国際情勢

Japan on the Globe 国際派日本人養成講座

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Japan on the Globe(157) by melma!

2000/09/24

---------------Japan On the Globe(157)  国際派日本人養成講座
        _/_/         
         _/         The Globe Now:中国の「内なる国境」
        _/          
  _/   _/     日本人はフリーパスだが、中国人には越えられ
   _/_/      ない「内なる国境」が中国を分断している。
-----------------------------------------H12.09.24  27,604部

■1.香港国際空港へ■

     関西空港を飛び立った時は、どしゃぶりだったが、約4時間
    後に着いた香港国際空港では良い天気だった。今回は香港から
    中国の内陸部に入り、現地の日系企業を2社訪問する、という
    旅である。
    
     98年7月、香港の中国返還の1年後に完成したこの新しい
    空港は、3800mの滑走路を2本持ち、10列以上もずらり
    と並んだ荷物受取り用のターンテーブルを見ても、成田や関西
    空港とは比較にならない巨大さを感じさせる。開港当初はコン
    ピュータ・システムの大混乱が話題になったが、現在はしごく
    効率的に稼動しているようだ。入国手続きがスムーズに済んで、
    ターンテーブルに行ってみると、すでに荷物は出ていた。
    
     一つご愛嬌だったのは、入国審査の前にまで免税品店があっ
    たことだ。世界の多くの空港を利用したが、免税品店は飛行機
    の出発待ちロビーにあるもので、到着ロビーで見るのは初めて
    だった。しかし考えてみれば、酒やタバコなど、どこでも買え
    るものは、到着後に税関の直前で買った方が便利には違いない。
    
     さすがは中国人の商才と言うべきか、商魂と言うべきか。こ
    の「国際常識」をものともしない中国人の独創性が、香港返還
    交渉の際に、サッチャー首相をして「天才的」と言わしめた
    「一国二制度」方式にもあらわれている。
    
■2.入出「境」手続き■

     香港空港からバスで大陸内部に入る。バスは空港から高速道
    路を走り、モダンなデザインの吊り橋を渡って、大陸側から突
    き出た九竜半島に着く。ここはまだ香港特別行政区だ。バスは
    さらに北上し、半島のくびれた部分で止まる。ここに流れる深
    セン(土へんに川)川がかつての香港と中国の国境だった。
    
     バスを降りて、窓口で香港からの出境カードを提出し、パス
    ポートに出境印を押してもらう。再びバスに乗って川を渡り、
    またバスを降りて、大陸側で入境カードを提出し、パスポート
    に入境印を押してもらう。これでは入出「国」手続きが、入出
    「境」手続きと名称変更されただけで、実態は同じではないか。
    
     今回は窓口前の行列はあまりなく、それぞれ5分程度で済ん
    だが、同行した社長は、混んでいる時は30分以上も行列待ち
    があると言う。また入境の際に誰かが引っかかると、そのため
    に同じバスの乗客全員が待たされる事がある。

■3.日本のパスポートは信用絶大■

     無事、大陸に入って、さらに30分ほど高速道路を走りつづ
    けると、ふたたび検問所のような所を通過する。今度は何の手
    続きもなかったが、社長は「これは経済特区の検問です。出る
    時は何もないが、入るときは手続きがあります。」と説明して
    くれた。
    
     1980年に経済特区に指定されるまでの深センは、水田地
    帯に過ぎなかった。それがわずか20年後の現在では、高層ビ
    ルが立ち並ぶ都会に変貌している。中国人がこの特別区に入る
    ことは、きびしく制限されている、という。
    
     深センから珠江口を挟んで対岸に位置する珠海は、中国で最
    初の経済特区となった。帰りにはタクシーでこの特区に入った
    のだが、車は一台づつ検問し、歩行者も検問所で群がって、手
    続きをしている。
    
