国際情勢

Japan on the Globe 国際派日本人養成講座

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Japan on the Globe(143) by CLICK INCOME

2000/06/17

---------------Japan On the Globe(143)  国際派日本人養成講座
        _/_/         
         _/       Common Sense: 労働移民の悲劇
        _/                                 
  _/   _/    ぼくたちには何のチャンスもありません。
   _/_/      ドイツに夢を抱いていたことが間違いでした。
-----------------------------------------H12.06.18  25,396部

■1.「21世紀日本の構想」での移民政策提唱■

         グローバル化に積極的に対応し、日本の活力を維持して
        いくためには、21世紀には、多くの外国人が普通に、快適
        に日本で暮らせる総合的な環境を作ることが不可避である。
        ・・・
         国内を民族的にも多様化していくことは、日本の知的創
        造力の幅を広げ、社会の活力と国際競争力を高めることに
        なりうる。 

     本年1月に提出された「21世紀日本の構想」懇談会の最終
    報告書の中の一節である。[1]
    
     この報告書に代表されるように、最近、移民政策を主張する
    声が強くなってきている。同報告書では「外国人の総人口比は
    先進国では決して高くなく」と、あたかも日本の移民政策が
    「遅れ」ているように述べているが、それでは移民政策の「先
    進国」では、移民のおかげで本当に「社会の活力と国際競争力
    を高め」ているのだろうか? 論より証拠、まず実態を見てみ
    よう。
    
■2.西欧諸国も大量受け入れの後始末に苦慮している■

         現在ではどの国も外国人の単純労働者を受け入れていま
        せん。西洋諸国は戦後の労働力の不足の時に大量に受け入
        れていたが、1973年の第一次石油ショック後は一斉にスト
        ップした。その理由は不況で自国労働者の失業が増えてき
        たのと、一時的な労働移民が永住民に変わり始めたからで
        す。人は一度定住すると簡単に出てもらうわけにはいかな
        い。西欧諸国もかつての大量受け入れの後始末に苦慮して
        いる。これは日本にとって、よい教訓になるでしょう。
        [2,p141]

     労働経済学者の小池和男・法政大学教授がこう断言したのは、
    もう十年以上も前の昭和62年であるが、その後の情勢はこの
    結論の正しさをますます証明している。
    
         ドイツでは、選挙が近づくたびに移民問題が争点となる。
        ザクセン・アンハルト州ではドイツ人民連合(DVU)が、
        「外人ならず者」追放と、「ドイツの仕事はドイツ人に」
        をスローガンにして、13%もの票を得た。
        
         750万人近くの外国人(うち、トルコ人200万人)
        を抱え、これは全人口の9%に当たる。1996年だけで、2
        500件以上の人種起因の犯罪が報告されている。[3]
    
         52%が、すでに外国人の数が多すぎると感じており、
        もっと移民を増やしてもよいと考えているのは、7%に過
        ぎない。[4]
        
■3.ドイツに夢を抱いていたことが間違いでした■

     一方、移民の側から見ても、実態は悲惨である。ドイツにお
    けるトルコ人移民労働者の惨状を告発したルポルタージュ「最
    底辺」は13か国語で放送され、1988年にはイギリス・アカデ
    ミー賞を受賞した。
    
     トルコ人労働者に変装したドイツ人ジャーナリストが、朝の
    5時に、ゴミや有害物質を廃棄する仕事に就く。ヘルメットや
    手袋は自分で調達しろと言われて、買って持っていったのだが
    すぐに取り上げられ、他のドイツ人労働者に渡されてしまう。
    ヘルメットもなしで、数メートル先に真っ赤に焼けた鋼鉄が落
    ちてくる職場で働かされる。
    
     あるトルコ人労働者が64時間働いたのに、54時間分しか給料
    を払ってもらっていないとを文句を言うと、会社の中をたらい
    回しにされ、その挙げ句に「嫌なら他の会社へ行け」と言われ
    る。別の若いトルコ人労働者はこうつぶやく。
    
         昔はドイツが夢でした。しかし、ぼくたちには何のチャ
        ンスもありません。まるで動物のように扱われ、追い出さ
        れようとしているだけです。ドイツに夢を抱いていたこと
        が間違いでした。[1,p64-67]
        
     アフリカから連れてこられた米国の黒人奴隷と同様、欧米諸
    国における外国人労働者とは夢も未来も奪われた現代の奴隷な
    のである。

■4.ドイツ社会の受けた傷■

     ドイツ社会が労働移民政策によって受けた傷も深い。まず6
    0年代から入り始めた安価な外国人労働力に依存したことによ
    り、企業が人手不足解消や生産性向上のための技術革新に取り
    組まなくなった。同じ時期に、日本企業は深刻な人手不足に悩
    まされていたが、積極的な自動化投資によって乗り切り、かえ
    って強い国際競争力を身につけていった。西ドイツの企業がハ
    イテク競争において大きな遅れをとったのはこれが原因だとさ
    れている。

