小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.024

2005/04/07

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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「どうした?」
「男の人が、こちらを見ていたわ」
「男?」
 うながされて直武が見やったときには、すでに男は消えていた。
「どんな男だ?」
「痩せた若い人。支那服を着ていたわ」
「中国人か」
「たぶん」
 直武は眉を寄せて、男がいたというあたりを見つめた。
「お兄さま?」
 直武はもの思いに沈んでしまい、千勢の声も耳にはいらないようすだ。
 ふたりは黙々と家路をたどった。

 翌日曜日午前。
 大連近郊の丘陵地帯にひろがる牧場へ、直武、劉生、玉玲、千勢の四人は、直周の車をのりつけた。夕方、迎えにくるようにいって車を返し、さらに上をめざして、四人は歩きはじめた。直武と劉生が抱える大きなバスケットには、玉玲が早朝から腕をふるったごちそうがつまっている。
 毎年、春に直武が内地からやってくると、若者だけでピクニックにでかけるのが恒例だった。いつもは楊夫人がしきる台所も、この日だけは、玉玲に全権がまかされる。料理好きな玉玲は、毎回新しい料理を研究しては、緑の草原で披露するのを心待ちにしているのだった。
 見晴らしのいい場所へくると、玉玲が手際よくテーブルクロスを草のうえにひろげた。隅をバスケットで押さえ、一息つくと、四人はそれぞれ、あたりを眺めわたした。
 南風を背に受けて、千勢は湾をみおろす位置に、腰をおろした。
「きもちいい……おーい!」
 海に向かって、千勢が大声でさけんだ。玉玲が笑って、横にすわった。
「よかった、千勢ちゃん元気になって」
「まあね」
 元気がなかったわけじゃないけれど、と思いながらも、心配してくれた玉玲の気持ちがうれしかった。
「今週、なんか変だったんだって? 千勢ちゃん」
 劉生もそばにやってきた。
「女の子にのぼせてね」
 玉玲がこたえた。
「そんなんじゃないってば。だってすっごくきれいなんだもの。小説にでてくるヒロインみたいって、みんなが騒いでたのよ」
 劉生にからかわれるまえにと、千勢はあわてていいわけした。だが劉生は、
「そんな美人がきたのかい。そりゃ見てみたいなあ」
 と美人に興味をうばわれたようすで、千勢をからかうことも忘れたようだった。
「で、なんというの、その転入生は」
「大津秀子さんよ」
「ははあ、大津秀道の娘か。なるほどね」
 あっさり劉生がいったので、千勢も玉玲もおどろいた。
「知ってるの? 劉生さん」
「そりゃまあ、実力者の身辺は、社にいれば耳にははいってくるからね」

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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