文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_187

2008/10/06

 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 1000字企画「雲上の庭園」         選者寸評 (募集第1回)
 【3】 後記

 ……………………………………………………………………………………………………
◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 遥です。結局、諸事情から、今回の「雲上の庭園」は、前半36作品の寸評掲載と相成り
ました。ご了承くださいませね。
 作品によっては、選者ごとに評価がぱっくり分かれていたりもします。執筆者の皆様に
おかれましては、面白がり、かつ、糧にしていただければ嬉しく思います。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 1000字企画「雲上の庭園」     選者寸評(募集第一回)
 ──────────────────────────────────────

 「幻視コレクション」選者、秋山真琴/遥彼方/言村律広による、応募作品の寸評をお送
りします。
 今回は掲載順に1番「何も無い」から36番「不徳の魚」まで掲載いたします。

 ……………………………………………  庭  ……………………………………………
【01】──┨ 何も無い

 ☆初老の男が何者であるのか、また主人公が大学でどういった研究をしており、どうし
て男に対し取材を試みようとしているのか。男がどこにどのように行こうとしているのか、
「最後の一人」とは、どういうことなのか。本来、この物語の根底を支えているべき、特
異な設定が敢えて秘されていること、そこに途方もない魅力を覚えました。また最後の一
行に待ち受ける喪失感も魅力でした。書き手より何も知らされず、この物語に描かれてい
る世界観がほとんど分からないまま、何かを失ったような気分にさせてしまう。そんな、
不明瞭であるものの、ふしぎと読み手の意識を縛り付ける、無形のパワーを感じました。
(秋山)
 
 ☆なんとも掴みどころのない……それによって、良い雰囲気を醸し出してはいるのです
が、いささか説明不足である印象も拭えません。
(遥)

☆どうも面白味がよく分かりませんでした。三男に関する俗習について書かれているらし
いことはともかく、それで結局、何を面白いと思って、それをどう書こうとしているのか
が読み取れませんでした。
(言村)

【02】──┨ 七月二十三日早朝、大楠の前で

 ☆心地の良い作品でした。眠りに落ちてしまったまま目覚めない春子ちゃんを、一生懸
命に救おうとするわたしと、かなちゃん。黄粉餅をお供えして、タルコさまに助けてもら
うという発想もさることながら、水辺で横たわっている将来の春子ちゃんという情景が読
み手の胸を打つものであるように感じられました。結末もあたたかいに光に満ちていまし
たし、読了後に満足感の残る作品でした。ただ、敢えて突っ込むとするならば、赤井都さ
んの「クレナイヨモギ」に似ていることでしょうか。やや、構造が似通っているように感
じました。
(秋山)

☆透明感のある文体と、ゆたかなイメージを喚起する描写が素敵ですね。すんなりと物語
に入っていけました。
(遥)

☆タルコさまの素朴さが可愛くて、女の子が昏睡しちゃっているのに、作品全体が可愛ら
しく纏まっているのが印象的でした。募集テーマの面から見ると、新しい現実という感じ
はもうひとつだったかと思います。
(言村)

【03】──┨ 夢買い人

☆夢を買う。駄目人間である私の日常から始まる作品であったので、てっきり不条理なせ
かいに巻き込まれてしまい、そこで夢を買い、残りの一生を夢の中で過ごす……そんなブ
ラックユーモアが待ち受けているのかと思いつつ読んだ。しかし、実際に読んでみたとこ
ろ、すっとぼけたリアリティ溢れる結末に、思わず吹き出してしまった。この結末は、ち
ょっとないんじゃないかと思いつつ、しかし予想を裏切る、良い結末であるようにも感じ
られた。もう少しラスト数行までの雰囲気が異なっており、落差が激しければ、もっと良
かったなと思います。
(秋山)

☆たぶん、この人は特別空想癖があったりするわけではないのだと思いますが、でも密か
に「イメージトレーニング」をしている……普通の人のちょっとした揺らぎ、といった感
じが面白かったです。
(遥)

☆場面転換が秀逸だと感じました。すっかり誰かが襲ってきたのかと思わされてしまいま
した。新しい現実の誕生の予感含み、といったところでしょうか。しかし前半の緊張感と
最後で買う夢というのが少し異なるものという印象なので、纏まりがもうひとつかと思い
ます。
(言村)

