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雲上マガジン vol_211

発行日:5/18

……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 連載小説「私と彼女と、それと首」      第十一回
 【3】 読み切り小説「フレンドオブマイン」
 【4】 編集後記

 ……………………………………………………………………………………………………

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 こんばんは、遥です。
 先週末は文学フリマに行ってまいりました。遥が絵を描かせてもらっているサークル
「ウミユリクラゲ」で制作した作品を持って行ったのですが、回廊のひとたちの他にも、
いろんなクラスタの人とおしゃべり出来てたいへんおもしろかったです。

 さて、今回はOctober Nineteenはおやすみです。「私と彼女と、それと首」の第十一
回、そして姫椿ひめ子さんの読みきり「フレンドオブマイン」を掲載します。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 私と彼女と、それと首             第十一回
                                    著/佐多椋
 ──────────────────────────────────────

核心のほうへ/逃避する・・・-----------------------------------------------------

「これ」
 さきほどまでインターホンを鳴らし続けていたとは思えないほど、静かな声色で囁くよ
うに云って、楓は一枚の裏返った封筒を私に差し出した。差出人の表記はない。ひっくり
返すと、住所と、早葉楓様、という宛名だけが記されていた。
「これがどうしたの」
「…………」
「ねえ、楓」
「…………え?」
 私は心配になり始めた。まるで私が見えていないかのようだった。それどころか、すべ

の刺激を断ち切っているようにすら思えた。楓は、聞こえるか聞こえないかくらいの小さ
な声で云った。
「開けてみれば、わかるよ」
 封筒には開封された跡があった。楓宛の封筒なのだから、彼女が部屋に入る前に開けた

しても何の不思議もない。いったい楓がなぜこれほどまでに憔悴しているのか、まだ私に
はわかっていなかった。私はなかから便箋を取り出した。そこにはボールペンで書いたも
のとおぼしき文字が綴られていた。わざと角ばらせて、筆跡をわかりづらくしてある。も
っとも、少なくとも私は、そのような細工などなくても筆跡から書き手を推理することな
どできなかっただろうが。私は文章に眼を走らせて――そして、楓の憔悴の理由を理解し
た。私もまた、動揺する。身体の芯が揺らいで、立っていられなくなるような気がする。
私はまた、宛名の面を見て、知りうるすべてのことを知り、便箋を封筒のなかに戻した。
 便箋に書かれていたのは脅迫文のようなものだった。細かい内容はすぐに忘れてしまっ
たが、幼稚な文体で、首の存在を知っている、いつだって自分はお前らを警察へと突き出
すことができるのだといったようなものだったと思う。いったい脅迫をして何を求めてい
るのかがまったくわからない。だが、首の存在を知る者がいるという内容は、それだけで
充分でもあった。
 喉の奥が、焼けるように痛い。
「楓」
「…………」
 私はかなりの力を込めて、楓の肩を押さえた。
「落ち着いて」
「どうやって」
 無邪気に、楓は訊いた。
「落ち着こう、って思えば、それで充分だから」
「どうやって」
 ある行に、一行目にリターンする命令が書き込まれているプログラムのようだった。私
は眼を閉じて、息を吐き出して、ざわめきはじめた苛立ちを抑えようと試みる。その場に
身じろぎもせずに立っている楓の唇は、しかし、かすかにふるえ続けていた。
 私は楓をなかば強制的に自宅のなかに入れた。楓は、なかに戻ってしばらくは異様なほ
どに冷静だったが、冷蔵庫の横を通り過ぎ、冷凍庫の扉にちらと眼を遣った瞬間、突然激
しく暴れだした。その大きすぎる振り幅は不自然ですらあった。なんとかソファまで導く
が、例によって私の服を掴んでわめきたてる。
「どうしよ、どうしよ、もうだめだよ、終わり、終わり、終わりだよあたしたち――」
 私の苛立ちは募ってゆき、返答もぞんざいなものになる。
「さあ。なるようにしかならないんじゃないかな」
 実際の思考とは裏腹な台詞を吐き出した。楓はそれを聞くと、はじかれたように立ち上
がり、私に掴みかかる。
「そんな云い方ないでしょう? もとはといえば全部樹のせいなのに、そんな云い方……」
 ねちねちと、厭らしい口調で、しつこく責め立てるように楓は言い募った。
「この、ひとごろし」
 私の眼をはっきりと見て、お前のことだと視線で訴えながら、楓は云った。次の瞬間、
私は無防備にさらされた楓の腹部を、二度、拳で殴りつけていた。不安だったはずの塊が
憎悪になり、一瞬のうちに膨れ上がって爆発していた。醜い鳴き声をあげて無様にうずく
まった楓を、私は自分でも信じられないようなすばやさで押さえつけていた。そのころに
はもう爆発はおさまっていて、余熱だけになっていた。だが、それだけあれば充分すぎる
ほどだった。一瞬だけ、服装とその奥の身体に眼がいったが、そんなものでは足りない。
視線を滑らせて、首が眼に入った瞬間にそこに手をかけていた。私はテレビでよく見るよ

