文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

全て表示する >

雲上マガジン vol_175

2008/06/26

 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 塑性言論               第20回 第4話
 【3】 後記

 ……………………………………………………………………………………………………
◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 みなさん、こんにちは、遥彼方です。
 さて、今回はいよいよ塑性言論第20回、小説篇の最終話でございます!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】   塑性言論         第20回  第4話(全4話)
                     著/桂たたら
 ──────────────────────────────────────

 新月小鳥と草壁空。

 彼女たちがであったのは、魔術の試験会場だった。
 能力に劣る彼女たちは、最終試験の第一試合でチームの足をひっぱることになる。

 しかし
   ――小鳥の手には懐中時計があった――
                    あの夏祭りの日に手にしたオーバーラン。

 時間停止を駆使して勝ち続ける小鳥たちのチームだったが、
     未知の制限事項が発覚する――発動しない時間停止。

 その小鳥の危機を救ったのはチームメイト達だった。
                  ――そうして最終試験は終わる。
 試合経過を見つめる二人の少女の緊張をよそに。

 試験会場には、今、種類の違う緊張が漲っていた。合格者の発表が始まる。

 …………………… 時は止まらず、加速しかなく、終わりに向かう ……………………

 まず、最初に呼ばれたのは相澤。彼は受かって当然だろうといった態度で、涼しい顔を
していた。
「ちょっと! これほとんど小鳥のおかげじゃないの! お礼ぐらいいったらどうなのよ!」
 相澤に突っかかる空を、小鳥と黒野がいさめている間に黒野の名前も呼ばれた。
「ありがとう。君がいてくれたおかげでチャンスが広がったんだ。本当に、感謝している」
「いえ、受かったのはあなたに実力があったからですよ。おめでとうございます」
 黒野はそこでちょっと視線を逸らし、ごにょごにょと小さな声でいった。
「その……、この試験は君のおかげで受かったといっても過言じゃない。またどこかで、
改めてお礼をさせて――、」
「やった! 小鳥! 受かったよ!」
「わ、本当ですか! そりゃ良かったです!」
 空は喜びのあまり、小鳥の小柄な身体を強く抱きしめた。空の胸の中で暴れながら苦し
そうな顔で「離して下さい!」と小鳥が叫ぶ。そのまま空は、親が子供にやるように脇の
下を持って小鳥を高く持ち上げてくるくると回った。くすぐったいから離せ、と小鳥が身
をよじりながら喘いでいるが、喜びに有頂天の空の耳には届かない。
 言葉の途中で固まったままの黒野は、「あー」となんともいえない表情で空と小鳥のや
りとりを眺めていた。
「ああいう子供っぽいのが好きなのか」
 相澤が、黒野の背後からぼそりという。
 黒野の派手な驚きように、相澤は満足したように笑って、「じゃあな」と言い残して
去っていった。
 次いで呼ばれたのは斎藤の名前だった。しかし彼はチームのメンバとは離れた場所にい
るのか、誰もその姿を見つけられなかった。
 そしてしばらく名前の読み上げが続いていく。
 だいぶ遅れて、新月小鳥の名前が呼ばれた。
「ほら、小鳥の名前も呼ばれたよ! ――って、あれ? 小鳥?」
 空が周囲を見まわしたが、小鳥の姿はどこにもない。
「どこに行ったの? ねえ、小鳥! 受かってるんだよ!? 小鳥! 小鳥ってば!」
 大声を上げている空を、帰り支度をしている他の受験生達が怪訝な顔で見る。
 しかし、空の呼びかけに答える声はなかった。



