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雲上マガジン vol_216

発行日:7/5


……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 連載小説「私と彼女と、それと首」      第十六回
 【3】 連載小説「アルヒテクトン」          第二回
 【4】 編集後記

 ……………………………………………………………………………………………………
◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 こんばんは、遥です。
 なんか、ながーいこと目次をいれ忘れていたようです……。
 今回から復活しますからね!

 今回はなっちゃんこと夏目陽さんの「アルヒテクトン」第2回をお届けしますよー。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 私と彼女と、それと首             第十六回
                                    著/佐多椋
 ──────────────────────────────────────


--------------------------------------------------------・・・物語と生命の終わり

「……嫉妬?」
 すぐにはその言葉の意味がわからなかった。音がうまく意味を持つ単語にならなかった。
聞いた覚えのない外来語を聞かされたときの感じに似ていた。だがやがて私は理解し、そ
れゆえに混乱した。
「いつだってそうだった。ずっと前から思ってた。あたしを見ているときだって、いつも
樹はあたしのうしろにある何かを見てた。あたしに触るときだって、話すときだって、殴
るときだって、蹴るときだって、あたしじゃなくて誰かを見てた。それがずっとわからな
くてつらかった。なんで樹はあたしを見てくれないんだろうって。だからね、あれのこと
を知ったとき、ああ、これだって、気付いたの。樹はこれを見てたんだって。だから脅迫
状を作った。そしたら逃げるって云ってくれた。うれしかった。これであんなものを置い
て、あたしといっしょに逃げてくれるんだって、思ったのに、連れてくって聞いて、とて
も悲しかったんだよ。樹。でもすぐに気付いたんだ。樹はもうみんな気付いてて、それで
もあれと離れないってことを云いたくてああしたのかもしれないって。頭いいでしょ? 
もしそうなら、もうぜん気付いているなら、もう終わりだって思ったんだ。終わり。ぜん
ぶ、ぜんぶ終わり! だから、この公園の近くに丸をつけたの。この公園で、樹があの女
を殺したこの場所で、ぜんぶを終わりにできるように」
 楓が何を云ってるのかわからない。なぜ私がこの公園で殺人を犯したことを知っている?
「最初あれを見て、怖かったけど、わけわかんなかったけど、けどどっかで気付いてた、
これ、これだって、これさえなくなればって。だから脅迫状なんか出さなくても、ほんと
は最初からそれをどっかにやっちゃえばよかったけど、でも、で、できなかった、だって
、耐え切れなくて」
「……ちょっと待って」
 急に話が飛んだことにも戸惑っていたが、……そんなことよりも。
「何?」
 楓はなぜか、眼を細めて、慈愛に満ちた表情で私を見ていた。
「どうして、楓も」
 魅かれなかったのか、と云おうとしたが、言葉が続かなかった。喉でつかえて出てこな
かった。しかしそれでも、楓は私が何を云おうとしているか了解したようだった。
「うそ。ぜんぶ嘘。あたしはあんなもの、だいっきらいだった。怖くて、おぞましくて、
醜くて、すっごくいやだった。ただ、樹に合わせていただけ、だよ」
 微笑みながら、私のすべてを壊すようなことを平然と楓は語っていた。きがくるいそう
になる。全身から嘘のような量の汗が流れ出ている。私を包んでいる皮膚が、次々と壊死
して、破れ、紫色の爛れた液体が。異臭が。なんでそんなこと云うの。やめて。やめてほ
しい。
「ねえ樹、あたしは今、ほんとうのことだけをしゃべってる。あたしはあたしのなかのほ
んとうのことを、ひとつ残らず吐き出してる。だからもうね、ほんとうのことしか云わな
いの。ほんとうよ。ほんとうにあたしはあれがいやだった。ううん、あたしだけじゃない。
あたしじゃなくても、みんな、あんなもの好きじゃない。あんなに臭くて、汚いもの。樹。
あたし、ほんとうのことを云うってさっき、云った。だから、教える」
 楓はクーラーボックスの留め金を外し、取っ手に触れ、
「やめ……」
 蓋を開けた。
「この首、もうとっくに腐ってるよ」

・・・--------------------------------------------------------------------------

次回は第217号(7月15日発行予定)に掲載されます。
ご意見、ご感想はこちらまで。→info@kairou.com




◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 アルヒテクトン                第二回
                                    著/夏目陽
 ──────────────────────────────────────

