小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.021

2005/04/04

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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「やあ、有島少尉じゃありませんか。ご婦人連れとはけっこうなことだ」
 週末の浪速町の人波で、その男がすぐ近くにくるまで、直武は気づかなかった。
「お、大津さん」
 直武の声に、千勢はびっくりして、目の前にたった男を見あげた。
「秀子さんのお兄さま?」
 大津秀一郎が、千勢をみおろした。
 千勢は内心、がっかりした。秀子とはあまり似ていない。そういえば、以前ヤマトホテルで見かけた大津秀道とよく似ている。秀道は欧州帰りの端然とした紳士だったが、その息子は、少し崩れた雰囲気をもっていた。
 上質の生地でしたてた背広をきこみ、ソフト帽を斜め気味に、頭に載せている。美青年とはいえないが、なかなかの伊達男ではある。
「妹です」
 直武はすこし憮然とした表情で、千勢を紹介した。できれば紹介などしたくはないが目の前にいるんだからしかたがない、といったようすを隠すでもない。
「これはどうも。大津です。かわいらしい妹さんですな」
 さすがの秀一郎も、相手にするには千勢は幼すぎた。だが、直武は警戒をくずさなかった。
「それはどうも。さあ、千勢」
 すぐ離れようと、千勢をうながしたつもりだった。ところが、直武の思惑とは逆に、千勢は秀一郎に自己紹介を始めてしまったのだ。
「秀子さんの同級生で、千勢ともうします」
 ぺこんとお辞儀をする。
「はきはきした妹さんですね。うちの秀子とは大違いだ」
 じりじりする直武をしりめに、千勢はのうのうと話している。
「秀子さんはみんなのあこがれの的なんですよ。とてもおきれいな方ですね」
「まあ、異人の血がはいってますからね、人形みたいな顔ではありますね」
 千勢は目をまるくした。大津夫人は外国の方だったの? 千勢が問いかけようとする前に、秀一郎がにこにこしてつづけた。
「それはともかく、どうです、うちに寄られませんか」
 ぎょっとした直武がことわる間もなく、千勢がさけんでいた。
「えっ、ほんとに!」
「ええ、ぜひ。ちょうど家に戻るところだったんです。さあ、どうぞどうぞ、そこの角に車をまたせてますから、ごいっしょに」
「うれしい! お兄さま、いいでしょ」
 当然、直武は渋った。
「千勢、失礼だよ、初めてお会いしたのに」
「いいんですよ、有島少尉とは船でずっといっしょだった仲じゃないですか。いちど飲みにでも誘おうと思ってたんですよ、ちょうどいい」
「しかし」
 なおも言いつのる直武に、千勢がすりよってねだった。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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