     検問の前で、運転手が私に中国語で何か言ったので、パスポ
    ートを取り出して身構えたが、検問官は私のパスポートを一瞥
    しただけで、身じろぎもしない。運転手はびっくりして、本当
    にこのまま行ってもいいのか、という表情をして、検問官の方
    を何度も振返りながら、車を進めた。そして検問所を離れると、
    スピードを上げて、無線で今起こったことを興奮気味に話し始
    めた。
    
     だいたいタクシーの運転手が客を乗せているのに無線で仲間
    とおしゃべりをするというのも日本では見られない光景だが、
    それにしても、日本人ならパスポートをちらつかせるだけで通
    してくれるというのは、彼らにとっても驚くべき経験なのだろ
    う。
    
     同行した社長に聞いたことだが、日本のパスポートの信用は
    絶大で、犯罪取締りの検問などがあっても、その表紙の菊の御
    紋を見せるだけでフリーパスで通してくれるという。

■4.内なる国境■

     普通の中国人が経済特区に入るには手続きがいるのだが、さ
    らに香港に渡ろうとすると、もっと大変だそうだ。研修のため
    に中国人の幹部を香港に送ろうとすると、とてつもない手間ひ
    まがかかる、とは、今回、訪問した2社の社長が二人とも言っ
    ていた。香港は中国に返還されたはずだ。しかし現実に厳然た
    る国境があり、実質的な入出国管理が行われている。
    
     香港やその周辺の経済特区に入るには、日本人なら自由で、
    中国人には制限がある、というのは、よく考えてみるとおかし
    な話だ。たとえば神戸市が経済特区で、日本人が入るには検問
    があり、アメリカ人はパスポートをちらつかせるだけでノーチ
    ェックだと想像してみたらどうだろうか。国辱ものではないか。

     中国の内部には中国人をコントロールするための「内なる国
    境」がある。日本ではよく「ボーダーレス」とか「地球市民」
    などという表現を使って、国境にこだわるな、と言う人がいる
    が、自国内でさえ「内なる国境」に縛られた中国人がこういう
    意見を聞いたらどう思うのだろうか?
    
■5.深刻な香港との給与格差■

     日系企業の会社を訪問すると、日本人と中国人のスタッフが
    大部屋で、中国語で冗談を言い合って、時々大笑いしながら働
    いている。昨日は中秋節というお月見の祭りのようなものがあ
    り、街では大騒ぎだった様子を語っているようだ。いかにも和
    気藹々とした雰囲気である。こちらでは英語がほとんど通じな
    いので日本人の方がみな中国語を覚えている。
    
     社長から20代の女性を紹介された。社長秘書かと思ったら
    とんでもない、1100人の作業者を部下に持つ製造課長であ
    る。湖北省出身で、英語の先生をしていたという。英語で話を
    してみると、まだまだ経験不足だが、頭脳明敏、やる気十分と
    いう感じで、日本人側も将来の幹部に育てようとしている。
    
     しかし人材の採用に関しては、別の悩みがあるだ。最近、香
    港から一人の技術者を雇った。香港にベースをおいて、顧客へ
    の技術サービスを担当するのだが、香港の平均賃金や物価から
    考えると、内陸部の4、5倍もの給料を払わねば来てくれない。
    一方では大陸出身の技術者で、同じような能力で、同じような
    仕事をしている人がいるのだが、この給料格差はどう説明して
    も納得してくれないという。
    
     無理もない。たとえば、兵庫県出身者の賃金が月20万円だ
    が、同じ企業なのに神戸居住者にかぎり月給100万円と聞い
    たら、誰が納得できようか。民族も、能力も、仕事の内容も同
    じなのに、居住地だけでこれほどの差がつくとしたら、誰もが
    神戸に移り住んで、5倍の高給をもらいたいと思うだろう。
    
     香港が中国に返還されたとは言え、いまだに「内なる国境」
    を維持し、厳しく入境制限をしている理由がここにある。制限
    を緩めた途端に、数百万、数千万の人口が香港に流入し、香港
    の繁栄と安定は一挙に失われてしまう。中国政府がせっかく手
    に入れた金の卵は一瞬で踏み潰されてしまうのである。
    
