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新・物語解析「ハウルの動く城を作っちゃおう!」

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宮崎駿監督のジブリ新映画「ハウルの動く城」の公開に先駆け、あの原作から、どんな映画が出来るかを物語解析技術を駆使して分析します! いわば、宮崎アニメへの挑戦! 読者の方も一緒に挑んでみましょう!



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最終発行日:
2005-06-25
発行部数:
2
総発行部数:
42
創刊日:
2004-05-04
発行周期:
隔週
Score!:
-点

[新・物語解析]主役を6人にする

発行日: 06/25

 ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■
                            第11号   2005/6/25
   「 新 ・ 物 語 解 析 」
    〜 宮崎駿監督「魔法使いハウルと動く城」を原作からつくっちゃおう! 〜


 ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■  http://www.seikou-toutei.com/nmk/index.html 


 ● 01 ● はじめに                      :[ 01 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄
 みなさん、こんにちは。
 新・物語解析「わたし流『ハウルの動く城』をつくっちゃおう!」
をお読みいただいて本当にありがとうございます。

 このメールマガジンは、11月20日より公開されている、宮崎駿監督
「ハウルの動く城」の公開に先駆け、その映画版ストーリーを原作より
作ってしまったという超早取りなメールマガジンです。

 原作となる「魔法使いハウルと火の悪魔」を読破していないとついて
これないかもしれない、豪快な企画ですが、みなさま最後までよろしく
お願いいたします。

 もし、これまでの経緯を読んでいない、昔のメールを探すのがめんどく
さいという事がありましたら、物語解析のページを更新し、バックナン
バーをお読みいただけるようにしましたので、こちらをご利用下さい。

 ■新・物語解析ページ
 http://www.seikou-toutei.com/nmk/

 本当に更新がされないページでごめんなさい。
 うーん、コマッタ。


 ● 02 ● 愛機、没しました……    !           :[ 02 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄
 す、すみません……。ずいぶんのご無沙汰となりました。
 うーん、もう六月。
 ちょっと愛機──シグマリオンの故障にぶちあたりまして、ずいぶ
ん書けない時期が続きました。なんとかシグマリオン2を手に入れま
したので、なんとか再開と行きたいと思います。
 しかし、前の愛機、よく持ちました。毎日使っているにも関わらず、
五年を越える寿命。作ってくださったNECの方々にはもう、足を向
けて眠れません(^^;

 さて、このメールマガジンもこのペースながら11回に及び、
「よく一つのネタでここまで書けるなあ」
 と我ながらあきれてしまうのですが、原作も映画もやはり素材がい
いからでしょうか、もうほんの少し辻褄合せをしてくれたら安心して
楽しめるのに、というところと、こんなにいい加減にやってもらって
は困るなあ、という気持ちがここまで続かせている理由だとおもいま
す。
 もう公開から半年近くになり、さすがに2回も観た映画の筋も忘れ
てきてヤバイのですが(^_^; ほったらかしになっていたメールマガ
ジンを再開します。

 物語解析で行っている解析方法のことですが、念のため。
 千と千尋の神隠しのときもそうですが(あのときは知人に解析して
くれと言われて、しぶしぶ見に行ったのですが)、物語解析を書いて
いるわたしは、解析をするためにたいていは一度しか映画は見ません
(そのあと1000行とか2000行とか書きますが)。

 ずば抜けた記憶力もありませんし、ビデオで隠し撮りしているわけ
でもありません。見た一つ一つの作品に詳細な資料を残しているわけ
でもありませんし(やってたら、本当は素晴しいのですが)、映画館
でメモを取っているわけでもありません。裏技は何一つありません。
 本当は地道な努力が裏にあった方がいいに決っているのですが、物
語は骨格さえ抑えてしまえば、その骨格を頼りに大方のことは思い出
せるのです。
 将棋の感想戦が非常に近いでしょうか。

 棋士達が勝負の後に、駒を戻して勝負を再現しながら感想をいいあ
うのが感想戦ですが、見ていて百数十手を全部覚えているのか、と始
めてみる方はびっくりするかと思います。
 ただ、将棋には定跡があり、多くの手が定跡に従って打たれるので、
そのポイントとなった手を覚えていれば、対局の流れを再現できるの
です。この物語解析も映画の解析をしていますが、登場人物の動き、
道具の動き、舞台の動きのポイントポイントを抑えることで全体を把
握しています。