「あそこの地下室から無事に出られたことについては助かりましたし、感謝を感じてはい
ますけれど……」
 小鳥は小さく唇を尖らせて、すねたように言う。
「大事な話だ」
 小鳥の隣に座る稲森は切迫した表情である。
 二人が会話している場所は、見通しの良いロータリーのベンチの一つである。既に日は
暮れていて、行き交う人々の数は昼よりも増えていた。
「挨拶ぐらい……」小鳥はそっぽを向いた。
「またいずれ会える。そういう縁があるなら。――そんなことよりも、小鳥、君は誰かに
その時計について話をしたことがあるか?」
「稲森さんを除いて、という意味ですか? ならありませんよ」
「さきほど、フェイトと名乗る人物に出会った。時計のことを知っていたようだった」
「……その人は、今は?」
「少し話した後に、煙のように消えた。……君とこれから知り合いになる、と言っていた
のだが」
「なんですか、それ?」
「さてな。その様子じゃあ小鳥に対しては接触がなかったようだな。なぜ、私にだけ先に
接触したのだろうか……」稲森は自問するように呟いた。
「……なぜ、そこまで稲森さんが真剣に考えるかが分かりません。大事なことですか? 
時計のことなんて、この街に住む魔術師なら大体知ってますよ。北里さんの悪質な噂のせ
いで」
「時計の存在だけならな。ただ、その所持者が新月小鳥であることに加え、世界の終わり、
という単語にまで言及されたら無視できないだろう?」
「そんなことを……」小鳥は小さく眉根を寄せた。
「目的は世界の終わりの回避、と言っていたが。私達に対してどういうつもりで接してく
るか、ということだけは見極めないとならない」
「この時計を作った方――かも知れませんね」
「その可能性もないとも言い切れない。……しかし、敵意は無さそうだったんだよなあ…
…」
「他には何か言ってました?」
「世界の終わりは回避される。なぜならそう願ってくれた人がいるからだ、と言っていた
な」
「預言者のようですね」
「雰囲気は不思議な子供だったよ。……とまれ、また向こうから接触してくるのを待つほ
かなかろ。注意はしておけよ」
 稲森はそこで大きく呼吸をして、小鳥を睨み付けた。
「で、なんで私は何時間も待ち合わせ場所に放置されたのか、理由を説明してくれるのだ
ろうな?」
「え? あ、そのことなんですが、気付いたらなんとなくあの地下に……」
 しどろもどろに小鳥は説明をするが、
「なんとなくでいけるわけがなかろうが! 私だってあそこへ入るのにめんどくせー結界
を三つも突破したんだぞ!」
「いやしかし、どうして私があそこに居るって分かったんですか?」小鳥は話を逸らそう
とした。
「分かっていたらすぐに行った。携帯電話は圏外だ、待ち合わせの時間になっても顔を見
せない。ほうほう歩き回って探したんだ。また何かに巻き込まれているのではないかと
思ってた。君が持つのはそうした縁だ」
「そんな大げさな……」
「なにが大げさか。時計という根拠がある。そして実際、今回の彼女――アレは時計が呼
び寄せたものだ」
「うーん……」
 稲森のその言葉に小鳥は眉根を寄せた。彼女なりに思うところがあるのかも知れない、
と稲森は考えたが、間髪いれずに問いをぶつける。
「で、本当の理由は?」
「え!? 嘘なんて言ってませんよ! あ、ほら、あの時計だって持ってきた覚えがない
のにいつの間にかかばんに入っていたし!」
「なんの関係があるのだ!」
「なんか誰かが裏から手ぐすね引いていたのかも知れないということです! あ、意外と
その子だったりして!」
「適当なことを言うな! 誰がそんな回りくどいことをやる理由がある!」
「ほんとうですってば! 信じてくださいよー!」



 それから、ほぼ一ヶ月後のことである。
 東京でも初雪が観測されて、ひときわ寒さが増してきたある冬の日。

 夕方、高校からの帰宅途中、草壁空は駅のホームで見知った顔を見付けた。
 小さい背、ちょっと不機嫌そうに両端の下がった口元、背中まで届く長い髪に大きなリ
ボン。
「もしもし、ねえ、小鳥……?」
 名前を呼ばれ、小鳥が振り向いた。
 途端、彼女はぱっと笑顔になった。
「わあ、どうしたんですかこんなところで! 制服、ああ、帰宅途中ですね。奇遇ですね、
この辺りの学校だったんですか?」
「お、おうよ。この辺りじゃちっとは名の知れた進学校よ」空は小鳥の勢いに若干押され
て言葉に詰まる。
「進学校に通って、あの試験を受けているだなんて、意味不明ですねー!」
「意味不明っていうな!」
 空は少し違和感を覚える。にこにこと笑う小鳥の姿に、出会ったばかりの時の彼女は、
こんなにお喋りで人懐っこくて――可愛かったかな、と。彼女の様子は、自分を慕う子犬
を連想させる。
 もしかすると、彼女はひどい人見知りなのかも知れない、と考えて、空は微笑ましい気
分になった。実際はどうなのか分からないのだが。今日はただ機嫌が良いだけという可能
性もある。
 少ししゃべったあと「すみません、この電車に乗らなくてはならないので」と小鳥は電
車に乗り込んだ。
 空はその背中に問いかける。
「なんで――、なんで、あのとき、いつのまにかいなくなっちゃってたの? 小鳥も受
かっていたよ」
 小鳥は背中を向けたまま少し沈黙し、くるりと振りかえる。
「急ぎの用事がありました。……未だに解決していない、大事な用事が」
「――用事」
「それに、試験結果には興味がありませんでしたからね」彼女はいたずらっぽく笑った。
「じゃ、じゃあさ、用事が片付いて、暇ができたら、お茶でもしよう!?」
「ええ、喜んで――」
 警告音が鳴り、電車のドアが閉まる。笑顔で手を振る彼女を乗せて、電車が走っていく。
 冷たい風が一陣、ホームを吹き抜けていった。



 ――ある冬の一幕であった。



 The end of world, started.

 ………………………………………… はじまる …………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第178号(07月25日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 編集後記
 ──────────────────────────────────────

 いかがでしたでしょうか。次回は波紋のリレー小説をお送りします。

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は7月5日を予定しております。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。
 
 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:info@kairou.com

   ……………………………………… テーマ ………………………………………
  
  10/15...「結婚しました」
  10/25...「真夜中の仮想パレードへようこそ」
 11/5...「六年目の結末」
  11/15...「ただいまママー」
  11/25...「王手!」
  12/5...「海岸の白い貝殻」
  12/15...「がばちょ」
 1/25...「人形の陰謀」
 2/5...「隠れた名作」
  2/25...「ミ、ミズをくれぇ〜。」
 4/5...「方は、いやぁ、眠い。」
  

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2003-11-08  
最終発行日:  
発行周期:月3回  
Score!: 90 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。