文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_178

2008/07/26

 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 赤井超短編集               第57回
 【3】 繭の糸                  第2回
 【4】 後記

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◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
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 みなさん、こんにちは、遥彼方です。えー、そろそろ溶けそうです。
 最近観た映画はインドネシアの「Ada apa den gan Chinta?(チンタに何があったのか?」というもの。
 シチュエーションや展開がわりと「耳をすませば」に近い感じでしたが、色々な文化がちゃんぽんになってるインドネシアの都市の感じが面白かったのです。
 さて、今回は赤井都さんの「理由」、丹酌さんの「繭の糸」の第2回をお送りします。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」      第57回
                 著/赤井都
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 …………………………………………… 理由 ……………………………………………

 あなたが欲しい と云うと 云われた相手は聞き返した どうしてわたしが欲しいの?
 わたしは答えた
あなたの目は透明な茶色をしていてわたしの目を見つめ返した あなたはわたしの両腕の
中にうさぎのように収まる あなたはわたしと同じ女性だ わたしはあなたより強い あ
なたはわたしよりきれいだ だからわたしはあなたを愛玩する
 人形の値札は四十万円で わたしは人形を見つめたきり 誘拐を夢みる
 血の染みたトランクを引きずって ガムで汚れた電車のステップを登って その途中で
切符は落としてしまう 月が窓辺をいつまでも追いかけてきて わたしは影へ影へと逃げる
 ごとごと動く電車の中 コンパートメントのカーテンを下ろして わたしはわたしが運
んでいる死体を見る
 あなたは目でしか抗議できない わたしがあなたの腕を球の関節のところから外しても
 脚を外しても そうしてキスしても あなたは声ひとつあげることができない あなた
は目だけで聞く どうしてこんなことするの?
 わたしは答える あなたを殺そうとしているうちは わたしはほかの人を殺すことはな
い わたしはわたしを殺すことはない あなたは殺せない あなたは死なない
 わたしは人形を壁に打ちつける 手足を束ねて踏みつける 人形は声を上げない
 ごとごと 電車は走っていく
 激情からさめて 美しい肌にひびが入っているのを見つけたら わたしはきっと大声で
泣く そして満足する 人形にはわたしのしるしがついた わたしはわたしの醜いしるし
のついた子を車掌に見つからないよう トランクにしまう トランクをひざに抱いて目を
閉じる 涙の流れた跡のついた頬で 明け方のにれの樹の間を走る夜行電車

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第179号(8月5日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!


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 【3】 集中連載 「繭の糸」          第2回
                 著/丹酌
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 ――閉じた世界。
 張り詰めた静けさのなかで、姉妹の秘めやかな時間が流れてゆく。


 …………………………………………… 第二話 …………………………………………

 リビングは薄暗い。照明の電気が死んでいる。
 朝靄のように白く霞んだテラス窓の明かりだけが、糸子の躰をそっと、薄く照らし出し
ている。姉は寝巻きの上にカーディガンを羽織り、その袖を胸元で交差させ、ぎゅっと握
って俯いていた。その表情はどこかやつれている。
 ストーブの燃える音と匂いがやってくる。少なくともそれは暖かかった。
「隣、来てよ……」
 弱々しく尖らせた唇の狭間から、遣る瀬無さ(やるせなさ)げに吐息をついて、糸子は
くるりと繭子を向く。
 遅れて髪が、面に被さり目元を隠す。
「もう怒ってないから。ね?」
 真っ直ぐなボブを手で掃い、糸子は切れ長の眼を細めた。右目の黒子が色を増す。
 繭子は恐る恐る糸子に近づいて、少し間を空けソファに座った。すると糸子のほうから
這い寄るように傍に来て、繭子の両手を大切そうに、手に取った。どこか甘えるような表
情を浮かべながら。
 妹の甲を擦りながら、糸子は呟く。
「良かった。腐っていないわ、繭の心も手も足も」
 繭子は怯えて後ずさる。糸子はその手首に指を絡めて握り締め、自分の胸に、押し当て
た。掴まれて、赤い痣が酷く痛んでいるはずなのに、姉のぬくもりが躰に伝ってくると、
不思議と繭子の心は落ち着いた。
「ごめんね繭、私動転しちゃって。まさか繭が、“あの人”の躰に手を出していただなん
て、ね」
「……っ」
「そっか、繭ももうそんな年頃か……私、きっと繭のことをずっと子ども扱いしていたの
ね」
「……私が悪いの。私が……から……」
 言葉は嗚咽に掻き消され、繭子の瞳は再び涙に濡れだした。糸子は繭子の躰を抱き寄せ
長い髪を、優しく撫でる。妹は、姉の躰に腕を廻して縋(すが)るように抱き付き返した。
姉は暖かくて、馨(かぐわ)しい。
「いいの。もう、いいの。“あの人”はもういない。ね? もう全部忘れよう?」
 繭子はこくりと強く、頷いた。二人は暫くの間、そのまま離れようとはしなかった。
 やがて、
「スープ飲む? 昨日の夜の残り物だけれど。繭、すごく躰を冷やしているから……あ、
私のせいか。えへへ」
「えへへ、って、ひどい。でも繭は飲みたい」
 云うと、糸子はスリッパを鳴らしながらキッチンの中へと姿を消した。澱んだ空気がど
こか遠くへ流れてゆくのを繭子は感じる。沈んだ心に纏わり付いていた藻がするすると解
け、再び姉との間に絆がしとりと結い直されてゆく。だから妹は蕭(しめ)やかに、眼
(まなこ)と閉じて、安堵した。
 全身を駆け巡り始めた気恥ずかしさを隠すように、繭子は姉の座っていたところを手で
撫でる。
 すると――
 まだ暖かいその柔らかな感触の中に、何か角(かど)のあるものを指の腹に感じた。
 それは一冊の本だった。
「これは姉さまの……」
 箱庭の中で、灰色の砂嵐が騒ぎ始める―――

