもいってきたらどうだい。ほら、兄貴から少し金をもらってあるから、とっときな」
 一円札が一枚、陳の手におしこまれた。
「けっ、子どもの小遣いじゃあるまいし」
 陳は毒づいたが、燕はにやにやしながらいってしまった。
「まったく、どいつもこいつも……ちくしょう、お宝を横取りされちまう……俺はなんのために、大連くんだりまできたんだ……」
 陳はのろのろと立ちあがると、台所へいって酒をさがしたが、きれいに片づけられてしまっていた。
 しかたなく空き瓶を一本拾い、一円札を握りしめて街へ出た。
 陳は、昨日洋車で走ってきた道を逆向きにたどりはじめた。確か、途中で市場のそばを通ったはずだ。
「ちくしょう、これが飲まずにいられるかってんだ」
 とりあえず、一円で買える酒をさがしにいこう。
 女房と子どもたちの顔が浮かんで、陳はぐしゅっと鼻をすすった。
 ふらふらと歩きつづけて、ようやく市場を見つけた。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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