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雲上マガジン vol_201

発行日:2/26

 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 連載小説「私と彼女と、それと首」      第五回
 【3】 競馬コラム「オケラ回廊」          第五回
 【4】 後記

 ……………………………………………………………………………………………………


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 お元気ですか? はるかです。
 今回は「私と彼女と、それと首」第五回、そして「オケラ回廊」第五回をお届けします。


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 私と彼女と、それと首             第五回
                                    著/佐多椋
 ──────────────────────────────────────

依存症(2)・・・-----------------------------------------------------------------

 ……眼の前に差し出された料理を見て、楓は不味そうだねと云った。いつものことだ。
 私は自分の料理を大して美味しいと思わないが、楓の作るものとは控えめに云っても比
べ物にならない。まず食べられるか、食べられないかという決定的な差がある。にもかか
わらず私と住み始めたころからずっと、もう一年になるのに、楓はこのような物云いをや
めない。
 いかにも気乗りのしない感じでひときれ口に入れたあと、
「やっぱ不味いよ、樹」
 と云った。その言葉には抑揚がなく、そう発声することがあらかじめ決められていたか
のようだった。実際、ほぼ毎日のように私はその台詞を聞いていた。私もまた、いつもと
同じように返答する。
「いやだったら残したらいいよ」
「そんなこともったいなくてできない」
「じゃあ食べたら」
「不味いって云ってるのがわからないの? 樹が責任持って食べてよ」
「じゃあいいよ、でもいまはちょっとつらいから、そこに置いておいて」
「……やっぱいいよ。食べたげる。あたしが、樹の不味い料理食べたげる。感謝してよ」
「ありがとう」
 こういった類のやりとりにも、もうずいぶん慣れたと思う。はじめの数日は戸惑い、哀
しみを覚え、そして憎みさえした。自分が連れ込んだというのに、なぜこのような扱いを
受けなければいけないのだろうか。だが私にとってこの家は、そのころにはもうれっきと
した「居場所」になっていた。耐え切れなくなり、楓を殺したり自殺したりするようなこ
とがあっても、荷物をまとめてこの家から出て行くことだけは絶対にないだろうという確
信のようなものを抱いていた。そして諦めのなかに黒々とした感情は押し込まれていたは
ず、だった。
 どうしてそのとき、そこで会話を終わらせようとしなかったのか、自分でもよくわから
ない。だいたい他人の考えていることもわからないのに、自分の考えていることなどわか
るはずもない。ただそのとき、諦めのなかに埋もれていた感情が、少しだけその姿を現し
たのかもしれない。
「……どうしていつもそう」
「え?」
「確かに私が住まわせてもらっているんだし、食べさせてもらってるんだし、文句云えな
い立場なのはわかってる。けどね、そんな云われ方しなくちゃいけない理由はないはずだ
と思うけど」
 楓は少し驚いたような表情になったが、すぐに元に戻って云った。
「生意気」
「じゃあ生意気でいいよ。とにかくね――」
「黙って」
 急に切迫した調子でそう云うので、私は気圧されて一瞬黙り込んでしまった。その隙を
衝くように、楓は一気にまくし立てる。
「よくそんなことが云えたものね、どんな育ちをしたか知らないけど。ここに住まわせて
もらってるだけ感謝しなきゃいけないのに、何その態度? 使えないし。食事は作れない
し掃除したらあたしの部屋変なふうにするし何なの、いったい? 仕事だって辞めてきた
って云ってたけど首になったんでしょ、実は。せいぜいあたしに従って、這い蹲って暮ら
していけばいいのに、樹の存在価値なんてそのくらいしか残されてないのに」
「楓」
「何?」
「いくらなんでも、云っていいことと悪いことがあると思うんだけど」
「それは知ってるけど、今云って悪いことを云った覚えはないよ」

--------------------------------------------------------------------・・・つづく

 次回は第202号(3月5日発行)に掲載されます。
 このコーナーに対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 競馬コラム「オケラ回廊」              第五回
 ──────────────────────────────────────

 競馬をこよなく愛する熱い心の小説書き雨下雫が、よあけ=遠野浩十を連れ、競馬のお
もしろさを語り倒す!!!