     教育現場にも大きな混乱が起こった。クラスの中で外国人生
    徒が3分の1を超えるとクラスは「ひっくり返る」(Kippen)と
    言われている。言葉のハンディキャップと文化や宗教の違いが
    クラス一体の授業をほとんど不可能にする。人種起因の犯罪増
    加も社会を殺伐とした雰囲気にしていく。
    
     さらに若年労働者の流入による高齢化社会への歯止め効果も
    一時的なものだということが明らかとなった。まず大量のトル
    コ人労働者が流入してきた70年代以降、西ドイツの出生率が
    急激に下がった。肉体労働を外人労働者に任せ、より安楽な生
    活への志向が強まるにつれて、子供を産み育てる情熱も弱まっ
    ていった。
    
     そして外国人労働者の出生率そのものも、ドイツ社会への定
    住が進むと急速に下降していった。結局、高齢化、少子化の流
    れは変わらず、ドイツは高齢化した外国人労働者の福祉問題を
    も抱え込んだのである。

■5.失敗した帰国補助政策■

     80年以降の失業率の高まりによって、外国人労働者はいまま
    で以上にお荷物になった。そのため83年と86年の2度にわたっ
    て帰国補助政策がとられた。大人1人当たり1万500マルク
    (当時のレートで約110万円)、子供1500マルク(16万円)を
    支給し、さらに年金の掛け金一時払いや帰国後の住宅取得のた
    めの融資6万マルク(630万円)を提供して、帰国希望者を募
    った。
    
     年金の補助だけで見積り総額300億マルク(3兆1千億円)
    という巨費を投入したが、帰国させた人数と同程度の不法入国
    があって、結局、在留トルコ人総数はほとんど変わらなかった。
    
     また今さら帰そうにも、ドイツでのごみ収集や建設工事など
    の3K作業はほとんど外人労働者によって行われているので、
    彼らがいなくなっては社会経済が成り立たない。

■6.「人手不足=労働移民」は未来のない道■

     現在の日本で外国人労働者受入れを主張する意見の主な根拠
    は次の3点である。
    
    1) 高齢化・少子化社会に伴う人手不足解消のために、労働移
       民が必要。
    2) 労働移民は開発途上国に対する経済的貢献である。
    3) 日本の国際化、活力の維持のためにも、労働移民を通じて
       異質の文化を導入することが望ましい。
    
     1)の労働力補填のための移民政策が、受け入れ国にとって割
    に合わないことは、ドイツの経験からも、また「現在ではどの
    国も外国人の単純労働者を受け入れていません」という冒頭の
    小池教授の言からも明らかである。
    
     たとえば、現代の日本では看護婦が人手不足の代表的職種の
    一つであるが、不足で困っているのは看護婦を家事使用人とと
    らえる個人医や待遇に問題のある私立病院である。これらの病
    院は、まず自らの経営と待遇を改善すべきであって、外国人看
    護婦採用で一時的に乗り越えても、いずれ外国人看護婦も待遇
    の良い病院に移ってしまうので、問題の先送りにしかならない。
    まさか10年奉公を義務づけると言った人身売買的な契約で縛
    ることもできないであろうし。
    
     高齢化社会に備えるためには、お年寄りが健康で過ごせるよ
    うな老人病予防や看護、福祉に関する技術革新、制度革新に本
    腰を入れて取り組むべきではないか? そしてこの分野の技術
    革新、自動化機器開発に積極的にチャレンジすれば、医療や福
    祉が21世紀の我が国を支える国際的リーディング・インダス
    トリーに発展する可能性も大きい。これはかつての人手不足、
    環境危機を技術革新で乗り越えて、それを国際競争力としてき
    た日本企業の得意パターンである。
    
■7.労働移民受け入れは経済的貢献?■

    2)の「労働移民は開発途上国に対する経済的貢献である」と
    いうのは、本当だろうか?
    
     まず単純労働者を導入すると、日本国内で単純な組み立て作
    業などを残すことになり、その分野の海外移転が進まなくなる。
    これは日本企業の高度化を妨げるとともに、途上国における産
    業発展の大きな阻害要因となる。単純労働者を導入するよりも、
    単純な組み立て工場を海外に移転して、現地で雇用機会を増や
    す方がはるかにその国のためになる。
    
     それでは高度な技能や専門知識を持つ人材の移入はどうか?
    例えば、不足する看護婦をフィリピンから招けばよいとの声が
    あるが、フィリピン人看護婦を一番必要としている国は、ほか
    でもないフィリピンなのである。マニラの公立の総合病院で、
    看護婦がいないために男女2人の医師が超人的に働いても患者
    が次々と死んでいくというケースが報告されている。[2,p75]
    
     高度な技能や専門知識を持つ人材は途上国が経済発展をする
    ための最も貴重な資源である。それをわが国が高給を餌に奪い
    取ってしまうのは、その国の未来の芽を摘んでしまうことにほ
    かならない。
    