うに、首の両側の凹んだところに親指を添えた。力を入れる、少しずつ。ころしてやる。
楓がいつか、望んだように、今。私の腕のあいだの隙間から楓の表情が見える。入れる力
と反比例するように、苦悶の色に染まっていく。いやいやをするように首を左右に振る。
私は荒く呼吸を繰り返す、楓のぶんまで呼吸をするかのように。
 そのとき突然、楓が苦悶の奥に微笑を滲ませる。
 私はそれを見た瞬間に、文字通り身体じゅうの力が抜けるのを感じる。楓の首にかけた
力をゆるめ、床に転がる。先ほどまでとは逆に、私が楓を見上げる格好になる。楓の首に
は、私の指のあとがわずかに紅く残っていた。楓は起き上がり、膝立ちをしたまましばら
く呆然としていたが、不意に、私を見て、手を伸ばす。私は反撃されると思った。抵抗す
る気力はなかった。楓が私を絞め殺そうとすれば、それはたやすく実行されるだろう。腕
が、手が、指が、視界のなかに大きくなっていく。私は眼を閉じる。
 が、指は首ではなく、私の胸へと着地する。そのまま、楓の身体が私のうえに覆いかぶ
さっていく。身体の重みを感じる、もっともたいして重くはないが。私が困惑していると、
すぐに、聞き慣れた嗚咽。私は気付く。ああ、始まったのだと。こんなときに、陶酔が。
嗚咽はいつものように、時々途絶えながら続いた。しばらくして楓は私の身体からずり落
ち、隣に寝転ぶ形になった。彼女は自分を抱いていた。私は楓の快感を得ることができな
いが、それがどれだけ甘いものであるかは、彼女の表情を見れば察することが出来た。
 こうなった以上、私は楓を見守るしかない。楓は時々視線を私に向ける。誘われている
ような気がした。楓の陶酔は自己完結しているものなので、私が介入することはできない
はずなのだが、もしかしたら何かが変わりつつあるのかもしれない。その姿を見ながら、
私は考え、そしてひとつの思い付きを得ていた。私がこの状況で取れる選択はそれしかな
いような気がしていた。しかしそれはあくまで私にとってのもので、楓が共有してくれる
ものとは考えづらかった。だが、とにかくそうしなければいけないのだと私は思っていた。
 しばらく楓を見守ったあと、私は彼女の隣で眠りについた。彼女の身体に触れながら、
この家で眠るのもあともう少しの間だけになるのかもしれないと思いながら。


・・・--------------------------------------------------------------------------

次回は第212号(5月25日発行予定)に掲載されます。
ご意見、ご感想はこちらまで。→info@kairou.com

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 フレンドオブマイン             
                                    著/姫椿ひめ子
 ──────────────────────────────────────