【04】──┨ Innocent Love

☆せかいが通常そうであるように受け取ることができず、一風変わったフィルタを通して
見えるようになってしまう。SFというジャンルにおいては、わりとよくある設定だが、そ
れが色や音であるのはちょっと珍しいなと感じました。とは言え、発想の柔軟さ突飛さと
比較して、その奇異な世界観を描きだす文章力は、ちょっと追いつけていないように思え、
せっかくの魅力的な世界観が今ひとつ伝えきれてないようでもあります。さらなる研鑽を
重ね、熟達することで書き手と読み手の間で、奇妙で特別なせかいを共有できるようにな
ると思います。
(秋山)

☆「新しい現実の誕生」というテーマに対しての、とても美しいアプローチだと思いまし
た。
(遥)

☆鮮やかな新しい現実に感服しました。長く一緒にいる人間同士では、彼らの間でしか通
じない言葉や言い回しが出てくることってあるよなあ、と思う一方で、認識とか記号と想
起とかに関して考えさせられました。
(言村)

【05】──┨ 想像力

☆色々と惜しいと言うか、勿体ないと言うか、片手落ちであると言わざるを得ません。ま
ず、ネタに困った作家が、自分自身もしくは作家を題材とした小説は、世に多く、それだ
けに一捻りも二捻りも加えなければ、没個性の烙印を押されるだけです。次に「一週間で
想像した世界」と言えば、聖書が連想されますが、それなら締め切りの三日前まで休んで
しまっているのはおかしいです。また最後の科白に関してですが、世には何ヶ月も何年も
血の滲むような努力をして、やっとのことで評価を得ている作家もいるのです。一ヶ月で
書いた小説が評価されるなんて実におこがましいです。発想それ自体は悪くないと思いま
すが、以上の理由から、ちょっと物足りないと言いますか、隙の多い作品であるように感
じられました。
(秋山)

☆小説家と神とを、創造者として重ね合わせるアイディア、展開、共に目新しいものでは
なく、全体としてインパクトに欠けるように思います。何らかの「オチ」があると面白い
かもしれません。
(遥)

☆なるほど小説を書くことは、新しい現実の誕生かもしれませんが、こうまであからさま
に聖書などのエピソードを流用することには新しさを感じません。また作中の作家は、完
成させた作品に大いに自信があるようですが、そのすごさが読んでいても実感をもって伝
わってこなかったので、最後の科白にも首をかしげてしまいました。
(言村)

【06】──┨ 部屋を明るくして離れてご覧下さい

☆実生活がテレビか何かの番組であり、個性や性格がそのまま番組における役割に変じて
しまうせかい。そんなエンターテイメント性溢れる世界観は「ドタバタ学園ラブコメ」や
「ツンデレ生徒会長」といったキーワードで、さらに助長されており、小粒であるものの
ちゃんと楽しめる作品に仕上がっているように思いました。文字数に余裕があるので、こ
の世界観の中で、ちょっとした起承転結を作り出しても良かったのではと思う一方、新し
い現実を誕生させたところで終わらせるのには潔さも感じられて良かったです。
(秋山)

☆<ライトノベルはキャラクタのデータベースを参照することで作られるもの>という話
を、ちょっと思い出したりしました。
(遥)

☆虚構であるはずのキャラクターを現実に引っ張り出して、何気ない日常を演出すること
で「新しい現実」感がよく出ていると思いました。また逆に役に固有であるはずの能力な
どを役者のものとすることで現実を虚構のようにしていると読めそうなところも面白いと
思いました。
(言村)

【07】──┨ チャイカ

☆非常に完成度の高い小説であるように思いました。性的な要素を扱いつつ、破壊と創造
を同時に描きだす。極めて錬度の高い、小説でした。少女が自らの死に気づかず、あるい
は気づかないふりをしつつ空を飛んだりすること。竜、かもめ、白衣の先生。秋山の好み
を刺激するガジェットに満ちていましたが、逆に言えばそれだけの作品とも言えます。読
み手の好みと合致すれば、読み手を最大限に喜ばせる作品であると言えますが、合致する
箇所がなければ、評価の難しい、つまり読み手を選んでしまうタイプの作品に思えました。
とは言え、個人的には、今後とも、このような著者のオリジナリティを極限まで発揮する
ような作品を書き続け、読者を魅せ続けて貰いたいなと思う次第です。
(秋山)

☆色彩が鮮やかでした。まただんだんと長い時間が流れるようになり、とくに最後のあた
りは歴史的量の時間経過がイメージに響いてきました。生き続ける死に方、といったとこ
ろでしょうか。募集テーマには、それほど合致しているとは感じませんでした。
(言村)