 …………………………… 第五回:競馬の歴史についてその4 …………………………
 

 雫:いやー、先日のフェブラリーSは良いレースだった。強い馬が上位を独占、見事な世
  代交代劇、加えてレコード決着。言うことないね。

 よ:だね、いいレースやった!

 雫:強いて言えば誰かに馬券買っといてもらいたかったね。三連単5万馬券の予想が的中
   してただけに。

 よ:さらっと言ってるけどすごいよ、それ。惜しい。予想した馬券はちゃんと買わないと。
   買った武器はちゃんと装備しないと。ってことだね。

 雫:……まあ、いつまでも愚痴ってても仕方ない。さらば俺の10万。というわけでさっさ
   と今回のネタに入ろうとしますかね。

 よ:オケラ回廊第五回! 時代はついに20世紀! そして舞台も、欧州から海を越え……

 雫:そうそう、前回の引きで分かるとおり、今回のネタの舞台となるのは今までの欧州競
   馬じゃないんだ。
   そこはアメリカ! ユナイテッドステイツ! 夢と欲望が人種の数だけ渦巻く、開拓
   と征服の大地! 

 よ:競馬の新たな時代が始まる場所にふさわしい!

 雫:――そもそも、アメリカ競馬の始まりってのは、アメリカがイギリスの植民地だった
   時代から存在していたんだ。
   連中、自分たちのモノを傍若無人に持ち込んで楽しむのが大好きだからな。なんでも、
   1620年代には既に競馬らしきものが行われていたらしいぜ。

 よ:アメリカ独立が18世紀末だってことを考えると、ずいぶんと昔から競馬文化が存在し
   たんだね。

 雫:まあ、年代から言って、ヒート競走的なものだろうけどな。エクリプスがやってたよ
   うな。……てなわけで、前回からのヒキを意識しつつ、さらに付け加えるに、独立以
   前の史料なんて俺は持ってないから、一気に250年ほど年代ジャンプ! ロマサガ2っ
   ぽく!

 よ:ちょ、飛びすぎじゃない!?

 雫:いやいや単純に足し算してみなさいよ。前回の終わりが第二次大戦の直前なんだから、
   250年ジャンプしたところでまだ20世紀にも到達してないよ。

 よ:ああ、そっか、なるほど。
   ……いやいや、ちがうよね? え、どういうこと?

 雫:言うまでもなく、ただの寄り道である。

 よ:ぶっちゃけたーっ!

 雫:ははは、それでもきっと意義はある。意味があるかどうかは振り返ってみないと分か
   らんがね。
    ――1875年、この年に、アメリカ競馬の象徴たる大レース、ケンタッキーダービー
   が創設されたんだ。
    競馬ファンでない人でも、ジョジョ厨ならこのレースの名前くらい聞いたことがある
   はずだ。STRの第一話辺りで。
   この時はダートの2400メートルって条件で施行されてたぜ(1896年より現在に至るま
   で2000メートルで開催)。

 よ:ん、あれ? ダービーなのにダート? 芝じゃなくて?

 雫:うむ、それがアメリカ競馬の特徴的なとこだな。少なくとも、イギリス競馬を範に取
   った日本競馬に慣れた人間にとっては意外に感じられることだろう。
   日本の競馬は、ここ十年こそダート重賞やらが増えてきて路線整備が進んでるが、基
   本的に『芝>ダート』って構図だしな。詳しくはたいようのマキバオーを読め。そし
   てアマゾンスピリットはカッコ良い。

 よ:カスケードは日本競馬史上最高にカッコ良いサラブレッドだよ!
   
 雫:よあけのくせにまともなことを言っている、だと……? と、それはさておき、アメ
   リカ競馬においてその構図は当て嵌まらないわけだ。むしろ『ダート>>>芝』くら
   いの格差があると思ってもらって構わないぜ。
   この辺りの事情は、アメリカ人とイギリス人の、競馬に対する意識の違いがもたらし
   たものと言えるだろう。

 よ:お国柄ってやつだね。具体的にどう違うの?

