文学

雲上マガジン

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雲上マガジン 増刊号

2009/05/05

 ----■ □ 1000字企画「雲上の庭園」   第2回募集 編集部寸評掲載 □ ■----

 23┠》 顧みるには近すぎて
 24┠》 日本オワタwww\(^o^)/
 25┠》 蜃気楼
 26┠》 禁則施術
 27┠》 黒猫
 28┠》 フィールドセオリー 1
 29┠》 フィールドセオリー 2
 30┠》 フィールドセオリー 3
 31┠》 しおり
 32┠》 フォビア
 33┠》 境界線上散歩
 34┠》 サンタクロースよりも偉大なモノ
 35┠》 AくんとKくんの比較
 36┠》 かわいいかわいいわたしのねこ
 37┠》 あなたの真実の物語
 38┠》 猫とマオ老人
 39┠》 I'm home
 40┠》 模型職人
 41┠》 嗤うな。
 42┠》 夜の秘密
 43┠》 1.大学時代に取り組んだことを記入してください。
 44┠》 旅の終わりに

 今日は以上の22作品について、秋山真琴、言村律広、遥彼方の三人の寸評を掲載します。

 ----■ □ ■ ----------------------------------------------- ■ □ ■----

 23┠》 園茅臣「顧みるには近すぎて」

 見事な逆転劇だと思う。ただ、舞う桜や、頭上への金色の円盤の出現など、魅力的なシ
ーンが揃っているのだから、もっと印象的に演出しても良かったと思う。最後で論理的と
いうか言葉遊びに落ち着くのではなくて、感情的というか懐かしさや再会の喜びを象徴す
るような描写で結んでも良かったのではなかろうか。(言村)

 快作、と言うのが第一印象。色褪せかけた青春小説の様相をなす序盤から、少女の思い
出を経て、そしてUFOと宇宙人という虚構が現実になった瞬間、鮮やかにその色彩を取り
戻す青春!宇宙人エル・ナナンの快活さも、それに拍車を掛けており、実に心地の良い一
編でした。(秋山)

 本文にもありましたが、幼い頃の記憶の中では、夢に見たことと本当にあったことがご
ちゃまぜになっているもので――いや、遥がいつもぼーっとしてるから、という話もあり
ますが――その感覚を巧く展開に組み込んでいると思います。(遥)

 24┠》 小田牧央「日本オワタwww\(^o^)/」

 娘が主張しているだけのことなので、さして虚構という感じでもなく、まして現実感も
ないが、この剣幕は不穏なものを予感させる。とはいえ予感止まりでそれ以上の説得力も
ないように思う。ネットの雑多なほどの過剰な情報量を思えば、娘側の意見の方が正しい
現実であるようについ偏向してしまうが、語り手の言う「ネットなんてデタラメばかり」
というのが正しい認識であろうと思う。尤もそれはネットに限らないし、人の感覚や発言
で偏っていないものなど無いだろう。何にしても、よく時代を見ている作品だとは言える
と思う。(言村)
 
 端的に申し上げて、今回の応募作の中から最も気に入ったものをひとつ選んでください
と乞われたら、文句なしに、これを選びます。タイトルの低俗さから、本編も衒いに富ん
だものだろうと高を括っていたら、まさかまさかの展開に驚愕しました。着想が抜きん出
ているだけでなく、現代日本の二面性を、敢えて寿命の短い言葉を濫用して表現すること
で、ことさらに際立てているのが印象的でした。傑作ですね。(秋山)
 
 これはたいへん私好みな作品でした。日常的なものが信用できなくなる瞬間。「今日の
わんこ四時間スペシャル」の、この不穏さといったらないです。(遥)

 25┠》 添田健一「蜃気楼」

 正統派の作品だと感じた。もしかして宿のおかみも蜃気楼の中の存在かと思ったが、お
かみは主人公を認識しているようだから違うかもしれない。しみじみと余韻を感じること
ができるが、すり抜けやため息といった前置き無しに、この情報量が飽和するような綿密
な描写から一気にひとりになると、より印象的だったのではと思う。(言村)

 蜃気楼から始まる幻想の風景、一瞬の夢想。これといった物語もなく、平坦極まりない、
単なる情景描写ではありますが、その言葉の選択は巧みで、中々に技巧的だなと感じまし
た。もう少し明確な落ちがあっても良かったと思います。(秋山)