【08】──┨ ロボットの脳

☆ふははは。読み終えた直後、思わず声に出して笑ってしまいました。これは素晴らし
いSFですね。おそらくは人工知能の完成と同じぐらい、もしくはそれ以上に待望されてい
る第三種接近遭遇が既になされていたという落ちは、個人的にはかなり笑いのツボを刺激
されました。とは言え、冷静になって考えてみると、一発ネタだけの作品とも言えます。
新しい現実の誕生というテーマからも、やや遠いように思えます。新しい現実との邂逅で
あれば、ぴったりであるようにも思えたのですが。もう少し、テーマを大事にしていただ
ければなと、少しだけ思いました。
(秋山)

☆人間の脳と、人間に似た異星人の脳を分けるものは何か、後者だけがロボットの脳とし
て搾取される根拠は何か……突き詰めて考えるとすごいことになりそうな。
 長い物語の冒頭部のような、逆に言えば途中で終わってしまったような、やや物足りな
い印象を受けました。もうひと押し……!
(遥)

☆配信時に改行の整形ミスがあり、すみませんでした。結末による転換と、その先を想像
することが面白いと感じました。ロボットが人間と同じように思考すると使い道が広がる
かは、少し疑問に思います。人間よりロボットの方がコマンドひとつで簡単に動きますし
ね。結末まで読ませてこそ面白い話だと思いますが、中途は淡々として客観的なので少し
勿体ないと思いました。
(言村)

【09】──┨ 哲 夫

☆この作品の評価には、正直なところ迷いました。端的に言って、この作品は、実に優れ
ていると思います。この作品は、秋山の個人的な主観ではありますが、恐らく多くの読み
手に対して嫌悪感を抱かせるように思います。秋山自身も嫌な作品だなと思わず顔をしか
めました。しかし、個人的に嫌いな類の作品であろうと、この作品の素晴らしさは客観的
には評価されねばなりません。つまり、この作品は、読み手に嫌悪感という負の感情を呼
び覚ます、ちからを確実に持っているのです。そういう意味において、この作品は実に優
れています。読者を感動させることができます。しかし、その方向性が気に入りません、
理性は認めても、感性が許せません。以上の理由から、優れた作品だとは思うのですが、
秋山としては……ということです。
(秋山)

☆正統派のショートショートだな、という印象を持ちました。文体にも構成にも安定感が
あり、落ち着いて読むことができます。
(遥)

☆中間部分が無かったときの印象を想像して、有ったときと比較すると、その隔たりが面
白いと思いました。一人しか描写されていないのに個人間の認識の差異が明白に描かれて
いて上手いなあと思いました。募集テーマとしては誕生という点が少し弱いように思いま
す。
(言村)

【10】──┨ レッド・プール

☆レッド・プール。それは例えば三途の川の比喩なのか、それとも地獄にて極悪人を待ち
受けているといういずれかの刑の比喩なのか。そのようなことを考えながら読み進めまし
た。正直なところ、グロテスクな趣味に満ちているだけの小説であるように思えました。
蚊、泥、赤。おおよそ嫌悪感を喚起させるガジェットに満ちた作品であり、最後までそれ
が払拭されることも、さらに助長されることもありませんでした。何かしら捻りが効いて
いたならば、それがワンポイントになっていたかもしれませんが、グロテスクであるだけ
の小説ならば、そこをとことんまで突き詰めなければならないでしょう。そういう意味で、
ちょっと物足りないと言いますか、やや不完全燃焼な小説でした。
(秋山)

☆実験映画のよう。もうすこし具体的な生々しさ……たとえば、見えるものや音だけでは
ない、嗅覚/触覚的な表現、眼を閉じているのにものが見えるという事態についての、何
らかの強烈さの表現……があるとさらに面白いかなと思いました。
(遥)

☆川とか急いでいるとかならともかく、プールなら迂回すればいいだけなのでは、と思い
ました。幻想としては面白いと思いますが、主人公の思考に偏っている描写であることや
幻想どまりであることで、募集テーマとは少し違う方向なのかなと思いました。
(言村)

【11】──┨ タンギング

☆前半は思わず人目を忍んで実践したくなってしまいそうな舌技講義。そして流れるよう
に雪崩れ込む後半は、前半の講義内容をそのまま実践するもの。微に入り細を穿つような
描写は、エロティシズムに溢れていながら、何処となく浮き世離れした幻想が漂っており、
一流のセンスを感じました。
(秋山)

☆味覚をひらくことによって新しい現実がひらかれる、という発想は他にないもので、と
ても面白かったです。味の印象が共感覚的に表現されているのも好き。「口内にあふれる
それらの世界を味わいつくし」という表現が、巧いなあ、と思いました。
(遥)

