文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_174

2008/06/15

 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 赤井超短編集               第54回
  【3】 水車は回り続ける             最終回
 【4】 後記

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 【1】 前書
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 みなさん、こんにちは、遥彼方です。
 今回は赤井都さんの「生」と、遠野浩十さんの「水車は回り続ける」の第四話です。

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 【3】 連載超短編「赤井都超短編集」      第54回
                 著/赤井都
 ──────────────────────────────────────

 ……………………………………………… 生 ………………………………………………

 ベランダは三十九度、室内は二十八度です。汗で粘つく皮膚に刃先を入れて、押し返す弾
力よりも強く押し入れて、その下の血管が破れたら、熱い流れが指先に至って、手がすっぽ
り真っ赤になるでしょう。ぱたぱた、雨の降り始めのような音を立てて滴るでしょう。
 きのう、恋愛映画を観ました。若くして死んでしまう主役に恋をしました。わたしは主婦
です。映画のサントラをレンタルしています。
 サントラを聴くと、あっさり泣けます。そのまま床に倒れます。寝転ぶと見えます。ベッ
ドの下には、わたしそっくりの人形が入っています。小さな手をつかんで狭い隙間から引き
出すと、腕が肩のところで切れています。足を一本、次に胴、頭、また足、腕。全部出して、
組み立てます。人形の小さな目が活き活きとわたしを見ます。そのとたん、わたしは問いを
つきつけられます。わたしはここで何をしているのでしょう。生きるのをやめたくなります。
 見開いた、瞬きを忘れた目から、涙がぱたぱた膝に落ちます。今日の帰り道、夫は牛乳を
買って、その時カードを出して、ポイントをためてくるはずです。ポイントカードを持って
いってと頼んだのはわたしです。わたしは出迎えて、牛乳は冷蔵庫の中へ、カードは冷蔵庫
の上へ置くはずです。わたしに期待されている役割は以上です。 
 夫が帰ってくるまであと六時間と二十分あります。わたしはわたしの代わりに人形を殺し
ます。腕をもぎ、足をもぎ、胴を踏みつけます。血の代わりに涙が人形を濡らします。ぱた
ぱた。ぱたぱた。ベッドの下へ蹴りこみます。これでわたしは死んで、明日も大好きなサン
トラを聴くでしょう。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第175号(6月25日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】創作塾『波紋』冬合宿企画〜競作「波王戦」 第一位作品
            「水車はまわりつづける」       最終回
                                           著/遠野浩十
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 <渇望>をテーマに据えた競作「波王戦」にて第一位に選ばれた、遠野浩十さんの『水車
はまわりつづける』今回はその最終話です。
 人生を掛けて追い求める、静かな情熱の物語です。
 
 第一話:
 前編 http://www.melma.com/backnumber_102964_4011627/
 後編 http://www.melma.com/backnumber_102964_4031290/
 第二話:
    http://www.melma.com/backnumber_102964_4065359/
 第三話:
    http://www.melma.com/backnumber_102964_4099296/
 

 …………………………………………… 第四話 …………………………………………

「ついたー」
 水車の真下で、私はうーんと伸びをした。正確には、地上から見える部分の真下であって、
水車の本体自体は地下深くに埋まっているのだけど、まあそれはよいとして。
 私は近くにあるはずの施設を探した。巨大な水車にそって移動すると、それはすぐに見つ
かった。
 ぼろ小屋のような事務所と、地下へと降りるエレベーター。
 エレベーターが使えるかどうか調べようとしたら、ちょうど、誰かが下からあがってくる
ようだった。
 おじいちゃんがもらった手紙にあったとおりだ。
 電力が、部分的にではあるけど、戻ってきているのだ。
 ワイヤーがエレベーターをひっぱる耳障りな音をききながら待っていると、やがて一人の
老人が地上に姿を現した。
 私は、確信をもってその人に声をかけてみた。
「アイスさん、ですよね」

   □

 おじいちゃんは、水車が動きを止めた謎を解明するために何十年も世界中を冒険しつづけ、
そしておじいちゃんの親友だったアイスさんは、水車を再び動かすために何十年もこの場所
で穴を掘り、水車の整備を続けていた。
 この国の軍隊が地底大河になにをしたのかを知ったあと、おじいちゃんはまずはじめに、
世界中のだれよりも先に、アイスさんにそのことを知らせようと手紙を書いたそうだ。そし
てさらにその数年後、アイスさんからの返事には、『水車が動き出した』という内容が書か
れていた。
 おじいちゃんはちょっと若いころに無茶しすぎて、今はもう自宅から遠くへは行けなくな
ってしまったので、かわいい孫がその手紙が伝えてきた事実を確かめに来た、というのが今
の状況。
 アイスさんは、私からおじいちゃんの近況を聞いて、とても懐かしそうな表情をした。た
ぶん、この街がまだ元気だったころのことを思い出しているのだろう。
 それこそが、アイスさんが求めていたものだったのだろう。
 ロックおじいちゃんも、同じかもしれない。
 二人とも、あきらめきれず、求め続けたものがあったのだ。
 それは、巨大な水車が回転している風景であったり、にぎやかな中央通の風景であったり、
二人だけの少年時代の記憶のすべてだったりするのだろう。
「この街は、いつかきっと、あのころの活気ある生活をとりもどすよ」
 アイスさんは優しい顔でそう言った。
 きっとそうなるにちがいない、とロックおじいちゃんやアイスさんを見ていると思う。

 …………………………………………… おしまい …………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com

 創作塾「波紋」mixiコミュニティ...http://mixi.jp/view_community.pl?id=1027483


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 【4】 編集後記
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 いかがでしたでしょうか。次回は「塑性言論」をお送りします。

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は5月25日を予定しております。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。
 
 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
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 たくさんのご応募を、お待ちしております。

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  11/15...「ただいまママー」
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