 上品な掌編ですね。冒頭のおばあさんの台詞から、「蜃気楼」のイメージがふわりと飛
躍するさまが印象的でした。(遥)

 26┠》 才式羊宣「禁則施術」

 読んでいる途中は、変なものがいろいろ出てくる滑稽な話かと思っていたが、読み終え
てみると最後の一文のために作られていることに気付いた。妥協が出てきたところでも気
付かなかったので、最後に到るまで楽しむことができたし、巧く作ってあると感じた。
(言村)

 面白かったです。素っ頓狂な展開に、奇天烈な言語選択。読み手を楽しませる、良作で
すね。このせかいにおける、詩人という謎めいた存在が忌避される理由も、気になります。
気になったのは最後の一行。ここで唐突にブログという言葉を持ってくるのは、賛否両論
かと思いますが、秋山はどちらかと言うとあまり優れた選択ではないなと感じました。そ
れまでの少し気取った、しかし寓話的な面白味から、ブログという現代的、ネット的な言
葉は、やや距離があるように思います。(秋山)

 シニカルなオチが良いです。あるいは、詩人がほんとうに死にいたる病だった時代はと
うに過ぎてしまったのかもしれません。(遥)

 27┠》 駿河捷克「黒猫」

 最後の「写真を撮るためではない」という文が辛うじてこの作品の面白味を作っている
ように思う。猫になった不思議さを書きたいのか、猫の体の不自由さか、あるいは自由な
身体能力か、黒い服の男との関係か、住職のことか、果たして何が書きたかったのか、も
っと的を絞って描写の配分を考えたら、印象に残る話になったのではと思う。(言村)

 簡潔にまとまった完成度の高い小話ではあると思いますが、いかんせん面白味に欠けま
す。読み手の想定範囲内に軟着陸してしまっているので、今ひとつ派手さがありません。
派手であるのが大事という訳ではないのですが、それにしたって、これは地味に過ぎるよ
うに思います。(秋山)

 これもシニカル。魔法? 主人公の狂気? といった一種の不穏さもあり、でもオチに
はちょっとコントみたいな可笑しさがあって、好ましいです。(遥)

 28┠》 丹酌「フィールドセオリー 1」
 29┠》 丹酌「フィールドセオリー 2」
 30┠》 丹酌「フィールドセオリー 3」

 1があることで、2と3が多重人格ものという可能性は考え付くが、しかし、それだけ
のように思う。何度も読み返したが、どうにも面白く感じない。せっかく魅力的な状況や
含みのありそうな描写をしているのに、物語を語ることがなく、そのために印象に残るこ
とも、読者に想像を膨らませる楽しみを与えることもないだろう。(言村)

 まったく以って意味不明です。フィールドセオリーという言葉それ自体に意味があり、
その意味を理解すれば3つの断片に、何らかに繋がりが見受けられるのか、真剣に探してみ
ましたが、むりでした。個々の作品もまるで面白くないし、3つの作品としている意味も分
かりません。お手上げです。(秋山)

 異界から現世へとゆるやかに降りてくるような感じですね。やや尻切れとんぼの感があ
り、もっと量があれば、興味深い作品になりそうな気がします。(遥)

 31┠》 蒼桐大紀「しおり」

 前半は夢の中の話なのだろうか。というのも少女の言動が突飛であるように感じるから
なのだが、後半で、実は SF だったという点と実は夢だった(のかな?)という点が次々
と明かされるところが面白いと思った。本を握って初めて栞の存在に気付いたのだから、
この昼休みに栞がそこに出現したことになろうが、これがどうしてなのかが、いまいち分
からなくて引っかかっている。もしこの栞を作者が実際に持っていないのだとしたら、少
女の服装の色をこのようにした理由を聞いてみたいと思う。(言村)

 しおりの少女。近未来を舞台にしたのであろう、かたちある本が貴重であることが伺え
る。その世界観の提示の仕方には、洗練性を覚えたが、肝心の物語に魅力を見出すことが
出来ませんでした。世界観のうえに、登場人物が現れ、彼ら、そして彼女らがいかなる物
語を奏でるのか。奏でられることのない楽器、もしくは開かれることのない豪華な装丁の
本、のような作品でした。(秋山)
 