☆タンギングを効かせて、男という楽器を演奏するのかと思いきや、音を楽しむのではな
く味を楽しむという、展開が意外で面白かったです。思いがけない展開というのも誕生と
言えるのだろうと思わせる作品だと思います。
(言村)

【12】──┨ 7月25日4時43分12秒

☆淡々と描かれる人の死と、残されたものの悔恨と追憶。そこに横たわる儚さを描いた作
品だと感じたが、それにしてはやや軽く、薄いように思われました。「新しい現実」とい
うキーワードも、やや無理やり嵌め込まれた感が強く、別段、この言葉でもなく機能する
小説であるように思います。
(秋山)

☆主人公の感情の流れが、少しわかりにくいかな、と思いました。三人称で書いた方が、
より味が出たかもしれません。
(遥)

☆明日から夏休みが始まるのに、学校のある生活もない生活も耐えられないというのは、
いったい何があったのだろうと思います。そこが不可解なまま消化不良でもありますが、
電話を受けた子も同じように感じているのかもと想像すると、その気持ちがよく感じられ
るように思います。それでも、最後の科白は少々強引に感じました。
(言村)

【13】──┨ 扉

☆これはとても勢いがあって、良い作品。一読してそう思いました。世界から世界へと、
一枚の扉を介し、移動した主人公によって語られる物語は、そのまま読者の手を引っ張り、
波間、竜巻、砂漠とすばやく移動していくのが好みでした。やや描写が粗く、解像度が低
いのが難点ですが、丁寧さと引き換えに手に入れた勢いに力がありました。
(秋山)

☆登場人物の所作や台詞回しが外国映画のようで、またやや所作の大きな、演劇的なイメ
ージもあって印象的でした。「扉」の使い方も面白いです。
(遥)

☆主人公=メリッサで男=ジョーイという線も検討したけれど、そうでもないようですし、
かといって二人のどちらにも感情移入することもありませんでしたし、演出でとくに興味
をひかれた点があるわけでもなく、ストーリーはあるけれど意外性も盛り上がりもそれほ
どなく思います。主人公は声が出なくなったのかなあとも思いましたが、ジョーイと口論
していたのだし、どうも私には読み解くための前提条件が不足しているのかもしれません。
(言村)

【14】──┨ ここにキスして

☆句点が作品の最後にしかなく、文章がダラダラと続いているので、本来はたいへん読み
づらいはずなのですが、それを全く感じさせませんでした。何処となくすっ呆けた語りは、
中盤の尾てい骨だとか、貝殻骨といったあたりから桃色に加速して、目を開けた彼女が言
った「ここ」とは何処なのか。それを考えると夜も眠れません。
(秋山)

☆幻覚のような小説だと思いました。急にかちゃりと目を覚ます「彼女」の様子が強烈。
(遥)

☆眠気の幻想的な描写から、彼女の具体的な描写へと変化していくところが、現実の誕生
を感じさせます。また全体が一文でまとめられているところが、ひといきに読ませられて、
彼女へとずうっと惹き寄せられていく様子に感じられて、いっそう魅力的だと思いました。
(言村)

【15】──┨ 不眠症

☆「ミミズクなのに聞くミミを持たない。これ如何に」って……くっだらねえええええ。
思わず部屋の窓を全開にして、通りすがりの黒髪眼鏡のお姉さんに叫びたくなったが必死
に堪えました。この、どうしようもない一文に心を奪われてしまい、正直なところ他のと
ころは完全に霞んでしまいました。読者を一瞬で惹きつける、魅力的な文章ってあります
よね。
(秋山)

☆短いながらもキレがありますね。良い感じに突き抜けた、不条理なイメージがとても好
きです。ミミズクも、しっかりとした存在感があって良いですね。
(遥)

☆ミミズクの可愛らしさというか心憎さが、かえって「心地悪い眠り」といういかにも不
眠症な感じをいっそう際立たせているように思いました。募集テーマの面からみると、そ
れほど合致してはいないように思いました。
(言村)

【16】──┨ 万歳

☆よく出来たショートショートですね。一読して首を捻り、もう一読しましたが、やっぱ
りただのショートショートだったので、少しがっかりでした。
(秋山)

☆やや破壊力不足のように思います。「爆発する」イメージ自体は魅力的なのですが、使
い方があっさりしすぎている印象です。きっと、もっとねちっこいほうがいいです。
(遥)

☆嫌な読後感の作品ですね。万歳なんて滅多にしないので、登場人物たちの行動には違和
感がありますが、この行動が死にたいためだとすると、万歳というのは、他人に結局は信
じてもらえないことへの絶望のポーズのようにも思えます。
(言村)