・・・--------------------------------------------------------------------------

 待ち合わせ場所に行くと、そこには一人の女性が居るだけで、呼び出した張本人である
秋山の姿はどこにもなく、仕方なく俺はベンチに腰掛けてやつを待つことにした。人気無
い緑地公園は木々がせせらぎ、猛暑の中を心地よい風がながれていた。
 俺は女性に会釈をし、少し距離を置いて腰掛けた。
 携帯電話を取り出して、メールを読む。
『ハッピーバースデイ、トゥーユー、マイフレンド』
 今日は俺の誕生日。祝ってくれるのは友人であり、親愛なる我が竹馬の友、秋山真琴だ
った。竹馬の友というか腐れ縁というか、気がついたらやつとばかりつるんでいて、切っ
ても切れない関係になってしまっていて、さりとてそれが煩わしいワケではなく、やつと
居ると楽しいし、何よりやはり満たされるものがある。どう考えても、友人であり、親友
なのだなぁと思うのだ。
 それにしても遅いなぁ、と独りごちて、携帯電話を伸ばしたところで、新着のメールが
入った。曲はアジアンカンフージェネレーションの「リライト」。秋山からのメールだっ
た。
『公園には着いた?』
『着いたよ』
『ほんじゃ、左見て』
『左? なんかあんの?』
『まあ見てみ?』
『見た』
『何がある?』
『なんもねえ』
『あれ、おかしいな。右見てみ?』
『【上見て下見て大間抜け】』
『違うから! 俺を信じて右見てみ?』
『女の人がいるよ、さっきから』
『え、マジで?』
『マジだよ』
『ふーん、そう』
『なんだよ』
『まあいいや。はい、キミに誕生日プレゼントがあります』
 カタカタと、ボタン操作をしていた手を止めて、息をつく。相変わらず秋山の姿は見え
ないし、メールが煩わしくなってきた。早く来やがれ。
『なんすか、プレゼント。ていうか、早く来いよ、待ってるんだから』
『キミへのプレゼントはですねー……デレデレデレデレデレ……』
 やんわりシカトされるし。
『なんすか』
『じゃじゃん! それです!! イエア! ヨカッタネ!』
『あざす』
『パチパチパチ! ほんだばどうぞ!』
『どうぞ言われても、どないせーちゅうねん。まあ、とりあえず早く来いよ』
『えーうそん? どういうこと??』
『や、話が見えないんで。早く来いよ』
 と、そこでメールが途絶えた。一体何がしたいんだ。
 すると、どこからか電話の着信音。自分の電話を見ても、鳴っていない。さっきから隣
で座り続けている女性のもののようだった。
 ぼくは暑さから逃れるようにうつむいて、腿に肘をついて地面を見る。
 隣の女性の声が聞こえる。綺麗な声だった。
「――ええ、はい……ごめんなさい。――はい、でも……はい、分かりました」
 立ち上がったであろう、衣擦れの音。
 地面を歩く靴音。
 その音が近づいてきて、俺の目の前で止まった。
 何事か、と顔を上げると、ぎこちなく微笑んだ女性が居た。
 大人びた雰囲気だったが、存外あどけない顔立ちだった。可愛いと思った。
 そして、自身の携帯電話を差し出してくる。
「俺に?」
 女性は無言で首肯した。
 電話を取る。
「もしもし?」
「ハッッピィバァァアアスディイイイイイ、トゥー、ユー!!!」
「は、え、ああ?! おま、ちょ、秋山か?!」
「イエア! き・み・の・竹馬の友、秋山真琴ちゃんでぃっす!! 元気かよ?」
「元気もクソも、おまえどうして……、あーもう! なにがなんなんだ、とりあえずこっ
ちこいよ!」
「そんな野暮なコトしませーん」
「は、野暮?」
「その子が、キミへのプレゼントですもの。それではごきげんよう」
 ハッピーバースデイ、フォーミー。
 20歳の誕生日。秋山から貰ったのは、美人の女の子だった。
 

