文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_220

2009/08/17



……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 阿尾海鳥彦の破裂指定席      第二回
 【3】 編集後記

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 【1】 前書
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 こんにちは、はるかです。
 お盆休みも終わりましたが、雲上はぼやぼやと動き続けております。

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 【2】阿尾海鳥彦の破裂指定席                 第二回
                                    著/蒼ノ下雷太郎
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魔物遣いって、どうして魔物を産み出すか知ってるかい?」
 鳥村鳥籠の依頼を受けて、今日も俺は夜の中を歩いていた。
 都心から大分離れて、もはや群馬の範囲に含まれそうなほどの埼玉の端。最寄りの駅は
歩いて一時間、自転車で三十分、車で二十分の果てしない距離。
 ちなみにバスはなく、今回俺は歩きでここまで来た。
 慣れていない足が痛いよ痛いよと泣いている。しかし、これにミジンコの涙ほどの依頼
料が掛かってるのだから、負けてられない。
 あるのはアスファルトの道路と、歩道。
 道路の両脇は開拓される気配のない平地が広がっている。時折、広告費がどれだけ無駄
になるか分からない大きな看板と、電気代がどれだけ無駄になるか分からない自動販売機
があるのみ。
 鳥村鳥籠の家から大分離れたはずなのに、景色は鳥村鳥籠の自宅付近と全く変わらなか
った。
 これは彼女と俺の因果が切れないものだという神様なりの比喩なのだろうか。だとした
ら、首を吊って死にたいと願う。
 どうせ、死ねないけど。
「魔物遣いは廃墟が好きなのかな」
 ターゲットの居場所に辿り着いた。
 これがゲームだったら、確実にモンスターとエンカウントする舞台。
 鳥村鳥籠の情報によると、元はラブホテルだったらしい。頭の悪い経営者が、馬鹿みた
いに金額の安い土地に目が眩み、比較的経営がラクなラブホテルを建ててみた。という、
日本経済に何の影響も及ぼさないような無駄をやられた残骸らしい。
 それでも五年ほどはやっていたが、それが今じゃ魔物遣いのアジトだ。
 四階建ての建物。一見、普通のホテルに見えなくもない。昔だったならば。
 しかし、中身は無闇に欲望を放つ性欲の場だったのだろう。
 今じゃ、部屋の窓ガラスは全部吹き抜けにされている。外観の壁には妙な植物の蔓が巻
き付いている。元は洋風の煉瓦らしき建物にしたかったのか、煉瓦らしき模様が描いてあ
る。しかし、今では残骸。色は変色し、まるで腐った食べ物のように白黒に褪せていた。
 耳に流れるDirを止める。
 流していた曲は「MARMALADE CHAINSAW」。
 時計じかけのオレンジに共感したわけじゃないが、無視出来ない感覚はある。しかし、
今は邪魔なだけだ。殺し合いに、聴覚を封じる音楽はいらない。気分を高揚するヘヴィメ
タルなんて、いつだって心臓に植え付けられている。
 自動ドアが排除され、完全開放された入り口から堂々と入る。魔物遣いにこそこそする
つもりはない。同族だからだろうか。それとも、同族嫌悪か。
 床に散らばるガラスの破片や、肉片やらを気にせずに廃墟の中を歩いていく。
 中は静寂かと思ったら、意外と声が聞こえていた。
 入り口近くにはいないはずだが、それでも俺の耳にしっかりと届いた。どうやら大声で
ハッスルしているらしい。
 Dirのヴォーカルである京の歌声で、鼓膜を洗い流したくなった。
 泥と尿と糞を混じり合わせたかのような気持ち悪い声が聞こえる。一定したリズムで、
興奮した豚の泣き声が聞こえる。
 どうやら、今夜も祭りの最中らしい。
「殺すには戸惑わない相手だから安心していいよ。今回の相手は、女子小学生を誘拐して、犯して、監禁する変態野郎さ」
 確かに、これなら戸惑わない。
 けれど、鼓膜が溶けてしまいそうな汚さだ。
 あぁ、本当に嫌だ。しかし、この愚痴を鳥村鳥籠に言ったら、どうせ馬鹿にされる。
「うみねこ君も、あんまり変わらないよ」
 どうせ、彼女の言葉はこんなものだ。いつだって、俺の心臓に穴を空ける。
 ――音のする方向に足を運ばせる。
 ガラスの破片を踏み砕く音。
 肉片を踏んでしまい、グチャッという効果音。
 犯人のハッスル音。
 ハッスル音まで行くのに、様々な死体があった。
 もう動けなくなった少女の亡骸や、無謀に突入した正義のヒーローである警官らしき人
達の遺体。
「それと、捕らえられた少女の救出はどうでもいいから。とりあえず、魔物遣いを殺して
くれればいいよ」
 ま、どうせ女の子達はみんな死んでいるだろうけど、ね。
 鳥村鳥籠の言葉が脳内で頻繁に鳴り響く。
 嫌だけど、聞き逃せない。
 この選択権に関しては、俺に自由などない。
「あ、どもども、初めまして。アタシ、小っちゃい女の子大好きな、スワンちゃんでっす!」
 ハッスル音の聞こえた部屋に着くと、ピザがいた。
 鉄槌で殴られたわけではないらしい。
 横は無駄に広く、縦は足りなすぎる悲しい男。
 歳は、顔のシワを見る限り、そんなに若くない。中年と言っても失礼ではないだろう。
 で、彼の衣装は、バレリーナだった。
 死亡している脂肪のGカップを包み込む白い生地。
 ヒラヒラしたスカート。
 彼の巨棒を現しているつもりなのか不明な、股間から生えたスワンの頭。
「もしかして、キミも魔物遣い? あ、よかったよかった。今まで仲間がいなくて寂しか
ったんだよね。いやいや、寂しかったよ。いたのは、アタシに悲鳴を上げる小っちゃい女
の子と、大きな大人達くらいだったからね。よかったよかった。これでアタシは一人じゃ
ないんだね」
 サングラスを外して、直視した。
 瞬間、部屋から出て、音だけを聞いた。