【17】──┨ 魔女の花園

☆いやあ、これは面白かったです。何と言うか、秋山自身の胸を、魔砲で撃ち抜かれてし
まったような気分。戦場の片隅に咲いた冷たい花のような前半も良ければ、流れに取り残
されてしまったような後半も良かった。ただ「数年後」であるはずなのに「もはや夢の彼
方に木霊する誰かにさえ、知る由も無かった」とはいかに。
(秋山)

☆いかめしくて無機的な固有名詞と、生命にみちた楽園のイメージのギャップに、主人公
の願いが重なって、非常に美しい作品に仕上がっていると思います。スケールは大きいで
すが、視点を絞って書いてある効果か、不完全燃焼に陥っていないのがすばらしいです。
(遥)

☆願い=新しい現実として描かれていることが、願いの強さを表していると思いました。
ただ、なんでこうなったのかが良く分からないところが、いまいち腑に落ちないように感
じました。
(言村)

【18】──┨ 朝が怖い

☆死んでください。と思わず言い捨てようかと思いましたが、それではあんまりなので、
もう少し書き加えます。本来、死というイメージは個性的なもの、個人的なものであるは
ずです。そのメッセージはそのひとの内側から発生するオリジナリティに溢れたものだっ
たはずです。けれど、どうして死を扱った作品の多くは、平易で没個性なのでしょうか。
もっと多くの作品、感情、概念に触れてください。
(秋山)

☆死を希うほどの切迫感が足りていないように思います。ただ静かに抽象的に死にたい気
分を綴るものというのは、小説としてはあんまり魅力を感じられません。ネガティヴなき
もちは、血を吐くような言葉で、読んでる方が窒息死しそうなくらい逼迫していなくては、
力を持たないのだと思います。
(遥)

☆飛び降りない夜から、いきなり夕方に飛んだ場面転換で、読んでいて転換に気づかず混
乱しました。もうすこし明確に区切るか、夜のイメージを続けるかしてほしかったです。
また「生きていても無価値で無意味」と結論付ける根拠があまり記されていないので、説
得力が弱いと思いました。
(言村)

【19】──┨ オカルト判事遠山越前名裁き第一話 ラーメン天一坊事件

☆面白くありませんでした。この手の、ちょっと変な言葉を敢えて選択したり、奇を衒っ
た作品は多いですが、洗練度が足りないように思われました。リズムにも欠けますし。町
田康のデッドコピーになってしまっているように感じました。もう少し!
(秋山)

☆意表を突きまくりのすごくへんてこなお話と、さくさく読ませるテンポのよい文体。読
んでいて、とても楽しかったです。コメディタッチの話が少ないなかで、異彩を放ってい
ました。
(遥)

☆一太郎と三四郎って JustSystems か、とかのネタ盛りだくさんなぶっ飛び具合がパ
ワーがあって面白かったです。新しい現実の誕生が違和感なく融け込んでいるのも意外で、
とてもよい娯楽作品だと思いました。
(言村)

【20】──┨ 検閲警察

☆総理大臣が街中をひとりで歩いていたり、警察官が総理の顔を知らないなんてことあり
えるのでしょうか。ウェルメイドなショートショートであると思いました。
(秋山)

☆この種の物語としては、いまひとつ意外性に乏しいように感じます。もうひとおし。
(遥)

☆作者が政治に対して理不尽さを感じているのだろうなあ、とは思いました。しかし作品
としては、政治家の自業自得というのも頭にメモリを挿すのも、それほど目新しくはなく、
また時代背景などの説明がほとんど無いので、スパムのわいせつ画像が不適合思想という
説得力が弱いように思いました。
(言村)

【21】──┨ 無題

☆これはちょっと自己満足に過ぎるような。描かれている物語や選ばれている言葉もライ
トノベルのそれであるにも関わらず、一切、改行を用いない文体はどうしてでしょうか。
全体的にミスマッチでした。
(秋山)

☆抽象的な世界観と熱い戦いの組み合わせがいいです。ただ、抽象的すぎるゆえに、やや
重みに欠けるようにも思います。
(遥)

☆男は通勤電車に揺られて、女は街中を無意味に笑いながら、というのがなんだか現代の
空気を反映しているような気がしました。しかし話は登場人物の思い込みが語られ続ける
という印象なので読んでいていまいち入り込めない感覚はありました。
(言村)

