文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_170

2008/05/06

 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 塑性言論                 第20回 第2話
 【3】 赤井超短編集               第51回
 【4】 後記

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 【1】 前書
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 みなさま、こんばんは、遥彼方です。
 えー、うっかり「ファンタスティック・プラネット」に見とれていたらもうこんな時間
です。二時間ほど配信が遅れてしまいましたこと、お詫び申し上げます。
 
 さて、今回はリレー小説の第3回と、

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 【2】創作塾『波紋』冬合宿企画〜リレー小説          第3回
                  著/言村律広・雨下雫・秋山真琴・遠野浩十
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 創作塾「波紋」とは。創作団体「雲上回廊」から派生し、小説のスキル向上を目指して
日夜活動している団体(団体?)のこと。
 第1回はこちらhttp://www.melma.com/backnumber_102964_4031290/
 で、第2回はこちらです。http://www.melma.com/backnumber_102964_4053747/ 

 第3回の担当は秋山真琴さんです。

 …………………………………… ―― 第三話 ―― …………………………………

「んなところで横になってっちっと、すんだらば風邪を引くっだらぺよ」
 田舎ものの麻椎は、その田舎ものらしい朴訥さで、北風山脈の麓に横たわる少年が、そ
こに寝ているものだと思った。
 ところが、近づいて少年の頬をぷにぷにと突いてみても、少年は悩ましげに眉をしなら
せ、熱っぽい息を吐くばかりだ。
「きゅん♪」
 頬をほのかに赤く染めた色白い少年の苦しげな表情に、麻椎は心臓をときめかせた。彼
女の故郷で男と言えば、頑強な肉体に真っ黒に焼けた肌と相場が決まっていたからだ。こ
のような抱きしめたら折れてしまうような、かよわい少年はひとりもいなかった。
 将来はー、強くて格好いい旦那さまにー、力強く抱きしめられてー、生きてゆくのだ。
 いままで麻椎は、なにも考えることなく盲目的に他の多くの女と同じような人生を歩ん
でいくものだと思っていた。しかし、いま、彼女の前に倒れている少年は、彼女の世界に
はまったくいなかったタイプの男だ。きっと、この少年より麻椎の方が腕力があるだろう、
この少年にきっと麻椎を抱き上げることはできない、猟も漁もできないだろう。であれば、
ふたりはどのように生きていけば良いのか? 答えはひとつしかない、麻椎が少年を養う
のだ。
「くにゃん!」
 麻椎は甘い幻想に囚われた。誰かに養ってもらうのではなく、自分が養ってあげる。生
まれてからこの度、一度も考えたことのないような将来だったが、それはそれで甘くとろ
けそうな生活に思えた。
「からっと話が決まれば、すったらもんだ勝ちってばっちゃも言ってたど」
 麻椎は少年を担ぎ上げた。あふっ、と少年の口から漏れた熱い吐息が、麻椎の首元を撫
でる。
「ほわわー、野郎衆の息はずんばだって相場が決まったっどがだと思ってたが、くんだら
良い風もあるんだらなあ」
 憔悴しきった少年は、くたっとしており、完全に麻椎の両腕に体重を任せていた。
 と、少年はなんとか手を持ち上げると、麻椎の腕を掴もうとして、しかし力尽きて麻椎
のまとっている服の袖を掴むに留まった。
「きゅんきゅん♪」
 それがまた麻椎の心を掴んだ。
 まるで赤子のようなあどけなさであった。服の袖を掴む少年の手に警戒の色はなく、安
心しきった彼はすべてを任せるように、ゆだねるように麻椎の腕のなかでまどろんでいた。
 麻椎は両足を激しく交差させ、傍から見ると残像のために何本もの足が見えるぐらいの
スピードで宿に戻った。

──宿『北風男爵と太陽伯爵の逢瀬』。
 そこが麻椎の寝泊りしている宿であった。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
 入り口のドアの付近に、宿の娘が立っていた。シンプルなメイド服に身をまとった、白
皙の美貌を持つ、おおよそ宿の娘には見えない美女。彼女は美夕手布留(びゆうて・ふる)
と言った。
「あら、その子は……?」
「あっりゃあ、見られてしもったのう、恥ずゆいのう。これはわっちの夫ですじゃよ。ぽ
っ」
「まあ。麻椎さまの旦那さま!」
 布留は、ぽんと胸の前で手を叩いた。けれど、すぐにその首を三十度ほど曲げて「でも、
なにやらお苦しそうでございますわね」
「ちょろっと風邪のわんころにかじられにょろて」
「あらあら、それは困りましたわね。あ、そうだわ。麻椎さま、当店自慢の露天風呂をご
存知でございますか?」
「ロッテンマイヤァ?」
「いいえ、ロッテンマイヤー先生は関係ないのですよ。露天風呂と言いますのはですね、
屋外に作られた浴場のことです。大自然や、今にも落ちてきそうな星空を眺めながら湯船
に浸かるのも、また一興なのです。ましてや当店自慢の露天風呂は不治の病も一触即発、
即座に快復させてしまう、奇跡の露天風呂なのでございます!」
「そ、そりはすごいにゃろめ!」
 布留の言葉は難解で、麻椎は半分の半分のそのまた半分も理解できなかったが、感嘆符
つきによる熱弁を振るってくれた布留に対して、ちゃんと驚いてあげなくてはと思った。
麻椎は空気の読める子であった。
「早速、ロッテンマイヤァに入るある!」
「露天風呂はこちらでございますわ」
 布留はにこやかに微笑むと、目に見えないお盆を支えるかのように左手を天井に向け、
麻椎を宿の奥へと誘った。
 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第173号(6月5日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