■6.大陸は香港の植民地?■

     もう一つ訪問した日系企業は、深センの対岸にあたる中山市
    にある。ここはマカオに隣接した珠海経済特区の周辺にあたり、
    日系も含め、多くの製造企業が集まっている。
    
     ここはもともと、香山市といったそうだが、国父孫文の生ま
    れ故郷ということで、その号から中山市と改名した。中山とは、
    孫文が東京に居た頃、日比谷公園近くの中山忠能公爵(明治天
    皇のご生母・中山慶子の父)の屋敷の前を通って、その表札か
    らつけた号なので、本当は日本名なのだが、そんな事を知って
    いる中国人がどれだけいるのだろう。孫文の革命運動を支援し
    た当時の日本人志士たちとの友情の歴史は日中友好の真の礎に
    なりうるのだが。[a]
    
     中山市は、広い道路に沿って棕櫚の木の立ち並ぶ街並みが美
    しい。近代的な工場やオフィスが立ち並ぶ光景は、中国語の看
    板さえなければ、カリフォルニアのシリコン・バレーにいるよ
    うな錯覚を起こさせる。
    
     この中山市には中国大陸でも最初に出来た名門ゴルフコース
    があり、香港から船で2時間ほどの距離で、香港の実業家が週
    末にプレーをしに来ると言う。食事その他を含めると一日2万
    円もかかる。内陸の労働者の給料2ヶ月分に相当する金額を、
    香港人は一日で遊びに使ってしまうのである。
    
     これはイギリス人が東南アジアを植民地化して闊歩した光景
    を思い起こさせる。政治的には大陸が香港を回収したわけだが、
    香港は「内なる国境」で自らの安定と繁栄を守りつつ、その経
    済支配を大陸側に着々と伸ばしつつある。経済的に見れば、大
    陸は香港の植民地にされつつある、とも言えるのではないか。

■7.真剣に働く女性作業者たち■

     中山市の工場を見せてもらって驚いた。数百人の女性が教室
    形式でずらりと並んで座り、作業をしている。おしゃべりをす
    る人もなく、一心に仕事に打ち込んで、張り詰めた雰囲気が大
    きな工場フロアを支配している。
    
     その作業の速く正確なことにはまた驚かされる。1ミリ角の
    小さなチップをピンセットでつまんで、プリント基板上に置い
    ていく作業もあったが、位置が0.1ミリほども狂ったら不良
    になってしまうだろう。それをわれわれがマージャンパイを並
    べる位のスピードで、リズミカルにこなしている。
    
     一人一人の出来高を管理するようなことはしていない、と社
    長は言っていた。日本の高度成長期のように、一生懸命働けば、
    自分も豊かな生活ができるし、家族や地元も発展する、そうい
    う未来への希望がこの真剣さの原動力になっているのだろう。
    
     社長は工場に隣接する独身寮も案内してくれた。5階建ての
    しゃれた建物で、12畳ほどの部屋が並んでいる。各部屋には
    2段ベッドが左右に3列づつ、合計12人が寝られるようにな
    っている。「日本の明治時代の『女工哀史』と同じですかね」
    と言ったら、「いや、そんな暗さは全然ありませんよ。カラオ
    ケ・ルームまであって、みな楽しくやっています」とのこと。
    
     カラオケ・ルームというので、小さな部屋を想像していたら、
    大間違い。体育館のような広さで、ステージがあり、数百人が
    一緒に歌える規模である。中秋節では、さぞここでも大騒ぎだ
    ったのだろう。

     この日系企業のように、数千人の作業者を雇い、彼らに生活
    の場と、一生懸命働けば豊かになれるという希望を与えている
    のは、大きな国際貢献である。こうした日系企業が数多くある
    ことを日本人として誇りに思うと同時に、単身赴任のさびしい
    生活をしながらも、中国人と一心同体で経済発展に貢献してい
    るこれら日本人社長達の苦労を多としたい。現地で日本のパス
    ポートが絶大な信用を得ているのも、こういう人々の頑張りの
    お陰である。
    
