小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.007

2005/03/14

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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 千勢の父、直周は、たびたびここを接待に利用していた。直周は、東京に本社のある交易会社、岩井商店の大連支店長なのだ。
 直周は、かつてロンドン支店にいた。夫婦をまじえて英国の話題に花が咲き、ミスタ夫妻との親交が深まったというわけだ。
 ミスタ・リッジウェイのうしろに、中国人の女性がひかえていた。千勢たちよりは少し年上だろう。店員という風でもない、はじめてみる顔だ。
「新しい方?」
 千歳がたずねると、ミスタ・リッジウェイはにこやかに、
「私の娘、メアリ・スーです」
 といって、彼女の背を押してみなに紹介した。
「お嬢さんですって?」
 一同はびっくりして、ふたりを交互に見つめた。
「はい、北京で養女にしました」
「ミスタもどなたかと義兄弟の約束をなさっていたの?」
 中国では、親しくなると義兄弟の契りをかわす風習がある。さらに親密さを深めるために、その子どもを養子にする、ということもある。だが、あくまで形式上のこと、子どもに相手の名前をもらうぐらいが普通で、実際に引き取ることはまれだという。
「いえ、北京での主人の勧めがありましてね。北京の学校に通わせていたのですが、このたび卒業して、こちらへ呼びました」
「まあ、そうでしたの」
 改めて見れば、メアリ・スーの表情や立居振舞には品が感じられ、なかなかの出自と見受けられた。
 彼女に対するミスタ・リッジウェイの態度も、どことなく恭しい気さえする。
 みなはそれぞれ、メアリ・スーに会釈して、自己紹介した。
 奥の個室にとおされると、劉生はさっそく、
「手把肉ね」
 と注文した。
 ミスタ・リッジウェイは、申し訳なさそうな顔をした。
「いま、手把肉はちょっとやってないんです」
「ええっ」
 劉生だけでなく、直武と千勢も思わず声をあげてしまった。
「すみません、でもしばらくの間だけです。正統のレシピが手に入って、妻がいま研究中なのです。完成したら、これまで以上の逸品をお出しできますから」
 ミスタ・リッジウェイはなだめるようにこたえると、注文をうながした。
 直周が料理を選び、ミスタ・リッジウェイとその娘が部屋をさがると、千歳がつぶやいた。
「なにかしら、正統のレシピって」
 みなは顔を見合わせた。
「ここの自慢のたれは、清朝宮廷で使われていたものと同じ、ということでしたわね」
「そう聞いているが……」
 直周は思案するように、指先でまだ黒々としている口ひげをなでた。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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