 ――■■■■。

 破裂の音。
 鳴り終わると、再び魔物遣いがいた部屋の中に入る。
 入り口付近からは汚らしいバレリーナしか見えなかったが、元は欲望を巡らせるラブホ
テルの部屋。ベッドの上には、女の子らしき物体が置かれていた。
 どう見ても生きていないものだった。
 両目は光を無くし、バレリーナの欲望を愛撫させる部位は、擦り切れて中身が見えてい
た。
 全裸の彼女を優しく包み込むように放出された白い液体。
 でも、それだけじゃ栄養が足りないよ。
 少女の死因は、内臓さえも輪郭が見えてしまいそうなほどのガリガリで理解した。
 いや、もしくは精神がバレリーナに耐えられなかったのか。どちらにしろ、もうどうで
もいい話だ。
 ただ、この子には自由がなかった。
 それだけの、話。
 少女を犯した元凶である犯人の方は、みじん切りにされた野菜よりも細かく破裂してい
た。
 廃墟となったラブホテルの一室が、今頃になって模様変えをしたようだ。
 深い赤色が所々にばら撒かれ、破片が散らばっている。
 ここの主であった魔物は、完全に死んでしまったらしい。
 部屋のさらに奥へと入ろうとする。
 しかし、視界が混乱する。
 突然のことに、俺は躓いて転びそうになってしまった。
 床は血の海。嫌だ嫌だ、汚物の血液に塗れるなんてと泣きそうになる。そんな倒れる寸
前の間。
 でも、床に倒れてみると、液体の感触はなかった。
 体を起こすと、あったはずの血や肉片は跡形もなく消えていた。
「ひどい、ひどいよ。せっかく友達になれると思ったのに、アナタは何てことをしてくれ
るの?」
 声。
 振り向くと、殺したはずのバレリーナが立っていた。
 吐き気を催す、笑顔で彼は語る。
「そんな悪い子。お仕置きしないとね」
 破裂。
 バレリーナは風船のように膨らみ、そして爆発した。
 破裂。俺の目は、気に入らなかった奴を破裂させる。
 アクロの丘。
 自由を勘違いした翼。
 翼を自由の象徴だと思い込んでいたのだ。馬鹿らしい、翼なんて自由でも何でもないの
に。
「厄介な魔物だね。そもそも何処に魔物がいるのかな。アタシと同じで、分かりにくい姿
をしているのかな」
 殺したはずのバレリーナは、また俺の後ろに立っていた。
 今度は両手を合せて、真上に突き出している。
 余裕たっぷりという意思表示だろう。むかつくポーズだ。
「いいや。別に、ゆっくりと殺してあげるよ」
 キミなんて、友達にしてあげない。
 膨らんだ顔をより膨らまして。
 破裂。
 笑いながら、今度は死んだ。
 でも、瞬きをすると、肉片らしきものは見当たらない。
 ……死なない?
 いや、鳥村鳥籠と違って、死なないのではなく、死んでないだけだ。
 幻を見させる能力?
 舌打ち。
 何が簡単な仕事だ。
 俺が苦手とする相手じゃないか。あのアマ、俺を死なせるつもりか。

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次回は第221号(8月25日配信予定)に掲載いたします。
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 【3】 編集後記
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 いかがでしたでしょうか?
 次回もお楽しみに:)

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 次回の配信は8月25日を予定しております。

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