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Japan on the Globe 国際派日本人養成講座

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Japan on the Globe(139) by CLICK INCOME

2000/05/20

---------------Japan On the Globe(139)  国際派日本人養成講座
        _/_/         
         _/    The Globe Now: ジュラシック・パーク・アメリカ
        _/
  _/   _/        法は牙、裁判は爪。無法の訴訟ジャングル・
   _/_/          アメリカの「肉食恐竜」弁護士が日本を襲う。
-----------------------------------------H12.05.21  24,609部

■1.間違えて訪問した青年を射殺しても無罪■

     93年5月にルイジアナで、日本人留学生・服部剛丈君が、家
    を間違えてノックし、出てきたロドニー・ピアーズにマグナム
    銃で射殺された。審議は4日間で終わり、陪審員団による審理
    はわずか3時間半で「正当防衛」により無罪と決定した。
    
     審理は通常は、短くても2、3日はかかる。昼食に出ていた
    服部君の父親が法廷に戻った時は、評決は終わり、玄関には笑
    顔と談笑に包まれた市民であふれていた。
    
     ルイジアナは人種差別の根強い所で、被告の父親はクー・ク
    ラックス・クラン(黒人・ユダヤ人排斥の秘密結社)に所属し
    ていた。またピアーズは、銃いじりが好きで、庭に入った犬を
    撃ち殺して喜んでいた。陪審員団は白人の同胞をこんな事件で
    有罪にはできない、と「ご当地評決」を下したのだ。[1,p151]

     刑事訴訟をあきらめた服部君の両親は、94年9月にロドニ
    ー・ピアーズに対し、損害賠償請求訴訟を起こした。今回は被
    告側のミスもあって、珍しく判事裁判となった。判事は、44
    口径マグナムという、撃てばかならず相手を射殺する凶器の
    「引き金を引くなんら正当な理由は見つからない。また被害者
    服部君側に何の落ち度もない」として、ピアーズに65万3千
    ドルの賠償を命じた。文明国の裁判ならこれが妥当な判断であ
    る。[1,p167]

■2.酔っ払い運転の事故で24億円賠償■

     逆に罪もないのに、法外な罰を与えられるケースもある。ペ
    ンシルバニア州在住のローレンス・アイマーズは、泥酔状態で
    ホンダのCB550にまたがった。時速約90キロで左折しよ
    うとした所、引っ込めるのを忘れていたスタンドが接地し、転
    倒。脊椎を損傷して手足の機能がマヒする重傷を負った。
    
     ホンダは運転者が泥酔状態で、無謀なスピードで運転してい
    たこと、事故現場の検証から、タイヤがすり減って丸坊主状態
    のまま、急ブレーキをかけてロックされた事が転倒の直接原因
    だと主張した。
    
     しかし弁護士は、オートバイのスタンドは、接地した際、自
    動的に引っ込むべき機能をもっていなければならず、そうなっ
    ていなかったことは、製造物責任者(PL)法にもとづく重大
    欠陥であると主張した。評決では、ホンダの一方的な敗訴とな
    り、1970万ドル、93年当時の為替レートで24億円もの賠償を
    命ぜられた。[1,p213]
    
     酔っ払いが暴走して事故を起こしても、オートバイメーカー
    が24億円もの賠償を命ぜられ、罪もない青年を射殺しても無
    罪となる。アメリカは正義と人権を重んずる文明国なのだろう
    か?

■3.弁護士は爬虫類?■

     ホンダから24億円を奪い取った剛腕弁護士は、おそらく成
    功報酬の相場として4割、すなわち、8億円程度を受け取った
    であろう。無罪で喜んだピアーズも後で、弁護士から数百万円
    もの請求書を渡された時には真っ青になっていたかもしれない。
    なにしろベテラン弁護士なら1時間400ドル以上のタイムチ
    ャージはざらである。
    
    「弁護士とその他の爬虫類」というジョーク集がベストセラー
    になった。弁護士には冷血残虐な肉食動物というイメージがあ
    るようだ。
    
     映画「ジュラシック・パーク」の最初の方で、トイレに逃げ
    込んだ弁護士を、ティラノサウルスがパクリと食べてしまうシ
    ーンがあった。アメリカの映画館では、ここで大爆笑が起きる。
    弁護士という爬虫類を、もっと大きな恐竜が食べてしまう、と
    いう痛快なジョークなのである。[1,p88]
    
