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雲上マガジン vol_203

発行日:3/15

……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 連載小説「私と彼女と、それと首」      第七回
 【3】 連載小説「10.19 -October Nineteen-」    第三回
 【4】 編集後記

 ……………………………………………………………………………………………………

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 こんばんは、はるかですよ。
 今回は、「私と彼女と、それと首」の第七回、そして姫椿ひめこさんの「October Nine-
teen」の第三回をお送りします。どちらも緊迫した展開になっていますよ。
 ひめ子さんの作品は今年最初の掲載になりますね。エロティックな表現を含みますので、
そういうの苦手って方が、もしいらっしゃいましたら、ご注意を。

 それでは、ごゆっくりとお楽しみください。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 私と彼女と、それと首             第七回
                                    著/佐多椋
 ──────────────────────────────────────

依存症(2)・・・-----------------------------------------------------------------

 それからひとつ季節が過ぎた夏の夜、楓が珍しく夕食後に私の部屋を訪れた。
 結果としての状況からいえば、結局私は楓の欲情に付き合っていた。夕食のたび繰り返
されるやりとりはある種ゲームめいたものとなっていた━━たとえば楓の台詞のなかにあ
る単語が入っているか否かで暴力を与えるかを決定したり。何日かそれを繰り返すと楓も
その《ルール》の存在に気付き、その単語をわざとらしく強調したりする。すると私は鍵
となる単語を変更する。結局のところその《ルール》に厳密さは欠落していて、私がすべ
てを決定しているといっていい。私がこの家に住み始めたころと違って、そこでは楓が私
に自らを委ねている。いや、生活全体において、ほとんどの決定権は楓にあるから、私の
もとに彼女があるのは、その局面においてだけということになる。その意味を私は考えな
い。
 その夜、楓は私の暴力を得ることに失敗していた。もっとも成功した場合はすぐに陶酔
に入ってしまって、正常な行動をとることなどできなくなるから、夕食後に私の部屋を訪
れるということなどはないのだが。いずれにせよ、部屋に入ってきた楓は私に一枚の紙片
を見せた。
 何、それと私が訊くと、楓は映画のチケットなんだけどと云った。
「職場の同僚からもらったんだけど━━あ、女よ女」
「へえ」
 私は寝転がったまま答えた。
「こういう映画、知ってると思うけど、あたしは趣味じゃないから……明日日曜だからさ。
樹には関係ないけど」
 その映画のタイトルには聞き覚えがあった。売り出し中のアイドルを主演に据えた、高
校を舞台にしたアクションサスペンスだったはずだ。よくあるものだ。だが楓はこの種の
映画を病的なまでに嫌う。彼女は眼の前で殺し合いが起こったりするのが、たとえフィク
ションのなかであろうと我慢できないらしい。特に中学校や高校で殺人事件が起こって、
生徒たちが事件に巻き込まれていくような物語はどうしても受け入れがたいという。そう
いう物語が表現するもっとも大きな要素のひとつが、そういう時代を生きた生徒たちの内
面の閉塞感であったり、どろどろとした憎悪だったりする。そういうのはもう、実世界で
体験し飽きた、わざわざ物語のなかで蒸し返されたくないのだといつか私に云った。
 作品の出来は期待できそうになかったが、平坦な生活のただなかであることだし、たま
にはこういうことをするのも悪くはないだろう。そんなに暇なのならバイトのひとつでも
すれば良さそうなものだが、ことはそんなに単純ではないのだ━━むしろ単純すぎるのか
もしれないが。もちろんたまにアルバイト情報誌をめくるくらいのことはした。だがそこ
にあったのは意味を失った虚ろな言葉であったし、気付けば前の職場のことが頭を過ぎっ
たりもした。云い訳のようになるが、楓が急かすようなことがあればもっと焦っただろう。
しかし楓はまったく平然としていた。私は金銭的状態がどうなっているのかまったく知ら
ないのだが、楓はある程度贅沢ができるかのような発言を繰り返していた。しかしさすが
に余計な買い物をする気にはなれず、月初に高校生のような額の小遣いを貰い、こまごま
とした趣味の買い物や服などをして、足りなくなったら頭を下げてまた貰う、といった生
活を続けていた。楓の給料だけでふたりぶんの生活費プラスアルファを賄えるとは思えな
かったが、問い詰めることも出来なかった。
「じゃあ観てくるよ」
 私はチケットを受け取って云った。
「昼、外で食べてきて」
 いつも外出するときには云って伝えていることであるからいい加減繰り返す必要もない
のかもしれないが、私は念のため云った。彼女が最後に料理を作ったのは、私が首を手に
入れる前だった。私は吐き気に襲われ続けながら完食したあと、何があっても二度と料理
をしないように通告した。表面上は不満げだった楓は実のところ懲りていたらしく、その
後冷蔵庫に近付くことはなかった。だからこそ、首を冷蔵庫に入れることを思いついたの
だ。それでも最初に、楓を残して自宅を出たときは緊張した。出掛けているあいだ、ずっ
と首のことばかりが意識を支配していた。楓が首を見つけて狼狽する姿がいやに現実味を
帯びて脳裏に浮かんだりした。何とか用事を済ませ、帰途に着いたが、恐怖は増していく
ばかりだった。一歩一歩が重く、少しずつ破滅に向かって歩いているような気がした。呼
び鈴を押して、眼の前に現れたのが普通の表情の楓だったとき、私は世界が救われたかの
ように安堵した。ある意味では、実際に私と楓の世界は守られたとも云える。私が勝手に
世界を窮地に追い込んでいたのだから、こういう云い方は身勝手であるけれど。

