文学

風に吹かれてかげろう

なにもない所からいいものを見つけて生きてゆくのが、人生の極意・・・かもしれない筆者の見つけたもの雑文集です。

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[KAGEROU]-341

2005/12/31

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Mail Magazine
 風に吹かれてかげろう
  051223 [341]
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ただ今年末の残業続きのためまともに家に帰
れず、配信が乱れております。お許し下さい。
m(._.)m

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 「無意味」

 彼はじっとしながら考えていた。彼自身の
生きる意味を。元々どんな生き物にだって生
きるに意味などないのだと、とく人もいれば、
どんな小さな存在にもこの世にある限りは何
かしらの役目があるものなのだと、とく人も
いる。生きる意味?そんなもん、生きている
から、生きるために生きるんだろうが。だっ
て、死ねないじゃん?しかし、彼には何もす
る事がなかった。

 ここから一歩足を試しに進めてみる意味も
なく、手をのばしてみる意味もなく、あそこ
に見える所へちょっと行ってみても何の意味
もなかった。あまりにもする事がなくってヒ
マでヒマで、仕方がないからパチンコ屋さん
にでも行って遊んでこようかなと思った所で
パチンコ屋さんがない。もうどうにもする事
がなくって彼はただじっとしていた。

 意味がない?この世に意味のない事などあ
るのだろうか?その気になればどんな物事か
らも学ぶ事はできるはずだ。例えば時々やさ
しく背中をなでるようにそよぐこの風。毎日
毎日決まって昼から夜へとうつりゆくこの光。
日々のわずかな身の周りの変化。ボーッとし
ていればヒマ人のため息にしかならないよう
な事でも、今の僕にはじっと見入る時間はい
くらでもある。一つ一つは小さくともしっか
りと考え取り入れ、これからの糧として。こ
れから?あるのだろうか?何を学んだところ
でそれらを活かす機会も舞台もなかったら。
いやいや、そんな恐ろしい事は考えたくもな
い。

 こうしている間にも心臓は絶えずこくこく
と動いている。体中に血液を循環させるため
だ。僕が知っている限り、ずっと動いてきた。
知らない時でも動いているのだろう。なんた
って止まったら僕が死んでしまうのだからね。
もし彼が、ふっと自分の生きる意味なんて考
え出しちゃったらどうなる。彼は心臓として、
僕のこの体に血を巡らすために生まれ、ずう
っとこくこく動いてきた。眠るどころか、休
みもしない。俺はこんなんでいいのか?いい
んだよ。いや、そんなはずはない。そんなわ
けはない。脈打ち一筋も時と場合によりけり
だ。時と場合なんだってば。ここらで一つ笑
ってみようか。いきなりケタケタ笑い出され
てしまっては、僕は笑えない。僕も心臓だっ
たら一緒に動いてあげるのに。心臓に心臓が
入っているというのは、聞いたことがないも
のなあ。

 働きアリにはいろいろなのがいるらしい。
戦うもの。狩りをするもの。卵を守るもの。
子供を育てるもの。でもそんな数々の仕事の
中でも「足場」というのを専門としている人
達もいるらしい。群れの移動の際、道が途切
れるとする。すると彼らが出てきて手をつな
ぎ足をつなぎ、自らが架け橋となり足場とな
る、というのだ。その上を他のアリ達が走り
まわる。ずっと人の足の下。腹を踏まれ顔を
蹴られ、今にもちぎれてしまいそうな腕一本
足一本だけでくるくる回ってしまう者もいる
が、それでも彼らは必死に役目を務める。そ
こには生きる意味なんてのんきなものは入り
込む隙がない。

 一生懸命なのは足場アリだから?それとも、
言っては悪いけれど、馬鹿だから?馬鹿でも
阿呆でもいい。汗水流して一生懸命わき目も
ふらず、己の役を務める彼らはとても立派に
見える。心臓だって、足場アリだって。少な
くともこの僕よりは。僕だって何かすること
があれば、それこそ誰かが食べるお米を毎日
毎日一粒ずつ手でむきなさいとなってもコツ
コツ頑張ってみせるのに。

 そうしている事があなたの生きる意味だ、
とも言う。とすると僕は、じっとしているた
めに生まれた?ただそれだけのためにわざわ
ざこの世に?つまんねぇ!つまんねぇ?何が?
この世につまるもつまらんもあるものか?い
やいや、この僕がつまらんと言うにはちゃん
と根拠がある。もしも僕が本当に、ただじっ
とするためにこの世に生まれてきたというの
ならば、それはそれでいい。でもね、じゃあ
この動く手は?足は?この見える目は何のた
めにあるの?彼が思うだけで、手足は自由に
くるくると動いた。ここにじっとしているだ
けには何の意味もなく、歩ける。必要なのは
この場だけなのに、意味なく向こうが見える。
さんざん刺激だけ与えといて、動くなって?
どうせなら僕を石ころみたいにしてよ。手足
もなく目も見えず、自分でも自分があるのか
どうかよくわからない。そんなのだったら僕
だっていつまでもここでじっとしているのに。

 彼には本当にする事がなかった。襲う相手
も襲われる相手もいない。仲間もいない。何
かから生まれてきたのに、何も生むことがで
きない。生まれたこの場所から外へ出れば間
違いなく死ぬ。しかし、ここにいたとしても
とりあえず今は生きられるが、口らしきもの
があるのに食べるものがない。だからもうす
ぐ死ぬ。彼には危険も冒険もなければ、本来
あるべき将来もない。

 昔から今までこれだけたくさんの人間が生
まれてくれば、中にはいきなり水中に産み落
とされてそのまま親にも見放された赤ちゃん、
いるだろう。いきなり息ができない。でもし
たことがないから、できないのかどうかもわ
からない。いきなり苦しい。でも一度も安楽
を知らないから、こういうものだと思うかも
しれない。いきなりもう死がすぐそこだが、
なにせ生きた事がないものだから。彼は悔や
むか?後悔するか?いやいや、それしかなけ
ればそれだけなりに過ぎてゆくのがこの世と
いうもの。心配しなくても彼にはまだ考える
頭もない。何も変わらず、何にも知れず、た
だ消えてゆくだけ。その後魚の餌になるが、
それは特に彼自身の生きる意味ではない。い
や、意味か?

 存在はするけれども、まったく意味のない
もの。確かにこの世にはあるようだ。それは
この俺かもしれないし、あなたかもしれない。
甘栗の皮むきでもいい。とりあえず今あなた
にする事があれば、それに感謝すべきだ。あ
あ、生きている、って。そうすれば栗もうま
くなり人生も少しは充実する、かどうかは俺
にもわからんが。

 何にくっついてきたのだか。冬の雪の中の
あったかい家の中で、いきなり蝶がひらひら
とかえった。彼はじっとカーテンにくっつい
ている。

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 著者 佐藤幽泉
    さとうゆうせん

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