 ハウルは相棒と一緒に二回目を見ましたが、別に二回目を見なくて
も、物語の解析は可能でした。
 物語の構造というのはそういう物だと言うのを念のため。
 もちろん、何回でもみたい物語はありますが、何回も見なければ構
造が把握できない物語というのは、決してこの世には存在しません。
そうとう入組んでいればさすがに別ですが(例えばロミオとジュリエ
ットなどはやり始めると、あちこちにテクニックが潜んでいて、当分
終りません)。

 えーと、というわけで、この物語解析は6ヶ月前の記憶を元に書い
ておりますが、適当に書いているわけではありませんので、ご安心を(^_^;
 あと、物語の意味が分らないのは見ている人のせいではなく物語の
せいですので、何度見に行っても分らないことは分らないと、とりあえ
ず助言しておきます。
 また、物語の解析は感想戦に例えたように、非常に特殊な論理の積上
げ(将棋の定跡のような)で行われています。わたしは感想戦専門で
プロ棋士ではありませんが、その特殊な論理の積上げ方については
旧物語解析でまとめていますのでこちらをどうぞ。

 う、そういえば、まだ未完のようです……(ほったらかしてあるなあ)。
 それでいて、感想戦を趣味にしているわたしもどうかと思うのですが(^_^;


 さて、今回から、第二案の構築に入ります。
 第一案では、映画版ハウルの動く城の致命的欠陥を直す、という
非常に後ろ向きな作業をしましたが、矛盾点をことごとく整理した
結果、かなり明快な風景を見ることが出来るようになったのではな
いでしょうか。

 第二案では、クリーンアップされた世界情勢の上に、原作の
「生き生きとした心臓部」であった人間関係を乗せてみることにします。

 第二案の主役は、「レティー」と「マーサ」です。
 えー、そんなことして意味あるの?
 という声が聞えてきそうですが(^_^; この二人が物語構造上
持っていた「極めて強力なポンプとしての役割」を映画版に乗せて
みると、なんて重要な方々だったのかが、見えてくるはずです。

 楽しさ満載、しかも三姉妹を通じて掘下げる世界感・市井感、
ジョーンズの痛快なドタバタ劇を、ジブリアニメ風にまとめ上げ
てみましょう。
 難しそうですか?
 うーん、難しいかも知れません。
 まあ、ただやってみないと何事も始りませんので、やってみ
ちゃうことにしましょう。わたしたちには、要素による解析とい
う極めて強力なツールがあります。少しその力を試してみること
にしましょう。楽しくも奥深い物語がぼうと姿を現すはずです。
 それを見てみましょう。
 では、始めてみます。


 ● 03 ● 映画版ハウルの極めて貧弱な人間関係        :[ 03 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄
 物語の解析屋として、映画版ハウルを見たとき、まず目に付
くのが、人間関係線の薄さです。
 シェイクスピアであれば30〜40本、ハリウッドであれば
20〜30本の機能的な人間関係線があるのが普通なのですが、
映画版ハウルの人間関係線は「ハウル」「ソフィー」「荒野の魔
女」「旧ペンステモン夫人」以外からはほとんど引かれておらず、
機能していると明言できる人間関係は恐らく10ぐらいとかなり
薄い関係線に始終しています。

 特にジョーンズマジックの悪いところばかりを真似てしまった
ような、「もう何でもありでいいじゃん」という傾向が強く見ら
れ、そのため生命線と言える関係線が各所で寸断されています。

 物語解析的には「ゾンビですね」と評価する以外にないのです
が、なぜそうなってしまったのかを考察する必要がありそうです。
まあ、確かに、ティラノザウルスのゾンビって、結構見たくはあ
るのですが、死体であることは間違いないのですよね。
 なんででしょうか。
 非常に皮肉で申し訳ないのですが、以前わたしが予測したように、
原作の心臓部を読み違えてしまったのだと思います。心臓のこと
をよく知らない外科医というのは怖いなあと思うのですが、一応
腕が良いつもりの外科医としては、とりあえず心臓を移植する作
業をしてみましょう。
 生命感が戻ってくるはずです。