--------------------------------------------------------------------・・・つづく

 次回は第204号(3月25日発行)に掲載されます。
 このコーナーに対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 10.19 -October Nineteen-        第三回
                             著/姫椿ひめ子
 ──────────────────────────────────────

 ロリコンの「ぼく」はある日美しい幼女に恋をした。年に似合わぬ残酷な笑みを浮か
べ、彼女は徹底的に「ぼく」を支配する……。
 姫椿ひめ子が贈る、エロティック・ロリータ・ストーリー。

 …………………………………… 3.Prepared image ………………………………………

薄暗がりの中に響く、くぐもった僕のうめき声。あらあらしい僕の吐息。束縛されている
僕の両手。僕、僕、僕。耳に聞こえてくるのは全部僕の音。
 押し入れの中は蒸し暑く息苦しい。その上、僕はくつわを噛まされていて発声はおろか
呼吸もままならない。玉のような汗が額に浮かび、シャツはべっとりと肌に張り付いてい
た。喉がからからに渇いて張り付きそうだった。唾液はさらさらで、やけに喉に引っかか
る。僕が何度嚥下しても、喉の渇きは潤せなかった。
「ふ」
 唐突に、僕のものではない、声。
 僕とは違う、音。
 紅月楓<こうづき・かえで>だった。彼女は息を潜めて僕に跨っている。華奢な感触。不
確かな感覚。━━いや、嘘だ。
 小さな楓の小さな身体を、僕は確かに感じている。
 家に着くなり僕は頭を鈍器のようなもので殴られて、傍らにあった麻縄━━なんでそん
なものが玄関口に有るのか。……楓が、出かける前に仕込んだのか━━で僕をぐるぐる巻
きにした彼女は、居間までずるずると引きずってゆき、しげしげと僕の顔を眺めた後、に
ぃいいと、とても邪悪な笑みを浮かべて、勢いよく僕を納戸の中に放り込んだ。
 扉を閉めると、彼女はそのままどこかへと行ってしまった。
 何分、何十分、何時間経ったか、実際には三十分ほどだろうが、僕を疲弊させるには十
分だった。
 扉が開いて、再び彼女が現れたものの、今度は彼女も中へ入ってきた。そして扉を閉め
る。そして━━闇。そして、彼女の感触。
 僕はおののく。
 楓の身体が、僕には柔らかすぎる。
 不埒な考えが頭をよぎり、下半身に跨る楓の姿を想像する。
 血液が下半身に流れ込んでゆく。━━ああ、神様ごめんなさい。僕は変態です。少女の
身体の感触に欲情してしまうような情けない変態野郎です。
「バーカ」楓が言う。「なんかあたってるんですけど、なにこれ」
 表情は伺えない。闇から声が発せられる。
「私みたいな小学生に欲情するなんて、ホント最低。お風呂は覗くし、足なんかでいじら
れて感じてるし、今度は私のパンツの感触で感じてるの? 節操ない。サルじゃない、ま
るで。馬鹿なの?」
 とげとげしい楓の声。楓の言葉が僕を傷つける。首筋が冷たくなる。それは全部真実だ
からだ。そして、楓に傷つけられたからだ。
 身体がこわばる。
 ぎゅう、と腹に何かが押しつけられる。━━手だろうか。
 楓の手の感触。右手と左手。
 衣擦れの音。口元の拘束がゆるんだ。くつわが外されたらしい。
 僕は大きく息をつく。
「なに……するの」聞いてみた。「なんで━━何を。……なんで……こんなこと、するの」
 楓は答えない。虚空の先でどんな顔をしてるのだろう。
 また無表情なのだろうか。冷たい表情をしているのだろうか。乾いた笑みを浮かべてい
るのか。
 実際は違う。楓は良く笑う。年齢通りの顔をする。年齢にそぐわない顔もする。
 でも、闇の中に浮かぶ幻影の楓は、初めてあったときの顔でいた。
 能面のように表情が無く、さりとて、喜んでいるようにも怒っているようにも哀しんで
いるようにも楽しんでいるようにも見える。複雑な顔。
 それは、人が大切なものを失ったときの表情。それは、人が愛する人を喪ったときの表
情。それは━━子供が肉親を失った表情。
 今よりもさらに、もう少し幼い紅月楓と会ったのは、彼女の両親の葬式だった。
 高校生だった僕。悲しみに包まれた空気を吸い込んで、僕も肺を痛めた。
 肺の痛みは喉に伝わり、引きつった喉の痛みは首筋から目に伝わる。目の奥が痛み、や
がて僕は涙する。
 ふと楓を見やる。
 柔らかそうな長い黒髪を後ろで束ねて、黒衣に身を包んだ少女。美人の顔立ちをしてい
