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雲上マガジン vol_197

発行日:1/16

 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 私と彼女と、それと首             第一回
 【3】 後記

 ……………………………………………………………………………………………………
◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 みなさん、こんにちは、遥彼方です。さむいですね。
 指先と鼻の頭がつめたくて、難儀しています。

 さて、今回と次回、作者多忙によりまして姫椿さんの「9.15」はおやすみです。
 が!
 新連載「私と彼女と、それと首」がスタートします。
 独特のするどい文体で綴られる、めくるめく狂気の物語。
 どのような世界がひろがるのか、まずはご自身の目でお確かめ下さいませ。

 どうぞ、ごゆっくり。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 私と彼女と、それと首             第一回
                                    著/佐多椋
 ──────────────────────────────────────



0.・・・------------------------------------------------------------------------

 そろそろ食事にしてよという楓の声が聞こえたので、私は壁によりかかっていた身体を
起こす。テーブルのうえに置かれた時計に眼をやると確かにもう料理をを始めなければい
けない時間だ。ひとつため息を吐いて立ち上がる。楓は部屋にいるらしく、ここから姿は
見えない。
 キッチンに置かれた、ふたりで使うには大きすぎる冷蔵庫。楓は料理をしないので、私
だけが使っている。というか、楓には使わせないようにしている。もとより彼女は料理が
出来ない。むかし一度だけ、楓が作った料理を食べたことがあるが、美味しいとか不味い
とかではなく、根本的に間違っているとしかいいようのないものが出来てきたのを覚えて
いる。見た目はいかにも美味しそうなのだが、口に入れてみると、まず味を感じるのでは
なく異物感に襲われる。五寸釘でもアロンアルファでも塩化ビニールでもいい、とにかく
食べてはいけないものを食べた、という本能的な危機に見舞われたことに私はそのとき気
付いたのだ。
 さらに冷凍食品に関しては私の強い主張により購入してないので、結果としてこの冷蔵
庫を使うのは私だけということになる。手を洗って、私は白くそびえる三段型の冷蔵庫の
前に立った。強いリズムを刻む心臓の鼓動を押さえつけようとする、無駄だとわかってい
るのに。冷凍庫の取っ手を持つ。罪悪感ももうかなり薄れていることを私は自覚している。
引く。そこに物はひとつしかない。若い女の生首。