 雫:イギリス競馬を初めとする欧州競馬の在り方ってのは、要するに貴族の道楽であり、
   意地とメンツと名誉を懸けた、社交界的勝負の意味合いが強かったわけだ。
   ダービー卿の執念とかを思い出してもらえば分かると思うが。

 よ:死の間際に「私はダービーだ! オービーでもバービーでもない!」って言った人
   だね。

 雫:「コール! コール! コール! コール!」ってそのダービーじゃねえ、この鳥
   頭! よ! 〆!

 よ:ガッシ! ボカ! よあけはシンダー。アガ・カーン(笑)

 雫:(微妙に今回の核心に触れるようなボケかましてくれやがって……)――で、欧州
   競馬とは違い、アメリカ人にとっての競馬ってのは、純然たるビジネス。賞金の取
   り合い。庶民が抱く一攫千金の夢を、金という形で仲介してくれる、まさにアメリ
   カンドリームな代物だったわけよ。

 よ:欧州では意地と名誉のために馬を走らせ、アメリカでは金と夢のために馬を走らせ
   ていた、と。

 雫:そんなだから、競走馬を所有する形態にしても、人数が集まって一頭のサラブレッ
   ドを共同で購入するような、今で言う一口馬主的なものまで存在し得たりする。

 よ:儲けることが最重要だから、自分だけが所有する馬というのに固執する必要もない
   わけだ。

 雫:うむ、それで、なんでアメリカ競馬においては芝よりダートなのかってハナシだが
   ……要するに、競馬場に芝コースが無かったんだよ。

 よ:いきなり身も蓋もない結論だなあ。

 雫:そもそも欧州競馬にとっての競馬場ってのは、紳士淑女の社交場的存在だった。丘
   陵の一角を柵で囲って、そこを走る馬たちを城のテラスから遠巻きに眺めて優雅な
   ティータイムを楽しむような、そんな感じ。
   だから、芝コースが主流になった……というより、コースの体裁を整えてみたら芝
   しかなかったって感じかな。

 よ:欧州競馬にとって、競馬場が芝コースなのは自然な結果なわけだ。

 雫:片や、アメリカ競馬にとっての競馬場――そもそも競馬ってのがビジネスであり、
   庶民の娯楽ってのは先に言った通りだ。
   一種の興行と捉えてもらって構わない。現在における日本の競馬がそうであるよう
   にな。

 よ:日本の競馬も、今は基本的には庶民の娯楽だものね。

 雫:そんなわけで、競馬場の立地は必然的に便の良い平地、それも街からさして遠くな
   い……下手すりゃ街のど真ん中になったりするわけだ。
   日本で言うなら、公営の川崎競馬場を思い浮かべるのが手っ取り早いか。

 よ:川崎って、ウチから意外と近いかも。

 雫:よっちゃんのウチからなら浦和とか船橋とか川崎とか行き放題だから、機会があっ
   たら行ってみると良いぜ。現代に残る貴重な鉄火場が君を待つ!

 よ:鉄火場って響きが熱い!

 雫:で、そんな街中、或いは街外れの平地ってのは、当時のアメリカを振り返るに、基
   本的に荒野なわけよ。西部劇の如く。
   そんなとこに青々と茂る芝を生やして維持する経費も技術も無い! だから軽く砂
   撒いて整地してオシマイ! ついでに観客が喜ぶように、コースを囲むように観客
   席を設置! これであっという間にアメリカ式競馬場の完成ってわけだ。

 よ:なるほどなるほど。欧州がそうだったように、アメリカで競馬をやろうとしたら自
   然ななりゆきでダートばかりのコースになったわけだ。

 雫:そうして、アメリカ競馬においては『ダート>芝』の構図が早々に完成したわけだ
   が……ついでに言うと、『短距離>長距離』という構図も、着々と成立しつつあっ
   た。

 よ:それもまた、欧州とは逆だね。確か、欧州の競馬は長距離レースのほうが格付けが
   高いよね。

 雫:そう、まさに欧州競馬とは真逆を行く展開だな。
   それでも南北戦争以前や直後は、イギリスに倣った長距離レースが主体だったんだ
   が、内戦が終わるとちょっくら事情が変わってくる。
   精神的、かつ懐的に余裕の生まれたメリケン人ならではの『アメリカ競馬=実利実
   益』という構図が関係してくるんだ。
   金満の大馬主ならともかく、例えば、一庶民がなけなしの金を叩いて購入したサラ
   ブレッドには、とりあえずさっさと活躍して元を取ってきて欲しいと思うのが人情
   だろう?