    「ドイツに夢を抱いていたことが間違いでした」という上記の
    トルコ人に対して、ドイツ人たちは言う。
    
         トルコ人にとってはトルコという国が夢であるべきであ
        る。ドイツ社会にチャンスを期待してもらっては困るのだ。
        [1,70]
        
     見知らぬ国に出稼ぎに行くより、自分の生まれた故郷で同胞
    と共に豊かな生活を築く方が、はるかに人間らしい幸せであろ
    う。とするなら、発展途上国に対する貢献とは、現地に工場を
    建て、そこで大勢の人を雇って、育成訓練をしつつ、経済発展
    に寄与することである。トルコ人を大量導入したドイツ企業よ
    りも、アジアに工場移転をした日本企業の方が、はるかに相手
    国のためになっているのである。
        
■8.労働移民を通じて国際化?■

     最後に、3)の「日本の国際化や活性化のためにも、労働移
    民を通じて異質の文化を導入することが望ましい」という意見
    はどうであろうか。
    
     たとえば、我が国にも現在、50万人以上の在日韓国人・朝
    鮮人がいるが、これらの人々の存在によって、我々はどれだけ
    朝鮮の言語、文化、歴史に関心を持ってきたのだろう。半世紀
    以上も同じ国土に住みながら、この長い歴史と豊かな文化を持
    つ隣人に対して、我々の無知・無関心は覆うべくもない。
    
     在日韓国人・朝鮮人に対してすら、この半世紀間できなかっ
    たことが、どうしてもっと離れた中国やフィリピンやバングラ
    デシュからの移民に対してできるというのだろうか?
    
     単に異民族が生活面で接しているだけで、創造的な文化交流
    が自発的に生まれる、というような期待が夢想に過ぎないこと
    は、我々自身のこの失敗の経験からも明らかである。
    
■9.「愚」と「悪」と■

     このように見ていくと、1)〜3)の主張する移民政策とは、
    欧米諸国や我々自身の失敗の現実を見ていないという点で「
    愚」であり、また日本国内のことのみ念頭にあって、移民労働
    者の悲惨さや相手国へのダメージを考えていないという点で
    「悪」である。
    
     そしてこの思考方法は、外国をいたずらに理想化して、日本
    さえ外国を侵略しなければ、世界平和が保たれるとして、国内
    問題しか考えない戦後の一国平和主義と同じ構造をしている。
    それはまさしく「井の中の蛙」思考なのである。

     我々が真に「世界に生きる日本」という理想を掲げるなら、
    まず欧米諸国が犯してきた移民政策が非人間的な過ちであるこ
    とを指摘し、日本の国策としては、人手不足は自らの知恵と努
    力で乗り切り、途上国に対しては、ODAと産業移転を通じて、
    それぞれの国民が自分自身の国の中で自らの夢を追求できるよ
    う支援していくことを明らかにすべきである。
    
■リンク■
a. JOG(071) ビル・トッテン氏の警鐘
  http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h11_1/jog071.html
 米国は、少数の富裕階級が富を独占し、大半の労働者階級を搾取する階級社会になってしまった。 

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
1. 「21世紀日本の構想」懇談会からのお知らせ
    http://www1.kantei.go.jp/jp/21century/
2. 「『労働鎖国』のすすめ」★★★、西尾幹二、PHP文庫、H4.6
3. "WHO SHOULD BE GERMAN, THEN?", The Economist,JULY 4TH 1998
4. "NO TURKS, PLEASE, WE'RE GERMAN," New Statesman, January 1, 1999

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■前号「大和心とポーランド魂」について
                         桜さんより

     私には、夢があります。学生時代に磨いた日本舞踊を通じて、
    世界各国を自由にまわり、様々な人々と、心と心で交流をして
    いきたいのです。それが自分にできる世界平和へのひとつの行
    動であると信じています。

     前号のようなお話を伺うたび、その想いはますます募ります。
    ポーランドの方々に、私達こそ感謝していかねばならないと感
    じます。報恩の心を形にし続けるポーランドの方々のようなひ
    とがいるからこそ、その真心に触発されて、私達も心をゆさぶ
    られるのですから。

     感謝の心を忘れず行動し続ける人間がひとりでもいるかぎり、
    かならず平和の方向へすすんでいけると確信しています。

     今、私の胸のなかに、ポーランドの方々への熱き思いが灯っ
    ています。行動で、示していきます。

■編集長・伊勢雅臣より

     力強いお便りに心うたれました。80年前の恩を忘れないポ
    ーランド魂に負けないよう、日本舞踊を通じて大和心を示して
    あげて下さい。

     読者からのご意見をお待ちします。本メールへの返信で届き
    ます。ご意見は、本誌おたより欄掲載させていただく場合があ
    ります。メール・アドレスは伏せます。掲載不可、匿名または、
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    分には、薄謝として本誌総集編を差し上げます。

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