小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.003

2005/03/08

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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「どうもあれは、北伐軍内での、右派と左派の対立がひきおこしたことのようですよ。共産党側の人間が、国民党を装って襲ったという話をきいています」
 千歳がさっと顔をあげた。おぼろげながら、事態の複雑さを感じとったのだ。
 千勢が口をはさんだ。
「大連もいつか襲われたりする?」
「ここは大丈夫だよ、日本の領土だからね」
 劉生の答えに、千勢は、ほっとえくぼを作った。
「それにお兄さまが守ってくださるわね?」
「直武ねえ……まあせいぜいがんばってもらいましょう」
 劉生が無遠慮に笑ったので、千勢はぷんとして言い返した。
「お兄さまを侮辱すると、劉生さんだって許さないわよ」
 ところが千歳までもが笑いながら、
「直武さんも、もうちょっと融通がきくようになってくれると、もっと頼りがいがあるのだけど」
 などと言うのである。
「お母さままで!」
 千勢が頬をふくらませたそのとき、玄関で声がした。
「ただいまかえりました」
 兄が、配属先の専売局から、帰ってきたのだ。
「おかえりなさあい!」
 千勢がソファから飛びあがるように腰をあげていうと、直武は軍服の襟に指をいれて風を通しながら、いとおしそうにうなずいた。直武は、去年の秋に陸軍士官学校を卒業したての、専売局情報調整課付き武官なのだ。
「ただいま帰りました」
 直武は母の前にやってきて、挨拶した。
「はやかったわね」
 千歳が微笑んでうなずく。
「あいかわらず妹に甘い兄をやってるな」
 直武と握手をかわしながら、劉生がいった。
「そろそろだと思ってたが。無事でよかったな。いろいろ聞かせてくれよ」
「そうくると思ったよ」
「ねえねえ、劉生さんも戻ったし、あさっての日曜日にはピクニックにいける?」
 直武にまとわりつくようにして、千勢がたずねた。
「あさってはだめだな、詰めることになってるから。次の日曜ならだいじょうぶ」
「やった! 玲ちゃんに知らせてくる!」
「ちょっと待ちなよ、千勢ちゃん。おみやげがあるんだから」
 廊下へ走りだそうとする千勢の背中に、劉生があわてて声をかけた。おみやげ、という言葉に、千勢は敏感に立ちどまり、ふりかえった。
 テーブルのうえに、劉生が小さな筒形の竹細工をおいた。
「なあに、これ」
「北京で売ってた鳩笛だよ」
「鳩笛?」
「鳩の足に結びつけてとばすと、音がでるんだ」
 そこへ、楊玉玲がはいってきた。
 楊夫人の娘で、幼いころから有島家に出入りして、あれこれ手伝いをしている。なにごとにも鷹揚な有島家の中で、千勢とは姉妹同然に暮らしてきた。
「おかえりなさい、劉生さん」

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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