 貰ったというと人聞きが悪いし、第一あまりいい気持ちもしない。
 秋山の紹介で出会った、狛井時雨という女の子はすごく可愛くて上品で、長い黒髪はさ
らさらだし、肌つやもいいしいい匂いがするし服の趣味もお嬢様っぽいし、本とか音楽の
趣味も似ていて意気投合して、もうこれ以上ないほど相性が良くて最高だった。大人びた
雰囲気からはわからなかったけれども、二歳年下の狛井時雨と付き合うことになって、も
う本当に幸せの絶頂って感じで、秋山真琴様々って感じだった。
 秋山真琴の学校の後輩で、俺のことを話したらずいぶんと気に入ってくれたようで、今
回のような運びになったご様子。マジ最高。
 そんなこんなで付き合い始めて一ヶ月が経ったのだけれども、存外チキンな俺はセック
スどころかキスもまだで、その上、手もつないでいないという不届き者で、まあそういっ
た奥手な俺のせいで、今現在、俺は両手両足を拘束されているのだ。
 話は一時間ほどさかのぼる。
 今日も今日とて、狛井時雨との幸せな時間を過ごして、お互いに駅の前で分かれようと
言うときに、狛井時雨が思い詰めた顔をして、「これから、時間ありますか?」と聞いて
きた。無いわけが無いじゃない、と俺は帰るのを止めて意気揚々と彼女について行き、彼
女の先導で初めて手をつないだ。
 わー手をつないだつないじゃったという感慨もつかの間、気がつくとピンク色の派手派
手しい建物の前で、もしやこれは大人のびろびろをくぐってしまうのか、とかなんとか考
えていたのだけれども、そのピンク色の建物はマンションで、狛井時雨の家だった。
 マンションと聞いてこの建物と同じくらい下心満載のピンク色の妄想は消し飛んだのだ
けれども、扉の前で狛井時雨が鍵を出しながら、「散らかってますけど、よかったら上が
ってください」という言葉でここは狛井時雨の家なんだと思って、再び妙な下心がわき上
がってきて、彼女が鍵を開けて扉をくぐり、後について中に入ったところでまたもや俺の
妄想は吹き飛ぶ。
 そこには秋山真琴がいたのだ。
「グーテンアベント、マインフレッド」
 微妙に怪しいドイツ語を繰りながら、秋山真琴はそこにいた。
 タイトミニのスカートからすらりと長い足が伸び、身体の凹凸が分かるぐらいタイトな
Tシャツを着た秋山真琴が、ショートヘアの栗毛を揺らしながら、くすくすと笑ってベッ
ドに腰掛けていた。
「ファッキン、秋山。何してやがる」
「ちょっと待たせて貰いましたん」
「なにしてんのさ、おまえ」
「んー、人助け、かしら?」
「は?」
 ソファ代わりにしてたベッドから立ち上がって狛井時雨の前を通り過ぎて俺の目の前に
やってきて、にこお、と普段見せないような愛嬌のある笑顔を浮かべると、ぱちぱちぱち
んと何かがはじける音がして、直後、俺は手足の力が入らなくなってその場に崩れ落ちて、
なすすべ無く秋山に抱きとめられた。たいしてでかくない秋山の胸に、顔が埋まる。
「いやん、えっち」
「てめ……なにした」
「いやあ、ちょっとしたことを」
「手足が動かねえぞ」
「関節を外させて貰いました」
「は?」
「お前に言ってなかったけれど、あたし伊賀の末裔なんだよね。骨子術は得意なんだわ」
「はぁ?」
「まあそんなわけで、生殺与奪は握らせていただきましたので、おとなしくしてろっつー
ハナシだよ。オーライ?」
「な……」
「あー、しぐちゃん、そんなあわてなくてイイから。なんもしないから、最初はしぐちゃ
んだからって」
 後ろを振り向きながら、秋山が言っているようだった。狛井時雨の様子はうかがえない
が、彼女が発したであろう「あー」とか「うー」とか、なにかもどかしいような表情の声
だけが聞こえてくる。
 力の入らない身体を抱き上げられ、ベッドに横たえられる。
 狛井時雨が口元に手をやりながら頬を上気させ、潤んだ瞳で見下ろしてくる。
 俺の脇に腰掛けて、秋山が顔を覗き込んできた。
「あんね、今、しぐちゃん――時雨がだいぶヤキモチ妬いてるから、かいつまんで言うけ