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 【3】 連載超短編「赤井都超短編集」      第51回
                 著/赤井都
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 ………………………………… 桶根温泉登山バスの同素体………………………………


 予備校に通うあきを載せて、バスは山道を走る。ヘアピンカーブを勢いよく曲がって停
留所に止まる。乗り降りする人たちは、帽子を被って、地味な鞄を温泉饅頭の紙袋といっ
しょに抱えている観光客だ。山登りの格好をしている人もいる。この路線だけで九つの温
泉があり、ホテルや旅館の数はその三倍以上ある。ひとつカーブを曲がるたびに、次の温
泉の建物が並び、道端に人が立っていたり、降車ランプがついたりして、バスが止まる。
 ほとんどの乗客は、あきの家がやっている民宿に来るのと同じような年配者で、ステッ
プの上がり下りや、小銭の出し入れにずいぶんと時間をかけなければいけない。そんな客
たちから、運賃や降りるべき停留所のことを聞かれるたび、運転手は全く面倒がらず、丁
寧に答える。だからなおさら時間がかかる、とあきは思う。このバスで授業に間に合うの
か、心配になった。
 走ったり止まったりが頻繁だから、参考書を読んでいると酔いそうになる。本を膝に置
いて、英語のMDを持ってこればよかったと考えた。
 道端に地蔵が立っている。さっき読んだ問題の答えが理解できないので、あきは丸暗記
しようとする。
 硫黄の電子配置→K(2)L(8)M(6) 。
 硫黄の同素体→斜方硫黄・単斜硫黄・ゴム状硫黄など。
 あきの隣の座席には、男の子が座っている。小さな嘴を真正面に向けたまま、緊張して
いるのか堅い表情で、身動きを全くせずにいる。そのそばに、子どもを先に座らせた母親
が立っていて、同じように嘴をぴったりと閉ざして、混んでいるバスの中、右に左に、カ
ーブのままに揺られている。
 人の乗り降りに伴い、母親は車体の後方へ押しやられる。男の子は不安が募ったのか、
頭をめぐらし、母親を探す。座ってなさい、とでもいうように、母親が手を伸ばして子を
押し留める。その母親にこの席をゆずったほうがいいのだろうか、とあきは思った。けれ
どそれ以上に、年取った人もたくさん乗っている。あきの前の席の人が、最も年長と思わ
れる白髪の老人に席をゆずろうとして、辞退されていた。断られて座り直すのは、ちょっ
と格好悪い、と思ってしまう。
 七箇所の地蔵を過ぎると温泉街は終わり、杉木立が暗い影を落とすカーブになる。バス
の窓のすぐ下は切り立った断崖で、深い谷底に川が流れている。遅れを取り戻そうという
のか、バスは速度を上げ、山道を勢いよく下っていく。満員のバスの車体が左右に振れ、
後部が何度もカーブをはみ出す。エンジンブレーキがうなっている。運転席の窓に、蜂が
当たりそうになって脇へ飛ばされていった。
 あきは問題の答えを見る。
 同素体の例→黒鉛とダイヤモンド(炭素)、酸素とオゾン(酸素)、黄リンと赤リン
(リン)など。
 親子は天神前で下りていった。そのとき、あきは、二人の背中に黒い羽が折り畳まれて
いるのに気づいて、ちょっとだけ見とれた。
 残りの客は皆、山を下りきって、扇状に開けた町の、駅前にまで運ばれた。
 同素体とは。
 町に住んでいるたくさんの同い年の子たちと、駅前のビルの一室で、熱っぽい授業を受
けながら、あきは、あのバスは変だった、とふと思った。人間ではないものが、いっしょ
に乗っていたじゃない。それって、誰にも話せないぐらい変だと思う。けれど家に帰るに
は、あきはやはり同じ路線に乗るよりほかないし、夏期講習はまだ始まったばかりだ。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第171号(5月15日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!




◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 編集後記
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 「ファンタスティック・プラネット」はルネ・ラルーによるアニメーション作品で、上
品な色調でしかしかなりディープに描かれた異星の風景画とてもすてきです。
 最後まで見てから寝ようと思いますが、なんだか目がひりひりしてきたので、どうしよ
うかな……。

 そういうわけで、次回は遠野浩十さんの連載作品。いよいよ大詰めです。

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は5月15日を予定しております。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。
 
 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:info@kairou.com

   ……………………………………… テーマ ………………………………………
  
  10/15...「結婚しました」
  10/25...「真夜中の仮想パレードへようこそ」
 11/5...「六年目の結末」
  11/15...「ただいまママー」
  11/25...「王手!」
  12/5...「海岸の白い貝殻」
  12/15...「がばちょ」
 1/25...「人形の陰謀」
 2/5...「隠れた名作」
  2/25...「ミ、ミズをくれぇ〜。」
 4/5...「方は、いやぁ、眠い。」

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創刊日:2003-11-08  
最終発行日:  
発行周期:月3回  
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