【22】──┨ 伝道師

☆これは少し迷えるところでした。物語そのものや、そこに描かれている世界観は好みで
す。けれど、念のため何度か読み返してみたのですが、今ひとつ突き抜けるところが感じ
られません。枠のなかに閉じこもってしまっていると言うか、既存のアイデア、既存のイ
メージを繋ぎあわせて、なんとか作り出した作品のように思えるのです。もうひとつ、何
か仕掛けが施されていたら、だいぶ違ったと思うのですが。
(秋山)

☆描写が巧いと思いました。街を歩き回る豚という、コアになるイメージのインパクト、
使い方も申し分なく良いです。
(遥)

☆一読、「青い小さな鍵」は叡知や知恵に属する類のものかと思いましたが、違う気もし
ます。鏡像の自分だけが人間に見えるというのは、人がいかに自分のことばかり考えてい
るのか、自己中心的かということを述べているのではと思いました。
(言村)

【23】──┨ 小さい人魚の姫

☆本文とはまるで関係のないところが気になってしまいました。行末に句点がないことで
す。読点や句点がない小説は、わりと見かけるので違和感は覚えません。しかし、この作
品の場合、ひとつの行に複数の文があるとき、間の文は句点で終わっています。句点のあ
る文とない文、その不統一性が気になりました。その不統一性から生み出される不安定感
や未達成感が内容と一致しているのならばともかく、それとも関係がないようでしたので、
何のために著者は句点を用いなかったのか。その点が気がかりで、作品それ自体に集中で
きませんでした。

☆なんて男前な! と思いました(笑)。文体に力があり、彼女の決意が非常な説得力を
持って伝わってきます。
(遥)

☆決意と、唯一の片仮名「ダイブする」が、誕生の鮮やかさを感じさせます。また、今あ
るものを捨て去れるというか得たものへの愛着が描かれていないため、自分本位というか
冷淡な感じもあります。
(言村)

【24】──┨ ケータイを持ったサル

☆これは難しかったです。さらりと読み逃してしまうと、ウェルメイドなショートショー
トでしかありません。取り立てて語るところのない、それだけの作品です。しかし、ここ
で題材に取り上げられているのは、現代人の誰もが持ち歩き、街中においてお守りのよう
に両手で捧げ持つアイテムです。となれば、これは、ただのショートショートではなく、
風刺小説である可能性が高いです。そう考えると途端に評価が上がるのですが、そう考え
て読み直してみると、果たして著者がそこまで考えて描写しているのか、頭を抱えます。
もう少し、アピールが欲しかったです。そうすれば安心して、傑作! と思えるのですが
……。

☆最後の一行で、ここで会話をしている彼らはいったいどんな姿をしてるのだろう、と想
像が膨らみます。
(遥)

☆猿打ちという言葉は初耳でしたが、確かに携帯電話に支配されているという感覚になる
ときもあるなあと思いました。またそれをこうした状況に置いたことが目新しくて面白
かったです。
(言村)

【25】──┨ デリー大災害の一夜

☆うーむ。極めて巧みな、よく描かれた小説ではあると思います。しかし、持て余し気味
の技術を、思いついてしまったネタに落とし込んだというだけの作品と読めてしまいまし
た。技術があるので、どんな小説を書いてもそこそこに上手くなってしまうのだろうなと
思います。
(秋山)

☆インド映画をきちんと見たことはないのですが、きっとこのような賑わしさなんだろう
と思いました。災害的なお祭り騒ぎ。
(遥)

☆作られた日常を破壊する現実を撮影することで作り物に変えるという話なのかなあと思
いました。描写が鮮明でダイナミックにイメージが伝わってきました。ただ、ええとオチ
は? というような、結局何なんだろうという感覚もありました。
(言村)

【26】──┨ 小さいけれど、それは光

☆生きろ。と思わず呟いてしまいました。こういう作品は別段、嫌いではないですが、嫌
いではないというだけで終わってしまいます。作品にするのであれば突き抜ける何かが欲
しいです。
(秋山)

☆小さないい話。でも、全体としてこぢんまりとまとまりすぎていて、やや新鮮味に欠け
るかもしれません。
(遥)

☆話としてはとくに目新しいところもないように思います。なのでよけいに、「僕」と
「現実」との関わりが際立って伝わってきて良かったと思いました。
(言村)

【27】──┨ するり

☆これは駄目です。超短編のせかいでは、この手のリズムに乗っているだけの作品はわり
と多く、そういった作品を既に経てしまっている秋山からすれば、目新しくとも何ともな
く、手先だけで書いた小説に思えてしまいました。
(秋山)