れど、お前のことがスキでスキでしょうがなくて、本当はちゅーとかいっぱいしたいけれ
ど、お互い奥手で進展しないんでどうしましょうってなハナシで、まあとりあえずこれか
ら彼女とパツイチ決める方向なんで、ひとつ男の根性見してください、以上です。わかっ
た?」
「や、わっけわかんねんだけど……」
「さ、しぐちゃん、おまたせ。どうぞどうぞ」
 秋山が立ち上がり、入れ替わりに狛井時雨が近づいてきて、もう本当に、傍目に見てら
れないぐらい顔を真っ赤にして、目をつぶって喉を鳴らして、息を吸って吐いて、本当に
決心決めましたみたいな感じで目を見開いて、目を細めて近づいてきて、口から短く息を
吐きながら俺の胸に手を当てて覆い被さるように顔を近づけてきて、ゆっくりと接触した。
「ごめ……なさい、芹沢さん」
「や、ていうか――」
 最初のキスは、狛井時雨が的を外して、上唇の少し上ぐらいに当たってしまって、必死
に軌道修正して、三回目ぐらいになってようやく、俺の上唇と狛井時雨の上唇、俺の下唇
と狛井時雨の以下略が接触したわけだった。
 そうすると狛井時雨は、何度も何度も、場所と感触を確かめるように、鳥がついばむよ
うに何度も口を吸って、でも俺はそんなコトよりも、もはやきっちりと体重を預けてしま
っている狛井時雨の身体が俺の胸の上にあって、そんなわけで大きくて柔らかいおっぱい
が押しつけられていてそれどころではなかった。
 「芹沢さん、芹沢さん」とつぶやきなが、ちうちうと必死になって口を押しつけてくる
狛井時雨がすごく愛おしく、狛井時雨も我を忘れてしまったように、俺の首に腕を回して
抱きついてきて、完璧に俺に覆い被さってきていたのだが、そのせいで、今度は下半身の
すごいところが、彼女の柔らかな身体と火照った体温に刺激されてすごくわっしょいわっ
しょいなコトになり始めていた。祭りだわっしょい。うそだどんどこどん。
「奥手だなぁ、しぐちゃん」
 一人だけ冷静な声で。
 秋山真琴。
「あたしが支えててあげんね、芹沢」
 俺を抱き起こし、上半身を起き上がらせて、狛井時雨も、少しだけ名残惜しそうな顔を
して起き上がり、秋山は俺の背後に回って、椅子の背もたれのように、文字通り俺の上体
を支えた。
「ちゃららーん、脱ぎ脱ぎしましょうねー」
「や、ちょ、秋山ぁっ」
 弱々しい抗議の声もむなしく、後ろから手を回してぷちぷちとシャツのボタンを外して
いき、前がはだけられてしまう。
「しぐちゃんも脱ぎなよ」
 こくりとうなずいて、するすると服を脱いでゆく狛井時雨。
 白い肌と丸い肩が露わになって、淡い紫色の下着だけになった狛井時雨は、俺にキスを
しながら胸を撫でたりしてくる。
 首に、違和感。
 秋山が、小さな舌べろを出してぺろぺろと舐めていた。
「おまっ……ばっ……か!」
「見てたらあたしも、切なくなってきちゃったよ。しぐちゃんごめんね、少し混ぜてね」
 いつの間にか秋山もスカートを脱ぎ去って、小振りな胸を背中に押しつける。
 両手両足が動かない俺はなすすべなく身体を玩ばれ、耳を秋山に噛まれ、狛井時雨に胸
を舐められ、俺は生まれたままの姿になってしまい、やがてようやく本番を迎える。
「レッツゴーしぐちゃん。芹沢の初めてを奪い取れー」
 俺の腹に手をついて、ぎこちなく俺にまたがって、これまでこんな経験をしたことがな
い俺のモノは痛いくらいに屹立し、同様に、もう堪えきれないくらいに狛井時雨の部分は
びしょぬれで、でももうそんなの全然わけが分からなくて、頭に血が上ってズキズキと痛
んで、まともな思考なんて無かった。
 そしてずるずるとあっけなく、俺が飲み込まれてゆき、俺と狛井時雨は一つになって、
それを俺の真後ろで、秋山が柄にもなく顔赤くしながら、喜んで俺らを見ていた。
 狛井時雨が、とろけるような表情で念願叶ってよかったですはにゃーんみたいな顔をし
ながら、ゆっくりとたどたどしく腰を動かすのにあわせて、短い嬌声が俺の口からこぼれ
落ちた。
「なに泣いてるの? 感動した?」
 秋山が聞いてくる。
 俺は泣いていた。
