小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.014

2005/03/24

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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「ここのアカシアは、南ロシアからわざわざ運んで植えたんだそうですよ」
 温かい液体がのどを落ち、長い旅に疲れた体のすみずみにしみわたっていった。黒すぐりのジャムが溶かしこんである、ロシア風のものだ。ジャムはマーシャの手作りだということだった。彼女は長らくここにいついて、コミンテルンから送りこまれてきた男たちに、食事や衣類を用意してやる役目をおっていた。党員としては長いが、本来の活動からしだいに離れ、下宿屋のおかみのような役割になじんでしまったらしい。
 ゴドノフは嘲りのまじった笑みを浮かべ、マーシャを横目で見やった。
「どうやらここは、ずいぶんとお気楽な土地がらのようだ。活動もさぞやりやすいんだろうな」
 マーシャは肩をすくめると、盆をもって部屋を出ていってしまった。
「彼女はあなたの気分をやわらげようとして、あんなことをいったんですよ。まあ、あなたも実際、アカシアの花の咲くころにここにいればわかるでしょうがね」
 めがねの男がいった。ゴドノフは黙って、男を見返した。
「失礼、私はニコライ・ウラノフスキー。あなたの前任者です」
「ボリス・ゴドノフだ」
 ふたりは腰をあげて、儀礼的に握手した。
「次の赴任先は南京なんですが、南京事件のせいで出発が延期になってましてね。あなたのような方がきてくださって、本当に心強い。拳闘の選手だったそうですね」
「昔ね」
 話はつづかなかった。ウラノフスキーは新しい話題をさがした。
「大連は国際都市だけあって、各国のスパイも大勢出入りしてます。あなたにかかる期待は大きいですよ」
「お世辞はいいから、引継の話をしてくれ」
 ウラノフスキーが、気色ばむのがわかった。
「……われわれは、支那人街を中心に活動してきましたが、残念ながら、あまり効果はあがっていません。今後は大連の東の端、寺児溝《じじこう》の労働者がターゲットです。ここの連中はなかなか荒っぽいんでね、私のようなひょろひょろではちょっと難しいだろうと、こう思われたようなんですよ」
 ははは、とウラノフスキーは笑ってみせた。ゴドノフは笑わなかった。
「こっちは腕っぷしだけが取り柄なんでね」
「そんなことはいってませんよ」
 あわててウラノフスキーが手を振った。
「あなたの思想は実に強固だときいています。信念と力が、きっとあなたの活動を成功に導いてくれるでしょう」
 しらけた空気にかこまれて、ふたりは黙りこんでしまった。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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