 絶滅寸前の本の匂いが、そこにだけまだ残っている、書集館という場所の存在がたいへ
ん魅力的だと思いました。本という物体の存在感に焦点が当たっているところも面白いで
す。(遥)

 32┠》 渡邊利道「フォビア」

 調べてみて、フォビアが恐怖症や嫌悪症のことと知り、実に納得した。団地の全戸を探
す対象としているのが変だと思い、探しに行かない理由付けのためにわざとそうしている
のだろうと思い直したが、そのために繰り返し書いているのはともかく、だんだんと冗長
に感じるのは否めない。しかし、単語の選択が実に巧妙で「ちがうよ」という控えめであ
り、諭すようでもあり、明確な否定でもあるこの語の存在感は特に際立っていると思う。
ここにこの語を配しただけでも傑作というに十分だと思う。(言村)

 迷える逸品ですね。結末を除いて非常に好みではあります。えんえん、ぞわぞわ、おそ
るおそる、といったキーワードで、じわじわと読み手の不安感を煽る手法は、堂に入って
いて、熟達を感じさせます。その一方で、結末部分はどうにもステレオタイプと言います
か、それまでの予断を許さない展開から、打って変わり予想のついてしまうものであるよ
うに感じました。かと言って、これ以上の結末があるかと問われれば、いかに? と首を
傾げもしてしまいます。迷います、が良作であることは間違いないでしょう。(秋山)

  序盤の、団地の描写が秀逸だと思います。昨今の報道のことは文章中にも登場します
が、それがなくとも子どもの泣き叫ぶ声というのは、日常の中に悪夢を持ち込むような恐
ろしさのある音です。(遥)


 33┠》 長屋言人「境界線上散歩」

 最後は投身自殺なのだろうか。虚ろな感覚だけがずっとつきまとう話だと感じた。格好
をつけた言葉でできた、どこかで聞いたような文がずっと並び、それによって何かを想像
させられることも特にはなく、展開も結末も朧気でそれが魅力的というほどでもないよう
にも思うし、何かの示唆が含まれているようにも感じなかった。(言村)

 これもまた迷える逸品です。端的に言って、この文体も好みですし、また文体から立ち
現れる、世界観もセンシティブでありながらシャープ、心地よいです。ですが、それで一
気に面白いかと問われると、今ひとつ突き抜けるものを感じません。これがもう少し長い
作品であれば、と幻想してしまいます。(秋山)

 少女の、漠とした不安の中でひらひらと舞うようなイメージと、それに寄り添う文体が
洒落ています。(遥)

 34┠》 蒼ノ下雷太郎「サンタクロースよりも偉大なモノ」

 宗教を使って虚構を描き出そうとするために、サンタクロースを持ってきたアイデアの
切り口が上手いと思う。話の展開も面白くはあるが、サンタクロースを暗示にして神の虚
構性を言おうとしたにしては神について深く触れられず、また「自分がした虚構」という
のも何を指しているのか、彼の宗教か金儲けか十字架にキスしたことか子供たちにテロを
させたことか他のことか、分かりにくい。書いている途中で書きたいことが変わってしま
ったせいで、ちぐはぐな印象になってしまったのではと思った。(言村)

 これはグッドな掌編です。現実に溢れる虚構か? と問われれば、首を傾げないでもな
いですが、ちゃんとしたストーリィが構築されているのは、間違いないと思います。秋山
の好むところでないのは残念ですが、しっかりとまとまった、完成度の高い一作です。
(秋山)

  やや厚みに欠ける印象です。主人公はどのような状況下で子供たちに勧誘を行ったの
か。孤児院などでしょうか、道端でしょうか、それとも自分の家に誘拐してきてから徐々
に洗脳していったのでしょうか? 物語のプロット自体はしっかりとした良いものだと思
います。細部の描写があれば、さらに良かった。(遥)

