文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_191

2008/11/15

 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 実験超短編企画「ハコニワ」        第三回
 【3】 連載小説「10.19 -October Nineteen-」   第一回
 【4】 連載小説「ワダチ」            第三回
 【5】 編集後記

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◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 みなさま、こんばんは。遥です。
 今回から新連載が始まりますよ! 姫椿ひめ子さんの『10.19 -October Nineteen-』で
ございます。めくるめくフェティシズムとエロスに満ちた世界が展開されます。
 もちろんアダルトな表現がばしばし含まれますからね! 苦手な方とお子様はお気を付
け下さいね、お好きな大人な方々は楽しんでくださいね。

 さて、「ハコニワ」のほうは蒼桐大紀さんの作品、透明で繊細な、どこかせつないイメ
ージの連鎖を、存分に味わってください。
 「ワダチ」は第三回、初回に登場した総吉少年と「奇兵隊」部隊長がいよいよ相見えま
す。

 今回も盛りだくさんの雲上、どうぞお楽しみください:)

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 実験超短編企画「ハコニワ」         第三回 〜 蒼桐大紀
 ──────────────────────────────────────

 ……はなやぐ庭園の奥にひっそり息づく、奇妙な箱庭にようこそ。

 ━━━━━ ・ ∵ ・      夢現泡影     ・ ∵ ・ ━━━━━━

 夢を違《たが》えて朝を見た。言葉の影が目に染みる。 
 ぽとり零れる雨のよう。見上げた空は青すぎて。 

 ひらひらひらり蝶が舞う。泡沫のようまろぶ翅《はね》。 
 うっすら浮かびよぎる夢。ぱたりと還る現世に。 

 いついつの時希い《こいねがい》。望み続けた約束を、交わした人は誰なのか。 
 思い出せずにただ今を、継ぎ合わせても無駄なこと。 
 さらりさらさら零れ落つ。指をすり抜け砂になる。 

 現に向かいうたを編む。幻を追い界の際。 
 からりからから何の音、木霊のような鈴の音。 

 いついつの時希い。望み続けた約束の、絆の音色響き合う。 
 さらりさらさら、砂時計。くるくる回り、よみがえる。 

 重ねるだけの言葉では、はらはら崩れ散り果てる。 
 裡《うち》よりありしうたこそが、夢と現を接ぐリズム。 

 からりからから、あの鈴音《すずね》。それらにも似て、澄み渡る。 
 ひらりひらひら舞う翅が、映す有り様、砂の城。 

 いつか崩れるさだめ持つ、あまたの伊吹いとおしく。 
 いつくしむよう抱きたい。 


 ━━━━━ ・ ∵ ・ ∵ ・ ∵ ・ ∵ ・ ∵ ・ ・ ∵ ・━━━━━

 「ハコニワ」では随時作品を募集中です。
 ルールは3つ。「七五調であること」「オノマトペを10回以上使うこと」「500字以内
であること」
 くわしくは編集部まで:info@kairou.com


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 10.19 -October Nineteen-        第一回
                             著/姫椿ひめ子
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 ロリコンの「ぼく」はある日美しい幼女に恋をした。年に似合わぬ残酷な笑みを浮か
べ、彼女は徹底的に「ぼく」を支配する……。
 姫椿ひめ子が贈る、エロティック・ロリータ・ストーリー。