     米国の訴訟に要する費用は、国防費総額の3倍以上の年間8
    千億ドル。弁護士人口も急増中で、93年には司法試験合格者3
    万8800人と、日本の弁護士、裁判官を含めた法曹界人口の2倍
    がわずか一年で生み出されている。98年には90万人を突破し、
    単一の職業としては、軍人170万人に次ぐ規模となった。
    [1,p51]
    
     いまやアメリカは、弁護士という「肉食恐竜」が90万匹も
    跋扈して、獲物を探し回っている無法ジャングル「ジュラシッ
    ク・パーク」そのものである。法と裁判は、弱者を守るもので
    はなく、恐竜の牙と爪なのだ。恐竜たちがどんなふうに弱者を
    食い物にしているのか、観察してみよう。

■4.太った獲物を狙え■

     90年4月にオレゴン州の高校生マット・ゾイヤー君は、マク
    ドナルドの深夜アルバイトをした翌朝、疲れがひどいので早退
    したいと店長に言った。
    
     許可を得て、愛用のニッサンの中古車で帰宅する途中、居眠
    り運転により、センターラインを超えて、対向車フレッド・フ
    ァバティの小型トラックと正面衝突した。少年は即死し、ファ
    バティも脚を骨折して、治療費5万ドルもの大怪我をした。
    
     ファバティ氏は被害者と認定されたが、母子家庭だった少年
    の母親を訴えても、賠償金は払えない。弁護士は関係者の中で
    一番金の払えそうなマクドナルドを訴えることを勧めた。
    
     その根拠として引っ張り出したのが、オレゴン州法「バー経
    営者の酔っ払い事故共同責任」法である。ドライバーが酔っ払
    い運転で事故を起こしたら、酒を飲ませた店にも責任がある、
    というものだ。弁護士はこれを援用して、店長は、少年が店を
    出るとき、疲労でそのまま運転すれば危険であることを「十分
    予知できたはずだ」というのである。
    
     マクドナルドの店長は、何がなにやら分からないまま法廷に
    引きずり出され、陪審員団は9対3で、原告の訴えを支持して
    40万ドル(5千2百万円)の支払いを命じた。今度は、少年
    の母親から同じ責任理論で、店長に対して1千万ドル(13億
    円)の賠償訴訟を起こされている。[1,p42]
    
     こうした事故の場合、他にも、少年の車のメーカー(この場
    合はニッサン)、対向車のメーカー、道路の補修を担当する市
    か州の道路局など、いろいろな獲物が考えられる。これらの中
    で、もっともディープ・ポケット(懐が豊か)な「太った獲物」
    を狙うのが、賢い恐竜の戦略である。
     
■5.骨までしゃぶり尽くせ■

     85年、オレゴン州のカール・オバーグは、ホンダの3輪バギ
    ー車に乗っていて、勾配のきつい坂道を登ろうとした。こうい
    う時はハンドルにのしかかるように体重を前にかけなければな
    らない。それをしなかったオバーグは、車ごと後ろにひっくり
    返り、下敷きとなって脳挫傷、顔面骨折の大怪我をした。
    
     日本なら自己転倒で、自分の技能未熟のせいにする所だが、
    オバーグと弁護士は、「安定性がいいはずのバギー車が後ろに
    転覆したのは、メーカーの設計に欠陥があったためだ」とオレ
    ゴン州裁判所にホンダを訴えた。州裁判所の陪審員団は原告の
    主張を全面的に認めて、ホンダに治療費1万9390ドル、慰謝料
    90万ドルの支払いを命じた。約1億2千万円である。
    
     恐ろしいのは、これからだ。こうした”欠陥商品”を売った
    企業の社会的責任を金銭で贖わせるアメリカ独特の制度「懲罰
    のための賠償」を陪審員団が決める。これには上限がなく、企
    業の年収や資産をもとに陪審員が勝手に決めてしまう。
    
