小説

【アイ文庫】長編小説「アカシア少女探偵団」

昭和2年、大連。千勢の通う女学校に転校してきた美少女をめぐって、女詐欺師、ロシア人活動家、中国の変な役人、陸軍将校、新聞記者らが入り乱れ大騒動! アイ文庫で配信された長編小説を好評にお応えして再配信。


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[ibunko]アカシア少女探偵団 No.110

2005/08/22

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┃ 【あいぶんこ長編小説】 
┃ 『アカシア少女探偵団』 
┃                        
┃       大庭花音         
┃  written by Kanon Ohba 
┃       -*-*-*-          
┃   http://ibunko.com    
┃   acacia@ibunko.com    
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 月華の右手の人差し指と中指が、ぴたりと陳の喉仏に当てられた。
「ひいい」
 陳の喉の奥から、かすれた音が洩れた。
「は、話す。話すからその指をどけてくれ」
 月華は指を離したが、陳の喉仏から二寸(約六センチ)ほどのところで、なおも指を突きつけつづけた。
「さっさと吐いちまいな」
 陳は唾をのみこもうと、また無駄な努力をした。
「ゴ、ゴドノフに、国民党軍を倒したいなら、共産党に協力しろといわれたんだ」
「ゴドノフ!」
 玉玲が叫んだ。あの男、どういうつもり?
 千勢の頭のなかを、半月前に劉生からきいた、南京事件の話がかすめた。
 南京事件で、北伐で結びあっていた国民党と共産党の対立が激しくなり、四月には、蒋介石を中心として、共産党排撃が始まっていたのだ。
「そのざれごとが、あの学生とどう関係があるんだ? ああ?」
 月華がすごんだので、陳は小さなからだをますます縮めた。
「あ、あの学生、ゴドノフが日本にいたことを、知ってる。ゴドノフは秘密工作のために、日本語がわからないふりをしてる。ばらされたらかなわないから、し、始末すると」
「ひどい!」
 秀子が悲痛な声をあげた。
「共産党の金ってのは……でっちあげだな?」
「そう、そう」
 陳はかくかくとうなずいた。
「ゴドノフは、俺に、暴動をおこすように煽れと。日本人が暴動にまきこまれたといえば、軍がでてくるから」
「どういうことだ」
 月華は解せないという顔で、眉をよせた。
「軍なんかがやってきたら、かえってここの連中が危険じゃないか」
「そ、そ、それで、抗日感情を一気に高めて、共産党への組織化をすすめるんだと、ゴドノフはいったんだ」
「なんですって……」
 千勢は愕然となった。
「し、鎮めなきゃ、はやく」
 千勢がいまにも飛び出しそうになったので、玉玲があわてて止めた。
「無理よ、あんなになっては」
 少女たちは、表のようすを見て、腰がくだけそうになった。
 群集は、さっきよりもずっと巨大に膨れあがっていた。これはもう、暴動と化しているといってもおかしくない。
「でも、でも、じゃあどうすればいいの!」
 千勢は叫んだ。
「軍がきたら、おしまいじゃない! そんなこと……そんな悪だくみで、日本人と中国人が敵同士になるなんて、いやよ!」
 千勢は、玉玲にとりすがって、泣きだした。
 そういっている間にも、中国人たちが騒ぎをききつけて、あとからあとから、押しよせていた。
「しまった!」
 月華が舌打ちをして、腰を浮かせた。
 あまりのことに月華が呆然とした一瞬をついて、陳が逃げだしたのだ。
 陳はころがるように小路をとびだし、中国人の男に派手にぶつかった。
「ばかやろう!」
 男が腕をふりあげた下を、陳は器用にくぐりぬけ、群集にまぎれこんでしまった。
 ふりあげた腕のやりばのなくなった男は、陳がとびだしてきた小路を見やった。そして、あっと叫んだ。
 その目はまっすぐ、秀子をとらえていた。


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※この小説はフィクションです。団体名などいずれも架空の設定です。 
※ルビは《》で囲っています(青空文庫形式)。
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創刊日:2005-02-17  
最終発行日:  
発行周期:平日毎日  
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