小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.002

2005/03/07

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 ┃
┃ 『アカシア少女探偵団』 ┃
┃                        ┃
┃       大庭花音         ┃
┃  written by Kanon Ohba ┃
┃       -*-*-*-          ┃
┃   http://ibunko.com    ┃
┃   acacia@ibunko.com    ┃
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 応接間に、母の千歳が、茶をはこんできた。
「劉生さん、お疲れだったでしょう。今回は一ヶ月ほどもお出かけだったわね」
 千歳が革張りのソファに腰をおろすと、つづいて有島家の家事を手伝う楊《ヤン》夫人が、揚げ菓子を盛った皿をささげもって入ってきた。
「あとで玉玲にもこっちへくるようにいってね」
 千歳のことばに、楊夫人はうなずいて、下がった。
「――ええ、三月末に南京入りして、南京事件の取材をおえたら、上海で蒋介石が反共クーデター、さらには南京政府樹立でしょう。北京にもよってきたんで、思いのほか長くなりました」
 中国統一をめざして、中国はいま、さまざまな勢力がぶつかりあっていた。
 三年前、国民党を率いる孫文は共産党と手を組んで、国民党の勢力拡大をねらった。第一次国共合作である。翌年、孫文が亡くなると、国民党は中国統一をおしすすめようとして広東《かんとん》に国民政府をうちたてた。
 これに対抗する勢力が、中国東北部に本拠地をおき、武力による中国統一を画策する北洋軍閥だ。
 これを掃討しようと、国民党は共産党とともに「北伐」を開始した。南京事件は、北伐軍が北へと勢力を伸ばす途上でおきた、領事館、教会などの襲撃事件である。
 大連はこの中国東北部の南端、渤海《ぼっかい》につきでた遼東半島にある。日露戦争にからくも勝った日本が、中国大陸にようやくとった領土だ。それだけに、いま中国でおきているこうした動きには無関心ではいられない。
「南京はどうでした? 日本領事館もひどい目に遭ったんでしょう……これ千勢、はしたない」
 揚げ菓子にのばした千勢のえくぼの浮かぶ手を、千歳は軽くぱしんとたたいた。劉生がくっと笑いをこらえたのを見て、千勢は照れかくしにつんとそっぽをむいた。また子どもっぽいとからかわれるにちがいない……。
 が、劉生は千勢から千歳に視線をもどして、話をつづけた。
「いやひどいもんでした。領事館内の金属は、把手からなにからかたっぱしもぎとられているし、床板もはがされて、がらんどう同然ですよ。もっとも床板は、領事館内に避難していた人たちが暖をとるために燃やしたせいもあるんですがね……」
 長いまつげをふせて、千歳はためいきをついた。
「北伐軍もひどいことをするわね。罪のない民間人まで襲うなんて。なんの恨みがあって……」
「それですけどね」
 劉生がいった。

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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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