 彼女の柔らかい体内から流れ出てくる。
 全てが分かった。
 狛井時雨は俺のことがスキじゃ無かったみたいだ。最初はどうでも良かったらしい。秋
山真琴のことがスキで、秋山と口裏を合わせて、秋山真琴と過ごす時間を楽しんでいた。
仕方なく俺に会っただけだった。
 幸いなのは、俺と会う度に、俺のことを本当にスキになってくれたことだ。でも、彼女
の初恋は俺じゃなく、俺の後ろで恍惚としてる秋山真琴だったことが、堪らなくくやしか
った。その秋山も、とんでもないことを俺に耳打ちする。
 女のように女らしい言葉遣いに、わざわざ変えて。
「わ、私だって、お、お前が……芹沢が、……す、スキ、なのに。ひどいよね、あんなに、
すごく、気持ちよさそう」
 切なげに唇をわななかせて、俺の頭を無理矢理、横を向かせて、秋山は後ろからのぞき
込むようにキスをしてきた。そして、小さな舌べろを、歯の間からねじ込んでくる。
 なんていうコトを。
 だったら、なんで紹介なんてするんだ、後輩に。それも、付き合うのを前提として。
 ああ、そうか。
 勘違いしてたのか、秋山も、狛井時雨も。
 人がいい秋山は、ただ友達のことを話していただけだった。
 人がいい狛井時雨は、それに話を合わせて、秋山は、自分の中の茫洋とした感情がよく
分からなくて、狛井時雨が何となく言った、俺に会ってみたいという言葉に流されて、俺
と狛井時雨をあわせたのか。
 馬鹿だなあ、秋山。
 かちり、と何かがはまったような音。
「右手を戻したよ。戻したから――」
 俺の右手が秋山にいざなわれ、彼女の火照った内ももにあてがわれた。
「ね、手で、いいから」
 俺の指に自分の指を重ねて、くちくちと自分の内部に導く。
 秋山は俺の右腕に抱きついて、細くしなやかな身体を柔らかく波打たせ、しきりに腰を
動かした。
 俺の頬を伝う泪を、秋山が舐めあげる。
「ほら、しぐちゃんも」
 秋山が右の頬を舐め、狛井時雨は左の頬を舐める。
 気づかない、気づいていない。
 ただ、彼女たちの粘膜から手繰ったそれぞれの思いを知るのは俺だけだ。
 ゆるんだ喉を、今一度絞って、言う。
「秋山」
「んぁ?」
「エロい顔しやがって」
「見んなよ、スケベ」
「あのな、俺とお前は友達じゃんかよ」
「今そういう話なしね」
 秋山は腕に抱きついて、切なげに身をよじる。
 でも俺は続けて言う。
「全然気づかなんだよ。ごめんな」
 秋山は、可愛らしく照れて目を細めて、身を乗り出して乱暴に唇を重ねてきた。
「セカンドちゅーもーらい」
「あ、あ、あ、先輩、先輩、駄目、駄目……。わたし、も」
 横からすがりつくように狛井時雨が割り込んできて、俺は秋山と時雨とに代わる代わる
キスをした。
 奇天烈なことしやがって、訳が分からない。
 本当に、わけがわからない。
 くすくす、くすくすくすと、女たちのさえずりが、やけに耳に残った。


・・・--------------------------------------------------------------------------

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 編集後記
 ──────────────────────────────────────

 ミドリカワ書房にはまりぎみです。PVが素敵過ぎ。
 次回はひさびさのオケラ回廊。おたのしみに:)

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は5月25日を予定しております。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。
 
 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:info@kairou.com

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