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雲上マガジン vol_199

発行日:2/5

 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 連載小説「私と彼女と、それと首」      第三回
 【3】 後記
       ──「雲上の庭園」第二回募集開始のおしらせ ──

 ……………………………………………………………………………………………………
◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 はるかです。ひどく風邪をひいてしまいました。それも、ほかは何もないのに咳だけひ
どくて、実に難儀です。
 さて、今回は「私と彼女と、それと首」の第三回をお送りします。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 私と彼女と、それと首             第三回
                                    著/佐多椋
 ──────────────────────────────────────

依存症(1)・・・-----------------------------------------------------------------

 そうして私は、はっきりとした疑念を持ちながらも、素性の知れない少女について、公
園前の一軒家へと戻ることになった。改めてみると、二階建てのその家はかなり真新しい
ようだった。私のなかでいくつもの物語が構築された。そしてそのすべてにおいて、少女
は悲劇のもとになった。しかし絶望し、打ちひしがれているはずの主人公は、いま私へ向
けて屈託のない笑みを浮かべている。あるいは彼女は、両親を失ってからはじめて笑って
いるのか。それならいい。私という存在が、彼女にとって必要だということだから。もし
そうでないとしたら——それからずっと、彼女が笑い続けているとしたら。それが狂気に
よるものであるならまだいい。理性によるものであるとしたならば。
「あ、云い忘れてたけど」
 急に少女が云った。
「あたしの名前、楓っていうから。早い、葉っぱって書いて、早葉楓」
 それから何も云わず私を指差した。遠慮のないジェスチャーだったが、それは気になら
なかった。しかし先ほどのグロテスクな妄想の残像が私をためらわせた。呼吸を整えて、
云う。
「中条、いつき——字は、えっと、樹木のじゅ」
 いかにも困った顔を作って、それでも動揺してない風を装って。私のなかに指導する誰
かがいる。楓の眼を見る。
「男みたいな名前でしょ」

 楓はゆっくりドアを開き、誰もいないはずなのになかを一度覗き込む。ただいまと小さ
く呟いてなかに入る楓に、私は続いた。玄関には男物の靴がいくつも残っていた。楓は私
のほうを振り返りもせずに廊下を歩く。否応なしに家の状態が見て取れた。ひどく散らか
っている。そこらじゅうに物が落ちていた。ぬいぐるみの横に添えるように置かれたフロ
ッピーディスクの束。食器の上にある文庫本。どうしたらこんなふうに、まったくばらば
らに散らかすことが出来るのだろう。とりあえず掃除をする必要があると私は強く思った。
突き当たりにある居間にたどり着いた楓は、床に寝転がり、テレビの電源をつけた。私を
案内するつもりはなく、単にテレビを見るために歩いていただけだったらしい。私は呆れ、
勝手に家のなかを見回ることにした。
 すべての部屋を見終わったあたりから、私は強烈な違和感に襲われ始めた。生ゴミがな
い。転がっていたペットボトルを拾い上げた。オレンジジュースが入っていたもののよう
だと思い、底を見たが一滴も橙色の液体は残っていない。かわりに、透明の水滴が全体に
付着していた。この状態が意味するものは明らかだった。一度中身を洗い流したものを、
楓は部屋へと戻している。しかもそれは、捨てるため、あるいは再利用するために並べて
いるのではなく、飲み残したもののように放置されている。テーブルの上に雑然と並べら
れた食器を観察する。やはり食べ残しは一切残っていない。
 一度見回った部屋に戻る。そして気付く。各部屋に、あるものは一個ずつしか置かれて
いない。コップも、シャープペンシルも、文庫本ですら、ひとつの部屋にひとつしか置か
れていない。それに気付いて、確認するために何度もすべての部屋を回って、私は結論を
出さざるを得なかった。楓はわざと散らかしている。腐って悪臭を放ちかねない生ゴミを
周到に回避して、無機物だけを家のあらゆる部屋に配置している。まるで、自分の住んで
いる家を、ある種の法則性のもとに一個のオブジェとして成立させようとする試みのよう
に思えた。なぜそんなことをするのか。わからない。思考が平衡を失おうとしていた。そ
うだ私だって少しくらい散らかった部屋のほうが落ち着くじゃないかと馬鹿げたことを考
えて落ち着こうとしたが無理だった。しばらく考えて、結局私は最初に考えたことを実行
することにした。……掃除をしよう。

--------------------------------------------------------------------・・・つづく

 次回は第199号(2月5日発行)に掲載されます。
 このコーナーに対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 編集後記
 ──────────────────────────────────────

■□ 「雲上の庭園」第2回募集のお知らせ □■

 昨年の夏に第1回募集を行い、応募作のうち40編が『幻視コレクション』としてまとめ
られた「雲上の庭園」。
 「文芸スタジオ回廊」の公式サイト(http://magazine.kairou.com/)ではすでにお知
らせしておりますが、このたび第2回募集を開始いたしました。
 テーマは<現実に溢れる虚構>。フォーマットは20字×50行、締切は2月28日です。
 くわしくは上記の公式サイトをご覧くださいませ。みなさまのご応募、お待ちしており
ます。

 それでは、また次回。
 

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は2月15日を予定しております。

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