病気・病院

LA LUNA

市民と精神保健福祉とメディアをつなぐネットワーク情報誌です。精神医療の利用者、また精神保健福祉についてもっと知りたい人に、ジャーナリストが現場で取材をした情報を提供します。子育て中の親や10代にも読んで欲しいです。

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LA LUNA vol.33(2001.1.8)【柏崎監禁事件1】

2001/01/08

  


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     市民と精神保健福祉とマスコミをつなぐネットワーク情報誌          
              vol.33(2001.1.8)
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□今週のつきざき□
■昨年12月、柏崎の少女監禁事件について新潟地方の取材を行ないました。一回目は新潟県精神保健福祉センター 後藤雅博先生のインタビューです。
 この事件について12月に『新潟少女監禁事件 空白の9年2ヶ月』(毎日新聞新潟支局編 新人物往来社刊)という本が出ました。当時の警察の実態が新聞記者の目で書かれています。しかしPSWを『サイコソーシャルワーカー』と表記するなど、新聞記者の人たちには精神保健領域の知識がほとんどない模様です。したがって精神の問題にはほとんど触れていません。犯罪そのものの経緯は詳細にわかりますが、移送の問題も含め、精神的な問題を抱えた容疑者について考える視点が抜け落ちているように思いました。

■移送制度の問題点とトキワ警備のニュースについて番組のディレクターに、番組づくりの意図などを取材に行こうと思っています。もし番組を御覧になった方で、制作者に対して御意見や質問のある方はメールでお知らせ下さい。私が代わっていろいろ質問して見ます。

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? インテルビスタ                            ?
? 精神保健福祉から考える『柏崎少女監禁事件』 第一回   
  精神保健福祉センター 後藤雅博 先生                                   ?                                    ?
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 ■はじめは、地域精神医療の問題だった

月崎 昨年一月に発覚した『柏崎の少女監禁事件』は警察の不祥事とあいまって、非常に衝撃的な事件として大きく報道されました。しかし当初、精神保健の領域で働く現場の人にとっては、これは精神科の移送の問題だったわけですね。

後藤 そうです。これは、犯罪の部分を除いて見ますと、「医療の必要性が理解できない人が社会的迷惑行為を長く繰り返している事例を入院につなげた」ということです。だから精神保健福祉サイドからみるとそんなに特殊な事例ではないんですね。

月崎 引きこもりは増加していますし、通常の業務として保健所は、このような状態の人を、何らかの形で医療につなげるという仕事を引き受けているわけですね。保健所、警察、病院、そして行政は緩やかな連携を結んでいて必要に応じて、このような事例に介入をしてきているということですね。では精神保健という切り口だけからみれば、今回の事例はうまくいったケースと考えていいのでしょうか?

後藤 そう言えると思います。保健所、病院が協力して、医療保護入院に持って行こうとする普通のパターンだった。柏崎は他の地域よりは医療と保健所と市町村の連携がうまく行っている地域だと思います。

月崎 しかしこのケースは、一方に別の刑事事件である誘拐監禁という要素を含んでいたわけですね。もしこれが女性監禁ではなくて、何か別の形の地域での迷惑行為であり、強制入院であればおそらく報道とも無縁の事件だった。保健所にとっても警察にとっても日常的な業務の一つに過ぎなかったわけですね

後藤 そうだと思います。

■■報道が警察バッシングに傾くなかで

月崎 1月28日に少女が発見され、29日の報道があった時に、警察は「病院で患者さんが暴れていて通報があって、行ってみたら女の子がいた」という発表をしており新聞各紙もそう書いている。つまり警察発表では、すべてのストーリーは病院からスタートしたかのごとくだった。ところが2月16日には虚偽の発表が大々的に報じられた。警察は少女が発見された場が自宅だったことも、第一発見者が、市の職員、保健所の担当者や病院の医師、看護士などの計7名だったことを発表しなかったわけですね。これは警察の職務怠慢をごまかすためだというバッシングが、この日からスタートしましたね。しかし、本当にそういうことなのでしょうか?一般に精神保健の現場では、警察と保健所は、こういったケースについて通常からある程度、協力関係にあったはずですね。

