小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.026

2005/04/11

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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「男といっしょだったわ。日本人だと思う。市場なら人がいっぱいで、買い出しに夢中だから、目立たないとでも思ったのかしら。でも逆効果ね。あんな子があんな場所にいたら、かえって目立つもの」
「秀子さんが……」
 千勢は呆然とし、直武はあわてた。
「女学校の三年生が男と逢い引きだなんて、世も末じゃないか。何かの見間違いじゃないのか」
「そりゃ、秀子さんかどうか、わたしにはわからないけれど」
 ふたりの反応に、玉玲はやれやれといった顔をして、
「あれはロシア人の顔じゃなかったし、着物を着てたし、日本人といわれればそうかなとも思えるし。でも世も末になるくらいなら、秀子さんによく似た別の混血の子と思っておけばいいんじゃない」
 直武が気の抜けたような顔をしたので、劉生は笑いだした。
「おいおい、うちのおふくろだって、俺を十六で産んだんだぜ。男がいたっておかしくないさ」
 劉生は、人前では僕と自称するが、気のおけない仲では俺という。直武もそうだ。
「昔の話だろうが」
「おまえ、千勢ちゃんを過保護にしてるから、そう思うんだよ。千勢ちゃんが幼すぎるんだ」
「ちょっと、わたしをひきあいにしないでよ」
 千勢がむくれたが、劉生は無視した。直武が言い返してきたからだ。
「なにより、結婚前の女性が男と逢い引きなんて、それこそあるまじきことだ」
「なにいってんだ、今はそんなこと、そうおかしくはないさ。直周氏と夫人だって自由恋愛で結ばれたんじゃないか」
「それをいうな」
 直武は、両親が自由恋愛で結婚したというのが、恥ずかしくてならない。あろうことか、千歳はそれを自慢にさえしている。祖父がよく苦々しげに、
「千歳は悪い嫁ではないが、気風が新しいのがいかん」
 というのをききながら育った直武は、考え方も祖父直伝なのだ。
「あら、お父さまとお母さまみたいに、わたしも素敵な方を見つけられたら、ぜひそうしたいわ」
 能天気に千勢がいったので、直武は怒りはじめた。
「なにをいうか。俺の妹にそんなことは許さんぞ」
「お兄さま、時代遅れだわ」
「千勢! ぜったいいかんぞ、自由恋愛なんて。千勢には、俺がいい男を見つけてやる。それまで妙な気はおこさんでくれ」
「そんなあ」
 兄妹のやりとりをききながら、玉玲と劉生は思いきり笑いころげた。
「ところで、その秀子嬢の相手って、どんなやつだったの」
 笑いのおさまった劉生が、玉玲にきいた。
「どんなって……学生風だったわ。眼鏡をかけてた。ひょろっとした青びょうたんよ」
 それをきいて、また劉生は笑いだし、あげく、
「腹がいてえ」
 とうめいた。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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