文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

全て表示する >

雲上マガジン 第168号

2008/04/16


▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
    メールマガジン『雲上』 〜読者へつなぐ〜         第168号
         毎月、05日、15日、25日配信         2008/4/16
                     http://magazine.kairou.com/unjyou/

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 赤井超短編集               第50回
  【3】 水車は回り続ける             第2回
 【4】 後記

 ……………………………………………………………………………………………………
◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 みなさま、こんばんは、遥彼方です。新学期が始まりまして、にわかに身辺が慌しくな
って参りました。皆様はいかが慌しくお過ごしでしょうか。
 ときどき前書きと後記を一緒に書いてくださる言村さんは今お引越し中ですので、お引
越しをしない遥がひとりでお送りします。
 今回は赤井都さん『願い』。舞台は宇宙ですが、このしんしんとしたメランコリーな空
気は今の季節にぴったりな感じがいたします。
 そして遠野浩十さんの『水車は回り続ける』。こちらは第二話に入りました。平和だっ
た水車の街は、いったいどうしてしまったのでしょう?

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」      第50回
                 著/赤井都
 ──────────────────────────────────────

 …………………………………………… 願い …………………………………………

 家を出るとき、お母さんが、へその緒をくれました。
 しなびていて、茶色くて、きもち悪いです。
 桐の函の蓋を閉じて、トランクに入れました。
 わたしは電車に乗ります。
 車内のテレビが、宇宙港に着いたばかりのシャトルを映しています。
 わたしは背もたれを倒して、レモン色のカーテンの陰で、ふう、と息をしました。
 父がわたしのぬいぐるみを捨ててしまいました。だから父とけんかしました。母はどち
らの側にもつきませんでした。わたしは家を出ることにしました。母は止めませんでした。
へその緒をくれました。
 女の子なら、どこででも生きていけます。父のような男に、若い体を売ればいいのです。
 宇宙に行くことにしました。
 宇宙港に着いて、チケットを買うお金も方法もなくて、どこに行けばいいかもわからな
くて、わたしでもわかるトイレに入ると、洗面台に向かってしくしく泣いている女の子が
いました。ばかみたい、と思ったけれど、ペーパータオルを一枚ぬいて、差し出しました。
目の前に出されているのに女の子は気がつかないから、濡れた頬を拭いてあげました。女
の子はわたしの手を握りました。
「ありがとう」
 わたしはちょっとほほえみました。感謝されるのは、悪い気がしませんでした。わたし
は女の子をまじまじと見ました。他人に興味を持ったのは、久しぶりです。きっと、恋し
た先生が死んで以来です。
 女の子の目は、赤く濁っていました。濁っていても、冷たい光でした。唇は神経質そう
に薄く、頬は泣いていたのに体温がないくらい白く、紺の制服のようなものを着ていまし
た。全体として、どうしようもなく頭がよさそうでした。
「わたしは、パイロットなんだ」
 女の子は言いました。
 わたしは素直に感心しました。
「すごい。なのに、どうして泣いていたの?」
「とつぜん、不安になることがあるんだ」
「なぜ?」
「わからない。ううん、わかってる。わたしは親に愛されたことがないから、心が病気に
なりやすい。だから思うんだ、地球なんて今すぐなくなってしまえって。そう思ってもそ
うならないから、だだっ子みたいに泣く。しかも、フライトが迫っているときに、そうな
りやすい。職業がもたらすストレスなんだ。よくあるケース。ドクターが言ってた」
 わたしは、女の子の目の縁に新たに浮いてきた涙を、わたしの指先ですくい取ろうとし
ました。それは、つう、とわたしの指を伝い、手の甲にまで流れました。その涙は、温か
かったのです。
「ドクターは男、女?」
「男」
「信用しちゃだめ」
「なぜ?」
「わたしは男が嫌い。一度だけ、男を好きになったことがあるけど、そのひとはセラピス
トだったけど、二年前に、自殺しちゃった」
 女の子はわたしをまじまじと見ました。わたしが引きずっているトランクも見ました。
「これから、どこかに行くの?」
「うん、どこかに。家出したの」
「わたしといっしょに来て」
 その女の子といっしょに、かに座のM44の中へ向かいます。船の中にも、おとなの男
がいっぱいです。わたしはきっと、こんな職場ならすぐ鬱になってしまうと思います。で
も彼女は、パイロットシートに座ると、とたんに有能な顔つきになり、わたしにはわから
ない短い指示を飛ばします。彼女は人間ではないかもしれません。あまりにも優秀です。
きっと脳にチップを埋め込まれている類の生物機械なのでしょう。優秀すぎて不安感情を
持つに至っているのでしょう。
 宇宙空間に出るとすぐ、遠心力による重力磁場が働き始めます。ワープを使うとはいえ
何万光年も経て、わたしが帰ってくるまでに、地球は滅びているかもしれません。わたし
は宇宙線を浴びて、幾重ものシールドで守られているとはいえ、人間ではないものに変化
してしまうかもしれません。だから、これでほんとうに、父とも母ともさよならです。
 青と白がマーブル状にうっとり交じり合った美しい惑星が、窓の中で少しずつ小さくな
ります。
「みんな死んじゃえ」
 わたしは口をゆがめて、呟きます。
 わたしのぬいぐるみは捨てられました。美しい惑星に、あの子はもはや存在していませ
ん。
「みんな死んじゃえ」
 わたしが愛したセラピストも、もう生きていません。
「みんな死んじゃえ」
 わたしは地球が映った窓ガラスを爪でひっかいて、キイキイかすかな音をたてます。


