小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.006

2005/03/11

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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「北京って、どんなところ?」
 千勢たちが身を乗りだして、興味津々でたずねる。
 大連もしゃれた都会だが、北京にはくらべものにもならない。広大な紫禁城、きらめく瓦、どこまでもめぐる高い石の壁……。
 小路をはいると、暗がりの中にひっそりと女がカウチにすわっている。纏足《てんそく》でちょこちょことしかあるけないのだ。数年前まで、紫禁城のなかで暮らしていたひとりなのかも……。
 まるで幻想譚のように話す劉生に、みんながすっかり夢中になっていると、やがてまた、あの妙につまった音が聞こえてきた。
「あの音は、じっさい特徴的よね」
 玉玲がいった。
 舞いおりてきた鳩に餌をやりながら、鳩舎へおしこめ、少年はリーダーの鳩から鳩笛をはずして、千勢にわたした。
「たぶん、不良品なんだろうなあ」
 申し訳なさそうに、劉生がいった。
「いいじゃないか、誰が聞いても、これが千勢の鳩笛だってわかるから」
 直武が慰めるようにいった。
「そう、そうよね。たぶん、ふたつとないわよね、こんな音を出す鳩笛なんて」
 千勢がほほえんだので、みんなほっとして顔を見あわせた。千勢は、鳩笛をピンクのウールの上着のポケットにしまった。
 そのとき、明るい日ざしが中庭にふりそそいだ。五人の影が、くっきりと地面の崩れかけた石畳に描かれた。
「いけね、急がなきゃ遅刻だ」
 明くんに礼をいうと、直武と劉生は少女たちをせかして家路をいそいだ。

 その夜、大連の繁華街・浪速町の海望亭は大繁盛だった。
 ここは、宮廷料理をアレンジした北京料理をはじめとして、ヨーロッパの家庭料理なども出す多国籍料理店だ。
 有島家の当主、直周《なおちか》を先頭に、夫人の千歳、長男の直武、そして千勢、劉生が店に入っていくと、
「いらっしゃいませ、有島さん」
 主人のミスタ・リッジウェイが一同をむかえた。
 ミスタ・リッジウェイは、英国人である。音楽教師として高貴な方に仕えるため、ロンドンから北京にやってきたのだそうだ。
 十五年前、宣統帝が退位を宣言し、清朝が消えたあとも、北京にとどまって仕えつづけていたが、次第に生活が苦しくなってきた。数年前、ついに職を辞し、知人を頼って大連にやってきたのだときいている。
 やがてレストラン「海望亭」を開店。厨房では、ミセス・リッジウェイが腕をふるっている。ミスタも夜は店でマネージャー役をつとめるが、昼は大連の子女たちにピアノを教えていた。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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