小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.018

2005/03/30

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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「なんか高慢ちきそうな人ね」
 玉玲が正直な感想をのべた。
「ううん、高慢というより、どこか陰があるというか……」
 千勢はしばらく言葉をさがしていたが、やがていった。
「そう、陰のようなものを感じるわ。だから、気になるの。美人で、お金持ちで、なんの不満があるのかって」
 千勢は背中をまるめて、膝に肘をつき、頬杖をついた。玉玲はぷっと笑って、
「家によんで、仲良くなっちゃえばいいのに」
 千勢は虚を突かれた風に、玉玲を見た。
「よぶ? わたしが?」
 玉玲はおかしそうに首をかしげた。
「なんか変なこと、いった? 千勢ちゃんはお友だちをよく家によぶじゃない」
「そうか! そうよね。こっちから仲良くなろうっていえばいいんだわ」
 誰が最初に秀子に招いてもらえるか、それが話題の中心だったので、そのことばかり考えていた。
 近づいてくれないのなら、こちらから近づけばいい。それだけのことだったのだ。

 翌日、学校につくなり、千勢はさっそく秀子をさがした。いない。そういえば、いつも始業時刻間近にならないと、秀子は姿を見せないのだった。玉玲の案に有頂天になって、そんなこともすっかり忘れていた。
「秀子さんをさがしてるの?」
 美智子が近づいてきた。
「そうなんだけど……彼女、いつもぎりぎりに学校にくるんだったわね」
「あら」
 美智子は鼻をひくひくさせた。わたしはその理由を知っている、と得意を感じるときの癖だ。
「千勢ちゃん、知らなかったの? 秀子さんて、すごく早く学校にくるのよ」
 目を見開いた千勢の、耳元に顔をよせて、美智子はささやいた。
「いつも音楽室でピアノを弾いてるわ」
「ありがと!」
「え、ちょっと千勢ちゃん、どうしてさがしてるのか、教えてよ」
 ぱっと教室を飛びだしていく千勢に、美智子はあわてて声をかけたが、千勢はもう聞いていなかった。
 音楽室の近づくにつれ、ピアノの音がはっきりしてきた。千勢がいま四苦八苦してさらっているバッハのインベンションが、流れるように聞こえてくる。
 音楽室の入り口には下級生たちがむらがり、息をひそめるようにして、じっと秀子のピアノを聴いていた。
 千勢が近づいていくと、気づいた何人かが、上級生への礼としてぺこんとお辞儀をした。千勢も黙って会釈して、そのむれに加わった。
「まもなく始業ですよ」
 廊下を足早に通り過ぎながら、先生が声をかけた。
 ピアノの音がやんだ。下級生たちは一斉に拍手をした。
 秀子がでてくるのを、みんなうっとりとして見つめている。
「おはよう、秀子さん」
 千勢が声をかけた。秀子は歩きながら、ちらっとこちらを向いた。
「おはよう、有島さん」
 名前は覚えてくれてたんだ、と千勢はうれしくなって、秀子にならんだ。やっぱり頭半分ぐらい、秀子の方が高い。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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