 ■主役を2人から6人にする

 物語において、主要人物を増やすというのは難しい事です。
 よく物語解析では人物と人物の関係線という話をしますが、こ
の組立て方が人数が増えるに従って指数関数的に膨らんで行くの
です。
 例えば、主要人物が2人の場合、関係線は1本です。
 主要人物が3人ならば、関係線は3本。
 4人ならば、6本。
 5人ならば、10本。
 6人ならば、15本。
 単純計算ですが、増えてきました。
 ではシェイクスピア並みに、主要人物が15人もいる場合は?
 すてきに複雑になりそうです。
 それを全て論理破綻なく組上げ、全ての人間関係が美しいハー
モニーを奏でるとなると、さすがに交響曲並みに緻密な設計図面
が必要になってきます。
 これを呼吸のようにやっていた怪物がシェイクスピアです。
 おまけのようですが、詩人としても未だに前人未踏の存在です。
 うーん、あまりにもレベルが高すぎて、めまいがします。

 さて第二案の方。
 この人物関係はどうなっているでしょうか。
 ジョーンズの作品を見るとたくさんの主要人物が登場します。
 本人でさえあんまり整理する気はないようなのですが、映画版
を作るとすれば、まずこのあまり整理されていない人物関係を整
理し、何を生かし、何を殺すかを決めなければ行けません。
 例えば、映画版ハウルは、ジョーンズが描いた「ウェールズ」
なる難問をとりあえずデリートすることにしました(わたしも、
そういう判断をしていた)。これは賢明な判断でした。「おい」
がいて、「母」がいて、「父」がいて、「弟」がいて、「モンゴ
リアン先生」がいたとか言う話になると、一挙に5人も登場人物
が増えることになります。

 ジョーンズは『指輪物語』を崇拝しているせいか、これでもか
というぐらいの登場人物を登場させる事を美としていますが、指
輪並の大交響曲3楽章というならまだしも、映画一本で収る内容
に、それだけの人物をつぎ込んでいるのが事実です(単純に登場
人物数を数え上げれば分るかと思います)。
 善し悪しはともかくとして、映画一本に3本分の人物がつぎ込
まれれば、あたかもウォーリーを探せのようなパニック状態に陥
ることは、分りやすい事だと思います。

 こんな原作を持ってしまった映画版はどうすればいいのでしょうか。
 ジブリ版のハウルは、主要人間関係を、「ソフィー陣営──ハ
ウル陣営」周りから、「旧ペンステモン夫人」周りにシフトさせ
ました。

 しかし、その移行さえまるでなっておらず、わたしが第一案で
整理したレベルにさえ到達をしていないひどいものでした。わた
しは、とりあえずその混乱に満ちあふれ整合性がまるでとれてい
ないひどい代物を、とりあえず整理し、その主要人物(「ハウル」
「ソフィー」「旧ペンステモン婦人」「荒野の魔女」「王様」
「隣国の王子」)の6人の関係線を不整合なく割当て、この6人
の六角形を描いて見せました。

 やってみると非常に分りやすく、すかっとするような明快な光
景を描くことが出来ました。上手く整理したなと思っていただけ
たのではないでしょうか。

 次の仕事は原作の心臓を移植することです。
 わたしの分析によれば、「ソフィー」「ハウル」「マイケル」
「カルシファー」「レティー」「マーサ」の六人が原作の心臓部
でした。

 おっとやっと『魔法使いハウルと火の悪魔』のカルシファーが
物語に登場しますね。マイケルの文字を見ることが出来ました。
ここにもう一つの六角形を描いて見ることにしましょう。
 なぜ、こんな作業が必要なのでしょうか。
 うーん、非常に苦々しくて、顔が真っ青になるのですが、たぶ
ん、こんな言葉で収るのではないでしょうか。

「旧ペンステモン夫人周りの人物って魅力的?」

 ぜんぜん魅力ないんですよね、人間が。
 こうやって剥ぎ落してみると、全く魅力のない人々がよく分ら
ないことで揉めていた作品であったことがよくわかります。

 第二案では原作の心臓を外科手術的に移植します。
 とりあえず、ゾンビとは酷評できなくなるでしょう。
 生命感があふれ、登場人物に愛情をもてる作品になるでしょう。
 ジョーンズの原作の良さを素直に引き出してみましょう。
 その後の仕事は第三案に回しましょう。
 心臓を一から作ろうなんて、ばかな話をしているわけではありません。
 あるものを移植するのです。
 ハリウッドでは誰もが口笛を吹きながらやっています。
 わたしはあんまり音感はよくないのですが、とりあえず下手な歌
を吹いてみることにしましょう。