後藤 強制的にでも医療につなげる必要があるという場面においては、保健所と警察はやっぱり協調していないとできないんですよ。柏崎に関して言えば連携がうまく行っていた地域だと思いますので。当初から、そのことについて保健所サイドとしては、警察を非難する気持ちはそれほどなかったと思いますね。

月崎 私は今回の取材で柏崎保健所、三条保健所などを取材してから、ここでお話を伺っているわけですが、報道とは随分違った印象を受けました。実際に、現場での経緯はどのようなものだったのでしょう。保健所が助けを求めているのに警察が無視をしたということではないようですね。

後藤 そうです。この男性(佐藤容疑者)の自宅に行く段階でも、最初に保健所は警察に電話をしていますけど、警察も何かあったら電話くださいという約束で行っている。市の職員、保健所の精神保健福祉相談員、指定医を含む医者二人、看護士の計7人で自宅を訪ねた。本人は興奮状態で抵抗があったが、応援依頼のやり取りの間に沈静の注射を打ち、医師による医療的な保護の元、車で病院に運んだ。これはプロの仕事上のやり取りに過ぎないんですよね。

月崎 取材してみると、保健所が警察を呼んでも来てくれなかったというニュアンスとは違うようですね。いわゆる警察の不祥事や職務怠慢をバッシングしたいという世論の流れにマスコミが乗ってしまった部分が強く、現場の感覚とは、ずれていたようです。私は別に警察を擁護しようとは思わないのですが、例えば「何でもかんでも警察に任せないでくれ。そちらで住所、氏名をきいてくれ。家出人なら保護とかなんとかするから」というような多少ラフな言葉も、ある程度非常事態の現場で協力関係にある人々がその場でできることをしておく「お互い様」という感覚だったのではないでしょうか。だから、一般市民の通報に応じなかったというのとは、少しニュアンスが違うなと感じました。もちろん、警察と保健所の馴れ合いがいいと言っているわけではありませんが、実際、仕事とは言え強制的な入院の現場に立ち会うというのは、緊急事態ですし、誰にとってもハードな役割ですね。そこに協力関係が必要だというのはわかります。

後藤 そう。「いち市民が呼んだのに来なかった」というのとは違いますね。お互いプロでやっているので、その辺の必要性のところの問題と、現実的な人手がその時にあるかという問題ですから。

月崎 自分の住んでいるところを初めとして、いろいろな地域で取材してみましたが、その時、その地域の警察にいる防犯課の責任者の考え方によっても精神保健の現場の連携は随分違うようですね。

後藤 そして病院も往診の先生を二人出しています。一人は指定医だった。これはちゃんと考えている病院だから、移送制度のことを意識していた。法律改正もすでにされていて、4月から施行になることもあり、強制的な入院の要件に必要な指定医をちゃんとつけて行った。その意味では法律的に見ても間違いのない形で医療保護入院に持っていこうとしたケースです。

月崎  なるほど。ということは、移送制度の問題を含めた強制的な入院というテーマと、容疑者が犯した犯罪がごちゃまぜになって、警察の不祥事を軸にした報道合戦となってしまったんですね。その際には移送の問題のほうは吹っ飛んでしまって、犯罪部分ばかりがクローズアップされた。 警察が立ち会わないということも精神保健や医療の現場としては、日常的に有り得る選択肢の一つだったのに、少女の発見によって精神保健の事例そのものが、急に刑事事件である誘拐事件に変化したわけですね。

後藤 そう。もともとの警察の認識としてもそんなことではなかったはずです。 

月崎 結局、病院にいって少女が発見されたところから発表したことで、警察はウソをついたというストーリーが出来上がったんですが、ではなぜこんなウソをついたのでしょう。保健所周辺を取材してみると、警察がストーリーを病院からスタートさせたのは保健所を気づかってというような報道も見ましたが。

