雲上マガジン vol_176
2008/07/05 ……………………………………… も く じ …………………………………………
【1】 前書
【2】 赤井超短編集 第55回
【3】 創作塾『波紋』リレー小説 第5回
【4】 後書
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【1】 前書
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みなさん、こんにちは、遥彼方です。さてさて、時間があるので久し振りにちゃんと
前書きがかけますよ。
最近見たのは「犬猫」という日本映画です。主人公の二人、スズとヨーコは幼馴染だ
けど、なんでかいつも同じ相手に恋してしまう。でも決してお互い嫌いになれない。
16ミリの淡い映像が心地よく、心のうごきをじょうずに映していました。
……でも、学校で借りてうちでDVDを見るばかりで、ロードショーにはちっとも行けて
ないんですよねえ。夏休みはちゃんと映画館に行こうと思います。
さて、今回は赤井都さんの「連れてゆく」、そして波紋リレー小説の最終話をお送り
します。
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【2】 連載超短編「赤井都超短編集」 第55回
著/赤井都
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……………………………………………連れてゆく…………………………………………
「フライング・トースター……」
呟き終わらないうちに、現れる銀色の空飛ぶトースター。小さな二枚の羽をぱたぱた
上下させて、焼けたトーストを跳ね上げながら、月も星もない漆黒の夜空を一群のトー
スターが近づいてくる。
私は塔のてっぺんから身を乗り出す。こんがりこげた固い表面が、この手に掴めそう。
おなかがぐーっと鳴る。
「今夜こそ、一枚だけでもっ」
近くに来たと思うとふっと離れてゆくいい匂い。私をこの塔に閉じ込めた魔女の、朝
食バスケットからくすねておいたバター。なけなしのはちみつとジャムも。窓から順繰
りにばらまいて誘った。トーストたちは虚空でバターを受け止め、はちみつの下へスラ
イドし、ジャムの飛沫を飛ばしては、トースターに連れられてゆく。
「あっ……」
窓から私は転落する。手に持ったスプーンもさかさまになる。私の上に降りかかるは
ちみつ。下の野原で、大きな真っ赤な口をあけたものが何匹も待ち構えている。はちみ
つ付の女の子。おいしそう……。回転して見上げた夜空、小さくなるトーストたち。お
願い私も連れていってよ……。
誰のおなかがぐーっと鳴っているの?
…………………………………………… つづく ……………………………………………
この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
次回は第174号(6月15日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!
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雪のよう――少女が幽想に絡め取られてゆく
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【3】創作塾『波紋』冬合宿企画〜リレー小説 第4回
著/言村律広・雨下雫・秋山真琴・遠野浩十
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創作塾「波紋」とは。創作団体「雲上回廊」から派生し、小説のスキル向上を目指して
日夜活動している団体(団体?)のこと。
第1回はこちら http://www.melma.com/backnumber_102964_4031290/
第2回はこちら http://www.melma.com/backnumber_102964_4053747/
第3回はこちら http://www.melma.com/backnumber_102964_4086476/
第4回はこちら http://www.melma.com/backnumber_102964_4120136/
第5回の担当は遠野浩十さんです。
…………………………… ―― 第四話 その2 ―― ………………………………
「見てみて、麻椎! ケン太くん人形がいたよ!」
「ちぇりおー!」
笑顔で戻ってきた少年は、麻椎の気合ののった右ストレートで顔面からふっとばされ
た。
「あんたってば、乙女心ってものがなんっっっっっも、わかっとりゃあせん!」
「わ、わけわかんないよ……」
「うきゃー。なぜにわだすの愛がつたわらないんじゃーい!」
麻椎はそばに落ちていたバッファローを頭のうえまで持ち上げると、怒号とともに、
それを真っ二つに引き裂いた。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
少年はケン太くん人形に抱きついて失禁しながら、麻椎の突然のヤンデレっぷりに恐
怖した。命を助けてくれた麻椎に、ちょっとした恩返しがしたくて狩りに出た結果が、
まさかこんなことになるとは少年には想像もつかなかった。
「ぬおー!」麻椎は叫んでいる。「病弱そうな少年っつうたら、ひ弱と相場は決まって
おろうが。そんな可愛い旦那を養っていくというドリーム小説みたいな展開こそをわっ
ちは求めていたんじゃーい。だのになぜじゃー。わっちの乙女心がなぜ理解されんのじ
ゃーい! わっちの『きゅん♪』ってトキメキの収拾は誰がつけてくれるんじゃーい!」
部屋のなかでどたどたと暴れる音をききつけて、布留が「なにごとですか!?」とや
ってきた。
「め、メイドさん……たすけて」
少年が助けの声をあげると、布留はびくっと驚いたような表情でつぶやいた。
「そ、そんな、まさか……」
少年は、背後でケン太くん人形の頭が踏み砕かれる音をききながら、
(また超展開なのか……!?)