 よ:そうだね。一般庶民としては、今の馬が駄目ならその子供に期待、なんて長い目で
   見ることは難しいし、むしろ自分の馬がデビューしたら早々に勝ち星を増やしてほ
   しいところだよね。

 雫:そこに求められる資質は、一にも二にも早熟性だ。
   ついでに言えば、アメリカ競馬ってのはそういう人間が集まって開催されてる興行
   だってことだ。
   一日にできるだけ多くのレースを開催したい+観客を飽きさせたくない=短距離レ
   ース主体の開催で回転を稼ごう!……参加者と主催者の思惑は、良い感じにスパー
   クした。つまり、アメリカ競馬に求められた一流のサラブレッドってのは、早熟性
   に富んだ、軽快なるスピード馬だったってことよ。
   ――ここで思い出して欲しいのは、欧州競馬で一流とされたサラブレッドの条件だ。

 よ:たしか、長距離がメインの欧州では、スタミナこそが最強馬に必要な素質だったは
   ず。

 雫:そうだな、前回登場した『魔術師』フェデリコ・テシオ……欧州競馬にスピード革
   命をもたらした彼にしても、真の一流馬とはあくまで『スピードを兼ね備えたステ
   イヤー』と言っている。
   持久力に秀でた大器晩成なる競走馬こそ、欧州競馬にとっての一流馬だった。だか
   らこそ、格式の高いレースはその殆どが2400メートル以上の長距離で行われていた。
   中でも、英国競馬最大の権威の象徴たるダービーは、優れたスピードとスタミナが
   両立されていなければ勝てないとまで言われていた2400メートルという、いわば
   『究極の距離』で施行されていたわけ。

 よ:でもそうすると、その欧州式の構図は、アメリカ競馬にはまったく当てはまらない
   ね。長距離よりも短距離のレースが多い上に、そもそもダービーが芝じゃなくてダ
   ートな上に2000メートルだし。

 雫:そのとおり。アメリカ競馬ってのは、一に早熟二にスピード、三、四が距離で五に
   娯楽ってノリだぜまったく。
   しかし、結果的には偏執的とさえ思われるそのスピードと早熟性への執着が、後に
   斜陽の時を迎える欧州競馬を侵略し、遂には世界規模の価値転換をもたらすほどの
   大波に化けることになるとは、未来に生きる俺たちにしか分からぬ事だったのです
   ……。

 よ:次回予告っぽい語りになってるけど、まだ続くんだよ! このあたりで今回の折り
   返し地点くらい?

 雫:そんなところか。いよいよこっから、今回の主役とも言うべきサラブレッドの話題
   に入るぜ。
   そして、ここで再び年代ジャンプ。時代は第二次大戦後の世界へと進む!

 よ:こんにちわ、久しぶり20世紀!

 雫:――連合国側の主軸を担い、大戦を勝利へと導いたアメリカは、経済面において爆
   発的な飛躍を遂げ、一方で、かつて世界経済を席巻した大英帝国イギリスはその経
   済力に深刻な打撃を浴び、ユニオンジャックの威光はすっかり形を潜めてしまった。
    植民地から巻き上げた金を頼りに、湯水の如く競馬へ投資する余裕を失ったイギリ
   スは、やがて過去からの報復を受けることになる。

 よ:過去からの報復?

 雫:一流のスピード能力を持ちながら、クラシックディスタンスへの適性が無かった故
   に海外へ……アメリカに売却されていった、自らが二流かそれ以下と見捨てた、と
   あるサラブレッドの血脈に、自国の大レースを片っ端から制覇されることになった
   のさ。

 よ:それが今回の主役のサラブレッド……?