 その日、どれだけ逃げても糸子は退かずに追ってきた。廊下の終わりは確かにあった。
 怯えてその場にしゃがみ込み、両膝を抱えて縮こまっていると、頭の上に何か角(かど)
のあるものが降ってきた。それは髪を伝って滑り落ち、床に叩き付けられパサリと喚く。
 本だった。大きくは無い。
 目前に糸子の面が、降ってくる。右目の目尻のやや下に、小さな黒子が付いている。額
に髪が戻ってくると、目元も黒子も蓋われた。
 ニッと嗤うその朱色の唇を、清らかに舌が這う。その濡れた反射がなんだか酷く恐ろし
くて、凍り付いた時間の中でそれだけが動いているように、思えてならなかった。
『ねえ知っている? 誰しもが、二つの威(ちから)に翻弄されつつ生きてるの。そして
時には威にその身を委ねて誰かを翻弄させながら。その威の一つは……』
 ――世界を壊す威――
『もう一つは……』
 ――世界を閉じる威――
 糸子は前髪を手で掃い、切れ長の眼差しを優しそうに綻ばせた。何かの兆しのようなも
のが、胸の中で、渦を巻く。
『本当に夢中になっている時って、他人の真似事でもコピーでも、躊躇わないで自分のも
のにできてしまうものでしょう? 後になってその頃のことを振り返っても、それは過去
の自分の世界と姿には、変わらない、変われない。だから――』
 そして額にキスされた。それはすぐに、外気に触れて冷やりとした。
 強く強く、瞼を鎖して世界を閉じる。その向こう側で、何か金属めいた硬いものの置か
れた音が、鋭く叫んで漠と辺りに散ってゆく。そして遠のいてゆく、軽やかな足音。
 全てが静かになってから、淡い光を受け容れた。
 目の前にはさも昔からそこに佇んでいたかのように、錆びた鳥籠が置かれている。赤黒
い針金の檻に爪先が当たると、刻みの良い音がした。
 籠の中には先の本。誰かが遠くで泣いている――
 繭子は本を開いて文字を追う。
『長い時間、エネは一人で逡巡していた。宛がわれたエプロンドレスを何度も手に取って
はみるものの、恥ずかしそうに顔を背けて戻してしまう。ふんだんに拵えられたフリルや
レースの装飾が、エネを躊躇させていた。どうして私がメイドになど……。でも、早く着
替えないと、クローディアはきっと私の本当の肉体を捨ててしまう……』
 パタリと閉じた。
 指先で、ざわめく銀色の砂嵐を黙らせる。それから躰の力を解(ほぐ)して瞼を閉じた。
何かに導かれてゆくように、あらゆる臓腑の鼓動が張り詰めてゆく……。
 心が、躍っていた。
 まもなく繭子は姉の部屋へと向かって消えた。
 その足音を聞いて、糸子は嗤う。スープはまだ温まっていない。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第179号(8月5日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!



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 【4】 編集後記
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 いかがでしたでしょうか。
 次回は「繭の糸」の第3回をお届けします。いよいよ後半戦!

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は8月5日を予定しております。

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 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。
 
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創刊日:2003-11-08  
最終発行日:  
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