小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.010

2005/03/17

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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 コミンテルンの指示により、ゴドノフは五年ほどを日本ですごした。横浜で、ロシア語教室を隠れ蓑にオルグに奔走したのだ。
 ロシア自然主義文学へのあこがれから、文学青年たちが、多くゴドノフの教室につどっていた。生徒たちは純朴で、素直だった。この数年、次第に締めつけも厳しくなりつつあったが、横浜という土地柄と大正の自由な時代の空気のなかで、活動は比較的やりやすかったといえた。
 金融恐慌がおきたのを機に日本を去り、大連で活動するように、という指示がきたとき、
ゴドノフは名残惜しさのようなものを感じた自分を発見して、おどろいた。が、すぐにそれを女々しく感じ、おのれを恥じた。
 生徒たちは急な別れを惜しみ、せめて送別会をといってくれたが、ゴドノフはそうした素直なやさしさから逃れるように、冷たくふりきって、大連行きの船に乗ったのだった。
「日本人は単純だ。都会に住もうと、根はお人好しの田舎ものさ。まわりを海に守られて、政府のいうなりになって、のほほんと暮らしている。御しやすい民族だ」
 ゴドノフは吐き捨てるようにいった。マーシャは頼もしさを感じつつも、なんとなくとりつくしまのない彼の態度に、ことばを失った。
 ふたりは黙って、半円形に広がる階段をおりた。目の前には昨年完成したばかりの大連一の高層ビル、埠頭事務所が、春の逆光を背にうけて黒々とした影を落としていた。

 露西亜町にあるマーシャの家に荷物をおくと、ゴドノフはさっそく、大連の街にでた。
 広々とした街路、煉瓦作りの家並み、そしてアカシアの並木……その昔、建築技師サハロフが、精魂をかたむけて建設しようとしたダリニーの町。
 日本橋を渡って、大山通をまっすぐ行く。このあたりは、商業地区らしい。一方、港から露西亜町へ向かうときにちらっと見えた、広々とした山縣通が、ビジネス街となっているようだ。
 やがて大山通に交差して、人々でにぎわう通りが見えた。それが最大の繁華街、浪速町であることを、ゴドノフは地図で確認した。右へいけばやはり繁華街の伊勢町にぶつかる。
 浪速町はあとでゆっくり見ることにして、ゴドノフはさらにまっすぐ進んだ。
 大山通りの終点が、大広場――かつてのニコライフスカヤ広場である。
 もっとも、昔の名称にこだわる気はゴドノフにはなかった。パリを模した町は帝政時代の名残りのようで、気に入らなかった。
 シベリアの農村生まれのゴドノフは、こうした街並みに郷愁を感じることはない。東洋人がうろうろする街は、多少ヨーロッパ的であるだけで、横浜と変わりなく映った。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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