 ● 04 ● 「レティー」「マーサ」と紙に書いてみる      :[ 04 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄

 非常に簡単なレベルから始ってしまうのですが、まず紙とボール
ペン(シャープペンシルでもいいですが)を用意して、この7文字
を書いてみましょう。
 書けましたでしょうか。
 続いて別の紙に、「ソフィー」「ハウル」「荒野の魔女」「旧ペ
ンステモン夫人」「王様」「隣国の王子」と矢継早に書いてみます。
この際、どのような位置にその名前を書くかということが問題と
なってきますが、こちらの方はどのような人間関係になるかもう
決っていますので、比較的容易に書けるでしょう。
 さてではこの2枚を組合わせてみます。
 もし、これを簡単に出来たとしたら、おそらく物語を把握する
才能があなたにあるはずです。
 続いてまた別の紙に、「マイケル」「カルシファー」と書いて、
これも同様に組合わせて見て下さい。
 これも出来るようでしたら、少なくともあなたはこの第二案を読
む必要はありません。もうすでに、このレベルを超えています(そ
うでない方が少しでもいることを、とりあえず長々と説明するつも
りなので、願いますが)。

 実は、複数の次元の違う人間関係体系を組合わせることは極めて
物語レベルが高いことなのです。
 よくあるような、敵陣営と味方陣営にそれぞれに人間関係体系が
あって、それを組合わせるというのは比較的簡単です。しかし、こ
の第二案でやろうとしているのは、第一案で構築した「国際情勢関
係」に原作が持っている「はれた惚れたのドタバタコメディ」を移
植しようとしているのです。前者が同一視点で、複数の体系を統合
しようとしているのに対し、後者は全く次元の違う視点を統合しよ
うとしているのです。

 過去には天才といわれる人々が大勢いますので、このような物語
を挙げることは非常に容易です。ただやりはじめてしまうと、ほと
んど無限の物語を列挙することになりますので、とりあえず、西洋
で最古の物語「イリアス」がそうじゃん、と指摘するに止めておき
ましょう。

 あまり難しいことは考えず、それぐらい出来て当り前、
と無謀に考えましょう。

 もともと最初の初めから、物語という物は極めて高いレベルで登
場しています。欧米の人間は「イリアス」や「シエイクスピア」、
「聖書」といった多層的な構造をした物語を読んでいます。

 日本で言えば源氏物語や平家物語なのですが(そういえば、いま
義経やってますね)、読めば分るように優れているのはその文学性
であり、「物語構造の複雑さ」ではありません。

 安易な推測をすることはあまりしたくありませんが、日本の物語
というのは「広く多彩で公正」をよしとするより「深く純粋で内向
的」をよしとする国民性があるのかもしれません。

 なぜこのように物語を複雑にするのか? と疑問に思う方もある
かも知れません。これは非常に明快な解があります。

 1.変化がないと観客が飽きる
 2.極めて効率的に表現すると、かなりの複雑さがないかぎり実
は2時間も時間が持たない。

 シェイクスピアは「たった一語」で物語の展開を劇的に変化させ
る事の出来る人ですから、その効率性でシンプルな物語を描いてし
まうと、劇が15分ぐらいしか持たないことは分るでしょうか。だ
から必然的にシェイクスピアは一つの作品に多彩な要素を詰込みま
す。(よくネタが尽きないなあとは思いますが)

 もちろん意味のない要素を持込むことは無意味ですが、詰込める
だけ詰込まないと、濃度の高い物語を維持することが困難になるの
です。

 ようは「単調で一部の人以外退屈」を避けるために、「変化に富
み、誰もが楽しめる」ようにありったけの要素を詰込んで、それを
上手く整理し誰にでも分りやすくストーリーにまとめあげる必要が
あるのです。
 難しいでしょうか。
 500年前にやっているひとがいるようなので、スーパーコンピュー
タが必要なわけではなさそうです。必要なのは、羊皮紙と羽ペンで
しょうか。こっちの方が入手困難そうですが……。まあ、とりあえ
ず、ボールペンで代用しましょう。