 雫:ああ。……前回の主役だったネアルコの産駒の一頭であるナスルーラ――回教語で
   『偉大なる』を意味する名を持つこのサラブレッドの威力は実に凄まじかったと言
   える。

 よ:あ、その名前は以前から知っている! ゲームで見たことあるよ。

 雫:ダビスタでは特に有名かな。スピードダブルアップと気性難の効果を持つクロスと
   して。
   ある意味、これほどナスルーラの特性を分かり易く言い換えた代物もあるまい。

 よ:その馬は現役時代もやっぱり強かったの?

 雫:強かったかどうかというと、まあ強かったんだが……。元々ナスルーラはイギリス
   産のサラブレッドでな。現役時代は最優秀2歳牡馬に選出されたり、英2000ギニー
   で本命に推されたりもしたが、結局は大レース優勝の勲章を手にすることなく現役
   を退いたんだ……まあ、そこそこに能力のある競走馬って感じかな。
   
 よ:ありゃ、今でのパターンとはちょっと違うね。てっきり雫さんの中二回路がフル稼
   働するかと思ってスルーの準備万端だったのに。

 雫:ん、後で覚えとけよ〆野郎……で、だ。そんなナスルーラは、気性が凄まじく悪く
   てな。世話人に次々と襲い掛かったり、現役時代から芳しくなかった癇性がさらに
   酷くなったもんで、種牡馬生活の二年目に、嫌気が差したオーナーにあっさり売り
   払われてしまうんだなコレが。

 よ:見る目ないオーナーだなあ。

 雫:おいおい、そんなこと言って、後で泣きを見ても知らんぜ? そのオーナーのアガ・
   カーン三世って人は、当時イギリスの植民地だったインドの大富豪でな。
   金にモノを言わせて欧州競馬の頂点に立った、恐るべきオーナーブリーダーだった。

 よ:あ、すごい人だったのか。

 雫:うむ。1957年に死亡するまで、英ダービー馬を三頭生産、英首位馬主に十三回、英
   首位生産者に九回、その座に輝いてる。
   他にも、購入馬の中から英ダービー馬が二頭出て、最終的には英国クラシックを全
   制覇してるな。

 よ:なんというチートw

 雫:解析コードは莫大な外貨ってとこか。そんなバケモノ馬主にとってみれば、いくら
   ネアルコの血を継いでいようが、ナスルーラは手持ちの競走馬、種牡馬の中でも格
   下の、扱いに困る存在だったということだろう。

 よ:なるほどなあ。でも勿体ないことには違いないよねえ。そんな事情で、ナスルーラ
   をアメリカに売ってしまうなんて。

 雫:いやまあ、そう言えるのは俺たちが未来に生きてるからだし、そもそも、まずナス
   ルーラはアイルランドに渡ったんだ。
   そこで初年度から、愛ダービー馬や牝馬二冠を達成した産駒を輩出して、さらに、
   古馬になってからアメリカに渡ったヌーアって産駒が、米三冠馬のサイテーション
   を四度に渡って撃破するという大活躍を見せたんだ。

 よ:やっぱり、アガさんは見る目ないな!

 雫:ここまで結果出してるのに買い戻そうって動きが起きなかったんだから、案外、ホ
   ントにそうだったのかもな。
   つまり、それでもナスルーラに対する英国での評価は上がらなかったわけ。リーデ
   ィングこそトップ10の圏内に居座っていたが、これと言った大物も出ていない、下
   手な鉄砲数撃ちゃ当たる的な印象しか持たれてなかったんだろう。
   それに、アイルランドやアメリカでいくら活躍馬を出したところで、偉大なる英国
   競馬にとってはなんの魅力とも映らなかったんだろう。
   特に、アメリカ競馬はイギリス競馬とはあまりにも体系が異なっていたわけだしな。

 よ:それは今回、様々な点で確認したところだね。

 雫:しかし当然、アメリカ人はヌーアの活躍を、ひいてはナスルーラの存在を強烈に意
   識する。
   母国の誇りを傷付けられたってこともあるかもしれないが、何よりも、そんな強い
   馬の父親なら是が非でも欲しい、というところが大きかったんだろう。

 よ:ストロングイズビューティフル! なんともアメリカンだね!
 
 雫:パワーイズジャスティス! 力こそパワー! 可愛いは正義! ってわけだな。

 よ:え……あ、うん――えっ?