 ◇  --------------------------・・・◆・・・--------------------------  ◇

 ぐったりとしたサラリーマンをたくさん乗せた終電で、千尋は帰宅した。最寄の駅につ
くころには、二十三時をとうに過ぎていた。三日月が夜空を照らし、その周りをほんの少
しだけ紫色にしている。都会から少し離れると空も違うんだなあと千尋は改めて思った。
たぶん、大学の近くではこんなに綺麗な空は見れないだろう。
 部屋のドアを開けると元気な声で「おかえり」と言う声が聞こえた。弟の遼の声だ。遼
が千尋の部屋に居候を始めてから一週間が経つけれど、千尋はいまだに遼の存在に慣れて
いなかった。ふだんは大学やバイトを終えて帰ってくると、部屋の電気はついていないし
、ご飯だってできていない。だけど、遼が来てからは帰ってくれば電気はついているし、
ご飯だってできている。遼といるとぜったいに怠けてしまうと千尋は常々思っている。
「こんなに夜中にひとりで歩いていると危なくない? 電話してくれれば駅まで迎えに行
ったのに」
 遼は読んでいた漫画をとじると、「今日は餃子だったんだけどなあ。冷たくなったら美
味しくないんだよ、餃子って」と言って台所にむかう。
「レンジで温めなおせばいいじゃないの?」
「そうじゃないんだよなあ」と言いながら、遼はラップされた餃子をレンジに入れ、スイ
ッチを押した。「姉ちゃん、家のなかだからいいけれど、ぜったい他人の前でそんなこと
言っちゃいけないよ」
 遼は男のくせに家庭的だと千尋は思っている。母子家庭で、母は働きに出ていたので家
の家事のいくつかは千尋と遼がやらなければならなかった。だけど、千尋はほんの少しし
か家事をやらなかった。本格的に家事をやりはじめたのはひとり暮らしをはじめてからだ。
遼は料理も作れるし、洗濯もできるし、掃除もできる。それに加えていつも遼は小奇麗で、
ふわふわとした雰囲気を身にまとっていて、それでいてすごく悪知恵が働くこともある。
だから、ずるい。とてもずるい。
 だからきっと、遼の周りにはいつも可愛い女の子がいるのだろうなあと千尋は思ってい
た。訊いてみれば、遼は照れ笑いを浮かべながら、「そんなにいないよ」と言う。
「付き合っている人とかも?」遼の仕草はいちいち嗜虐心をそそられる。でも、それで調
子にのってしまうと、思わぬしっぺ返しをされることがあるけれども。
「姉ちゃんのほうはどうなのさ?」
 レンジで温められた餃子とご飯を持って遼は台所から出てきた。「別に……」と千尋は
言う。遼が口元にほんの少し笑みを浮かべながら、ご飯を千尋の前に置いた。
 遼は彼女はいないと言っていたけれども、それが嘘だということを千尋は知っていた。
遼が千尋の部屋に来たのも、自宅からは遠すぎるその道のりに嫌気がさしたからだし、昼
間はぶらっとあてもなく歩き回っているという遼の言葉が嘘で、本当は彼女と一緒にどこ
かに行っていることも千尋は知っていた。そして、たぶんこのことを遼が知っていること
も知っていた。
 遼がはじめて千尋の部屋に泊まった次の日、千尋は母から電話をもらった。母は心配そ
うな声色ひとつせず、遼が千尋の部屋に行っていないかと尋ねてきた。「いるよ」と千尋
が答えると、母は驚きもせず「そうだと思った」と言った。
 幼いころから遼には放浪癖があった。ぶらっと出かけては三日間くらい帰ってこないこ
とが何度かあったのだ。むかしはそれに悩まされてきた両親も、遼が高校生になるころの
には慣れてしまったようだったし、遼も両親の心配に気づくようになったのか、どこにい
ったのかほのめかすようになった。
 母は電話口で笑いながら、遼の話をした。千尋がひとり暮らしを始めてからすぐにでき
た彼女に遼ははまりこんでいるらしい。千尋は母との電話を終えたあと、遼をそこまでさ
せる彼女について考えてみたが、きっと素敵な子なんだろうなあという漠然なイメージし
か持てなかった。
 遼は部屋の隅で漫画を読んでいた。温めなおした餃子に千尋は箸をつける。温めなおし
た餃子は遼が言うほど美味しくないわけではなかった。千尋は遼の作った餃子を食べなが
ら、作りたての餃子も食べたいなあと思った。
 ◇  --------------------------・・・◆・・・--------------------------  ◇

次回は第219号(8月5日発行予定)に掲載されます。
ご意見、ご感想はこちらまで。→info@kairou.com

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 編集後記
 ──────────────────────────────────────

 いかがでしたでしょうか?
 次回はいよいよ、「私と彼女と、それと首」最終回ですよ!

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は7月15日を予定しております。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。
 
 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:info@kairou.com

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  1. 首、やばいです。最終回も楽しみにしてます。

     2009/7/6

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