 ハウルに戻ってみましょう。
 旧ペンステモン夫人周りの政権争い、うーん、かなりつまんない
ですよね。そんなの2時間も見たくない。第一子供に分らない。人
間にもまるで魅力がないし、あってもそれを発揮する機会がまるで
ない(うーん、ぼろくそですね)。

 なんか、映画版・第一案自体を破壊しそうな発言ですが(そして
第一案を苦労して作った人間としてはかなりがっくり来ますが)、
ここは耐えて次の段階へ移る必要がでてくることが分ります。

 「では、魅力的な人間を登場させましょう!」

 と、なるわけですが……、新たに作るのも手間ですので、原作の
心臓を持ってきます。
 レティーとマーサを呼び戻しましょう。
 マイケルを魅力的にしましょう。
 カルシファーに「顔無し」的な炎を打込みましょう。
 ソフィーとハウルの関係に波乱を持込みましょう。
 そしてなにより。
 原作中で最も美しい章、「ソフィーのかんしゃく」を復活させま
しょう。
 うーん、なんかすごくたくさんありますね(^_^;
 出来るだけ細かいところは飛ばして早足で駆抜け、構造のみを追
うことになるかと思いますが、丁寧に拾って行くつもりではありま
すので、おつきあいいただければ幸いです。

 ■原作の6人の機能を把握する

 さて原作に戻りましょう。
 原作のこの6人の人間関係は次の通りです。
 ・ハウルがあらゆる女の子をたぶらかしている。
 ・どうやら、ハッター家の三姉妹が狙われているらしい。
 ・ソフィーはハウルを悪い奴と思っているので、心配する。
 ・そのため、ソフィーはハウルと対立する。
 ・マイケルはマーサが好きなので、ハウルと対立する。
 ・マーサとレティーはソフィーを心配しているので、
  ハウルに近づかざる負えない。
 ・ソフィーは妹たちを心配しながらも、ハウルに惚れてしまう。
 ・最後に実はハウルが好きだったのはソフィーとわかり、結ばれる。
 うーん、すごいたくさんいろいろな事がおきますねえ。
 どたばたコメディーです。

 これをみると、さすがに第一案でまとめた国際情勢に、これを組
込めるのかとびびるひともあるでしょうが、まあこの辺は序の口で
すので、あんまり後込みせずに前へ進みましょう。
 簡単、単純、シンプル!
 こんなところで怖じ気づいていては、シェイクスピアどころか
赤川次郎あたりにさえ馬鹿にされます。「要素による解析」を
使ってみましょう。

 ・六人の名前を書く

 非常にシンプルな所ですが、まず、六人の名前を書いてみましょう。
 ボールペンで書くのが理想的です。高級な解析用ワークステー
ションも、複雑なアルゴリズムも全く必要ありません。
 チラシの裏で構いません。書いてみましょう。
 ・ソフィー
 ・ハウル
 ・カルシファー
 ・マイケル
 ・レティー
 ・マーサ
 うーん、全部カタカナですね。5歳児でもできそうです。

 続いて関係線を引いてみます。太いところから見てみましょう。

 まず第一に、ソフィー──ハウル。
 続いて、ハウル──カルシファー。
 最後にソフィー──カルシファー。

 ここにきて、急にドキッとしないでしょうか。カルシファーは
序盤で(序盤ですよ!)ソフィーに契約をしようとします。ハウル
との契約を解いてくれと言うのです。この原作中、最もアクロバ
ティックな布石なのですが(以前も書きましたが、この承の展開
は神業的です)、これが物語の核として機能します。この六人の
中で最も強力な核としてソフィー──カルシファー──ハウル、
という三角形があることに気付きます。

 これは、物語を成立させるのに必要な条件でした。「魔法使い
ハウルと火の悪魔」はカルシファーを中心として物語が進展して
いるのです。
 映画版を見ます。
 確かにこの関係線は踏襲されているのですが、極めて重要な要
素がこの関係線から抜けています。原作を見て下さい、映画を見
てもいいでしょう。