 雫:で、アメリカの大牧場であるクレイボーン牧場主のアーサー・B・ハンコックとい
   う人物が早速、ナスルーラの購入に動いた。

 よ:見る目あるな、ハンコックさんは! アガさんとは大違いだぜ!

 雫:このハンコックさんのオヤジ殿は、以前にアガ・カーン三世からブレニムっちゅう
   英ダービー馬を購入して種牡馬として繋養し、アメリカ競馬全体の血統的底上げを
   行った偉いおっさんでよ。
   結果的にクレイボーン牧場の存在をアメリカ競馬界に知らしめた、偉大なる父ちゃ
   んだったわけだ。

 よ:そこでまたアガさんが関わっているのかい。因縁めいているねえ。親子二代にわた
   って、アガさんの所有していた馬で成功を収めるとは……ドラマだねえ。

 雫:サラブレッド談義なのに、まさかの人間の血のドラマですよ、よあけさん。
   ともあれ、ナスルーラを購入しようとしたハンコックさんは、足元見られまくって、
   三十七万ドルっちゅう大金を払うことにはなったが、資本大国アメリカの大牧場主
   がその程度で諦めちゃうわけがなく、きっちり払うものを払ってナスルーラをアメ
   リカに連れてくることに成功したんだ。

 よ:ハンコックさん親子は偉いねぇ、流石はクジャの蛇姫!

 雫:そう、まさに可愛いは正義! ってちゃうわボケ! と、たまにはノリツッコミで
   仕切りなおしてみるが……そうしてアメリカに渡ったナスルーラは、初年度からナ
   シュア(1954年年度代表馬)を出し、ボールドルーラー(1957年年度代表馬)を出
   し、レッドゴッド(14戦5勝)を出し、ネヴァーベント(1962年最優秀2歳牡馬)を
   出した。

 よ:おお、俺でも知っている名前のオンパレード! 主にゲームで知った名前ばかり!

 雫:うむ、そろそろ現代に生きる俺たちにも馴染み深い馬がどんどん出てきたな。ダビ
   スタを始めとする競馬ゲームユーザーにとっては特に。
   加えて、イギリスやアイルランドに残した産駒の中からも、グレイソヴリン(重賞
   3勝)とプリンスリーギフト(23戦9勝)が出た。

 よ:「○○年度代表馬!」とかじゃないけど、グレイソヴリンもプリンスリーギフトも
   種牡馬と
     して有名だよね。俺、ゲームですごいその血筋にお世話になってるよ!

 雫:うむ、これには英国紳士たちも吃驚仰天。ナスルーラを早々に売り払ったアガ・カ
   ーン三世に批判殺到。

 よ:アガさん涙目(笑)

 雫:しかし意にも介さぬアガさん。一文字変えれば赤さん。正にイマーム!
   ……まあ、ナスルーラ売却については逆恨みっちゅうか、多分お前らでもそうした
   よな的なツッコミをせんでもないんだが、この人の場合、前科が凄まじいんだよな。

 よ:そういえば、ハンコックさんの親父殿にも良い馬を売り払ってるんだよね、アガさ
   ん。

 雫:ああ、前述のブレニムを筆頭に、他にもマームード、バーラムっちゅう二頭のダー
   ビー馬を売っ払ったし、ハイペリオン直系の種牡馬カーレッドなんかもそう。
   他にも、英国の至宝みたいな血統のサラブレッドを片っ端から海外に流出させたも
   んだから、かのダービー卿を始めとする英国競馬関係者から総スカンを食らったの
   は言うまでもない。

 よ:もうやめて! アガさんのライフはゼロよ! というよりイギリス血統のライフが
   ゼロよ!

