小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.034

2005/04/21

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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 陳はふてくされて、むなしく家にもどった。
 折しも女房が、古ぼけた袋に、行李にしまってあった自分の身の回りのものをつめこんでいる最中だった。
「おい、なにしてるんだ」
 陳はびっくりして、女房のそばへ走りよった。
「見りゃわかるだろ! 家を出るんだよ」
「な、なんだって!」
 陳はあんぐりと口をあいた。女房は鼻をすすった。
「あたしはもうすっかりいやになったんだよ。いくらいったって、あんたはいつまでたっても働こうとしない。そんなあんたを、どうしてあたしが苦労して養ってやらなきゃならないのさ。あたしと子どもたちだけなら、もっと楽な暮らしができるんだ」
「子、子どもたちもつれてくのか」
「あたりまえだろ! あんたのとこにおいといて、どうやって生きていけるっていうんだい」
 戸口の陰から、十才を頭に八才、六才と三人の子どもたちが、おずおずと顔をのぞかせた。
「おまえたち、父ちゃんをおいていくのか」
 陳が唇をわななかせて、子どもたちにいった。
「だって、母ちゃんが……」
 いちばん上の女の子が、申し訳なさそうな顔をして口ごもった。
「もう父ちゃんは見限るって」
 陳は顔をくしゃくしゃにして、女房にとりすがった。
「い、いかないでくれ、俺を殺す気か」
「死んでくれた方がましだよ」
 女房は冷たくこたえた。だが陳はめげずに、なおも女房の腕を握りしめ、
「おまえたちがいなけりゃ、俺は死んだも同然だ。出てったりしないといってくれ、頼む」
 そういって、おんおん泣いた。
 役人として羽振りのよかったころ、必死で口説いてさんざん頼みこんで、ようやくもらった恋女房なのだ。陳にはもったいない美人だと、みんながほめそやしたものだった。
 女房は、ため息をついた。
「そんなにいうなら、約束しとくれ。ちゃんと仕事をさがしにいくって。今度こそ、ほんとうにやり直してくれないと……」
「わかった、さがす、約束する、だから出ていかないでくれ」
「本当に約束するね?」
「本当だ! 嘘はつかない」
 ようやく、女房は手にしていた服を行李に戻した。
「じゃあ、さっそくいってきとくれ」
 陳はぽかんと口をあけたまま、女房を見つめた。
「い、いま?」
「そうだよ。もう一刻も待てないね」
 女房は、お后のように胸を張って言い放った。陳はまるで下僕のように、女房の足もとに座りこんでいた。
「そ、そんな、いますぐったって、どこに頼めというんだ」
「そんなことは自分で考えな! 仕事を見つけてくるまで、家にははいらないどくれ!」
 女房が蹴りだそうとしたので、陳は自分から転がるように家をとび出した。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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