 決定的な違いはこの「三者の不信」にあるのです。
 非常にシンプルな話なのですが、メインの舞台となるハウルの
城に大きな影響を与える三者が全員「好意」「好意」の関係だっ
たら? 物語は動きません。動かないんです。たぶん、それなり
の自信があって、この原作の関係を崩したのだと思うのですが、
こんなにも致命的な失敗をしている人を見るとさすがに信頼が
揺らぎます。
 なぜ、こんなことが起ったのでしょうか。
 それはソフィーに原因があります。

 宮崎アニメのヒロインは決って純粋であり強い芯を持っていま
すが、これが最初から最後まで貫かれることが良とされていまし
た。しかし、ジョーンズの美しい原作は、これをもっと深いとこ
ろまで掘下げないと、その役どころに耐えられない、極めてタイ
トな物語構成になっているのです。ソフィーははじめ、ハウルを
悪い奴と思っていないとまずいのです。カルシファーは警戒なら
ない相手、両者からとってソフィーはとるに足らない相手です。

 うーん、千と千尋を作った人がこれ読めないかなあ?
 ハウルの城が主舞台なのだから、ここに波乱がないとまずい。
 自明です。さすがに戸惑います。

 まず、原作を見ましょう。
 ソフィーはハウルを好きになるのは、ハウルの内面を散々に覗
いた後です。これにより、表面的・うわさ話レベルの話が真実で
はないことに気付き、それでも自分では認めたくないながらも、
どうしてもハウルと自分が惹かれあっていることを認めます。
 ソフィーとハウルは結ばれるべくして結ばれたのです。
 では、映画版を見ましょう。あー、もう見たくないですか。
 うーん、そうですよねえ。ソフィーは見事にハウルにナンパさ
れ(しかも魔法使いっぷりを使いまくって)、その後、ハウルが
苦しんでいることに気付いて手助けしようとする……、って、
 おい。
 待ったっ!!! ソフィー!!
 あなた騙されてます!!! ペンステモン夫人に弁護している場合ですか!
 ハウルからお花畑プレゼントされて泣いている場合ですか!
 それは、お金と権力があれば誰にでもできるのです。
 白馬の王子様ですか! ハウルは。
 ソフィーにはまったく我がありません。
 千と千尋はそれで成功しました。しかし、この映画では仇となりました。
 これは成長するチャンスだったのになぁ、と思います。

 さて、ダイヤモンドを覗き込んでみて、ずたぼろな物語構成が
はっきり見えてきたでしょうか。でも、困ったことに、この第二案
で移植しようとしている心臓は、実はここではないのですよねぇ……。
 うーん、困った。
 理解が難しいかもしれないのですが、物語的なダイナモとして
パワフルに機能しているのは、実は「マーサ」と「レティー」と
「マイケル」。映画版ではばっさりと切り捨てられていますが
(マイケルは切捨てられていないなどと、思っている人、ちょっ
と見る目がないですよ)、その機能を明らかにしていくと、何が
失われたかがよく分るかと思います。

 ・ジョーンズの引いた線

 さて、原作に戻りましょう。
 ジョーンズはこの6人にどのような関係線を引いたでしょうか。
 まずはソフィー──レティー──マーサ。
 さらっと言ってしまうと、ソフィー陣営の三角形。これに、ハウ
ル陣営の三角形があり、この二つの三角形が絡み合うのです。図形
にしてみるとかなり簡単です。

 まず、ソフィー陣営をみてみましょう。
 お互いが心配をしあう姉妹のようです。物語はソフィーを中心に
動いていきますが、ジョーンズはこの関係をより緊密にするために、
レティー──マーサ間に強力な関係線を引きます。

 わたしも原作を読んだ当初は不必要と考えていた「レティーと
マーサが入れ替る」といういたずらをジョーンズは鮮やかなマジック
の初手として打ってきます。一見たわいもない手に見えるのですが、
のちのちにボディーブローのようにじわじわと効いてきます。この
いたずらにより、レティーとマーサの登場機会が増え、ソフィーが
ハウル相手にはらはらする機会が増えます。また、これは非常に
重要ですが、この二人が「ソフィーより独立した」主要人物としての
地位を手にします。なんたってソフィーの知らないところで「勝手
に動く」ことを行動によって証明するので。