 雫:それでも、だ。このアガ・カーン三世の行いのお陰で、アメリカ競馬のレベルは飛
   躍的に向上したっちゅう側面もまた確かに存在する。
   ついでに言えば、そのまま英国内において種牡馬やら繁殖牝馬を繋用していた場合、
   後に起こる可能性の高かった『血の袋小路』をも事前に回避したことになる。

 よ:なんだ、アガさんにもいいとこあるじゃない。

 雫:多少、やり過ぎな感もあったんだろうが、この偉大なる人物のお陰で、結果的に競
   馬のレベルが世界規模で上昇したと言っても過言ではないんだぜ。

 よ:そのせいで割を食った英国競馬界はたまったものじゃなかっただろうけども。現代
   からの視点で見たら、アガさんの功績は偉大だね。

 雫:そう……現代の視点から見て英断だったことも事実だが、確かにとんでもない割り
   を食うハメになったんだよイギリス競馬界は。

 よ:え、貴重な血統が流出して涙目ってだけじゃないの?

 雫:さっきも言ったろ? 過去から『報復』されたって。アメリカに渡ったナスルーラ
   の血脈は、後にアメリカ生産馬として、欧州の競馬界を席巻することになる。
   生産はアメリカ、調教はイギリスやフランスといった欧州各国……日本で言う『マ
   ル外』(海外生産の日本調教馬)のようにな。
   代表各はやっぱミルリーフ(欧州三冠)かな。

 よ:あ、ミルリーフも知ってるんだぜ。そうか、ヨーロッパで走ってたってことは知っ
   てたけど、アメリカ産だったのかミルリーフ。っていうか、自分が名前を知ってる
   過去の凄い馬って、ナスルーラ系こんなに多かったんだね。

 雫:よっちゃんも、少しはナスルーラの偉大さがわかったか?
   ――それにしても、かつては海外の優れた血統に一方的に蹂躙され続けた日本競馬
   と違って、一度見捨てた自国の血脈に『外国馬』として復讐されるのは、一体どん
   な気持ちなんだろうな。そんな思いは、俺たちは出来ればしたくないもんだぜ。
   
 よ:だね。日本競馬界には、頑張って内国産の血脈を大切に守り抜いて欲しいですな。 

 雫:よあけのくせに……泣かせること言ってくれるじゃねぇか。珍しく感動したぜ!

 よ:最後にちょっと湿っぽくなっちゃったかもですが、アガさんとナスルーラの偉業を
   語り終えたところで、今回のオケラ回廊、これにてお開き!

 雫:さて恒例の次回予告は……『アメリカの猛威は着々と欧州を侵略し、世界の競馬の
   中心の座をイギリスから完全に奪っていた……ああしかし、そこで悲劇は、起こる
   べくして起こってしまったのというのか!?』
   次回、オケラ回廊第六回『Phantom Blood&Gray Ghost』!

 よ:止まる事を知らない雫嬢の中二回路に限界は無いのか!? 待て、次回ッ!


   ━━━━ □ オケラのおまけ:20世紀米国の競馬について □ ━━━━

  http://www.nicovideo.jp/watch/sm5118814

 youtubeからの転載動画。20世紀のアメリカ名馬100選TOP10。
 アメリカ競馬最高峰の空気をほんのり味わいつつ、今回登場したあの馬の名前や次回登
場するその馬の姿がちらほらと。
 トップ3は別格として、雫嬢的には35位のラフィアンが一押し。次点に48位のパーソナル
エンスンかな。見たけりゃググれ! 

 ……………………………………………  走  ……………………………………………

 このコーナーに対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第204号(2月25日号)に掲載予定です。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 編集後記
 ──────────────────────────────────────

 現在募集中の「雲上の庭園」ですが、締め切りまであと3日です!
 テーマは「現実に溢れる虚構」。お急ぎください!
 投稿は回廊公式サイトの専用メールフォーム(http://magazine.kairou.com/info/garden.html)からお願いします。

 それではまた次回まで、ごきげんよう。

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は3月5日を予定しております。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。
 
 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:info@kairou.com

   ……………………………………… テーマ ………………………………………
  
  10/15...「結婚しました」
  10/25...「真夜中の仮想パレードへようこそ」
 11/5...「六年目の結末」
  11/15...「ただいまママー」
  11/25...「王手!」
  12/5...「海岸の白い貝殻」
  12/15...「がばちょ」
 1/25...「人形の陰謀」
 2/5...「隠れた名作」
  2/25...「ミ、ミズをくれぇ〜。」
 4/5...「方は、いやぁ、眠い。」

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