■■■精神保健福祉はマスコミとどうつきあうのか


後藤 確かに、保健所のほうに取材攻勢がきても業務にも差し支えるし、マスコミ対応にも慣れていないだろうから、警察が情報を一元化して発表するほうが都合が良かったという部分は否定できません。結局、新潟県の健康対策課がこの件に関する情報窓口を一本化して対応することになりました。プライバシーの保護も含めてどこまでの情報を出すかという事を県として協議したわけです。しかし実際、その後、この事件について柏崎保健所を非難するファックスが全国から山のように届いて業務に支障をきたしたという現実もあります。

月崎 保健所としては警察がウソをついたと言うよりは、うるさいマスコミと折衝するのは避けたい。警察がマスコミ対策をしてくれるなら、自分達にとってもそのほうが都合が良かったというのは分かります。しかし情報化社会になってきて、自分達はコメントするのが苦手だから、どこまで話していいのかもわからないので、その部分はできるだけ警察に依存したいというのでは、まずいのではないでしょうか。

後藤 そこは問題ですね。でも必ずしも隠すつもりはなかったと思います。しかしまあ、マスコミって失敗があった時にしか取材にこないからな。

月崎 でも、保健所とか精神保健福祉センターを取材していて思うのですが、確かに取材に来る人のマナーの問題はありますが、取材に来る人にどのように話をするのか、自分達の仕事を理解してもらい、正確な情報の発信を委ねるというようなコミュニケーションの能力が少し劣っているという感じは否めません。記事を書くならきちんとこれを伝えたいから、書いて欲しいというような判断ですね。日常的に情報のやり取りをしないと、お互いのことが分からないと思うんですね。新聞の生活家庭面などで福祉作業所を取材するとという部分と、同じ新聞のなかで、一面では、精神科通院歴のある凶悪な犯人という言葉が平然と使われているのは問題ですね。事件があった時にしか来ないと言うけれど、やはり普段から市民に必要な情報を公開する努力、それをマスコミも利用してこまめに発信して行く必要があるのではないでしょうか。

後藤 そうですね。ただね、今回、警察のほうの主導的な報道で始まったのはもう一つ理由があるんですよ。

月崎 それは?

後藤 つまり病院が往診に行ったわけです。基本的にはね。そこに保健所の職員と市の職員が同行している。これは下手すると、官民の癒着という風に受け取られかねない。

月崎 ああ、そういう見方もありますね。人権という一点からみればね。

後藤 そう。民間病院が往診に行くのに、なんで保健所と市がついてくるんだと。だってまだ新潟県では移送制度は施行されていないわけだから。

月崎 そうですね。

後藤 以前あったように、「福祉事務所が病院へ患者さんを送る手先となっている」というようなことを言われたくないという意味で報道にも敏感になっていた。それが一方にあって、あまりその入院の細かな経緯が表に出ない方がいいよねという判断もあった。

月崎 なるほど、それはわかります。しかし、本当に地域の皆の連携が必要なケースだった。少なくとも今回の入院には、法律的にも医療的にもこれといった不備はなかったわけですよね。

後藤 そうです。

月崎 その瞬間においては関わった人々が、それぞれの立場の中で良く考えて行動を起こしている。タイミングも考えて、とにかく限界に達していた本人、家族、そして被害者の女性の問題を結果的に一挙に解決したわけですね。実際必要なことをやっているのですから、堂々と報道していいのでは?

■■■■保健、医療機関のもつ特性をもっとマスコミに伝達する

後藤 しかし、保健所も医療機関も患者さんに対する守秘義務というものを非常に重く捉えているんです。ここの情報を全部公開することは、ほかの分野の情報公開とは、質が違うのです。まず医療上のプライバシーの問題があるわけです。

月崎 なるほど、確かにそうですね。医療の現場を取材して、熱心にお仕事なさっている方こそ、患者さんのプライバシーに関する守秘義務には敏感だなというのは感じています。保健所も相談者の相談内容を守る義務を非常に厳密に考えていますね。

後藤 そうですね。情報公開というけれど、じゃあどの辺りで、それをあんばいしていくのか、誰もそのマニュアルや基準を持っていないんです。しかし、現実には、精神医療の中には患者さんを一時強制的に保護する事で、結果的に御本人の人権を守るしかないという緊急の場面もあり、その場合には、官と民が一致協力して、ある瞬間にすべてを決行しないといけないという独特な場面があるということです。

