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YOGYA滞在記-SENYUM-

インドネシアが好きな方にこの国の本当の雰囲気を感じてもらえるよう、ジョグジャ、ジャカルタ滞在5年の私が1日本人としての視点を交え、ニュースなどでは伝わってこないインドネシアの魅力について綴っています

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SENYUM224話「アジア的奥ゆかしさ」

2004/09/13

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*YOGYA滞在記 -SENYUM- *       vol.224
                      発行部数 1145部

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*このメールマガジンはインドネシア、ジョグジャカルタ市での3年半の
留学を終え、首都ジャカルタで、もの書きの仕事に就いた”私”が日々
体験し、感じたことをつづったものです。

<筆者からの一言>
 9日、またしてもインドネシアでテロが発生してしまいました。しか
も今回テロが発生した場所は、私のアパートから直線距離で約200
メートルの豪州大使館。同じアパートに住んでいる友人によると、どー
んという大音量とともにアパートが揺れ、アパート内の窓ガラスが約2
0枚ほど割れたそうです。TVで流された事件直後の生々しい映像を見
ていると本当にやりきれなくなります。投げ出された下水道から這い上
がって血まみれになったまま事切れる警備員、黒焦げのバイクに横たわ
る市民・・・毎日のように通っていた場所だけに、もしあの時間にあの
場所を通っていたらと思うとぞっとします。ちなみに、私は事件発生
時、シンガポールにいたため(そのため先週お休みしてしまいまし
た)、9日夜に自宅に戻ってみると、アパート前の通りが封鎖されてお
り、窓ガラスが全部割れた周辺のビルを見て爆発のすごさを知ったので
した。私の住所と事件発生現場の住所の通りの名前が一緒のため、心配
いただき、ご連絡をいただいた読者の皆様、この場を借りて御礼を申し
上げます。

 今週はシンガポールで感じたことを書きました。それでは本編をどう
ぞ。


--------------「アジア的奥ゆかしさ」--------------------

 シンガポールの街を半年振りに歩いたとき、僕は強烈な違和感に襲わ
れていた。インドネシア大使館からホテルに向かう地下鉄の中、食事を
取るために歩いたオーチャード通り、そこにはインドネシアでほとんど
見ることのない、密接に体を寄せ合い、唇と唇を重ねるカップルの姿が
ある。まるでそうしていなければお互いの気持ちを確かめられないかの
ように、周囲の人間にその行為を見せ付けているカップル(中華系や欧
米系)を見ているうちに、僕は、シンガポールへ向かう格安民間航空ラ
イオンエアーの機内で起きたあるシーンを無意識のうちに思い浮かべて
いた。

 いつものようにウィンドウズシートを予約した僕は、もう何度もそう
しているように早々と自分の座席番号が書いてある席に腰を下ろし、前
方からやってくる乗客たちの姿を眺めていた。早々と飛行機に乗り込ん
でしまうのは、?ウィンドウズシートを予約しているため、ぎりぎりに
乗り込んで通路側の席の乗客を立たせたくはない?あれこれ理由をつけ
て勝手に空席に居座る乗客がいる−という経験則のほかに、隣に座る乗
客が現れるまでのほんの少しの時間を楽しみたいから。隣の乗客が若い
女性であればたった1時間半のフライトでもずいぶんうれしいものだ
し、太った男性であれば、手すりを大きくはみ出した隣人の左腕を見て
落胆する。「あの人だけはかんべんしてもらいたい」と思った太ったイ
ンド人が通り過ぎれば内心ほっとするし、色白のスンダ美人が前の席に
腰を下ろせばつい落胆してしまう。そんなことを繰り返すうちに隣に
座ったのが、ペチ(黒角帽)にバティックというインドネシア人お決ま
りの服装を着た70過ぎのおじいさんだった。

 携帯電話の電源を消すよう何度もアナウンスがあった後、飛行機は滑
走路に向け動き出す。それでも携帯の着信音がなりやまらない中、古ぼ
けたペチを被ったおじいさんは、付き添いの50代の女性にシートベル
トを締めるのを手伝ってもらいながら、客室乗務員が差し出した飴を5
個も取ってバティックシャツのポケットに詰め込む。典型的なインドネ
シア老人が隣人になったことに僕はうれしさとも落胆とも言えない妙な
気分で、窓の外に広がる赤茶けた瓦をのせた民家群を眺めていた。

 窓の外の景色が、スマトラ島に広がる密林ときれいに区画整理された
移住地になったころ、厚紙でできた箱に入った機内食が運ばれてきた。
国際線だけに期待しながら箱を開けると、中にはもち米を笹の葉で巻い
たちまきもどきと、西ジャワ州名産タペ入りキャラメルもどき。しかも
まずい。「国際線でこてこてのインドネシア料理はないだろう」とぶつ
くさ言っていたら、おじいさんが突然、僕のほうを向いて「マリ」と言
いながら会釈をした。僕ははっとして、反射的に「シラカン(どう
ぞ)」という言葉を発した途端、ふと温かな感情が僕の心に芽生えた。

 インドネシア人の多くは、誰かと一緒に食事をするとき、必ずといっ
ていいほど、食べる前に相手に「これから食べますよ」というシグナル
を送る。警備員だって友人だって老人や学生だって、たまたま屋台で隣
に座った僕に対して「先に食べるからね」とか「お先に」とか一声かけ
てから食べ始める。先に食事が到着した人に対して「どうぞ先に食べて
ください」と言う日本人とは違い、食べたい人が許可を求める(日本人
は待つ)のだけれど、その行為が日本人と共通のものであるアジア的奥
ゆかしさのような気がして、声を掛けられた僕はうれしくなる。最近、
ジャワの田舎の生活から遠ざかっていた僕は、ペチのおじいさんの何気
ない行為で、かつてジョグジャで何度も体験した「インドネシア的奥ゆ
かしさ」を思い出し、久しぶりにインドネシアの魅力について思いをめ
ぐらせることができたことに感謝していた。

 それが、シンガポールで何度も見ることになる、人目をはばからず唇
を重ね合う中華系カップルの姿に違和感を感じた要因なのかもしれな
い。むろん、中年の男同士が手を組んだりするボディコンタクトはイン
ドネシアで圧倒的に多いのだけれど、恋人たちが他人に見せびらかすよ
うにキスをしたりする姿は滅多にない。欧米人だって、最近の日本人
カップルだってずいぶん大胆になってきているし、それが悪いとは言わ
ないけれど、少なくとも「アジア的奥ゆかしさ」からはずいぶん遠い光
景のような気がする。シンガポールでも人前でいちゃいちゃするインド
人やマレー人のカップルがいなかったのは、宗教的、文化的側面から考
えればいろいろなことが言えるだろうけれど、人前で見せ付ける行為を
しなくてもお互いの気持ちが理解できる、心が通じ合っている「アジア
的奥ゆかしさ」がまだ残っているからだと思う。人と人とのつながりが
いまだ濃厚なインドネシアの生活に慣れた僕から見れば違和感の残って
しまうこの光景、シンガポールに在住、もしくは最近観光された皆様は
どう感じましたか?

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              発行者 水嶋 真人
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創刊日:2000-07-09  
最終発行日:  
発行周期:週1回  
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