小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.033

2005/04/20

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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「ちょっと、どこへいくんだよ」
「復辟《ふくへき》祈願にいってくらあ」
「そういって、河岸を変えるだけなんだろ! あんたの酒代なんか、もう一銭もだせないよ!」
 女房のどなり声から逃れるように、陳はよたよたと小走りに路地を走りでていった。あとには、老人たちの哄笑が残った。
 陳はぶつぶつとつぶやきながら、街をさまよった。
「まったく、どいつもこいつも気にくわねえ。北京は北京っ子にまかせとけってんだ。馮なんかとっとと田舎へ帰っちまえ。しかしいちばん気にくわねえのは、あのジョンなんとかってえ英国人だ。あいつが皇帝さまによけいなことをいいやがって、お宝も持ちだせなくなっちまったじゃねえか……ほんとに、どいつもこいつも……」
 宣統帝溥儀の教師だった英国人ジョンストンの提言で、溥儀が紫禁城の宝物の調査をしようとしたのが、五年ほど前のこと。それまでは、紫禁城内の貴重な文物もきちんと管理されることなく、何百年もただたくわえられていくだけだった。それに目をつけた官吏たちが、文物を盗みだし、売りさばいているのを、ジョンストンが見とがめたのだ。
 だが、調査が始まるとまもなく火災がおき、建福宮が燃えてしまった。あきらかに放火だった。
 そのとき、警備をしていた陳はクビになってしまったのだ。
 実をいえば、陳も宝物を盗みだしていたひとりだった。その罪は気づかれることなく終わったのだが、それだけに、彼はいまだに宝物に未練を残していた。
「あんなに簡単な金儲けはなかった。あのくらい割りのいい仕事がありゃあなあ」
 そういいつつ、盗みを本業にする度胸はなかったし、才覚もなかった。
 役人をしていたころ、一度だけ、遠目に宣統帝を見かけたことがある。なんとおそれおおいことだろう。皇帝のまとっていたあでやかな黄色の錦に、目を灼かれたと思ったほどだ。
「本物の、皇帝さまだ!」
 その思い出が、陳にいまだに清朝の夢をすてさせずにいる。退位した皇帝が再度即位すること――復辟を願うのは、陳のすなおな気持ちだった。ただ、復辟がなれば、自分も役人に復帰し、ふたたびお宝のそばにいられるようになる、という夢が見え隠れしていた。
 陳は、知り合いの店を何軒かまわってみた。だが、どこでも彼の顔を見るやいなや、
「そろそろたまったつけを払ってくれないかね」
 とか、
「もうおまえにやる酒はないよ。あんたの女房から、きつくいわれてるんだから」
 などといわれて、すごすご出てこなくてはならなかった。
「まったく、どいつもこいつも」

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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