文学

風に吹かれてかげろう

なにもない所からいいものを見つけて生きてゆくのが、人生の極意・・・かもしれない筆者の見つけたもの雑文集です。

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[KAGEROU]-436

2007/12/27

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Mail Magazine
 風に吹かれてかげろう
  071227 [436]
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 「うそ」

 今は印刷技術が発達して、卵の殻にまで印
字する事が可能になった。おかげで一つそれ
ぞれに賞味期限が記されている。以前はそれ
がなかったから、本当に賞味期限を気にする
のなら最後の一つを使い切るまでパッケージ
を捨てることができなかった。

 ばらばらに冷蔵庫に入れちゃうと、さあ、
大変。一週間経っても、一ヶ月経っても、外
見上卵はただの卵でしかない。ゆで卵と生卵
なら、振ってみたり転がしてみたりでなんと
なくわかる。けれども生卵同士では、割って
みないことにはわからない。

 二つの生卵、さてどっちが古いのか。とい
うことならば、皿に乗ったときの黄身の盛り
上がりの違いでわかる。しかし、俺はそうい
う比較の問題に直面したことはない。問題は、
目の前にある卵達が、食えるのか。食えない
のか。

 いくら俺でも、昨日や一昨日買ってきたの
なら覚えている。しかし、しばらく忘れてい
たこの目の前の卵たちは、いつ買ってきたも
のやら。俺はLLサイズしか買わないから、
それを安く売っているあの店で買ったことは
覚えている。だから、新旧混合ということは
ないだろう。バクダンは混ざっていない、に
しても。

 割ってみる。みんな黄身の張りが弱い。当
たり前だ。古いんだから。確認した限りでは、
どの殻もヒビはない。もう黄身も白身も入り
混じってものすごいことになってしまってい
るバクダンを開けてしまったことが何度かあ
るが、そうでもない。別に新鮮な卵を食べよ
うと思っているのではない。食えるのか。食
えないのか。今の俺にはそれだけが問題。

 洗浄がどうの、菌がどうのと、賞味期限を
一時間でも過ぎれば何でもきっぱりと捨てる
人がいた。けれども俺はそうじゃない。さほ
ど自分の体を心配していない。何より、食あ
たりしたことがないのだ。一ヶ月経過しよう
が、一年経過していようが、食える、俺の体
が受け入れる、のであれば食いたい。だって
今、腹が減っているのだもの。食卓には、ご
飯と納豆がのっているのだもの。この卵が俺
の口に入るか入らないかで、直後の幸せが大
きく左右されるのだ。しっかり貯金箱にお金
を貯められない俺は、数年後の幸せに向けて
はピンと動けないが、必ず訪れる数分後の幸
せにはさすがに動く。

 俺は、食った。うまかった。幸せだった。
結局、いつ買った卵だか思い出すことはなか
った。その後あたることがない限り、食うと
決心した瞬間から問題は全て消え失せた。捨
てて我慢するより、この満たされた幸せはず
っと大きかった。良い選択だった。満足。

 その後何度か、こういう問題に遭遇する。
しかし、あるとき友人がいいことを教えてく
れた。

「あ、生卵ね。賞味期限とか書いてあるね。
 あんなもの、平気平気。どんなに古くても
 パカッと割って器に入れて、黄身が割れた
 らだめ。割れなきゃ食べられる。俺そうや
 ってあたったことないよ。」

この友人は料理が趣味。しかも作ってくれる
料理がことのほかうまい。自分のできないこ
とを目の前でさらっとやってのけて、すごい!
と思った人を俺は誰よりも優先して尊敬する。
その人が教えてくれたのなら、疑いもなくけ
ろっと信じる。ある意味ちょっと危険なのか
もしれない俺は、その後一切卵にあたったこ
とはない。

 この前の夏のことだ。ああ、暑い。喉が渇
いた!と冷蔵庫を開け、そこにあったペット
ボトルのお茶をぐいぐいと飲んだ。ちゃんと
お茶の香りがしたし、うまかった。が、終盤
になって変な舌触りを覚えた。ん?と思って
ボトルを目の前にかざすと、底に少し残った
お茶の中に何か綿状の物がぷわぷわと、しか
もたくさん浮いている。カビ!?なのにおい
しかったのはあまりに喉が渇いていたせいか。

 それとも俺には見分ける本能的な能力が欠
けているのか。食べ物が胃に入っていくまで
に、目、鼻、手、舌、喉など、さまざまな感
覚器官を通り過ぎてゆく。賞味期限がどうこ
う言う以前に、食えない物というのは、その
どこかに本能的に引っ掛かるものだと信じて
いるところがある。この間は、目、鼻を通り
過ぎて行った古い焼肉が、舌で引っ掛かった。
焼くところまではいい匂いだったのに、とっ
ても酸っぱい味がして思わず庭の端っこに吐
き出した。あの酸っぱい「まずさ」は、食っ
てはいけない!という体からの合図なのだと
思っている。

 全ての関門を難なく通り過ぎて行ったあの
腐敗したお茶は、何だったのだろう。感覚が
麻痺したか、それともこのくらいのものは平
気だよ、と体がしっかりと判断したのだろう
か。様子を見た。が、数日経ってもお腹を壊
すことはなかった。気がおかしくなることも、
体の各機能に異変をきたすこともなく。結果
何事もなく平気だった。それをしっかりと予
測した俺の感覚器官に敬意を示すことにして
おいておくが、なんとなく腑に落ちないとこ
ろもある。まあ、なんにしても大したものじ
ゃないか。

 いつの間にか汗臭い剣道の籠手のようなに
おいのするカビた水筒を気付かずに使い続け
るなど、今までに数々の危機を乗り越えてき
ている俺。しかし、そもそも食あたりしたこ
とのない俺は、何を食ったら本当に危害を受
けるのかがわかっていない。とすると、あれ
は危機だったのか?液体になった卵も、酸っ
ぱい焼肉も、別に食っても問題はなかったの
かもしれない。けれどもまずいものを我慢し
て食わねばならぬほど追いつめられてもいな
い。

 安全な期間を更に半分に割ったりなんかし
て、どう考えてもだめになる筈のない「賞味
期限」そのものが嘘だ。売れ残った食品を実
際にビニール袋にポイポイと投げ入れる作業
をした人だけが感じる、世の中の矛盾。本当
は、誰もお客様の体のことなど心配してはい
ない。クレームが来たり、変な評判だけがた
だただ怖いのだ。みんなわかっている、けれ
ども誰も口にしない。そして期限がちょっと
でも過ぎて問題が起これば、自分の感覚を攻
めることなく全て人のせいにして賠償させて
安心しようとする人達。責任逃れが問題にな
っているけれど、いかに自分も逃れているか。
自分はテレビのニュースに向かって舌打ちで
きるのか。本当はみんなわかっている、けれ
ども誰も口にしない。口にしようとしない。
矛盾にあふれたお互い様同士で、己に目を向
けずに一丁前なことを議論しあっていたら、
それを見ている若い世代がどんどんしらけて
いくのは当然だなあ。みんなわかるんだから。

 そんな危ないもの口にして、体は大切にし
ないとだめだよ、と気遣ってもらえるけれど。
本当に生死の境をさまよう危機にあわぬ限り
は、こっちの人でいようと思う。古くったっ
て食える卵はうまいからいいのだ。

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 著者 佐藤幽泉
    さとうゆうせん

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