小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.023

2005/04/06

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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「あの……秀子さんは」
 夫人がいなくなるのを待っていたように、おずおずと千勢が口を開いた。
「秀子は、どこか出かけたんじゃないかな」
「そうですか……」
 千勢ががっかりした顔になったので、秀一郎はいった。
「なに、お客がきても、いつも顔も出しません。陰気なやつでね」
 茶菓をいただきながら、大連の気候のこと、商売のことなど、直武と秀一郎はあたりさわりのない会話をした。千勢を慮って、女性のこと、時局に関することにはふれないようにしようとすると、そのくらいしかお互いの話題はない。
 秀一郎がなにかにつけて、千勢の黒髪や仕草をほめるので、直武はますます警戒心を強めた。
 千勢はおぼろげな違和感に、お尻のあたりがむずむずしはじめていた。さきほどの夫人の視線にしても、あまりにほめそやされすぎないか。栗色の髪の秀子は、この家でどんな風にくらしているのだろう――。
 居心地の悪い三十分ほどを過ごして、
「じゃあ、そろそろ」
 と直武が腰をあげた。
「もう? よかったら夕食をごいっしょに。父も戻りますから」
 秀一郎がひきとめたが、直武は、
「人に会う予定がありますので、申し訳ないが」
 とことわった。千勢もほっとした。
「洋車をよびましょう」
「いや、歩いても二十分ほどですから」
 ついに秀一郎もあきらめ、
「羽衣町でいい店を見つけたんで、今度、おさそいしますよ」
 名残惜しそうにいった。
「そうですね、また今度」
 儀礼的に直武がこたえ、秀一郎と女中たちに見送られながら、ふたりは大津邸を辞去した。
 門を出たあと、直武と千勢はそろって深呼吸をした。
「疲れたわね」
 千勢がいうと、直武がぷりぷりして、
「だからだめだといったのに、千勢がいきたいとねだるからだぞ」
 といった。
「ごめんなさい……でも秀子さんに会えるかと思って……」
 千勢はすっかり気落ちしているようすだ。直武はなぐさめるつもりで、
「まあまあ、月曜日にはまた会えるんだから。それに久々に内地の菓子を食えた。な、よかったよな」
「わたし、内地にはいったことないもの」
 千勢は、直武からつんと顔をそむけた。
 その拍子に、向かいの家の塀の陰からこちらをうかがっている男の姿が、千勢の目に飛びこんできた。
 男は、千勢に見られたことに気づき、あわてて身体をひっこめた。
「お兄さま……」
 急に不安になって、千勢は直武の腕をつかんだ。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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