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雲上マガジン vol_222

発行日:9/6

……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 連載小説「アルヒテクトン」          第四回
 【3】 阿尾海鳥彦の破裂指定席            第四回
 【4】 編集後記

 ……………………………………………………………………………………………………

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 え、あ、もう九月になっちゃったんだ…。
 遥です。なんか朝夕めっきり涼しくなってきましたね。

 さて、今回はなっちゃんの「アルヒテクトン」、雷太郎さんの「阿尾海鳥彦の破裂指定
席」をお送りします。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 アルヒテクトン                第四回
                                    著/夏目陽
 ──────────────────────────────────────

 ◇  --------------------------・・・◆・・・--------------------------  ◇

  光で、柴崎千尋は目を覚ました。
  カーテンのすきまからさしこむ光がテーブルを横断し、キッチンまで照らし出していた。
なんとなく光のなかをまう埃が目に入り、千尋は伊藤和樹が部屋の掃除とか換気をしてい
ないのだろうなあと思った。
  和樹のことを考えた瞬間、千尋は和樹のことが気になって、手を伸ばして和樹に触れよ
うとするのだけれど、つい数時間までそこに寝ていたはずの和樹の姿がなくて、千尋の手
はベッドの端までさまよったあげく、何時間前にいなくなったかもわからない和樹のぬく
もりを求めて、千尋は顔を枕にうめる。和樹のものとすぐわかる匂いがした。千尋は、そ
の匂いは幼いころに感じた父の匂いに似ているような気がした。
 かんかんかんと、ヒールで階段をのぼる音と甲高い女の話が聞こえてきて、目をつぶろ
うとしていた千尋はそれを不愉快に思った。なんて下品な女なんだろう。ふたたび目をつ
ぶったけれど、いっこうに眠りはやってこない。千尋は寝返りをうち、ベッドサイドにあ
るテーブルにおいた携帯を手に取る。携帯を開くと、「Eメールあり 一件」と画面に表
示されていた。弟の遼からのメールだった。本文には「今日、帰ってこないの?」とだけ
書かれており、送信時刻は今日の午前一時だった。千尋は携帯の着信音が鳴ったこと思い
出し、同時に携帯を見るのを和樹がやめさせたことも思い出した。
  千尋は遼に「ごめん。バイトの帰りが遅くなりそうだったから友達の家に泊まった」と
返信した。送信中のアニメーションを見ながら、千尋は嘘はついてないなあと思い、ひと
りでくすりと笑った。「送信完了」と画面に表示されると、千尋は携帯を閉じる。和樹の
部屋の天井をぼうっと見ながら、遼からの返信を待ってみたけれど、十分しても遼からの
返信はなくて、千尋はベッドから起き上がった。
  カーテンと窓を開けると、温かい光と新鮮な空気が部屋に入りこんだ。千尋はそれを大
きく吸いこむと部屋のなかを見わたす。床には脱ぎ散らかした千尋の服と和樹が寝るとき
に着ていたシャツが落ちている。テーブルのうえには昨日ふたりで飲んだビールの缶がそ
のまま放置されている。ノートパソコンの置かれた机のうえには無造作に紙の束が広げら
れていたり、煙草の吸殻が灰皿で山を作っていた。お酒と煙草の匂い。ぼんやりとした記
憶のなかで唯一、はっきりと覚えている父の面影はその匂いだと千尋は思った。
  千尋は洗面所に行き、顔を洗う。鏡に映った自分の姿を見てなんだかへんだなあと千尋
は思う。和樹から借りたシャツはすごくサイズが大きくて、千尋が着るとまるで子供がふ
つうのサイズのシャツを着たように見えて、幼くなった気がする。体をぎゅっと縮めれば、
シャツがすとんと落ちてしまいそうな、そんな気さえしてくる。
  口のなかが乾いていて気持ち悪く、千尋はゴミ袋の散乱したキッチンに行き、冷蔵庫を
開けた。けれども、入っているのはビールばかりで、千尋は唾を飲みこむことでそれを我
慢した。
  床に散乱した服を集め、着替えたあと、千尋は和樹に借りたシャツと和樹の寝間着をき
れいにたたんでベッドのうえに置いた。それからテーブルのうえに放置されっぱなしの空
き缶をかかえて、キッチンにむかう。水道水でなかをゆすいだあと、空き缶のはいったゴ
ミ袋にそれらを入れる。ゴミ袋を開けた瞬間、なかから悪臭がただよってきて、千尋は思
わず顔をそむけた。ゴミ袋の口をぎゅっとむすんだあと、灰皿にたまっていた吸殻をコン
ビニのビニール袋にいれて、これも口をぎゅっとむすんだ。ビニール袋に入れるとき、灰
がほんの少しまいあがってしまい、千尋は何度かむせてしまった。机のうえの紙の束はど
うしようか迷ったあげく、あとで何かがなくなったと言われるのが嫌だったので、手をつ
けないでおいた。だいぶきれいになった部屋を見わたして、なんだか自分が和樹の家政婦
になったみたいだと千尋は思った。
 そのときちょうど千尋の携帯の着信音が鳴った。携帯を開くと、遼から電話がかかって
きていた。「はい」と言って出ると、遼が「姉ちゃん?」と言った。
「いまどこにいるの?」
「友達の家。バイト長引いちゃって」
「ううん、どこらへんにいるの?」
「吉祥寺かな」
「いつ帰ってくるの? 迎えに行く?」
「もう帰ろうと思っていたけれど。大丈夫だよ」
「いいの、いいの。俺も吉祥寺のすぐ近くにいるから。美味しい店も知ってるし、そこで
ご飯食べようよ。もうご飯食べた?」
「まだ」
「じゃあ、決定。吉祥寺の駅で待っててよ。すぐ行くから」
 遼からの電話はそう言ったあと、突然切れた。遼は待っててと言ったけれど、待つのは
たぶん遼のほうだ。きっともうこっちにむかっていると思う。
  その姿を想像していると、急にお腹が減ってきて、遼との待ち合わせに少しでも遅れな
いよう千尋も支度をし始めた。