 これは従属的人物なのか独立的人物なのかというちょっと専門
用語チックな話になるのですが、カルシファー──ハウル関係線
を例に挙げると分りやすいでしょう。
 カルシファーはハウルと契約を結んだ火の悪魔です。
 しかし、カルシファーはハウルの言いなりになっている訳では
なく、こともあろうかソフィーに契約を破ってくれないかと言い
ます。これにより、ソフィーはハウルの城にあったハウルによる
カルシファーとマイケルの従属という関係線にくさびを城の内部
の人間関係を流動的にします。もし、カルシファーがハウルの言
うことしか聞かない悪魔なら、魅力的な主要人物が減ってしまう
ことになります。

 ソフィーに契約を破ってくれと言った瞬間、カルシファーは物
語を大きく動かす魅力的な登場人物となれたのです。

 レティーとマーサを振り返ってみましょう。
 カルシファー同様、ソフィーに従属することなく自由に動いていますね。
 「要素による解析」の上ではこの二人は完全に独立しています。
 しかし、原作を読んでいる限りは、それほど活躍をしているよう
には見えません。なぜでしょうか。
 こんなことを言うとちょっとぞっとするかも知れません。
 原作はレティーとマーサを使い切れていないのです。
 そして、自分でそう断言することが少し怖いのですが、「要素に
よる解析」上、これは自明の理で動かしようのない事実なのです。
 では、レティーとマーサを魅力的にして、物語上で活躍させましょう。
 とりあえず、大きな問題が一つ明るみに出ました。

 次にマイケルを見てみます。
 映画版では年齢を大幅に下げることにより、その物語に与える
影響を徹底的に減らされていますが、原作を見ると、マーサに惚
れ込むことにより、ハウルの意図に縛られず、原作上(実は映画
上もそうなんですが、こちらは全く説明なし)重要なハウルの城
をソフィーの自宅に移す原因となっています。

 少し弱い感じもしないではないですが、物語上独立した人物と
言っても過言ではないでしょう。しかし、映画版を見れば明らか
なように、どうもこちらのマイケルに自由意志はないように見え
ます。
 なぜでしょうか。
 なぜ、マイケルという魅力的な主要人物が消えてしまっているのでしょうか。
 これはシンプルに、ハウルがソフィーと勘違いして、レティー・
マーサに接触し、マイケルがマーサに惚れているという設定が消え
ているためです。
 確認しましょう。
 原作ではハウルは、はじめからソフィーを探していました。
 これをどたばたコメディーに仕立てるために、ハッター家の三姉妹
に手を加え、マイケルを引込みました。見事なまでに「主役6人」の
どたばた劇に仕立て、ソフィーとハウルの美しい恋を実現している
のですが、映画版を振り返ったとき完全なる壊滅を見て唖然とする
のです。
 ──あー、無理だったんだね。

 ■ハウル陣営の三角形をみる

 次にハウル陣営の三角形をみてみましょう。
 これは非常にいびつな形をしていることに気づくでしょうか。

 ・ハウル──カルシファー
 この関係はきわめてハウルが支配的ですが、カルシファーはその
支配から脱しようとしています。

 ・ハウル──マイケル
 この関係線もハウルが支配的ですが、マーサをハウルが狙ってい
ることらしいことを察知して、マイケルは独自な行動を取ろうとし
ます。
 ここまできて、この三角形がハウルを頂点とした三角形であるこ
とがわかります。マイケル・カルシファーは最底辺に存在し、独立
は保ちますが、従属にも見えなくない関係です。次に進みます。

 ・マイケル──カルシファー
 ここに到達すると、異常が察知できます。
 この関係線が全く存在していないのです。
 詳しく調査しているわけではないのですが、この二人の間で交わ
された会話があったでしょうか。かなり適当な発言で悪いのですが、
これはおそらく存在しておらず、原作の「難しい呪文に手こずるマ
イケル」の章で、この辺を明らかにするチャンスを逸している可能
性が高い。
 同じ城に住んでいながら、人間関係がない。
 こうやって書いてみるとよくわかります。致命的なミステイクです。
 二つ目の問題が浮上しました。

