小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.005

2005/03/10

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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「お待ちしてました、どうぞ鳩舎のほうへ」
 中国人の少年がとびだしてきて、いそいそと案内した。
 直武と劉生は、仕事がらもあって北京官話がかなりできる。千勢は日常会話なら理解できるていどだが、日本語を解する中国人も多いので、それほど不便はない。
 歩きながら、玉玲は初対面同士を紹介した。
「この子は曹明くん、母さんの友だちの子」
 そういうと少年を振り返って、三人の名前をいった。少年はにこにこして三人をながめ、ぴょこんとおじぎをした。
 長屋の裏手の空き地にある鳩舎には、数十羽の鳩たちが、くるっくくるっくと鳴きさざめいていた。どの鳩たちの片足にも、赤い輪がはめられていた。
 玉玲にうながされて、千勢は鳩笛を少年に渡した。
「僕も、鳩笛をつけて飛ばすのは初めてなんです。楽しみだな」
 少年は一羽の鳩を選びだして、その足に鳩笛をくくりつけた。
「こいつはいちばん頭がいいんだ。リーダーなんです。ぜったい迷わず帰ってこれるから、だいじょうぶ」
 千勢を安心させるかのように少年はいうと、鳩たちを放した。
 一斉に鳩がとびたち、羽音で一瞬あたりは騒然とした。千勢は思わず「きゃっ」と頭をかかえた。
 ざあっと激しい風が吹いたような音をたて、鳩たちは上空へ舞い上がり、旋回を始めた。やがて上空で、
「ヒョロッ……プッ……」
 と妙につまったような音がした。
「……鳩笛って、ああいう音がするの?」
 千勢がつぶやいた。
「あんな音ははじめて聞いた」
 玉玲がいった。
「俺が北京で聞いたのも、あんな音じゃなかった」
 劉生がいった。
「俺にはよくわからないが……変わった音だな」
 直武がいった。
 上空を旋回する鳩たちにあわせて、「ヒョロン、ピッ、プッ」という間抜けた音がしばらく聞こえていた。やがて鳩たちは南山の向こうをめざして、飛び去っていった。
「戻ってくるまでは一時間ぐらいかかります」
 明くんがいった。
「じゃあ、それまで朝ご飯を食べていましょう」
 玉玲が抱えていたバスケットをたたいた。中には饅頭や果物がはいっている。
 少年は四人を中庭のテーブルに案内した。お茶を用意してもらい、みんなで朝ご飯をつまみながら、劉生のみやげ話を聞くことになった。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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