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YOGYA滞在記-SENYUM-

インドネシアが好きな方にこの国の本当の雰囲気を感じてもらえるよう、ジョグジャ、ジャカルタ滞在5年の私が1日本人としての視点を交え、ニュースなどでは伝わってこないインドネシアの魅力について綴っています

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SENYUM236話「ベチャの王道」

2004/12/20

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*YOGYA滞在記 -SENYUM- *       vol.236
                      発行部数 1165部

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*このメールマガジンはインドネシア、ジョグジャカルタ市での3年半の
留学を終え、首都ジャカルタで、もの書きの仕事に就いた”私”が日々
体験し、感じたことをつづったものです。

<筆者からの一言>
 晩飯に誘った後輩が、珍しく日本経済新聞の日曜版を持ち歩いていた
ので、尋ねてみると、「興味深い記事をみつけたんです。読んでみます
?」・・・興味をそそられて読んで見ると、最近の日本人男性の恋愛事
情が書いてありました。

 記事いわく「最近の男性は積極性がなくなり、自分の思いをなかなか
告げようとしない」「デートをしても反応がにぶく、脈はないと思って
いたら1ヵ月後に、男性からそのとき見た映画の感想が返ってきた」・
・・つまり、女性にとってはある男性が自分に気があるのかないのかよ
く分からなくなっているのだそうです。そういうときに判断する方法
は、「天気やたわいもない話題をひんぱんに伝えてくる」「自分のプラ
イベートや弱みを話す」男は気があると思ってよく、女性は「ほかに
デートする男がいるようなことを何気なく伝えて相手に危機感を募らせ
る」ことが有効なのだとか。

 積極性のなさに関しては、1日本人男性の私も同感する部分がいくつ
かあったので、「うーむ」と思わずうなってしまい反省してしまったの
ですが・・・皆様はいかがでしょうか?

 今回は、2週間ほど前に私が勤務するビルでやっていた物産展のこと
について書きました。それでは本編をどうぞ。


-------------「ベチャの王道」----------------

 ジャカルタのオフィスビルでは、ときどき、空きスペースを利用した
期間限定の物産展や宝石展を催している。仕事の合間にできたちょっと
した時間を使えるからか、そうした臨時物産展には昼食帰りや営業先か
ら戻ってきたサラリーマンやキャリアウーマンたちで結構なにぎわいを
見せている。そうしたにぎわいにつられて僕もふらふらと会社のあるビ
ルの1階で始まった物産展を覗きに行ったのだけれど、そこで魅力的な
1品に心奪われてしまった。僕が留学生時代の3年間を過ごしたジョグ
ジャ型ベチャ(輪タク)のミニチュア(編み笠を被った運転手のゴム人
形付)である。

 ジョグジャ以外にもインドネシア各地にベチャは存在しているけれ
ど、僕はジョグジャのベチャが他都市のどのベチャよりも雄大でおしゃ
れな「ベチャの王道」だと思っている。他都市のベチャは2人が尻を突
き合わせながらやっと乗れる「吹けば飛ぶようなベチャ」だけれど、
ジョグジャのベチャは無理をすれば3人は乗れるインドネシアナンバー
1の大きさ。前輪の上半分を覆う泥除けには、ムラピ山と思われる山々
の風景に松の木らしき木々が書かれ、「JOGYAKARTA」の文字
が躍る。鉄製の骨組みは赤色のペンキで塗られ、急な雨や太陽の陽射し
に耐えられるようしっかりしたフードが備え付けられている(折りたた
み可能)。これだけ「威風堂々」としたジョグジャベチャはたいそう重
くて運転も難しいのだけれど、編み笠を被り、サンダルをひっかけ、選
挙時に配られる政党Tシャツを着た運転手たちは、かもしかのような鍛
え抜かれた足でペダルをこぎ、乗客がびっくりするくらいのスピードで
ジョグジャの街を悠然と走る・・・