 ◇  --------------------------・・・◆・・・--------------------------  ◇

次回は第225号(10月5日発行予定)に掲載されます。
ご意見、ご感想はこちらまで。→info@kairou.com 


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】阿尾海鳥彦の破裂指定席                 第四回
                                    著/蒼ノ下雷太郎
 ──────────────────────────────────────

◆ . : . : . : . . : . : . : . . : * * * : . : . : . . : . : . : . . : . : . ◆


 風が、痛い。
 酸素がぶつかったはずなのに、肌は痛みを感じる。
 感じた痛みの原因は砂だった。
 風に砂が紛れ込んで、邪魔くさい痛みを味合せてくれる。
 目を開くのが辛いほどの、そんな中。
 俺は、砂漠の上に立っていた。
「驚いたな。世界丸ごとを作り替えるほどだったなんて」
 俺がいたのは、廃墟のラブホテルだったはず。
 それが、無限しか知らない壮大な砂漠となった。
 先ほどまでは壁があったはずの場所に手をやる。
 突き抜けた。
 そこに壁なんてないかのように、壁があったはずの空間は通り抜かれていた。
 ある意味、こいつの能力は一番自由なんだろう。
 限りない妄想ほど絶対的な自由はない。
 自分の頭の中だけなら、誰だって大統領になれる。有名人になれる。
 人を殺せる。戦争する。誰かを犯せる。お金を無意味に使える。
「しかし、これは自由過ぎるぞ」
 平坦な砂漠のはず。
 しかし、地球が丸いという法則に従う遠近法により、遠くに小さいものが見えた。
 横一列に並んでいる。
 砂漠が揺れていた。
 地震ではないようだ。どうやら、あの大行列が、地響きを起こしているらしい。とんで
もない災害だ。
 見ると、全員あのバレリーナだった。
「これは、自由過ぎる」
 野太い声で笑いながら駆けてくる。
 遠近法は、段々と大きくなる。
 近づいてくる。
 俺は、サングラスを外した。
 破裂。
 破裂破裂破裂。
 いや、それだけじゃ足りない、破裂。
 戦士のように駆けてきたバレリーナを、一匹残らず破裂させた。
 汚らしいゴミが、嫌なものを見せてくれる。
 しかし、もちろんだが、これで終わりじゃない。
 真上から、大きなバレリーナが降ってきた。
 破裂。
 大きな音。
 血の雨と、破裂の爆発音。
 しかし気がつくと、何も付着していない。
「嫌な能力だね。例え幻だとしても、それは破裂させるのか」
 背後から、声。
 バレリーナが立っていた。
 破裂。
「良い能力だね。あれか、ふじのんみたいな能力なのかな。便利だね。見ただけで、殺せ
るなんて」
 背後から。
 破裂。
「でも、それも幻を相手にするなら関係ない」
 今度は、横に立っていた。
 破裂。
「キミも同じ弱者だよ。アタシが殺したモノと同じ。何も叶えられない社会的弱者さ」
 背後。
 真横。
 右。
 左。
 目の前。
 百八十度。
 円を描くかのように、周りにはバレリーナで埋め尽くされていた。
「安心して、アタシは弱者の味方だから」
 苦しまずに、気持ちよく殺してあげる。魔物遣いは、言った。
 俺は回る。
 とあるアクション物のカメラのように、クルクル、クルクルと、回る。
 人という人の命が人によって簡単に潰されて、人という人が人ではなくなり、人だった
人として認識出来なくなり、俺は人として人をここまで破壊することは初めてで、骨の一
部が頬をかすめたり、血が俺の服を汚したり、人ならば人がここまで人に殺される瞬間に
関して、もう少し人として罪悪を持たなくてはいけないのかもしれないが、俺は人として、
何かがおかしかった。
 何回転もして、足がふらついている頃には、辺りにはバレリーナは存在していなかった。
 破裂。
 音が聞こえた。
 俺?
 俺がやったのかと最初は考えたが、どうやら、そうではなかったらしい。
 俺の左腕が、宙を舞っていた。
 痛みは、何処に行ったのか。
 肘から先は血をダラダラ。その先は鳥のように空を旅立っていた。