る、とは、その時は思わなかった。その時は、可愛い女の子だ、と単純に思った。
 少女は泣いていない。涙も流していなかった。
 変な顔だ、と思った。形容しがたい表情。場にそぐわないような、ふさわしいような。
  感情の回路が壊れてしまったのだ、と僕はなんとなく思った。
  二年の後、楓は家に来ることになる。祖父母の家と、いくつかの親戚の家を回り、やが
て家にきた。
 楓は僕の親戚ではない。
 彼女の母が、僕の母の知人であり友人であり親友だったのだ。てっきりうまくやってい
るものだと思っていた、と母は言った。
「もともと親戚が少なかったの。両親と育ての親はずいぶん前に亡くなってしまってて、
だんなさんの方のご両親とはおつきあいなかったでしょう? お葬式なんて全然知らなか
った。━━あいつの子なんだもの、ほっとけるわけないでしょ」
 ほっとけなくて、楓はうちの子供になった。
 今は、僕の━━妹。
 妹に虐げられる、兄こと僕。
 楓が僕のベルトに手をかける。
「やめてくれ」僕は言う。
「黙って」楓に遮られる。
 腰を捻って逃れようとするけど、楓の勢いは弱まらない。
 ばちん。音がする。
 じんわりと熱を持つ頬━━ばちん━━痛━━ばちん━━熱━━ばちん。
 容赦なく顔が叩かれる。僕は肩をすくめ、顔を背ける。闇から飛んでくる楓の平手は容
赦ない。
「おとなしくしなさいよ」
 僕は━━あきらめる。大人しくした。痛いのは、いやだ。
 僕のズボンをおろす。むき出しの下着。━━なお怒張してる、股間。
「……馬っ鹿じゃないの?」
 殴られてまで感じている、僕の身体。
 にち。音がする。
 下着の中は、レストランでぶちまけた液体で濡れていた。
 下着越しに楓が僕のものをつかんだ。
 においと、音。精液のにおい。精液の音。
 にち、にち、にち、にちゃ、にちゃ、にち。
「やめて、くれ」
 楓はやめない。手を止めない。にち、にち、にち、にちゃ、にちゃ、にち。
 楓の息づかいを感じる。閉ざされた空間におかれる息苦しさのせいだ。
 音、音、音。
 におい。
 扉の木のにおい、シャツの木綿のにおい、楓の甘い汗のにおい、僕の出した平淡な精液
のにおい。
 吐息と淫猥な水音と、汗と精液のにおいで満たされた闇の中、僕はいびつな愛撫に導か
れ、楓の手の中にぶちまけた。
 口元から、恍惚のよだれが伝う。僕は快楽で満たされている。腰がしびれて、全身が虚
脱する。
 楓は手に付いたスペルマを僕の服になすりつけると、両手の拘束を解いた。
 納戸が開かれる。
 僕は思わず目をつむる。じんわりと外の光に慣れゆく視界、その隅に楓が写る。
 初めて見る表情だった。
 怒りではなかった。
 紅潮する頬は熱気のせいだ。額には玉の汗が浮かび、前髪が何本か張り付いていた。肩
で息をしながら、楓は僕の上で眉根を寄せて、下唇を噛んでいた。
「痛くなかった?」
 あっけにとられて、僕は楓を見る。楓は、僕の腕を取ると、手首をまじまじと見ながら
愛しむように両手でさすった。
「頭は腫れてない? 顔は大丈夫?」
「……うん、まあ」
 楓の右手が僕の頬に触れる。やけどするほど熱かった。
 楓の親指が、僕のまぶたを撫でた。
「変態」声にとげがなかった。「変態。ド変態。━━ロリコン」
「……ごめんなさい」
「ヒロカズなんて、きらい」
「……」
「だいきらい」
 そう言って、楓は僕の胸に顔を埋めた。

 …………………………………………… 続く ……………………………………………
 
 次回は第206号(4月15日発行)に掲載されます。
 このコーナーに対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 編集後記
 ──────────────────────────────────────

「雲上の庭園」第2回の投稿作品が先日配信されましたが、現在は「お気に入りの五作」投
票受付中です。詳しくはこちら(http://magazine.kairou.com/)をご覧下さいませ。

 それではまた次回まで、ごきげんよう。

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は3月25日を予定しております。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。
 
 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:info@kairou.com

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