 ……………………………………… 1.Sticky Finger ……………………………………

 彼女──紅月楓<こうづき・かえで>の黒いストッキングに包まれた、長くすらりとした
足に見惚れすぎたのかも知れない。
 僕は究極の二者選一を迫られているのだった。
 すなわち──。
「私の指を舐めるか、それとも足を舐めるか、好きな方を選ばせてあげる」
 囁くように楓は言った。
 日曜の昼下がり、流行のデザイナーズカフェはたくさんの女性客で賑わっていた。端の
席に座りたいと楓が提案した時点で、僕はこのもくろみに気づくべきだったのだ。今とな
ってはもう遅い。
 楓がおどけた調子で小首をかしげると、マホガニーレッドの巻き毛がふわりと跳ねた。
「どうしたの?」
 小さな桃色のくちびるが緩やかにうねる。吐き出された言葉は柔らかな蜜のように甘美
だった。
 楓は目を細めて微笑を浮かべてはいるが、およそ好意的なものとは思えなかった。
 ややもすればそれは、蠱惑的な──歳に似つかわしくない妖艶な、微笑み。
 脊椎をむき出しにされて力任せに握られ、こすられているような感覚。腹の奥が熱くな
り、かわりに胸が涼やかに冷える。
 ひどく落ち着かない──が、不快ではなかった。
「どっちにする?」
 問いかけは続行中だ。
 僕は考える。今、どちらを選ぶのがよりマシなのか──今後、野崎紘和<のさき・ひろか
ず>がごく平穏な社会生活を送るためにはどちらを選べばいいのか。齢十九にして、早くも
人生の分水嶺に立たされている。
 クールだ、クールに行け。
 楓の指を見た。差し出された左手の人差し指には淡い黄色のソースがまとわりついてい
る。デザートに頼んだ、桃の薄切りにかかっていたものだろう。食欲を誘う鮮やかな色合
いだった。彼女の指も、一連のコースのうちの一品のように思えてくる。
 楓の足。椅子に座ったままの姿勢では、インディゴのベルベットワンピースから伸びる
足のすべてはうかがい知れない。けれども、テーブルの下では浅く組まれた楓の足が僕の
すねに触れていた。丸い曲線に沿って光沢をはなつ、ナイロン生地のストッキングに包ま
れた細い足を想像する。
 足──指。僕の頭の中をぐるぐると迷走する思考。
 しびれをきらしたのか、楓が不満そうに自分の指を口に含んだ。長く赤い舌べろをとが
らせて、視線を僕にむけながら、これ見よがしに指を舐めあげた。
 さらさらに乾いた唾液を嚥下する。ぐぎ、と喉が鳴った。楓の、切れ長の双眸。長いま
つげ。目をそらすことが出来なかった。
「何を躊躇してるの?」囁くように楓が言う。「まさか、まだ余計なことを考えてるの?」
「そんなことはないよ」
「ふうん」
 ゴブレットに満たされたミネラルウォーターに口をつける。冷たい感触が喉を通りぬけ、
心地よい。少しだけ、気を紛らわせることが出来た。反抗。
「大体こんなところでなんて」
「だからじゃない」僕の言葉は遮られた。「白昼堂々、この日この時この場所でやること
に意義があるの。
 だってこれは──『おしおき』だもの」
 肌が粟立つ。
 おしおき。
「お兄ちゃんが嫌がることを私はわざわざしてるの。そうしないと、『おしおき』になら
ないでしょう?」
 もっともだった。まさしく精神的な苦痛を与えるという点では最良の方法である。
「でもまぁ」楓は続ける。「お兄ちゃんみたいな人には、全然『おしおき』にならないっ
てわかってるけれども」
 心臓が高鳴る。俺みたいな人種。
 とたんに脳に閃光が走る。あの日の光景。僕と楓の光景。
 楓は裸身で、僕は床に跪いていた。驚いた顔の楓。それを見上げる僕。どんな顔をして
いたのだろうか。
 強く目をつむり、楓にばれないように思考を振り払う。目を開ける。
「──指を」
「ん?」
「指」
「指がどうかしたの?」
「指を舐める」
「……」
「──舐めさせて、ください」
 楓を見る。&#8212;&#8212;楓。言ったとたん、わずかに頬に朱が交じった。
 ゆったりとゆっくりと、優雅なしぐさで、再び同じ指をさしだしてくる。
 ぼくは躊躇する。
 さっき、楓が舐めた指。楓の唾液が付いた指。今は乾いているが──。
 だが、僕にはもう躊躇は許されない。
 中空に踊る指に顔を突き出し、舌先をつける。
 ぶるりと肩をふるわせる楓──ぼくに気取られないくらい、小さく。
「口に入れて」
 耳が痛くなるくらい、輪郭のはっきりとした楓の声。糸繰り人形のようになる僕の体。
もはやあらがえない。
 指から感じる楓の体温。楓の、唾液の匂い。味。肉の感触。指紋のかたち。骨のかたさ。
 もはや人の目は気にならない。視界の隅に、僕らを見てくる客の姿が目に入る。ひそひ
そと連れ合いと耳打ちをしながら、ちらりちらりと横目に僕らを盗み見て、頬を赤く染め
ていた。恥ずかしいことをしてるのは僕らのはずなのに。
 そして、次第に屹立してくる僕のペニス。下着のしたで、硬くなり始めていた。ずきず
きと腹が痛むのはそのせいだ。
 そして思う。僕は少女の指を舐めて感じる変態なのだ、と。