☆なんでしょう、幼児向けのクレイ・アニメーションみたいな、優しくて不思議な風合い
が印象的でした。言葉遊びめいたものは、読めるものにするのが非常に難しい書き方だと
思いますが、イメージの豊かなすばらしい作品だと思います。
(遥)

☆言葉遊びの作品ですね。するりの動くさまを想像すると愉快でした。ただもっと想像を
超えるような動きをたくさんしてくれたら、もっとダイナミックで面白い話になったので
はと思います。
(言村)

【28】──┨ 世界を騙したぺてん師は
     ┃  あまつさえ用なしの月に行ってしまった

☆なんなのでしょうか、これは。一読して、下手だなと思いました。けれど、そのまま次
の作品に移る前に、もう一度、読んでみることにしました。タイトルが印象的だったこと
と、意図的に文章を崩している気配があったからです。けれど、再読してもやっぱり下手
という印象を拭えず、仮に意図的にやっているのだとしても、まだそれを作品の域にまで
は持ってこられていないなと感じました。
(秋山)

☆なんといってもタイトルがいい。主人公のもの悲しさが独特の雰囲気を醸し出していま
す。前後の物語をいろいろと想像させるようなところがあり、いいなあとも思ったのです
が、もしかしたら単に遥がこの主人公を気に入ってしまったからかもしれません。短編の
中でちゃんと完結できていないといえば、そういうふうにも取られると思います。
(遥)

☆あまり読むための作品ではないのかなあと思いました。どうにも読み解くための情報が
作中に書かれていないように思いました。断片の間に話を見出せませんでしたし、各断片
にもそんなに面白味を感じませんでした。
(言村)

【29】──┨ 荒野の呼び声

☆これは痺れました! なんと俗っぽくありながら、高潔であることでしょうか。良いで
すね。センス溢れる作品でしたし、斬れ味も抜群ですね。こういう小説を書けるひとって、
ちょっと羨ましくもあります。
(秋山)

☆イメージが鮮明に脳裏に焼きつきます。力のある文章だと思います。ただ、物語の展開
には見事に置いて行かれました。支離滅裂なのは、何かの暗喩なのかなあ、と思ったので
すが、ちょっとわからないのです。
(遥)

☆パンツはいたままおしっことは大胆だなあと思いました。なにか世界はあるように感じ
ましたが、もうひとつその魅力がちゃんと伝わってこないように思いました。読み取ろう
としてもとくになにも見つけられませんでした。
(言村)

【30】──┨ その声は聞こえない

☆これは曖昧な作品ですね。姉妹の奇妙な会話、中盤で明かされる奇怪な過去、そして衝
撃的な結末。しかし、どうにも食い違っているような気がしてなりませんでした。語り手
に信頼がおけないからでしょうか。客観的に主人公とその妹がどうなっているのか、そこ
を不明瞭に残しているのが吉と出たのか凶とでたのか、難しいですね
(秋山)

☆よく1000字以内で、ここまでスケールのある話をまとめられたなあ、と思いました。た
だそれ故に若干薄いようにも思います。政府が云々は抜きにして、双子の関係に焦点を絞
り、密度を上げても面白いものができそうです。
(遥)

☆双子はもしかして肉体的には一人なのではと思いました。だから「透明な壁で二分され
た部屋」で、同じ理由で「その声は聞こえない」なのだろうなあと見ると、全体が緊密に
構成されていて、すばらしいと思いました。また狂気の迫ってくる力もとても感じました。
(言村)

【31】──┨ 罪過の薔薇

☆タイトルや出だしの数行には、面白そうな気配を嗅ぎ取りました。けれども、読み進め
るにつれ、最初の衝撃が薄れてゆき、やがて平凡なものだけが残るという、ある意味、期
待を煽ったものの、それに応えられなかった作品の典型に成り下がってしまっていました。
深読みを許容させる器の広さが欲しかったです。
(秋山)

☆文章が綺麗、というか、端正である、という印象を受けました。もっと長い物語の一部
という感じで、やや物足りないように思います。この内容なら、きっと長編で掘り下げた
方が面白くなるような。
(遥)

☆何か下敷きにした話があるのかなあと思いました。どうもそうした元の話から自立でき
ていない作品で、あまり読み取れるものがないように感じました。元の話がとくに無いの
であれば、情報不足なのでしょうね。耽美というにはもうすこし描き込みが足りないよう
な印象でした。
(言村)

【32】──┨ リヴァプール1790

☆タイトルが天才の仕事。しかし、作品本体に目を向けると、今ひとつぱっとしませんね。
ラスト一文は嫌いではないですが、この鈍い輝きはどうしたものでしょうか。肩透かしを
食らった感が否めません。
(秋山)

