文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_166

2008/03/25

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 【1】 前書
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 みなさま、こんばんは、遥彼方です。
 さて、今回掲載しますのは『塑性言論』小説篇の第20回であります。2月15日に掲載いた
しました第19回(http://www.melma.com/backnumber_102964_4000938/)の続編です。
 ますますヒートアップしてまいりましたよ!

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 【2】   塑性言論         第20回  第1話
                     著/桂たたら
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        魔術試験で出会った小鳥と空。                  

                 ――彼女の決意は戦うことだった。       


 ……………………  ―― 「さあ――行きましょう?」 ――  ……………………

「数試合という短い間だけれど、今からこの五人は同じCチームだ。力を合わせて頑張ろ
う!」
 勝敗自体は合否に大きく関係するとは思えない。配属がくじというランダム要素に頼っ
ているからだ。ただ、勝利したチームはより多く戦うことができる。つまり、アピール
チャンスが増えるということなのだろう。
 現在は試合前の作戦会議の時間である。コート横で、小鳥の所属するCチームと同様に、
試合相手のDチームも円陣を組んでいた。
 小鳥は自分を含めて円陣を組んだ五名のうち、自分を除いた四名の顔を順繰りに見渡し
た。彼女の視線からだと、相手が成人ならば男女問わずに見上げる姿勢になる。
 一人は草壁空。自信なさげに視線が泳ぎ気味だった。これが試験時における彼女の
ニュートラルなのかも知れない。自信を持てと言ってやるべきか迷ったが、小鳥は結局そ
れを言わなかった。あまり意味がない。
 一人は黒野慶介。二十歳ぐらいの男性で、先の言葉を口にした人物だ。リーダシップを
発揮するタイプなのだろう、とだけ認識しておく。たぶん、彼は優秀な人間だ。
 一人は相澤。下の名前はわからない。名字も偽名の可能性がある。それは彼だけに限っ
たことではないが。黒野と年齢は同じくらいか。若干、神経質そうだ、とだけ小鳥は判断
した。
 一人は斎藤。二十歳中ごろか。肩幅が広く、がっしりとした体格だ。彼と目が合った瞬
間、小鳥は直感的に、自分と似ている、と感じた。その品定めするような目付きに、小鳥
は若干の嫌悪感を抱く。
 ――手元の懐中時計の存在を確かめるように、拳を強く握り締めた。
「さて、最後におさらいだ」黒野が五人を見渡していう。「以前に受験した人から聞いた
話だと、目標の耐久はおよそ一千。平均なら一人で三十秒も攻撃し続ければ達する数値だ」
「誰かにゃ無理だがな」と相澤がいった。
 それは多分、自分のことを指しているのだろう、と小鳥は思う。
「相澤さん」黒野が相澤を睨み、小鳥に向き直る。「気にすることはないよ、人には向き
不向きがあるからな」
「ありがとうございます」小鳥は小さく会釈しておく。
 黒野は焦ったように顔を逸らした。「い、いや……! 僕らはチームだからね、揉めて
ちゃ勝てるものも勝てないからさ」
「一千ならば」斎藤が口を開く。「二人でかかって十秒強。……紛れが起きる数値ではな
いな」
 ……競技のルールは至って単純だ。百メートルの距離を挟んで置かれた目標を、どちら
のチームが先に破壊するか、というだけである。
 セオリーは、二三名で相手陣地へ攻撃、残った人数で防衛を行う、というものらしいこ
とを小鳥は空から聞いていた。しかし、当然、五人全員で攻撃するというケースもあれば、
一人で攻撃を行う、という戦術もある。
 さらに、戦闘不能のダメージを受け、その場で治療が行えない場合は失格、というルー
ルもある。単純に、相手チームを全員戦闘不能に追いこむのが一番手っ取り早い。
「じゃあ、僕と相澤さんで攻撃を担当、残った斎藤さん、草壁さん、新月さんの三人で防
衛をお願いします。……しかし、ほんとに良いのかい、新月さん。無理に戦う必要はない
んだよ。安全な場所に下がっていても……」
「そうだぜ。戦えないのがいても足手まといになるだけだ」相澤がいった。
「いえ、まあ……、防御くらいなら。私でも、盾ぐらいにはなりますよ」
「かっ、なんて不運だよ、なんで女が二人もうちのチームに入ってるんだ。戦力が平等に
なるように配慮すべきだろうよ」相澤がぶつぶつ呟きながら配置につく。
「さあ、集中しよう」同様に配置についた黒野が前傾姿勢を取る。開始と同時に突っ込む
姿勢だ。
 斎藤が黙って配置についた。
 空がそれに続く。小鳥に心配そうな視線を送りつつ。
 最後に小鳥が配置についた。相手チームは既に配置済みである。
 突然、物音一つ聞こえない静寂が訪れた。三コートが一斉に試合を開始するためだ。
「――――」
 耳が痛くなるような無音。
 小鳥は、百メートルを挟んで対峙する相手に、その意識を集中した。
 何秒が経過したのか、時間の感覚が分からなくなる頃。
 開始の笛が鳴り響いた。

