小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.038

2005/04/27

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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 ひきとめる黄をふりはらうようにして、翌日、陳ははやくも大連への旅客となっていた。
 宝物も、英国租界のなかにあってはおがみようがない。だが、大連なら――。
 もしや同じ列車に女が乗ってはいまいかと、陳は長い旅のあいだ、何度も車内をみて歩いた。が、それらしき外国人は見あたらなかった。「英国人の娘」というからには、西洋人にきまっている。軟席車(一等車)へははいれないので、たまに開く扉からのぞきこむだけだったが、客のほとんどは日本人のようだった。
 奉天で列車を乗り換えた。大連へはここからまだ十二時間半かかるが、旅程もあと三分の一ほどだと思うと、心がはやった。
 こんな大旅行は、生まれてはじめてだ。
 北京で生まれ、北京で育ち、北京で就職した。皇帝のお膝元から、出たいとも思わなかった。
「なんの因果でこんな旅を……」
 とつぶやいて、陳は、女房に蹴りだされたのだと思いだし、ため息をついた。
「どうしたね、おやじさん。ため息なんぞついて。東北のほうは初めてかね」
 前にすわっていた、若者が話しかけてきた。
「ああ、北京っ子だからな」
 めんどくさそうに、陳はこたえた。
「ほう、北京からかい。そりゃ遠いなあ。北京っ子が、なにしにこんなほうへ」
「なにって……まあ、田舎見物だ」
 若者の横にすわっていた年寄りも、口をだしてきた。
「北京はどんなところだね。わしには一生いけそうにないが」
「おう、話しておくれよ。ぜひ聞きたい」
 まったくどいつもこいつも、田舎もの丸だしじゃないか。陳は苛立ったが、田舎ものたちに北京の話をしてうらやましがらせてやろうと思いついた。
「北京といや、お城だ。紫禁城だよ。俺はそこで役人をしていたんだ」
 ほお、と感嘆の声があがった。陳は気をよくして、続けた。
「俺は、皇帝さまに拝謁したこともあるんだぞ。そりゃ立派なお召し物で、本物の貴人はかくあるべしというごようすだったなあ」
 作り話だろうがでっちあげだろうが、どうせわからないんだからと陳は得意げにしゃべりまくった。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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