☆後半の、世界観の転換がが鮮やか。前半部を丁寧に書いているから、その落差が活きて
きているのだと思います。語り口にもキレがあって素敵。
(遥)

☆主人公は死んだという解釈でいいのでしょうか。「何か差別化を図らねば」といった妙
に余裕のある思考からすると、冒頭から既に死んでいたのかもと思いました。さしずめ筋
骨隆々の男たちは天使かなと思って可笑しかったです。また爽快な読後感が良かったです。
(言村)

【33】──┨ 紅、暮れる世界

☆傑作、と言ってしまって構わないでしょう。恐らくは知性体が初めて知覚したであろう
色、赤。命の色、危険な色。その色を知覚できなかったせかいが、やがて到来するだなん
て信じられません。けれど、ふしぎなことに作品を読んでいるうちに、赤の欠落したせか
いが目に浮かぶのです。面白かったです。
(秋山)

☆たとえば殺人の描写のある映画でも、白黒かカラーかでその残虐性の印象は随分変わり
ますよね。血、殺し、そこへ夕暮れのイメージが重なってゆくのが素敵です。
(遥)

☆タイトルからして絶妙だと思いました。赤について描く順も巧妙で、読み終えると、痛
みから黄昏までがひとつながりになって、この世界が存在しているという実感がありまし
た。見事に新しい現実の誕生を感じさせられた作品だと思います。
(言村)

【34】──┨ 白朱

☆ ワールド・イズ・マイン……という言葉を見た瞬間、即座に連想したのは初音ミクが
歌わせてみた、同名の曲です。秋山はあの曲があまり好きではありませんが、初音ミクは
好きです。きっと作者とは気が合うだろうなと言うようなことを考えながら読みました。
いいですよね、初音ミク。
(秋山)

☆えー、織り込まれているのがビートルズなんだと、ぐぐってみてわかりました(←情け
ない子)。
内容といいラストシーンといい、ロックンロールへのリスペクトなんだろうなあと思いま
した。小説的に書けばもっと通りが良くなる……いろんな人に伝わると思います。
(遥)

☆これはすごく中二ですね。状況の寒気が、主人公の気持ちの熱さを際立たせていて、そ
のエネルギーの燃焼っぷりがまた良い意味で中二らしいと感じました。いまいちタイトル
との関連が弱い気がします。
(言村)

【35】──┨ 落下さん

☆奇想という観点においては充分過ぎるほどであるように思います。これを引き伸ばせば、
それはもう読み手の度胆を抜くような作品に仕立て上げられるでしょう。ですが、肝心な
のは面白いかどうかです。着想は興味深いと思うのですが、その実験を実践を移すに当た
り、やや千字は土俵が広すぎたかなと思わないでもありません。
(秋山)

☆学問の本みたいな硬さと、ユーモアがまじりあっているのがいいです。ラストの一文が
ちょっと切なくて、余韻を残すのもまたいい。
(遥)

☆言葉(遊び)で想像力の限界を超えて(文学的な)堕落へ向かう話、とかなのかなあと
思いました。しかし想像を促進されるよりも、あちらこちらと話の対象が移るので、むし
ろ想像を阻害されがちで、またなんで残務整理なのかなあとか、腑に落ちないところばか
りが目立って感じられてしまいました。
(言村)

【36】──┨ 不徳の魚

☆良かったです。底のない、深淵の恐ろしさが女というかたちを伴なって、この小説のな
かに封じ込められているのが目に見えました。「不徳の魚」というタイトルもまた素晴ら
しいですね。「不肖の魚」でもギリギリ生きてくるかと思いますが、やはり「不徳」と言
うのが、また何とも。痺れます。
(秋山)

☆こう、非常にまっすぐに不穏といいますか、この路線で正統派を行く作品は今回少なか
ったので、印象的でした。安定感がありますね。
(遥)

☆最後の科白は不要ではないでしょうか。そこまでの強い緊迫感が、説明によって陳腐に
なってしまっているように感じました。
(言村)


 ……………………………………………  幻  ……………………………………………

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 【3】 編集後記
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 いかがでしたでしょうか。個人的に、各人の寸評について三人でしゃべってみたいなあ、
などと考えたりもしました。視点や小説についての考え方の違いが垣間見えて、選者の側
も結構楽しかったりしたのです。

 みなさまの糧になれば、幸い。次回は残りの36作をお送りします。

 それでは、おげんきで。

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*編集部
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 次回の配信は10月15日を予定しております。

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