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雲上マガジン vol_217

発行日:7/15

……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 連載小説「私と彼女と、それと首」      最終回
 【3】 編集後記

 ……………………………………………………………………………………………………

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────
 
 なんか、死にそうに、あついです。はるかです。
 さて、今回は「私と彼女と、それと首」最終回をお送りします!
 はたして二人の行き着く先は。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】私と彼女と、それと首                 最終回
                                    著/佐多椋
 ──────────────────────────────────────

--------------------------------------------------------・・・物語と生命の終わり

「……嘘だ」
 こんなに美しいものが腐っているわけがない。なのに楓は首を振る。
「あたしだっていろいろ調べたの。ここで、去年の十二月に起きた事件。ね、いい、論理
的に考えて。生肉を冷凍としたとして、十ヶ月以上も完全な状態で保存できるわけがない
でしょう? とっくの昔にこの首は腐っていたのよ。たしかに昔は綺麗だったのかもしれ
ない。でも、今はもう、これは腐って、爛れて、醜い生首でしかない」
「嘘だ」
「嘘じゃない。まだ見えてないの?」
 私はもう見ていた。その姿を。嗅いでいた。その臭いを。だが私の見たもの、感じたも
の、そんな瑣末な事柄が、真実にいったいどんな影響を及ぼしうるというのだろう? そ
れはもっと崇高な次元にあるのだから。嘘だ。すべて嘘だ。
「こんなこと云っても無駄だと思うけど、これとキスさせられたとき、あたしがどれだけ
つらかったかわかる? あのあと吐き気がおさまらなくて大変だったんだよ。何か悪い菌
が入ったらしくて熱も出た。でもそれもぜんぶ、樹のためだったのに。十二月っていうこ
とは、あたしの家に住み始めて四ヶ月経ったころに、樹はあいつを殺したことになるんだ
よね。なんで? なんでそんなことをしたの。あたしといるのが、そんなにいやだったの?」
「そんなんじゃないよ」
 何を云っているのだろう。
「樹」
 楓が突然、声色を変えて私の名を呼び、ナイフを取り出した。見覚えがあるものだった
たが、思い出すことはできなかった。
「引越しのとき偶然見つけたの。キッチンでもないところから不自然に見つかったから、
これで殺したんだってわかった」
 それで思い出した。楓が握っているのは、私が彼女を殺したときに使ったものだった。
そういえば引越しのあと、探すこともしなかった。私にとって重要なのは首であって彼女
ではなかったから、凶器に執着する必要もなかったが、指紋が残っているので隠せればよ
いと思っていた程度だった。
「ねえ」
 もう一度、甘ったるい声で楓が云った。
「あたし、あの夜、ほんとうのものを探してた、覚えてる?」
 雨の夜、公園の砂場を小さいスコップで掘り返して、楓はほんとうのものを探していた。
「樹と出会って、あたしはほんとうものなんか探す必要がなくなったって思ってた。でも
いつからか、あたしは樹のなかのほんとうのものが見えなくなってた。樹のなかを掘り返
して、ほんとうのものを探せたら……」
 そこまで聞いたところで、急に視界からナイフが消える。刹那、身体が揺れるのを感じ
た。え、なんでと思った瞬間に、激痛が腹部から脊髄を通り、全身のすみずみへと伝播し
ていく。――刺された。そう気付くまでは一瞬だった。両手がすさまじい勢いで痺れ、ま
ともに動かせない。それと呼応するように、身体のなかで赤い塊が膨らみ弾け喉をせりあ
がり、鮮血となって吐瀉される。楓が私の身体のなかで二度三度ナイフを捻るたび、新し
い塊があらゆる場所で生まれ、弾ける。そして痙攣。助かりはしないだろうと、すぐにわ
かった。
 力を入れることができず、倒れこみそうになる。その身体を押さえつけて、楓が耳元で
囁く。
「憎いでしょう? あたしのことが憎いでしょう?」
 その台詞すらも、意識のなかで赤い塊になった。そして弾ける。飛散した雫のひとつひ
とつが憎悪へとその姿を変えた。そうだ嘘だ。嘘だった。この醜い女の嫉妬が、見た嘘が、
吐いた嘘がすべての元凶なのだ。
 いつのまにか、ナイフは私の手にあった。
 血となって流れ落ちてゆく体力の残りを一箇所に集め、ナイフを握り締める。できるこ
となら全身を切り刻んでありとあらゆる苦痛を味わわせてやりたかったが、そんな時間は
残されていなかった。前へつんのめるようにして、ナイフを楓の腹に刺した。なんとか引
き抜いて、別の、もうどこだかよくわからないところへとねじ込む。吐瀉された鮮血が私
の顔へと浴びせられた。ただでさえ薄くなり始めた視界が赤に染まる。醜い。醜い。地面
へと折り重なるように倒れこむ。身体から離れたどこかから、鈍い衝撃が伝わってくるよ
うに感じた。胸のところまでやってきた瞬間、それは鮮烈なものへと変わり、私はまた吐
血する。それが楓の顔に降りかかる。私たちは汚しあっている。どこまで醜くなるという
のだろう。最後に残された気力だけを頼りに、三度目を刺した。もうこれで充分だろう。
視界は赤いまま、さらに薄れている。そのなかで楓は――泣いていた。刺されて、死に瀕
しているというのに、「……わる、いこ、だか、ら、……こ、ろして」といつかのように
呟いていた。
 途切れ途切れの意識のなかに、わずかに混入するものがあった。
 こうすることで、楓は、私の混じりけのない殺意を感じることができるに違いない。最
後に、これまででもっとも強い快感を得ようとしている。私は自分が操られたのを知った。
ここにはぬいぐるみもないのに。いい加減にして、とも云っていないのに。なんだか不完
全な気がして惜しくすらあった。だがやり直す時間はなかった。
 薄れゆく意識のなか、楓が泣くのをやめ、荒い呼吸と血塊を吐き出しながらいつものよ
うに恍惚とした表情を作るのが見えた。時折、あえぎにも似た、かすれた声も混じってい
た。今、楓が得ている快感がそれまでに比べてどれほど強いものであるかは、私にはわか
らなかった。私は世界が黒色で塗りつぶされていくのを感じながら、もしかしたらすべて
のこと、始まりから終わりまで、首とか殺人とか雨の夜とか、何から何までがぜんぶ、こ
の楓の最期の悦楽のために用意された伏線だったのではないかと、少しだけ思った。終わ
りまでの一瞬のあいだに、その白い霧のような疑惑が意識の全体に広がって、そして閉じ
た。

・・・--------------------------------------------------------------------------

End.

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 編集後記
 ──────────────────────────────────────

 お楽しみいただけましたでしょうか?
 次回からは新連載をお届けしますー:)

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