 35┠》 蒼ノ下雷太郎「AくんとKくんの比較」

 AくんとKくんがアリとキリギリスであることは読み始めてすぐに推測できるが、まさ
にそうであったことや、アリとキリギリスの話とそう変わることの無い展開や「夢を見る
のはタダだよね」というのがそれまでの流れと少し異なる話題のような気がして取ってつ
けたものに感じるので、あまり迫ってこないというか説得力がないので、全体としてあっ
けない印象だった。(言村)

作品を一読、最初に思い浮かんだ作者の名前がAで始まっていたので、まさかこの小説は、
いわゆるユートピア小説か! と思ってしまいました。作品への感想は特にありません。
感想文か、エッセイみたいなものでしょうか。(秋山)
 
 子供向けの教科書に載っているなにかの解説文みたい、という印象を持ちました。
 夢は叶えたところで終わりではなく、夢を叶えたA君にはそれなりの地獄が待っている
のかもしれず、ほやほやと虚構にたゆたうKくんは、馬鹿でもそれなりに幸せなのかもし
れません。叶わぬ夢の/叶った夢のその先で二人がどのように生きるのか、そこにこそ物語
があるのではないでしょうか。(遥)

 36┠》 水池亘「かわいいかわいいわたしのねこ」

 どんな生き物なのかは分からないながら読んでいるうちに可愛く思えてきて、客人が席
を立とうとするのが不思議なくらいになった。語り手の愛情の深さがそうさせたのだろう
が、それが最後の畳み掛ける誘いで、怪しい執念に変わる片鱗を覗かせるのにぞくぞくし
た。しかしいまひとつ迫力に欠けているようにも思う。べつに見たことの無い生き物なだ
けで、ペットとして扱われうるものなのだから、さほど恐れることもなかろうし、飼い主
である語り手の怪しさもあるけれど、最後にちょっと見えるだけなので、もっと強く、こ
の状況の怪異ぶりを示しても良かったように思う。(言村)

 これはナイス狂気。ねこ好きとして、期待の抱けるタイトル! と思いきや、予想外の
方向に話が転がり、秋山涙目です。着想も飛びぬけていますし、それを描写する筆力も充
分。世界観、物語、人物、文体、テーマ、5点が完璧に揃ったうえに、凄まじい完成度を
誇っています。傑作でしょう、これは。(秋山)

 話が進むにつれ、にじみ出す狂気が非常にいい感じです。遥はこういう類の、名前がズ
レてしまう話がたいへん好きです。ラストが大人しめなので、もう少し極端に突き抜けて
てもいいかもしれません。(遥)

 37┠》 小田牧央「あなたの真実の物語」

 権利者ってテッド・チャンかと思ったら、むこうは「あなたの人生の物語」だった。前
回も一行だけの作品があったが、あれはテーマとの関連が分かったが、こちらは残念なが
ら分からなかった。ニコニコ動画のスキーマを使っているようだとは思うが、それがどう
“現実に溢れる虚構”に繋がっているのだろうか。もしも自分の真実の物語が存在するな
ら、その権利者は自分自身であろうし、その申し立てで削除されたのでは良いではなかろ
うか。すでに他者の目に触れた可能性が恐怖なのだろうか。世間に自分の真実の物語が出
回っていることが恐怖なのだろうか。しかし本当のことを知ってほしいなんて人はざらに
居るようにも思う。もちろん自分に都合の良い“本当のこと”なのかもしれないが。いず
れにしても、タイトルとの関連性はあるにせよ、テーマを考慮に入れても、つまらないと
思う。(言村)

 ニコ中ですね、分かります。(秋山)

 ああ、あれ、削除して頂けたんですな。(遥)

 38┠》 添田健一「猫とマオ老人」

 暖かな空気から、最後の厳粛さへと穏やかに着地する様が呼んでいて実に心地良く、語
り手の「わたし」が感じている感動がよく伝わってくる。この様を作っている大きな要素
のひとつが、猫たちの態度であろうと思うが、では何が猫たちをして毛老人の碑に対して
そうさせているのかは、よく分からない。猫たちが毛老人へ畏敬を抱くだろうと思える記
述は見つけられなかった。毛老人を仲間と思い、仲間の慰霊のつもりなのだろうか。それ
とも猫たちは、死して猫となった毛老人の子孫なのだろうか。全体として見事に読み手に
訴えかける文章力は並外れていると思うが、話としては疑問が残るものだったと思う。
(言村)