月崎 そうですね。今回も保健所や病院の方達はみなさん「私たちはこれほど情報を提供しているのに、マスコミは何も教えてくれない。取材させてくれないといわれるのはなぜでしょう」と悩んでいる。保健所や病院の方達は自分達の職業倫理のなかで守らなければいけないと信じていること、つまり「相談者や患者さん」のプライバシー意外のことならギリギリの線まではお話していますという。ところがマスコミ側は病院や保健所が「犯人や犯人の家族」について何も取材に応じないと不満を抱えている。「話さないなら勝手に取材して書くぞ」ぐらいの勢いで対立してしまっている。実は、同じ人でも医療の中では患者さん、司法の中では容疑者だということなのですが、そこがごちゃごちゃになっている。

後藤  精神保健福祉の現場のことは、全くマスコミに伝わっていないですね。

■■■■■ 変化する社会と変化についていけないシステム

月崎 しかしこれだけ引きこもりが増えていて、その中で怯えて暮す親がいたりとか、困難な長期化している事例が増えている中で、やっぱり、マスコミもそうですが一市民も、それをどうやって解決したらいいのかどういう機関がそれを解決するためのノウハウをもっているのかということが全然、社会にでてこない状態ですね。それに、これから情報化社会になっていくと、どの集団やどの立場に勤めていてもひとりひとりが、マイクを向けられる可能性がある。組織をある程度背負いながら、個人の責任で答えられる事を答えるという場面も要求されているのではないかと思うのですが。

後藤 社会全体としてはそうでしょうが、極端に言えば、企業とか、行政と言うのは、そのシステム自体がそんなふうにはなっていないんですね。上の決済がなければしゃべれない。しゃべちゃったらどうなるか、考えたら誰もしゃべらないですよ。

月崎 そうですね。

後藤 社会は変わったんだけれども、中にある個々のシステムが変わっていないんですよ。その個々の部分は、家庭もそうだと思う。家族のなかというのは文化的にはそれほど変わっていない。そこがいろんな問題を生じている。社会の変化に合わせて、企業や行政や家族がみんな変わっていれば、起きている問題はものすごく少ないかも知れない。同じスピードで変わっていないから問題であってね。これだけノーマライゼーションが浸透してね。もう世の中そうだよといってもそうじゃない部分が残っている。

月崎 今回の柏崎の事件は現場にどんな影響を与えたのでしょうか。
 
後藤 今回のケースだと新潟県の場合は、いろいろなことが重なって、あれだけ警察がたたかれちゃったものだから、警察のほうは、なんかちょっと心配なケースは全部保健所に振ってくるようになってしまった。

月崎 保健所は、非常に業務が増えて大変なようですね。

後藤 最初に警察が虚偽報道じゃないかと責められたでしょ。警察のほうが言い訳をしていってその中で、保健所の対応が悪いというふうなニュアンスの報道に流れたのね。「保健所が以前にちゃんと相談を受け止めて置けばこんなことにはならなかった」みたいな。それで今度、保健所のほうはそんな事はないんだ。ちゃんとやる事はやっていて。通常業務の範囲をクリアしているという意味で。報告したわけだよね。報道というのが、ある種のバッシングになってしまっていることというのは非常に現場にとってはマイナスが多い。結局どこかに悪者を見つけてたたくという方向性でしか報道がなされていない。

月崎 なるほど。これまで地域の精神保健福祉という仕事のなかで、責任が曖昧な部分も含めて、お互い協力したりされたりという関係で微妙なバランスをとってきたわけですね。それがどうも崩れたというところでしょうか。

後藤 警察もあまり民事に必要以上に介入せずに、保健所もあまり警察とくっつき過ぎず、でも困った時には来てくれるという明文化されていない部分で協力していたのが、明文化されていないことはやらないという風になってしまった。でも他の都道府県だと、どうもそれは逆になったみたいで、感謝されたりもしているんだよね。

月崎 ああ。そうなんですか。

後藤 つまり警察は叩かれないように、協力的になったと。今までだったら来てくれなかったのが来てくれるようになった。

月崎 反対に新潟ではぎくしゃくしてしまったんですね。マスコミも精神保健福祉の移送の問題や関連機関の関係性についてデリカシーがなかった。

後藤 病院の取材はどうでしたか?

