小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


全て表示する >

[ibunko]アカシア少女探偵団 No.011

2005/03/18

┏━━━━━━━━━━━━┓
┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
┗━━━━━━━━━━━━┛

「猿真似の街だ」
 嘲りをこめて、ゴドノフはつぶやいた。
 大広場からは十本の大通りが放射状に延び、それぞれの通りの間のうち八区画を、大連の行政と経済をしきる八つの建築物が埋めていた。
 中心はきれいに整備され、緑が植えられていた。まだ植えられて間もないのか、大きな木はなかったが、風が抜ける気持ちのいい空間が広がっている。
 広場の向こうには、ファサードの八本の柱が印象的な大連ヤマトホテルが、どっしりと座っていた。左には、大連市役所の塔がひときわ高くそびえている。ふたつの建物の間の坂をのぼりきった突き当たりには、これまたできて間もない満鉄病院が、威容を誇っていた。
 だが、ゴドノフがとくに注意を向けたのは、大山通りから四分の一周したところにある、大連民政署――警察だった。西通と越後町の通りにはさまれた、煉瓦作りのしゃれたヨーロッパ風建物である。白い花崗岩の窓枠と中央の塔がファサードを飾り、まるでお伽の国の城のような外観を作りあげていた。
 ゴドノフは、大連民政署をめざして、ちらちらとその建物を観察しながら、ロータリーの外縁を進んだ。
 民政署の手前までやってくると、さりげなく右へ折れ、西通に入った。
 路面電車がかたわらを通り過ぎていった。たいてい二町ぐらいごとに停車場があるが、ゴドノフは歩きつづけた。地理をからだで覚えこむには、歩くのがいちばんだ。鍛えあげたからだは、一日中歩いてもこたえない。
 やがて左手の方に、大きな市場が見えてきた。雑踏に惹かれるように、ゴドノフはそこに向かった。
 市場はごったがえしていた。野菜、海産物、果物、雑貨……食べ物の屋台や、酒を量り売りしている店もあった。客はほとんどが日本人だった。そのなかで、彼の体躯はかなり目立った。
 大連には多くの日本人がいたが、人口の大半は中国人だ。しかし、町は日本人むけに整備され、中国人居住区とはかなり明確に分けられていた。
 学校も別々なら、住む地域も違う。もちろん利用する市場も違う。
 洋車《ヤンチョ》や馬車《マーチョ》をあやつるのはきまって中国人だったし、路面電車も、日本人が中国人とは乗車する車両が分けられていた。もっとも、間違って乗ってしまったとしても乗り換えたりはせず、平然としているのがマナーだ。
 ――寛大というオブラートにくるまれた五族協和。崩すのは簡単だ。
 ゴドノフは、ふっと皮肉な笑みをもらした。これからやることの、おぼろげな設計図が浮かびあがってきた。

---------- 
※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
---------- 
■解除・登録⇒ http://ibunko.com/text/mbook/acacia.html 
□問い合わせ⇒ acacia@ibunko.com 
■制作・発行⇒ アイ文庫(有) http://ibunko.com

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
Score!: - 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。