 旅が終わり、左腕が砂の上に着地する頃には、俺は現状をやっと理解した。
「■■■」
 ハスキーヴォイスの限界を超える悲鳴。
 痛みはちゃんとそこにあったらしく、神経を伝って、研ぎ澄まされた痛みがやって来る。
 苦しい。
 痛い。
 辛い。
 痛い。
 痛い。
 痛い、痛い。
「幻は、あまりにも出来すぎると現実になっちゃうんだ。ほら、夢を叶えるのと同じさ。
あまりにも見分けがつかないものは、現実のようになっちゃうのさ。精巧に積み上げた嘘
と同じでね。愚かにも、自分の中で本当になっちゃうんだ」
 世界は、何も変わらないと言うのに。
 バレリーナの姿は見えず、しかし声だけが俺を笑っていた。
「アタシが見せた幻はどうかな。あまりにも現実のようで、痛いでしょ。そう、幻を超え
た幻は、現実にまで影響を及ぼす。幻だけしかないから、幻を超えてしまったんだね。ね、
痛いでしょ。それは幻でも何でもない。肉体が、左腕が破裂する幻を見せられて、騙され
て、本当に破裂しちゃったんだよ。悲しいね。信じていた相棒が、足を引っ張っちゃった
よ」
 相棒とは、俺の肉体のことか。
 痛いのに両目には涙はない。殺気のみ。
 殺したい、殺したい。
 ゴミのくせに、俺にこんな苦しみをさせた後悔をさせてやりたい。殺したい、殺したい。
これを超えるほどの痛みを、何回も、何回も食らわせてやりたい。
「死なない少女」
 だから、譲ってあげてもいいと思った。
「死んでも蘇る幻」
 どうせ、俺の意思なんて関係ない。選ぶ自由なんてないけど。
「そして、死ねない少年」
 左腕は、一瞬の間。
 そう、瞬きぐらいの秒で、復活していた。
「え……え?」
 バレリーナの驚いた声。
 俺の左腕は、破裂したのに、生えていた。
 左腕は、殺したい殺したいと、俺の自由を見ないフリして、暴れる。
「そうか、そっちにいるのか」
 左腕は、横に大きく動いた。俺の体は、左腕に引っ張られる。
 どうやら、何かに触れたようだ。
 バレリーナの鳴き声が聞こえた。
 彼が悲鳴を出すほどの何らかが、今起きたらしい。左腕は、指をある方向に差す。そう
か、そっちに奴がいるのか。
 今度は俺に選ぶ自由を与えるらしい。
 指差された方向に、俺は駆けた。
「ちょっと、どうして」
 バレリーナが困惑している。
 だけど、構ってやらない。さっさと殺してやる。
 お前の能力、そうだな、!)CHILD PREY!)と名付けてやろう。
 悪いが、そんな幻、何処にも届きはしない。
 世界は破裂した。
 左腕が、何かを掴んだことで、砂漠だったはずの景色は、音を立てて崩れ去った。
 世界は、汚い廃墟となったラブホテルに戻る。
 手は、バレリーナの顔を掴んでいた。
「た……たすけ……」
 破裂。
 今度は正真正銘の、破裂。
 俺の左腕を乗っ取った左腕に、殺されてしまった。
 唯一、バレリーナが着ていた衣装が残る。しかし、それも段々と砂となって消えていった。
 どうやら、これが奴の魔物だったらしい。
「自由の象徴にしては、ギャグタッチだよな」
 全然笑えないけど。

◆ . : . : . : . . : . : . : . . : * * * : . : . : . . : . : . : . . : . : . ◆ 


次回は第223号(9月15日配信予定)に掲載いたします。
ご意見、ご感想はこちらまで。→info@kairou.com 

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 編集後記
 ──────────────────────────────────────

 いかがでしたでしょうか?
 季節の変わり目、みなさまも風邪など引かれませんようー。

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は9月15日を予定しております。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。
 
 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:info@kairou.com

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