月崎 これはまた情報源の秘匿がありますので、ここでは細かく言えませんが、とにかく、そういう常識が通じないようなマスコミが大挙しておしよせたそうです。 つまり容疑者の顔写真が取りたいいわゆるパパラッチです。病院側は相当な迷惑を被って、そこから患者さんを防衛することに必死だったそうです。

後藤 そんなにひどかったのですか。

月崎 ええ。そのようです。心ある記者だったら、取材に行って得た情報でも書くべきでないと判断することもままあります。そこを書かないけれどかける範囲で、大切なことをなんとか伝えようとすることが、プロのテクニックであり誠実さであるわけで、その訓練をされているはずですよね。私はフリーランスで業界では失業者みたいなものですが、言わせていただくなら同じマスコミ業界の人間としては情けなかった。彼の顔写真を撮りたいという興味の部分でしかこの事件の意味する物が見えていないというのは相当マスコミは荒んでいるなと思います。多少ですが、精神保健の事を知っている私ににとっては、最初からとにかく不可解な報道が多かったから。

後藤 そうだと思います。

月崎 入院の形態が医療保護入院であることも、当時はほとんど報道されていないし、「病院の選定は誰がするのかと警察が協議した」とかいう記事があったり、しかしその一方で、警察の関わりは病院からスタートしていて、「精神病院が警察を呼んだ」というのも、何かおかしい。一体どうなっているんだろうとずっと首をかしげていました。

後藤 精神保健福祉の事例が、急に事件に変わって行って、最初のころの未整理の部分が報道としては持ち越されて行った。みんなが少しずつお互いを配慮して守ろうとしていたものだから、情報のだし方がバラバラになってしまったということだろうね。
 
月崎 そうですね。そして書く記者側に、警察、精神保健サイドの両方から見る視点、すべてを整理したうえで、正しい疑問をもって取材に望むポイントが見えなかったから、すべてチグハグになった。もちろん記事の速報性を追及するという姿勢もわかりますが、早くて、不正確な情報がいいとは思えない。事例全体を精神保健福祉という視点でみてみるとあの時点では、上層部はともかくとして、現場の関係者はみな一生懸命だった。
 
後藤 それはそう。柏崎の地域精神保健福祉の体制はうまくいっていた。その中で起きている事ですから、少女の問題を除けばうまく進めたケースだった。

月崎 しかしその体制が整っているはずの地域でおきた出来事ですから、精神保健福祉としての課題はありますね

後藤 今後の課題として残って行くのは引きこもりになる人たちへの体制がどう組めるのかということですね。

■■■■■思春期精神保健をもっと充実させる


月崎 具体的な方針はあるのでしょうか。

後藤 今、厚生省で引きこもりについての研究班(厚生科学研究 地域精神保健活動における介入のあり方に関する研究『社会的ひきこもりへの介入を行なう際の地域精神保健のあり方についての研究』がスタートしています。これは全国5ケ所ぐらいにモデル地区にした思春期精神保健に関する事業です。児童相談所、保健所、警察などの相談機関の連携をつくり、相談と窓口と治療できる体制を作りはじめている。その中核は、児童相談所や精神保健福祉センターということになる予定です。

月崎 これは、おそらく柏崎や佐賀の事件がきっかけということですね。ということは、今後、精神保健福祉では、境界型人格障害に近いようなカテゴリー、引きこもりなども対応する一つの分野として取り扱っていこうという考え方と理解していいのでしょうか?