と言い知れぬ不安を感じていた。
果たして、布留は言った。
「あなたは、生き別れた私の弟! その名も尾床麻獲(おっとこ・まえ)!」
布留は叫びながら、少年へと抱きついた。
「ああ、生きて再び会えるなんて……昨夜はどうして気づかなかったのかしら……」
「ど、どげんことだっちゃね!?」
麻椎は戸惑いながらも布留に聞いた。布留は、弟をやさしく抱きしめながら、「この
子、私の弟なんで」
布留の台詞はとちゅうで麻椎によってさえぎられ、そのあとをつなぐように、部屋の
壁にぐしゃっという嫌な音がひびいた。少年がそちらを向くと、そこには布留のクビか
ら上がつぶれたトマトのように張り付いていた。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ
ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
「確認すんべ?」
少年に顔を近づけ、麻椎は低い声で言った。
「おんしは、記憶喪失なんじゃよな?」
こく、こく、と少年はうなずいた。
「おんしは、ひとりで狩りもできんような非力な男衆じゃよな?」
こく、こく、と少年はうなずいた。
「んだー、そんならなんの問題もねがねー」
麻椎はそう言って、人格が豹変したようにからっと笑い、人懐っこい笑顔を少年に向
けた。
「んでもー、わっちの夫様に仕事させるわけにもいかんじゃからー、一本もらっとこか?」
「え?」
少年がなんのことかと尋ねるまえに、彼の右腕が肩から吹き飛んで天井にぶつかり、
どしんと重い音を立てて床に落ちた。
「これで、狩りはわっちの仕事になりんす」
麻椎は誰もがときめかずにはいられないような、最高の笑顔を少年に見せた。
「わっちが一生、養ってあげるっちゃ♪」
………………
…………
……
「ふんふふーん、ふーん」
――宿『北風男爵と太陽伯爵の逢瀬』。
ここに、一組の伴侶が生活していた。
現在、妻のほうは狩りにでていて留守にしている。それはいつものことで、そもそも
夫はこの宿から出ることは皆無といってよかった。
生活に必要なものはすべて妻が用意してくれるし、しなくてはいけないこともすべて
妻がやってくれる。
だから夫にはやることがなかった。
ただ、養ってもらい、奉仕されるだけのシンプルな生活。
それが彼のここでの人生のすべてであり、おそらくは死ぬまでそうなのだろう。
そんな彼の趣味は、部屋のなかでできることに限られている。それも妻にばれたら怒
られるので、妻がでかけているときにだけできることでなくてはいけない。
最近は、消しゴムのカスで作る練りけし作りにはまっている。
鼻歌を歌いながら、彼は机の上で練りけしをつくる。
「ふんふーん、かたまりだましー♪ かたまりだましー♪」
そんな彼の様子は、それはそれで楽しそうだった。
――転がして、くっつけろ!
…………………………………………… おしまい ……………………………………………
この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
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【4】 編集後記
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いかがでしたでしょうか。次回からは新連載がはじまりますよ!
*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com
次回の配信は7月15日を予定しております。
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本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。
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10/15...「結婚しました」
10/25...「真夜中の仮想パレードへようこそ」
11/5...「六年目の結末」
11/15...「ただいまママー」
11/25...「王手!」
12/5...「海岸の白い貝殻」
12/15...「がばちょ」
1/25...「人形の陰謀」
2/5...「隠れた名作」
2/25...「ミ、ミズをくれぇ〜。」
4/5...「方は、いやぁ、眠い。」
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