■8.かくも複雑な大陸■
    
     今回の訪問では、管理者・技術者の高い能力と、作業者の素
    晴らしい技能・勤勉さを実感したが、これに日本や台湾、香港
    からの投資と技術導入が結びついて、中国経済の前途は洋々た
    るものがある。しかし成功の重要要因として日本にあって、中
    国に欠けているものが一つある。それは国民としての一体感・
    同胞感である。
    
     香港と経済特区、その周辺地区の間には入境制限を必要とす
    るほどの収入格差がある。さらには急速に発展しつつある大陸
    沿岸部と内陸部の格差、そして面積では中国大陸の65%を占
    める少数民族の地。ヨーロッパで言えば、かつてのローマ帝国
    のようにフランス、ドイツから、パレスチナ、エジプトまでを
    一つの国としているようなものだ。
    
     それを強引に束ねている中国共産党政権は、その表看板を共
    産主義から、民族主義に立て替えて、必死にこの大帝国の維持
    を図ろうとしている。そして香港を回収して、あとは台湾を支
    配下に治めれば、「一つの中国」が完成すると言っている。
    
     しかし60以上もの異民族を抱え、「内なる国境」なしには
    やっていけない現実を見れば、「一つの中国」なぞ政治的フィ
    クションに過ぎないことは明らかだ。平和的にゆるやかな連邦
    制に移行するか、また地方の軍区がかつての軍閥のように割拠
    する分裂時代を迎えると、見ている中国専門家は多い。
    
     我々も、中国を一つのまとまった国と見るより、「内なる国
    境」で分断された複雑な地域と考えるべきだろう。この広大か
    つ複雑なる中国大陸の現実を冷静に見据えた上で、いかに各地
    方のそれぞれの人民との互恵的関係を築いて行くか、という視
    点からわが国の外交政策が組み立てられなければならない。

■リンク■
a. JOG(043) 孫文と日本の志士達
   中共、台湾の「国父」孫文は、革命家としての30年のうち、
  のべ約10年を日本で過ごした。その間、多くの日本の志士と友
  情を結び、中国の為に一命を捧げた日本人志士も少なくない。
  http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h10_1/jog043.html

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■前157号「人物探訪:リカルテ将軍」について
                                        綾子さん(中2)より

     こんにちわ。フィリピンのリカルテ将軍のこと、とても興味
    深く読ませていただきました。日本がフィリピンを支援してい
    たということも驚きでしたし、フィリピンが独立戦争を何回も
    していたということも驚きでした。

     私は中2ですが、何故、このようなことは学校で教えられな
    いのでしょう?いろいろな高校の社会の参考書を見てもこのよ
    うなことは書かれていませんでした。私の周りにはこのような
    ことを語り合える人はなく、授業でも教えられません。

     これからの日本をになう若者にもこのようなことをおしえる
    べきです。日本では国際政治学や地政学など、少しでも戦争に
    かかわるものはとても軽んじられていますが、私は、大切だと
    思います。
    
     このようなメールマガジンがあって私はとても嬉しいです。
    これからも読ませていただきますので、がんばってください。

■ 編集長・伊勢雅臣より

     綾子さんのように自分の頭で考え、自分の心で感ずる若者が
    あちこちにいるかと思うと、我が国の将来にも希望が持てます。
    このようなお便りをいただいて、私もとても嬉しいです。
    
     読者からのご意見をお待ちします。本メールへの返信で届き
    ます。ご意見は、本誌おたより欄掲載させていただく場合があ
    ります。メール・アドレスは伏せます。掲載不可、匿名または、
    ハンドル名ご希望の方はその旨、明記下さい。おたより欄掲載
    分には、薄謝として本誌総集編を差し上げます。

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  ★★★ 書籍版「国際派日本人養成講座」好評増刷中 ★★★
・国際的視点から、人権、平等、平和などを考える25編を収録
・縦書きでぐっと読みやすくなりました
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