 雰囲気抜群の佳作、と言うのが第一印象です。繰り返しの再読に耐えられる、骨のある
文章である一方、作品それ自体は極めて地味なので、どちらかと言うと派手な作品と合間
に、ひとつ配置しておいて読者の気を緩める作品といった趣きでしょうか。この方の書か
れた短編集が読みたいです。(秋山)

 これも上品な物語だと思いました。全体に、肩に力の入った感じの作品が多い中、この
作品はゆったりとした空気感を漂わせており、印象的でした。(遥)

 39┠》 白縫いさや「I'm home」

 ひとつひとつの描写は躍動感があり、鮮やかに変化してゆく光景は魅力があると思うが、
どこか抜けているような、展開が一方的というか、小説という嘘を書いていながらそうと
見せないものが、嘘を書いているとはっきり曝しているような、そんな感じがする。こう
いうとき、物語に必然性がないとか評すのだろうか。最後に引きこもって痛みを乗り越え
たぞ、というのもいまひとつしっくりこない。(言村)

 クトゥルー物でしょうか。そうなのかもしれませんし、そうでないのかもしれませんが、
他の作品群が一様にオリジナルの世界観なので、その中にこういったものが一編でも含ま
れると、なんとなく色褪せて感じてしまいます。物語それ自体に関しても、今ひとつ飛び
ぬけるものがなく、ステレオタイプに感じました。(秋山)
 
 冒頭の水中都市のイメージも魅力的ですが、進化、メタモルフォーゼの描写がダイナミ
ックで美しいです。(遥)

 40┠》 仲町六絵「模型職人」

 まず「遺構」とあって、ずいぶんと明治から過ぎた時代なのかと思ったが「新しい考古
学」でうまく時代を特定させ、夢の話と合わせて、祖父が通っていた学校の模型を作った
のだなということが自然に伝わるようになっているのが巧いと思った。また考古学が手が
かりを元に“過去”を推測して虚構を組み立てるものと言える点と、“今”がどんどんと
“過去”という虚構を組み立てる対象になっている点が、“現実に溢れる虚構”を絶妙に
表していると思うし、それを丁寧に描き出していると思う。最後にかんしては「やわらげ
た。」までで十分で、そのあとは蛇足だったのではないかと思う。説明的に感じて、余韻
が薄くなった気がした。(言村)

 これは心地の良い作品ですね。2つ前の作品と同じく雰囲気が抜群で書き手の優しさが滲
み出ています。考えてみればテーマの性質上、ブラックユーモアに属する作品が多かった
ので、こういったのんびりする掌編は、返って埋没せず、浮かび上がってきますね。堪能
させて頂きました。(秋山)

 これも空気感がいいですね。ただ全体に淡々としているので、もっと情感のこもった文
体で、お祖父さんと主人公との不思議なつながりを強調するのも良かったかもしれません。
(遥)

 41┠》 侘助「嗤うな。」

 可愛い。今回の応募作の中ではあまり可愛いと感じるものは無かったと思うが、中でも
最も可愛らしいと思った。たぬきソバや綿貫という名前など、伏線を張ろうという作者の
苦心がうかがえるように思うが、同時に綿貫君の視点で見るとそれらが彼の隠し切れない
タヌキ的性質を思わせて、なんとか人間としてやっていこうと頑張って勤めているのだろ
うなと感じた。また、それにより最後の憤慨が際立って感じられた。このあとも綿貫君が
頑張っていてくれたらいいなと思う。(言村)

 いやあ、これは世紀の大傑作でしょう(笑)。いや、ふざけているわけではなく、素直
に面白かったです。一行目から「たぬきソバ」とあって、妙なところでディテールが凝っ
ているなと思っていたら、途中で「綿貫君」、そしてこの結末。実にくだらないわけです
が、そこまでの展開が巧みで、読み手をリードする書き手の優しさが見えるくらいです。
面白かったです。(秋山)

 想像されるユーモラスな画に、思わずPCの前でにやっとしてしまいました。むちゃく
ちゃセンスの良い掌編です。(遥)