 ■とりあえず、二つの三角形の関係をみてみる

 さてこの二つの三角形の関係ですが、ジョーンズは見事なほどに
この辺りを融合させます。男の子世界と女の子世界の融合と、かな
り以前(もう、何ヶ月前でしょうか)にこの原作の秀逸な部分を指
摘したのですが、この部分にメスを入れる必要はないでしょう。
 眺めてみましょう。
 どたばたコメディーですが、かなり複雑な構造をしています。

 ・ソフィーがハウルは悪い奴と聞かされる(ソフィー←ハウル)
 ・ハウルがソフィーに一目惚れ(ハウル→ソフィー)
 ・マーサとレティーが入れ替わる(マーサ→←レティー)
 (この間ソフィーはおばあさんになってしまう)
 ・ソフィーはハウルの城でカルシファーに契約を解除してくれと
  言われる(カルシファー→ソフィー)
 ・ハウルはソフィーと勘違いしレティーと会う
 ・ソフィー、レティーが狙われていると知り警戒する
  (ソフィー←ハウル)
 ・ソフィーがマイケルと仲良くなる(ソフィー→←マイケル)
 ・マイケルが実はマーサに惚れていて、レティーを狙っているら
  しいハウルに警戒する(マイケル←ハウル)
 ・ハウルの狙いがマーサが化けているレティーでなく本物のレ
  ティーを狙っていると知る(ソフィー←ハウル)
 ・マイケルはハウルが狙っているのがマーサでなくて安心する
 ・ハウルがレティーに会う。
 ・レティーはソフィーがハウルの城にいることを知ってハウル
  に近づく
 ・(恐らくこの辺で)ハウルがソフィー婆さんが自分の探して
  いるソフィーだと気づく
 ・レティー、ソフィーに真相をばらす
 ・ソフィー、揺れる
 ・実は自分もハウルが好きであるらしいことに気づく
 ・ソフィー、のろいが解け、ハウルと結ばれる。

 いやー、まどろっこしいですねぇ・・・。
 ひとえにハウルがソフィーを一途に思い続けているのに、ソフ
ィーはそれを妹たちを狙っていると勘違いして奔走するうちに、
ハウルの真意に気づくという構成です。これにマイケルが絡み、
妹たちのいたずらが加わります。
 大方の構造は見えたでしょうか。
 「レティー」「マーサ」「マイケル」
 の文字を原作から消し去って、前述の物語の展開を振り返って
みましょう。
 どうでしょう。
 とても物語として成立するとは思えません。
 少なくともジョーンズの描いた美しい恋の物語は蜃気楼のよう
に消え去ります。
 そして、この80点のすばらしい恋愛劇は、そこいらに掃いて捨
てるほどある「白馬の王子様物」となってしまったのです。

 というわけで、今回は原作の心臓部を覗いてみましたが、大方
の構図は見えたでしょうか。次回以降、この分析を元に、第一案
で構成をした映画版の世界観にこの心臓部を移植してみることに
します。

 お疲れさまでした(ぐったりと疲労しました ^_^;)。
 うーん、あっという間に600行は超えますね(^_^;


 ● 05 ● 編集後記 「ザ・コアを見ました。」         :[ 05 ]
  ̄ ̄ ̄ ̄

 し、渋いなあと思いつつ、この映画。
 見たいなあと思いながら、物語解析的に外しと思っていたので
すが、結構当たりだったのでお勧めです。

 内容は地球の内核で起こった地磁気の異常(うーん、もう、マ
ニアの世界です)を正すため、地球の内部である超高温のマグマの
中にもぐっていくというストーリーなのですが、うーむ、さすが、
ハリウッド。さすがにそれはないだろうと思うような仮説をふんだ
んに用いて、へたすれば単調に終わりがちなストーリーを無理やり
豪快にハリウッド映画に仕上げています。

 こんなネタでよく。
 と、想い、対してハウルを見てしまいますが……。
 うーん、もうちっと勉強してください。
 もちろん、わたしも勉強しますが。


 ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■―― ■ ―― ■
                           第11号   2005/6/25
   「 新 ・ 物 語 解 析 」
    〜 宮崎駿監督「魔法使いハウルと動く城」を原作からつくっちゃおう! 〜

 発行者:hikali
   文:hikali

 ■ ―― ■ ―― ■ ―― ■ http://www.seikou-toutei.com/nmk/index.html 

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