小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.115

2005/08/29

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 
┃ 『アカシア少女探偵団』 
┃                        
┃       大庭花音         
┃  written by Kanon Ohba 
┃       -*-*-*-          
┃   http://ibunko.com    
┃   acacia@ibunko.com    
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 千勢は、男たちにむかって、必死だった。
「どっちに渡したっていいのよ。わたしたちには必要のないものだもの。わたしたちを無事に家に帰してくれると約束できるほうに、渡すだけよ」
「交渉というものを知っているね、お嬢さん」
 ゴドノフがにこやかにいった。
「もちろん、車で安全な場所まで、送り届けてあげるよ」
「お、俺たちだって、ほかのやつらに襲われないよう、ちゃんと停車場までつれていってやる」
 男たちのひとりが、さけんだ。
「あたしもいるってことを、忘れないでほしいねえ」
 月華がぼそっといった。
「ゴドノフさん、銃をむけられたままでは、恐くてとてもお渡しできないわ」
 千勢は気丈にいった。
 どうせだめでも、みっともない真似だけはしない。千勢がひそかにした決心だった。

 うしろで、玉玲は、懸命に小鳥の羽ばたき訓練を続けていた。
 きっかけがいるのかもしれない。
 だが――失敗したらおしまいだ。玉玲は生まれてはじめて、神に祈った。
 そして、思いっきり腕をふりあげた。
 見守っていた少女たちは、思わず「ひっ」と息をつめた。
 玉玲に投げあげられて、小鳥は高く飛びあがったものの、そのまま落ちてきた。
「いけ!」
 玉玲が低い声で叫んだ。
 小鳥は落ちながら、必死で羽ばたいていた。そのうち、バランスがとれたのだろう、よろよろと上空へ向かいはじめた。
 ほっとしたのもつかの間、こんな飛びかたでは、鳩笛が鳴らないことに、玉玲は気づいた。
「いけ! いけ!」
 玉玲は必死で念じた。
 小鳥はよろよろと飛び去っていく。
 小鳥が点になったとき、ようやく、ヒョロン……と小さな音が鳴った。
 やがて、遠くから、
「ヒョーロロロン、ピッ……」
 あの変な音が、風にのって聞こえてきた。
 小鳥を見送った玉玲は、はじめて人前で泣いていることに、気づいた。


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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
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