小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.036

2005/04/25

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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 食堂の片隅に席をしめ、ふたりは旧交を温めた。
「なんだい、疲れた顔をして。うまくいってないのかい」
 黄が酒をつぎながら、話しかけた。よくぞいってくれたと、陳はさっそく話をきりだした。
「実は、仕事をさがしてるんだ。知ってのとおり、北京じゃ国民党軍がのさばって、俺のような元役人は相手にされないからな」
 ただ怠けていただけだったのをうまくいいつくろって、陳は黄の同情をひくように北京のようすを話してきかせた。
 黄はたちまち心から気の毒そうな顔をして、陳をなぐさめた。
「そうか……なにか力になりたいが、天津で職をさがしてみるかい」
 陳は腕組みをした。そういや、なんで俺はわざわざ天津まできたんだろう。ここで働こうと、本気で思っていたんだろうか。
「いや、やっぱり北京がいいな……」
 皇帝さまのそばへいけばお宝がある。その一念で天津まできてしまったんじゃないのか。北京からここまで数時間酒を断ったせいで、頭のなかもだんだんとはっきりしてきていた。
「北京からの客もいるんだろう? その人たちのつてで、何かあるといいんだがなあ」
 黄はうなずいて、
「そうだなあ、おまえのいる間に、うまくそういう人がくればいいんだが」
 そういって、静園のほうを見た。
「この時間じゃ、もう誰もこんだろう……おや」
 陳も黄の見ているほうを見やった。
 静園のほうから、一台の黒塗りの車がでてきた。
「あれは、皇帝さまが使われる車だ」
「えっ!」
 きたばかりで、もう皇帝さまを見ることができるのか。陳はあわてて、表に走りでた。
 車がさっと前を通りすぎていった。車中に女がいるのが、かろうじて見えた。
 黄も出てきて、車を見送った。
「ああ、たぶん英国人の娘さんだろう。駅まで送ってもらうんだな」
 陳はがっかりしたが、英国人ときいて、
「なに、あのジョンなんとかのか」
 といきりたった。
「いや、違う……名前は忘れたが、大連へ移っていった方だよ。その娘さんが、今日の夕方、静園に招かれていくのを見たんだ」
 陳は歯ぎしりをした。外国人が皇帝さまに直接お目にかかれるのに、こんなにお慕い申しあげている俺さまはだめとは。当然といえば当然なのだが、ひどくくやしかった。
「まあ、しばらく天津でゆっくりしたらどうだ。悪くないぞ、ここも」
 黄が陳の背中をおして、また店にはいった。陳はすすめられるままに、酒をあおった。
 しばらくして、若い男がひとり、店にはいってきた。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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