 僕はちっぽけな台の上に乗せられたジョグジャベチャのミニチュアの
前にしゃがみながら、留学生時代に何度も乗ったジョグジャベチャの思
い出に身をゆだねていた。乗客を乗せやすくするためにベチャを傾ける
運転手、走り始めはいかにもつらそうにゆっくりと走り始めるけれど、
スピードに乗れば、オートバイや車と同等に大通りを悠然と走る。とろ
とろ走るオートバイや車にはいっちょ前に手製のクラクションや鉄の振
動で音を出す棒を鳴らしてどかす。上り坂では申し訳なさそうに後部の
運転席を降りて、重いベチャを押す。何より晴れた日に下り坂でスピー
ドを出したときに受ける風がこの上なく爽快で気持ちがいい。ジョグ
ジャ南部の農村地帯バントゥル県やグヌンキドゥル県からやってきたで
あろう運転手たちは皆、やせこけて頼りなさそうに見えるけれど、体の
節々を見ればいかに日々の農作業で鍛えられているかがわかる。そうい
えば、「ンゲー」なんていいながら黙々と行き先へ向かう編み笠運転手
の朴訥さには惹かれたなぁ・・・なんてニコニコしていると、いつのま
にかやってきた店番のおばさんが「そんなにベチャが好きなのかい」と
あきれたような顔をして僕の横に腰を下ろしていた。

 聞けば、おばさんはジョグジャからジャカルタへたびたび遠征して
ジョグジャ民芸品を売る行商人で、僕が惹かれたジョグジャベチャのミ
ニチュアは正真正銘のジョグジャ製。ミニチュアの材料もすべて本物と
同じモノを使用しているという。価格はベチャ運転手人形付で25万ル
ピア(3000円)。ずいぶん高いと思ったので、僕はジャワ語を交え
ながらジョグジャベチャの思い出話をする人情作戦に出た。おばさんも
手馴れたもので、「わざわざジョグジャから列車に乗ってきているんだ
よ。同じジョグジャ人として気持ちが分かるだろう」と僕の同情心を誘
う。結局、4万ルピア値引きすることで妥協し、僕はベチャ親父人形1
体と精巧なつくりのミニチュアベチャ1台の正式な所有者となった。

 今、この文章を書いている丸机の上に飾ってあるベチャと編み笠運転
手を見ながら、どうしてあれほどまでジョグジャベチャに反応したのか
考えてみる。ジャカルタの周りでもタンゲランやブカシに行けば、ベ
チャを見ることができる。けれど、これらのベチャは猛スピードで黒煙
を上げるバイクやバスの隅っこを申し訳なさそうに走るだけで、威風
堂々振りが感じられない。ジャカルタにだって、インドから輸入された
バジャイ(3輪タクシー)があるけれど、スディルマンやタムリンと
いった目抜き通りを走ることはできないし、乗用車に乗っていれば、渋
滞要因かつ黒煙を吐き出す公害要因のバジャイにうんざりすることもし
ばしばだ。それに引き換え、ジョグジャベチャはジョグジャという街に
流れる穏やかな時の流れを象徴するかのように、ゆったりのんびり走る
ベチャがいまだに市民権を得ていて、市内中心部のどんな大通りでも走
れるし、当然のようにバスや車やバイクに混じって信号待ちをしてい
る。車輪の泥除けには、水墨画の失敗作のような絵を飾る余裕もある
し、ブレーキランプやら旗やらで彩ったおしゃれなベチャも多い。

 きっと僕は、大通りからベチャが消えて久しいジャカルタと違い、今
でも威風堂々とベチャが走ることができる町、今と昔が共存できるジョ
グジャの象徴としてのベチャに知らず知らずのうちに懐かしさを感じて
いたに違いない。だからこそ、仕事を終えて丸机に飾られたベチャを見
ると、のんびりとした時間にひたれるような気がしてほっとする。21
万ルピアのちょっとした無駄使いかもしれないけれど、僕にとって日本
に帰ったとしてもジョグジャを身近に感じることができる宝物がまた1
つ増えた。


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              発行者 水嶋 真人
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創刊日:2000-07-09  
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