     ホンダのような大企業は大変だ。なんと500万ドル、約6
    億5千万円を払えとなった。こうして原告と弁護士の手元には、
    治療費約2万ドルの300倍近い金額が転がりこむことになる。
    [1,p109]
    
     「太った獲物を捕まえたら、骨までしゃぶり尽くせ」、これ
    が第二の戦略である。

■6.陪審員制度による「ご当地評決」■

     誰でもいいから太った獲物を捕まえ、骨までしゃぶり尽くす、
    こうして90万引きもの恐竜が生きている訳だが、それだけの
    たくさんの獲物を捕まえるための二つの罠がある。
    
     第一の罠は陪審員制度である。陪審員は普通の市民が任命さ
    れるが、日当5ドルと交通費程度の支給しかなく、仕事を2ヶ
    月も休まなければならないので、失業者や、パートタイマー、
    公務員など比較的ひまな人間がほとんどである。教養のある高
    収入階層は公務や国際会議を理由に免除を求める場合が多い。

     服部君射殺犯の裁判でも、人種差別意識の根強い地域で、白
    人ばかりの、それもあまり教養がない陪審員が揃ったら「ご当
    地評決」も当然だ。
    
     マクドナルドの例でも、とんでもない理屈をこねた当の弁護
    士自身が「とても勝てるとは思わなかった」と述べている。陪
    審員制度のもとでこんな可能性がある限り、ディープ・ポケッ
    トを狙った「駄目でもともと」式の訴えが無数に発生してしま
    う。
    
     また被告の方も、よほど自信があっても、万一負けたら天文
    学的賠償金、勝っても高額の弁護料となれば、ほどほどの金額
    を払って、法定外和解に持ち込むのが得策である。原告側弁護
    士は、相手の弁護料のやや低い額を狙って、和解を持ちかける。
    獲物が罠にはまったら最後、逃げ場はないのである。

■7.立法による罠■

     獲物を増やす第二の仕掛けは立法である。新しい法律を作れ
    ば、新しい獲物を大量に引っ掛けられる。そのためにワシント
    ンDCでは数万人がロビー活動に従事している。
    
     たとえば、製造物責任(PL)法。欠陥商品を売った企業の
    責任を問うという建前は立派だが、その運用状況は、冒頭での
    酔っ払いが起こした事故でホンダが24億円とられた、という
    事例からよく窺える。
    
     米国の小型飛行機業界は、製造から二、三十年たった中古飛
    行機で、顧客の方がどんな改造をしていても、事故が起こった
    ら製造者を訴えられるというので、訴訟の集中攻撃を受けた。
    85年の訴訟ピーク時には、年間販売額14億ドルに対して、
    2億1千万ドルを訴訟費用に費やした。
    
     売上高の15%も訴訟費用に消えたら、生き残れる会社は少
    ない。アメリカの主要29社のうち、20社が倒産してしまっ
    た。PL法の罠で、ほとんどが恐竜に食い尽くされてしまった
    と言える。[1,p18-30]

■7.恐竜たちの海外進出■

     90万匹の弁護士という肉食恐竜が、最近はいよいよジュラ
    シック・パークの外にも獲物を求めだした。最初の餌食はドイ
    ツ企業だった。フォルクスワーゲンや、ジーメンスなど対して、
    第二次大戦中に強制労働に従事させられたユダヤ人や戦時捕虜
    約200万人に替わって、賠償請求訴訟を起こした。
    
     その手口は従来と同様、まず餌食となるドイツ企業を引っか
    ける法律の制定。99年7月に成立したカリフォルニア州法の
    修正で、第二次大戦中の強制労働に関する補償では、時効を撤
    廃し、2010年までに訴訟を起こすことを可能とした。
    
     たまりかねたドイツ企業に替わってドイツ政府が乗り出し、
    米政府との間で総額50億ドルで合意する見通しとなった。和
    解の場合の弁護士料の相場3割が適用されると、1500億円
    相当が弁護士の懐に入ることになる。[2]

■8.狙われた日本企業■

     これに味をしめて、恐竜たちの次に標的とされたのが日本企
    業である。戦時中の元米兵捕虜や、中国系、韓国系米人が日本
    企業に強制労働させられていたとして、補償を求める訴えが相
    次いでいる。上記のカリフォルニア州法が「ナチ・ドイツとそ
    の同盟国」を対象としているので、日本にも適用されたのであ
    る。(したがって連合国側の強制労働は訴えられない。)
    