後藤 そうですね。僕らが今問題にしているのは、今までの疾病による引きこもりとは違った「非精神病性」というような概念があるのではないかと言う点です。それに対して従来の治療形態では難しい部分を地域精神保健とかそういった予防的、早期発見の部分でなんとかできないかなと、そういう考え方の人が集まって研究を始めている。

月崎 ということは、そうでない考え方の人ももちろんいるわけですね。

後藤 いるでしょうね。全部診断がつくとは限らないし、診断をつけたところで、治療可能かどうかは別の問題だしね。そうすると、非精神病性だとすれば民間のボランティアグループや自助グループ的な活動を組み込んでいかなくてはいけないし、少し考えて行けば、予防的に言えば不登校から大体始まるので、不登校の初期における介入をどう考えるのか。学校を卒業する年令になったあと、それをどうフォローしていくのかということです。就学年令が終わると、継続的に関わる機関がないですから。学校に籍がなくなり、児童相談所が年令制限になったあとの体制が不備です。

月崎 つまり時期的には、不登校から関わるのでしょうか。

後藤 ええ。関わり的な視点から言えば、不登校というのがこれだけ増えちゃって、もうしょうがないから皆、登校刺激をせずに見守ればいいというのが標準的なマニュアルになっているでしょ。でもそれは変でしょう。時間がたてば治るものと、そうじゃないものがあるし。

月崎 でもそれを見きわめられますか? いじめがあるから学校に行きたくないという事であれば、単純にいじめを解消すれば行けるようになるのではないですか?

後藤 ことはそんなに単純ではないです。いじめは解消されたけれど、そこで受けたモノは残っていて、世の中に対する見方が変わってしまって、外へ出られないということありますよね。そういう人を見守っていれば、いずれ出られるようになるかと言えばとんでもない話で、そこには何らかの継続的な援助が必要です。何もせずに成長を待ったら解決すると言うような事はないと思う。あらゆるケースに何らかの関わりがあるから回復するわけです。どんなケースにしても放っておいていいケースというのは一例もない。個別に対して関われる体制というものがね。それを全部が全部行政とか医療がやることではないでしょう。けれども「そっとしておく」という関わりも含めて、関わりは必要ということですね。

月崎 そうですか。なんとなく「刺激しない」「そっとしておく」ことイコール関わらないことのように思われていますね。

後藤 今はそっとしておこう。でもこういう風に変わってきたから、今度こうしてみようというようなやり方っていうか。周囲がそういう関わりができるような相談体制、サポート体制が必要なんじゃないでしょうか。そのためには各機関が連携していく必要がある。これは個人的な考えではありますが。

月崎 しかし、それは何だか、相当大変なことではないですか?

後藤 そうでもないですよ。今だって登校拒否が、これだけ多いとはいうものの何割かは対応できているところがいっぱいある。いろいろな相談センターとかカウンセラーとか、そういう部分をどう継続していくのか。何か新しいものを作るというより、今ある物をどう組み合わせられるかという風に考えるとそう大変ではない。不登校の全員が引きこもりなわけではないので。

月崎 最近は、あちこちにに相談にいったけど、みんなそれぞれバラバラなことを言われて、どこも役にたたなかったという話ばかり聞いているような気がします。

後藤  ところがそれぞれ行った場所だって、その人にとっては無駄だったかも知れないけれど10人行ってね、そのうち5、6人は対応できているわけですよ。それぞれの地域での連携をどう作って行くのかを今検討していくということだと思いますけれど。

月崎 そうすると、いわゆる精神病、分裂病とか躁うつ病とかをずっと主なテリトリーとして扱ってきた精神保健福祉の領域のなかで、そこで培ってきたノウハウ、自助グループのあり方、専門家の援助の方法などをある程度。性格障害、社会不適応の人たちにもアレンジしながら適用できると考えていいですか。

後藤 僕はそう思っているんですね。今後、保健所の精神の相談はそっちがメインになっていくと思います。

月崎 本日は長時間にわたりありがとうございました。

後藤雅博 (ごとう まさひろ)先生プロフィール
新潟県出身 精神科医 医学博士
昭和52年千葉大医学部卒業
同年 医療法人同和会千葉病院勤務
昭和59年より、国立療養所犀潟病院精神科医長
平成5年より新潟県精神保健福祉センター所長現在に至る
著書に「家族教室のすすめ」(金剛出版 1988年 編著)
「摂食障害の家族心理教育」(金剛出版 2000年 編著)などがある。
精神保健福祉と家族の問題に積極的に取り組んでいる。



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