 42┠》 渡邊利道「夜の秘密」

 夜がやってくるというのは、さして珍しくもないと思うが「どうも」と言ったりしてい
るので面白くなりそうかと思ったが、結局は用を足しながら扉の向こうを思うだけで、そ
れまでの経過とも特別つながりがあるわけでもないように思うし、なんでもない結末に着
地してしまったのが残念に思う。場面の展開が次々と行われるのに比べて、描写が落ち着
きすぎているようで、躍動感がもっとあってよかったのではと思う。(言村)

 あ、いいですね。このすっ呆けた文体に、拍子抜けの展開。現実逃避に全力な語り手に
も、好感を抱くことができました。ただ、改行がないのには首を傾げました。改行がない
小説が駄目なのではなく、物語の要請上、改行がないのは分かります。けれど、こういっ
た独白系の小説の場合、改行を挟むことで、語り手の呼吸、もしくは間合い、を表現でき
るのではないでしょうか。(秋山)

 「どうも」なんてのんきな態度とは裏腹に、夜の不気味な侵入のイメージと、主人公の
行動からにじみ出るパラノイアックな空気感が魅力的です。(遥)

 43┠》 佐多椋「1.大学時代に取り組んだことを記入してください。」

 途中「五十ターンに及ぶ戦闘」とあったのでネットゲームかとも思ったが、ビジネスを
考え出したりしているので違うのかとも思いきや、383 名(合計で)もの死者を出したこ
とをコミュニケーション能力の獲得で済ませてしまうし、挙句は就職しようとしている先
もなんだか怪しそうなところと、面白そうな要素がこまごまと詰め込まれていて、しかも
それらがエントリーシートの記述(だろうか)というフォーマットにうまく収まっている
のが面白かった。よく次から次へと考え付くものだと思って読んだが、しかしそれは作者
に対するものだろうし、ならば作品に対してはどうかと見直してみると、奇抜さはあるも
のの、浮世離れしすぎているのだろうか、現実感はあまり無く、それほど面白味はないよ
うにも思う。(言村)

 こ、これは……! と一読して、もう笑いが止まりませんでした。一行目から読み手の
視線を、完全に釘付けにするぶっ飛んだ設定に、息する間もなく繰り出される意味不明な
キーワードの数々。極めつけは死者の存在です。サークル員3名の尊い命が失われただけ
でもインパクトがあったのに、その後、次々と死者の数が増えていく様には、ジャンプ系
マンガにおけるパワーのインフレを感じました。しかも、苦難の末に手に入れた能力が実
に地味と言うか、しょぼいもので、これもまた爆笑でした。(秋山)

 話でか! オチ小っさ! と思わず素でツッコミを入れてしまったのでした。イギリス
のコメディみたいな過剰さがあって(←やや偏見?)とにかく楽しませてもらいました。
学生時代とはかくも儚いものなのかしらん。(遥)

 44┠》 添田健一「旅の終わりに」

 滔々と語られるたびに対する情熱がよく伝わってくる。そして、それが旅=物語と示さ
れたとき、この作品そのものが、「雲上の庭園」を表しているようでもあり、多くの書籍
が出版される現実のこの世を表しているようでもあると感じられる。新しい世界=新しい
物語を求めようとする情熱が、静かだが力強く存在していることが見事に表されていて、
しみじみと感じるものがあった。旅の終わりにあたって、また新たな旅への決意を固める、
その熱意に敬意を表したくなった。(言村)

 44編の応募作の末尾を飾る一作がこれ「旅の終わりに」です。お送り頂きました作品を、
エクセルに放り込んで、ランダムに入れ替えたのは秋山ですが、この作品が、最後に配置
されているのを見たとき、この作品に対する神の愛を感じました。なんという偶然でしょ
うか、それとも必然なのか。作品単体を読むならば、いかにも地味なのですが、応募作を
次々と読むという旅の終わりにこの作品を読むと、一味も二味も異なった気分で読めます。
短編集の末尾に欲しい一作ですね。(秋山)

 主人公が子供の頃の感覚を、変わらず持ち続けている様子が良いなあと思いました。同
時に、異国の景色に深くコミットせず、それを「物語=虚構」として、いわば安全に享受
しているかれ(彼女?)は、やはりある種の子供なのかもしれない、とも思ったのでした。
(遥)

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創刊日:2003-11-08  
最終発行日:  
発行周期:月3回  
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