     もう一つの罠は、米連邦法「1897年対外補償請求法」が97年
    に修正され、米国籍、米在住者に限らず、世界中誰でもがアメ
    リカで訴訟を起こせるようになったこと。今回の訴訟でも、韓
    国やフィリピンの国民が、カリフォルニアで訴訟を起こしてい
    る。これらをあわせると、これまでの提訴は合計28件、数百
    億円から、数千億円規模に膨れあがってきた。[3]

     サンフランシスコ講和条約では、次のように定めている。

         連合国は、連合国のすべての賠償請求権、戦争の遂行中
        に日本国及びその国民がとった行動から生じた連合国及び
        その国民の他の請求権・・・を放棄する。
        
     「連合国およびその国民」とあるので、民間の賠償請求もで
    きないはずで、講和条約を結んでいないドイツとは事情が異な
    る。この点はトーマス・S・フォーリー駐日米国大使も、この
    ような日本への主張は禁止され、平和協定によって対日賠償請
    求は全て片付けられていると発表した。[4] 
    
     しかし、どんな道理も論理のトリックで言い負かす手口は、
    いままで見てきた通りである。まして金の伴わない「誠意ある
    謝罪」などには、見向きもしない。アメリカ市場での経験豊富
    な小田部勝ホンダ・ノースアメリカ副社長は、ジュラシック・
    パークで生き延びる秘訣をこう語る。[1,p213]
    
         我が社は理由のない示談には絶対に応じない姿勢を貫い
        てきました。弱みを見せれば好きなだけやられる。訴訟を
        受けて立てば膨大な出費となりますが、私はこれを企業防
        衛費と考えています。日本では水も空気も安全もただ、と
        見なされますが、アメリカでは企業の安全は有償だと考え
        なくてはなりません。

■リンク■
a. JOG(118) 戦後補償の日独比較
   ドイツは誠実、日本は逃げている?
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h11_2/jog118.html

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
1. 「弁護士が怖い!」★★、高山正之、立川珠里亜、文春文庫、
   H11.5
2. 「ドイツ道義的責任認める」、産経新聞、H12.05.17、夕刊
3. 「対日提訴新たに2件」、産経新聞、H12.05.17
4.  ワシントンポスト紙、H12.01.19
   
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■前号「届かなかった手紙〜あるユダヤ人から杉原千畝へ〜」
                                        門田さん(東京)より

     なんという偶然でしょう。本日発売のイギリスの経済紙、フ
    ァイナンシャルタイムズ(FT)週末版(May 13/14)に杉原千畝が
    特集されていました。

     レビンの著書『千畝』を土台にした特集記事でしたが、レビ
    ン自身のコメントもあり、その中で氏は「日本は杉原の物語を
    日本の新しいイメージ作りのために用いればいい」と述べてい
    ました。また、ポール・エイブラハム記者も「もし(日本の)
    外務省の職務が日本の良いイメージの提示にあるのであれば、
    日本は好機を逃している」と書き添えていました。

     例えば、杉原の行為を知った世界が称賛した際、けっしてひ
    かえめに沈黙を保つのではなく、むしろ、このときこそ、国内
    の反体制団体が作り出した「性奴隷狩り」慰安婦問題や、未だ
    真相がわからない南京問題などに言及し、我々は真実を知りた
    い、と訴えれば、北京政府へ国際調査団受け入れの圧力を加え
    ることができるのです。発言と実行力の不足によって世界を敵
    に回しては、あまりに杉原の行為に申し訳がない永世の失態と
    なるでしょう。

■編集長・伊勢雅臣より

     「陰徳(人に知れないように施す恩徳)」という日本的な奥
    ゆかしさを発揮するには、現在の国際社会はあまりにも「ジュ
    ラシック・パーク」なのですね。

     ご意見をお寄せ下さい。本メールへの返信で届きます。掲載
    の場合は、原則としてメールアドレスを伏せます。掲載不可、
    匿名・仮名希望の方はその旨、明記下さい。掲載分には本誌総
    集編を差し上げます。

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