小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


全て表示する >

[ibunko]アカシア少女探偵団 No.017

2005/03/29

┏━━━━━━━━━━━━┓
┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
┗━━━━━━━━━━━━┛

 その日から、大連高等女学校の女学生たちの生活は、秀子を中心にまわりはじめたかのようだった。秀子の行くさきざき、人垣ができた。誰もが秀子に注目してもらいたくて、声高に話した。
 そんな騒ぎを、秀子はまるで無視しきっていた。ときどき顔をむけて、一瞬にこっとするが、すぐまた戻してしまう。秀子が三節以上の文章をしゃべったのを、聞いた者もいなかった。だから、講読の時間に秀子の朗読を聞くチャンスをもつ、同じ級の女学生たちまでが、ほかの級や下級生たちからあこがれられる始末だった。
「秀子さま狂想曲ね、まるで。お高くとまっちゃって」
 そう陰口をたたく者もいないわけではなかったが、それも、秀子にかまわれない悔しさからだと、かえって笑われた。
 美智子がいったように、まるで小説のヒロインのような、でなければ少女歌劇のスターのような美少女が目の前にあらわれたのだ。友だちになれば、自分も小説の登場人物になれそうな、そんなやみくもな期待がみんなの胸に生まれたのだった。
 千勢も、秀子に近づきたいひとりだった。
 千勢は、秀子の目の暗さが気になってたまらなかった。すごくきれいで、お金持ちのお嬢さんだっていうのに、どうしてあんな目をするのかしら。
「いったいどうしたの? 最近の千勢ちゃん、おかしいよ」
 木曜日、玉玲が、帰宅した千勢の前に立ちはだかった。
 学校から戻っても、なんだか上の空でいるかと思うと、急に部屋にとじこもってしまう。何をしているかとのぞくと、机にむかって少女小説を読みふけっている。これまでは、帰ってもすぐ友だちと遊びに飛びだしていく千勢だっただけに、誰もが、感心するより心配した。
 千勢が戻る前、玉玲は千歳から、千勢の変化の原因をさぐるよう頼まれていた。
「誰か好きな方でもできたんじゃ」
 まさか、と笑い飛ばした玉玲だったが、たしかにそう見えないこともない。好奇心を刺激された玉玲は、千歳の頼みを引き受けたのだった。
 きょとんとしている千勢に、玉玲はずばり切り込んだ。
「誰か、好きな人でもできた?」
「ええっ? なに、それ」
 千歳の心配はさいわいはずれたようだが、千勢が笑い転げる様子をみて、玉玲は首をかしげた。
「じゃあ、いったいなんなの?」
 こづきあいながら、ふたりは千勢の部屋にはいった。
 玉玲は遠慮なく、千勢の椅子をひょいととりあげて、腰かけた。千勢はベッドの端にすわった。
「転入生の秀子さんのことが、なんだか気になって」
 玉玲は眼で先をうながした。
「秀子さん、なかなかしゃべってくれないのよ。日本語がわからないのかしらと思ったけど、教科書はちゃんと読めるし、算術とかが得意みたい。趣味はなにかとか、おうちではいつもどんなことをして過ごしているのかとか、みんな知りたくてたまらないのに、なあんにも話してくれないのよ。ふふ、とか笑うだけで」

---------- 
※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
---------- 
■解除・登録⇒ http://ibunko.com/text/mbook/acacia.html 
□問い合わせ⇒ acacia@ibunko.com 
■制作・発行⇒ アイ文庫(有) http://ibunko.com

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
Score!: - 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。