 黒野と相澤が弾かれたように走り始めた。
 こちらに走り込んでくる影が見える――相手チームの五人全員がこちらへ向かっている。
 すぐにコートの中間地点で彼我の攻撃チームが交差した。
 四人の間をすり抜け、相手コートへと侵入しようとした黒野と相澤だったが、相手選手
に阻まれる。
 相手の動きがスムーズだ。恐らく誰が誰をマークするか、事前に決めておいたのだろう。
 コートの中央付近に黒野達とDチームの二名を残し、相手のチームがさらにCチームの
目標へと接近する。
 すぐに斎藤と空が迎撃に出る。
 彼らはすぐに交戦を開始するが、マークしていない残りの一人が、二人の間をすり抜け
て、目標のすぐ近く――小鳥の目前まで迫ってきていた。
 相手チームには、小鳥の試験成績が知れ渡っている。なにか能力を持っていたとしても、
およそ戦闘用の能力ではないに違いない。ここまで接近すれば相手に出せる手はない、と
読んでいる。
 小鳥が腰を落とし、目前の相手選手が攻撃の予備動作に入ろうとした時だった。
「くっ――!」
 目前の相手は、突然の横からの攻撃で姿勢を崩した。
 空の回し蹴りである。彼女は小鳥の危険を察して戻ってきたのだ。
「空さん――!」小鳥が小さく叫ぶ。
 そこで生まれた隙は致命的だった。小鳥も、空も。
 空は、今まで相手をしていた相手に後ろから攻撃を加えられて、大きくよろめいた。
 空から回し蹴りを受けた選手が体勢を立て直し、動揺する小鳥へと迫る。その勢いのま
ま、肩からぶつかって力任せに彼女を弾き飛ばそうとした。
 ――にもかかわらず、彼の攻撃は空を切る。小鳥は紙一重で回避していた。
 小鳥は、続く正拳突きも回避した。空振りによって相手の身体が泳いでいる隙に、今度
は小鳥が上半身を捻って拳を溜めた。
 大丈夫だ、威力はない、と彼は一撃をもらいつつも彼女に攻撃を加えるべくさらに拳を
握り込み、
 ――そこで試合終了の笛が鳴った。

 空が持ち場を放棄したために一人、相澤が相手の足止めに失敗してもう一人。自由に
なったその二人によって、Cチームの目標へと攻撃を加えられてしまっていた。
 再度、作戦会議のために円陣を組むも、重い雰囲気が漂っている。
 それもそうだろう。今の試合は相手に楽に勝たせてしまったのだから。しかも、相手に
なにかを消費させてもいないのだ。
「このままだと勝てねえな」相澤が表情を曇らせる。「つかよ、草壁。さっきの動きはな
んなんだ。フリーにしてんじゃねえよ」
「まあ良いじゃないか。次をどうするか考えよう」黒野がいう。「それに、それをいうな
ら、相澤さんにも相手を自由にさせてしまった責任があるよ。ここはお互い様だろう?」
 相澤が言葉に詰まる。そして、次はどうするんだよ、と小さな声でいった。
 その間、空は俯いたままだった。心なしか頬を膨らませている。怒っているらしいが、
それでもなにも言い返さないところを見ると、自分の非を認めてはいるようだ。謝りはし
ないようだが。
 先ほどはありがとうございました、と小鳥は小さな声で空にいう。空は顔を小鳥に向け、
ちょっときょとんとした後に、わずかに微笑んだ。
 二本先取で勝利というルールなのだという。つまり、今の一本は取られたが、続けて二
本連続で取れば勝利となる。
「一度だけならば勝利を得ることは出来るかも知れない」突然、斎藤がいった。「ギャン
ブル性が高く、あまりやりたくはない方法だけど、ここで終わってしまってはなんの意味
もないからな」
「ど、どういう方法で?」空が尋ねた。さきほどのダメージもなんのその、頑丈さはある
らしい。
「なあに、なんということもない、力技さ」斎藤がはじめて笑った。

 同じ時間、反対のコートで、Dチームも作戦会議を行っていた。
「こりゃ楽勝だな」
「あのチビは単なる頭数、あの女も半人前程度。実質、三対五みたいなものだ」
 勝利を確信したように笑う――一人を除いては。
 彼は、今の一戦で小鳥と交戦した人物だ。彼は戦闘中のことを思い出した。
 最後、笛が鳴った瞬間、みながチビとバカにする女の拳は、自分の顔の前にあった。笛
が鳴っていなければ、あの拳を浴びていただろう。
 反応は出来ていた。見えない速度じゃなかった。かわせなかったのは、意外だったから
だ。なかなか速い、という程度のことだ。威力だってなさそうだ。大した問題じゃない。
 彼は自分にそう言い聞かせた。周囲には彼女のことを伝えなかった。自分の体験を信じ
られなかったこともあるし、第一、あんな少女に怯えていると思われたくなかったのだ。

 二本目の開始合図の笛が鳴る。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第169号(04月25日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

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 【4】 編集後記
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 いかがでしたでしょうか。次回は波紋リレー小説の第2回をお送りします!

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 次回の配信は4月5日を予定しております。

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