------------------------------------------------------------------------・・・・



依存症(1)・・・-----------------------------------------------------------------

 私がはじめて楓に会ったとき、彼女は穴を掘っていた。比喩ではない。
 帰宅途中にある公園のことを私は思い出す。砂場、錆びたブランコ、滑り台。歩いて十
分ほど離れたところに、より規模が大きく整備された自然公園があるので、ここで子供た
ちが遊んでいるところを見ることは滅多にない。すると必然的にここをメンテナンスしよ
うとする者もいなくなるので、さらに遊具は放置され、自らを罰するかのように朽ちるの
を待つことになる。
 いつものように深夜に帰宅する途中、最寄り駅を出たころから降り始めた雨は、公園の
前を通りかかるころには耐え難いほどに強くなっていた。コンビニエンスストアで傘を買
うことも考えたが、十分程度の道程であることだし、そのようにして増えた傘が自宅に三
本もあったので、高をくくって歩き出したのが間違いだった。自棄になっていたのかもし
れない。
 視界は闇に、聴覚は雨音に支配されていた。公園の周りには街灯が三本立っていたが、
一本は完全に灯りが消え、残りのうちの一本も明滅を繰り返しているような状態だった。
それなのに——あるいはだからこそなのか、うずくまって、公園の砂場をに何かを突き刺し
ている少女の姿は、違和感とともに強烈に私の意識のなかに入り込んできたのだった。
明滅している街灯の光が、彼女を照らし出し、そして隠していた。髪は肩までぐらいなん
だ、そんなところにまず眼がいった。だからあるいは男である可能性ももちろんあったの
だが、なぜか私は女だと確信していた。
 いつもの私なら、こういった類の人間に近付きはしない。ではなぜこのとき、もとより
まともな神経を持ち合わせているとは思われない少女のもとへ近付いたのか、今でもうま
く説明できない。気がつくと、という表現をしてしまえば楽ではあるが、それでは行動の
責任を無意識に負わせているに過ぎない。あるいは、傘もささずにこの豪雨のなかいる、
その無謀さに対して親近感を覚えたのかもしれない。何しろそのときは私もその無謀さを
共有してたのだから。だがそう説明しようとすることも、なんだか易きに流れているよう
で違和感がある。結局のところ、風邪でも引いて頭がぼうっとしていたからだろう。靴の
下で水気を含んだ砂の粒がゆっくり動くのを感じながら、私は少女のもとへ背後から一歩
ずつ近付いていった。彼女が私に気付く気配はなかった。
 近付くにつれ、雨音のあいだを縫うように、どこか聞き覚えのあるような別の音が響く
のを感じていた。しばらく何の音だからわからなかったが、少女の背後に立って彼女が握
っているものを見たときに全ての要素が繋がり、必然的にその正体も判った。それはスコ
ップで砂場に穴を掘る音だった。少女のスコップは相当使い込んだものらしく、ピンク色
の塗装もかなり剥げていた。そのスコップを砂に突き刺し、そのまま何度も回転させて円
錐状の穴を作る。すくった土ごとスコップを穴から出して、その背で叩いて内壁を固める。
最後に自らの手のひらで、粗を削り取りながらさらに固める。そして斜め上の位置に、次
の穴を作り始める。それを雨のなか、手早く繰り返し、彼女は円で円を描いていた。雨が
降り続け、最初に作ったらしい穴にはかなり水が溜まっていたにもかかわらず崩れる様子
はない。何かこつでもあるのだろうか。私は、ああ拙いなあ、離れなきゃなあと思いなが
らもその場にとどまって少女の奇態に見蕩れていた。
 そのとき不意に、少女が振り向き、私を凝視する。何秒か気まずい時間が流れた。彼女
は二、三度瞬きをしてスコップを置く。それから唇だけでどうしようと呟いてまた少し固
まったあと、急に穴のひとつから溜まった水をすくって放った。水は私の服に届いたが、
もともと濡れきっていたので何の意味もなかった。むしろ私としては水をすくう際に彼女
の爪が穴を崩した、そのことのほうが気になったほどだった。行動の意図がわからず私が
首をひねっていると、彼女はなぜかますます取り乱し、どうしようどうしようと、今度は
口に出して繰り返す。か細い声が雨に打たれて消えてゆく。こうして間近で見て、はじめ
て彼女の姿に意識が向いた。保守的な高校で用いられるような、由緒正しいセーラー服を
彼女はまとっていた。さらに紺のハイソックス、汚れが付着した革靴。顔立ちも、少なく
とも夜の闇のなかではかなり幼く見えた。……不意に、雨音の隙間を縫うように響いてい
たどうしようという声が止んだ。それとともに同じところをぐるぐると回っていた思考も
止まる。その時、重みが私の身体にかかるのを感じた。それと同時にごめんなさいという
声が聞こえる。
 ごめんなさい?
 次の瞬間に彼女が私に抱きついて、謝罪の言葉を発していることに気付いた。私はなぜ
謝っているのだろうかといぶかしんだが、水をかけたことに対してだと気付き、気にしな
くていいよと云った。実際気にしてはいなかった。行動そのものはあきらかに故意による
もので、その理由は図りかねたが、とにかくそんなことよりも状況があまりに不可解だっ
たからだ。
「で、えっと、さ……何、してるの?」
 それだけのことを考えたにもかかわらず、口を衝いて出たのはあまりにも陳腐な台詞だ
った。私は昔からそうなのだ。なぜか考えたことを十全に口に出すことができない。意図
が充分に相手に伝わらない。結果として、相手も自分も苛立つことになる。苛立ちすらも
伝わらない。無為だ。とにかく私は訊いた。少女は私の問いを聞いて、なぜか微笑んだ。
そして云った。
「ほんとうのものを探してるんだ」
 ただでさえ雨のせいで聞きづらいというのに、その答えはあまりにも茫洋としていた。
表面的な意味を理解するのにすら時間がかかったのに、ましてやその内奥にあるものなど
わかるはずもなかった。だから私は、表面的な意味だけを汲んで、答えた。
「その穴のなかに、ほんとうのものはあった?」
「ううん、なかった。ここにはあると思ったんだけど」
「そうだろうね。もう帰ったほうがいいんじゃない? 帰れる?」
「うん、だいじょうぶ。家、そこにあるから」
 少女が指差した先には確かに一軒家があった。まだ疑問はあったので訊こうと思ったが、
うまく言葉にならず押し黙っていると、じゃあね、と云い残して勝手に帰ってしまった。
焦る。
「え、ちょっと、ほんとうに大丈夫? 怒られたりしない?」
 駆け寄って訊いたが、
「ひとりで住んでるから」
 表情のない瞳でそう云って再び歩き出した。もう私に出来ることはなにもなかった。
不可解だったし、心配でもあった。しかしすべては私の手のなかをすり抜けてしまった。
いろいろな選択肢が現れては消えていった。穴はもう完全に崩れ落ちて、そこはもうただ
の砂場でしかなかった。だから私はそのまま帰って眠ることにした。疲れが身体を支配し
ていた。すぐに深い眠りに落ちる。

--------------------------------------------------------------------・・・つづく


 次回は第198号(1月25日発行)に掲載されます。
 このコーナーに対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 編集後記
 ──────────────────────────────────────

 いかがでしたでしょうか。
 次回は「オケラ回廊」と、「私と彼女…」の第2回をお届けしますよ。

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は1月25日を予定しております。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。
 
 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:info@kairou.com

   ……………………………………… テーマ ………………………………………
  
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  11/15...「ただいまママー」
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  12/5...「海岸の白い貝殻」
  12/15...「がばちょ」
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 2/5...「隠れた名作」
  2/25...「ミ、ミズをくれぇ〜。」
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