小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.035

2005/04/22

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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「見つかるまで、帰ってくるんじゃないよ!」
 背中に、女房の遠吠えがつきささった。
 しばらく息をきらして走ったあと、陳は足をゆるめ、とぼとぼと歩きだした。
「まったく、どうしろっていうんだい……」
 歩きながら、必死で頭をしぼる。つてといえば、昔の役人仲間しかいない。
「――天津へいくか」
 仲のよかった元同僚の黄が、皇帝が天津へ移るのについていったことを思いだした。その後、いちど天津へ黄を訪ねたこともある。
 それに天津には、皇帝さまがいる。宝物も、天津の英国租界に移されたときいている。
「お宝……」
 紫禁城内を思い浮かべて、陳は軽いめまいをおぼえた。
 あのお宝を、もう一度見られたらなあ……。
 ともあれ、思いたったら善は急げだ。というより、女房が待ってくれないのだから、道をみつけたら急ぐしかほかにない。
 陳は老いた父親を訪ねて、天津への旅費を借りた。仕事をさがしにいくときいて父親は、貧しい生活のなかから、喜んで貸してくれた。旅費の足しにと、いくらか上乗せもしてくれた。ついでに陳は、不在中、女房たちが勝手にどこかへいかないよう見張りを頼んだ。
 こうして夕刻、陳富山はひとり天津へむかう車中の人となった。

 夜になって天津に到着した陳は、まっすぐ静園の方角へむかった。廃帝が移られた場所だ。
 黄は、廃帝に天津までついてきたものの、そのまま警備をつとめることはなかった。廃帝のまわりは、日本の軍人たちにびっしりと固められてしまったからだ。そこで、静園のそばで食堂をはじめた。
 陳とちがってくそまじめな黄は、丁寧な商売で信用を得ていた。ふたりが仲がいいというのは、北京時代から周囲に七不思議のひとつと見られていた。世にいうように、まったく違うタイプだからというよりは、黄が陳の悪行にまったく気づかないほどお人好しだったせいだろう。
 以前に訪ねたとき、北京から廃帝を訪ねてくるひとびとも、よく客としてやってくるということを聞いた。そのつてで、何か仕事がもらえれば……陳は虫のいいことを考えていた。
 また、黄の食堂からは、静園のようすがよく見えた。運がよければ、また皇帝さまを見ることができるかもしれない。
 陳は黄の食堂に、のっそりとはいっていった。
「黄さん、いるかい」
 呼ばれて、奥から黄がでてきた。
「あれ、陳じゃないか。いったいどうした」
 旧友はにこにこと迎えてくれた。女房にすら足蹴にされて出てきた身には、ひとしおしみいる笑顔だった。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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