 …………………………………………… 続く ………………………………………………
 
 次回は第195号(12月15日発行)に掲載されます。
 このコーナーに対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 ワダチ                                 第三回
                                                         著/鵺屋イサイ
 ──────────────────────────────────────

 論理武装をその身にまとい、少年たちは戦いに身を投じてゆく。
 冷徹なまなざしとともに、自らと仲間を兵器と断ずるその少年に、<奇兵隊>の長は何
を思うのか。

 ……………………………………………… 第三回 …………………………………………

 三日後、木更津総吉はマフラーを巻いて応接スペースのソファに座っていた。
 純和風の顔立ちをした、至極淡泊な少年だ。小柄な体格は細いというよりも鋭いという
印象を与え、決してひ弱な感じはしない。だが、言ってしまえば張り詰めたような危うさ
もまた、感じさせる。生白く無愛想な面には、やけに老成した静けさがあるばかり。
「奇兵隊へようこそ、部隊長の有田柾人です。長い付き合いになるかは分かりませんが、
まどうぞ、よろしく」
 そう言って手を伸ばすと、仕方なさげに木更津はそれを握り返した。イメージどおりと
言うか、冷え性のようにひんやりとした手だ。
「ちなみに、うちへ回されるということは、左遷されることとイコールだと思っておいて
ください。何か心当たりはありますか?」
「毛頭興味もない。いかなる背景があろうと、私にとり重要なのは任務遂行のみ」
 つまり最初から心に当てるものもない、と。ひどく断定的で横柄な、敬語もくそもない
返答に有田は胸中苦笑した。顔も笑っている。眼も笑っていたが、その奥の瞳はじっと木
更津の表情を観察していた。この少年、口の利き方のみならず、あまりに歳不相応な暗い
眼差しをしていると有田は思う。
「任務遂行のためには仲間を犠牲にすることも厭わないそうですが」
「無論。任務において戦士は歩に過ぎず、訓練さえ積めば補充はきく。銃器や麻薬の取り
締まり同様、狂科学者との戦いは限りも報いもない。だが、やらねば際限なく悪くなる状
況において、手段を選ぶいとまはないからだ」
 声その物は小さいが、滑舌のいい明瞭な話し声で木更津はそう語った。覚悟や決意とい
った気負いを感じさせない、当たり前のことを述べるような口調である。実年齢は一五歳
のはずだが、その短い人生で何を積み重ねればこう育つのやら。とりあえず釣鐘が言って
いた意味はよく分かった。
「なるほど、だから任務を優先した結果、味方が少々潰れても構わないと君は考えている
のですね」
「そして、それは私自身も隊長も例外ではない」
 その言葉に、有田の胸がもやついた。
 木更津の言動は人を人と見ているそれではない。先入観も感情も一切挟まず、薬品を検
分する科学者のように、状況を構成する要素として断定しているだけだ。それは非常に合
理的であるが、それだけに非人間的であり、所詮、人間同士の集まりである組織の中では
反発を受ける。任務遂行のために仲間を駒扱いする姿勢は、人間としては大いに問題あり
だろうが、それで結果を出しているなら優秀と呼んでいい。倫理はないが筋はあり、状況
によっては白にも黒にもなる。だが──、
「木更津君、ここは体のいい除け者の掃き溜めです。ある一面、例えば戦力に限って言え
ば優秀、そしてそれゆえ強制退団には出来ない。だがまた別の面では役立たずと言ってよ
い。そういった、いびつに偏った不出来さを持つ戦士──それが奇兵です。除け者にされ
ても当然。しかし、除け者には除け者の意地があります」
 奇兵。その二文字で何が分かるか。取り方によっては侮蔑にも賛美にもなるその呼び名
を、有田は気に入っている。
「我々は仲間を見捨てない。我々は決して仲間を諦めない。誰もが爪弾きにした連中だか
らこそ、誰よりも仲間を大事にする。それが我々奇兵の取り柄ですよ」
 木更津の考えは、「俺は任務のためならいつでも死ぬから、お前も任務のために死ね」