 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第169号(4月25日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】創作塾『波紋』冬合宿企画〜競作「波王戦」 第一位作品
            「水車はまわりつづける」       第3回
                                           著/遠野浩十
 ──────────────────────────────────────

 <渇望>をテーマに据えた競作「波王戦」にて第一位に選ばれた、遠野浩十さんの『水車
はまわりつづける』その第二話をお送りします。
 人生を掛けて追い求める、静かな情熱の物語です。
 
 第一話:
 前編 http://www.melma.com/backnumber_102964_4011627/
 後編 http://www.melma.com/backnumber_102964_4031290/

 …………………………………………… 第二話 …………………………………………

 現在の僕の生活は、実にシンプルだ。
 日の出とともに朝おきると、パンとミルクで軽い朝食をとり、サンドイッチの弁当を作
り終えるともう仕事の時間になる。ぼろ小屋同然の我が家を出る。この街にバスはもう走
っていないので、現場までは徒歩で向かう。
 かつては人の賑わいがたえなかった中央通りを抜けて、街の中央部へとたどり着くと、
さっそく作業にとりかかる。簡素な事務所で作業着に着替え、スコップやメットやライト
を持って巨大な穴の深くへゆっくり降りていく。電気が通っていないこの街では、作業場
のエレベーターを使うこともできないので、わりかし危険な道を慎重にすすむ。
 前日に作業を中断した場所までくると、スコップでその場を土をかきだしていく。かき
だした土は車にのせて外まで運ぶ。
太陽が真上までのぼったら昼食をとり、食べ終わったら穴にもどって作業を再開する。日
が沈むころに一日の仕事を終える。
事務所で着替え、中央広場を後にする。あとは家に帰って寝るだけだ。
それが今の僕の生活だ。
仕事場からの帰り道、ふと空を見上げて月を探してみた。振り返ってみると、壊れかけた
巨大な水車の後ろに、きれいな三日月が浮かんでいた。

   □

 街がこうなってしまった詳しい事情を、実のところ僕は知らない。祭文先生なら教えて
くれるかもしれないけど、今はもう、この街に住んでいる人間は僕一人なので、先生に聞
くこともできない。
 ある日、とつぜん、百年以上動き続けてきた水車の動きが止まった。
 空はすでに夜につつまれていて、街は夕食をかこむ家族たちの明かりにいろどられてい
た。水車がその動きを止めると、街はゆるやかに明かりを消していき、しばらくしてすべ
てが闇につつまれた。
 あたりは真っ暗で、誰も水車が止まったことには気づかなかった。街の人間がその異変
に気づいたのは、何時間も経って、夜が明けてからだった。いつものように水車の向こう
側からのぼってきた太陽に照らされて、人々は、ようやく事件の深刻さに気づいたのだっ
た。
 その日のうちに水車が停止した原因はつきとめられた。
 単純なことだった。
地底大河が涸れたのだった。
その後、動きを止めた街から人々は徐々に離れていった。
祭文先生も、学校で一緒に授業を受けていた友達たちも、その家族も。
僕の両親も。
そして、ロックも。

   □

 僕はあの日からずっと、水車を復旧させようと努力していた。でもそんな努力を始めた
のは僕だけで、大人たちは何もしなかった。まるでこんな日が来ることを知っていたかの
ようだった。あるいは、大人たちには、事件のあとに説明があったのかもしれない。僕ら
子供には詳しい説明はされなかった。
 ロックの家族は、比較的はやくこの街を去っていった。最後に会ったとき、ロックは動
かなくなった水車を無言で見つめていた。何か言いたそうだったけれど、何を言ったらい
いのかわからないような、そんな表情をしていた。
 僕はとにかく、地底大河まで行こうと思っていたけれど、大人たちがすぐにはさせてく
れなかった。僕がついに決心して、こっそりエレベーターを使って地底大河まで行こうと
考えた日、大きな地震が街をおそい、地底大河へとつづく穴は水車の一部をまきこんでふ
さがってしまった。そうして大人たちは、水車に近づかなくなった。入れ替わるように、
僕は水車へと近づいた。
 それから数十年、僕はずっとこの街に残り、地底大河を目指して穴を掘り続けている。
 昨日も。
 今日も。
 明日も。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第170号(5月15日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

 創作塾「波紋」mixiコミュニティ...http://mixi.jp/view_community.pl?id=1027483

 …………………………………………… つづく ……………………………………………


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 編集後記
 ──────────────────────────────────────

 いかがでしたでしょうか。次回はなんにしようかなあ。リレー小説の続きになるはずで
す。

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は4月25日を予定しております。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。
 
 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:info@kairou.com

   ……………………………………… テーマ ………………………………………
  
  10/15...「結婚しました」
  10/25...「真夜中の仮想パレードへようこそ」
 11/5...「六年目の結末」
  11/15...「ただいまママー」
  11/25...「王手!」
  12/5...「海岸の白い貝殻」
  12/15...「がばちょ」
 1/25...「人形の陰謀」
 2/5...「隠れた名作」
  2/25...「ミ、ミズをくれぇ〜。」
 4/5...「方は、いやぁ、眠い。」
   
   ……………………………………… 奥 付 ………………………………………
   
       発行日:2008年4月15日 
       発行元:雲上回廊
       発行者:秋山真琴
       編集者:遥彼方
           キセン
      言村律広
       ご意見ご感想:
           info@kairou.com
       購読の解約および、公式サイト:
           http://magazine.kairou.com/unjyou/

       (c) unjyou_kairou 2008 all right reserved

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2003-11-08  
最終発行日:  
発行周期:月3回  
Score!: 90 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。