と他人に強制しているようなものだ。だから、早めに釘を刺しておく。
「木更津君、君も奇兵隊に来たならば、我らの身上に習いなさい。死を覚悟するのは良い
ことです。けれどその覚悟を他人にまで求めてはいけない、それは指揮官《わたし》の仕
事ですから」
 有田は優秀な人間には寛容である。かといって、別に優秀ではない、凡庸であったり劣
っていたりする者を冷遇したりはしない。ただ歯牙にもかけないだけで。だから、この訓
示に反しない限りは、木更津の言動に多少──眼をつぶることにした。
 が、それはそれ、これはこれ。有田は先ほどから気になっていた服装について注意した。
「ところで、木更津君。ここは室内ですし、暖かいですからそのマフラーは外したほうが
いいですよ」
「外せない」
 その返答に有田はすっと目を細めた。外さないでも厭でもなく、外せないとは奇妙な言
い方である。
 立てば腰の辺りまで届くだろうマフラーは、両端がやや広がったデザインで、色は白。
全体に銀糸で精巧な模様が縫い込まれており、中々洒落ている。特に端や縁の辺りの刺繍
は精緻極まる美事な物だった。それだけなら単なるファッションの一つだが、資料で事前
に知っていた情報を口にする。
「しかし、そのマフラーは論理武装でしょう?」
 有田の言葉に木更津は無言で頷いた。
 公社に属する戦士には論理回路が施されている。それは高次の情報次元と基底現実を繋
ぐエネルギーの川だ。戦士はこの回路と、必要な材料──そこらへんにある金属や石、あ
るいは土といった無機物全般を媒介にして武器を形成することが出来る。
 この武器をして公理《アクシオム》と呼び、公理は命題《テーゼ》と呼ばれる核を持つ。
 対狂科学者用戦術兵器、それが『論理武装』だ。戦士は自らの精神から現れる命題を公
理化し、それによって狂科学者の学説を否定し、逆説だと証明する。とはいえ論理とは名
ばかりで、基本は力尽くで狂科学者を排除し狂気を修正するまでの話だが。
 狂科学者を人ではなく、人以外の何かに進化した存在と見做すのは公社一般の見解だが、
本来狂科学者に向けて振るわれる論理武装がまた、人殺しの道具であることは厳然たる事
実。それを戦闘時でもない通常時から肌身離さず持ち歩くとは穏やかではない。
 だが有田は、木更津が何かの意地や抗議でそういった危険な行動に出ている訳ではない
と感じた。
「つまり……」
 理解の瞳を向けて結論を述べる有田の言を、木更津自身が継ぐ。
「私は、論理武装を解除できない」
 木更津がここへ送られた理由を、有田は完全に把握した。

 …………………………………………… 続く ………………………………………………
 
 次回は第192号(11月25日発行)に掲載されます。
 このコーナーに対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【5】 編集後記
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 みなさま、いかがでしたでしょうか?

 ここでおしらせです。11月9日に文学フリマで販売いたしました『幻視コレクション〜
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 それでは、また!


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*編集部
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 次回の配信は11月25日を予定しております。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

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 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
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最終発行日:  
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